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山田裕仁のスゴいレース回顧

【東日本発祥倉茂記念杯 回顧】持っている力を出し切るために

2025/01/20 (月) 18:00 37

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが大宮競輪場で開催された「東日本発祥倉茂記念杯」を振り返ります。

佐々木悠葵が通算2度目のGIII優勝(写真提供:チャリ・ロト)

2025年1月19日(日)大宮12R 開設76周年記念 東日本発祥倉茂記念杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①武藤龍生(98期=埼玉・33歳)
②脇本雄太(94期=福井・35歳)
③嘉永泰斗(113期=熊本・26歳)
④佐々木眞也(117期=神奈川・30歳)
⑤村上博幸(86期=京都・45歳)
⑥嶋田誠也(109期=福岡・32歳)
⑦寺崎浩平(117期=福井・31歳)
⑧徳永哲人(100期=熊本・42歳)
⑨佐々木悠葵(115期=群馬・29歳)

【初手・並び】

←⑦(②④)⑤(近畿)⑨①(関東)③⑧⑥(九州)

【結果】

1着 ⑨佐々木悠葵
2着 ⑦寺崎浩平
3着 ④佐々木眞也

注目は地元代表の平原

 1月19日には埼玉県の大宮競輪場で、東日本発祥倉茂記念杯(GIII)の決勝戦が行われています。このシリーズに参戦するS級S班は、関東の“盟主”である平原康多選手(87期=埼玉・42歳)と、昨年のKEIRINグランプリでも素晴らしい走りをみせた脇本雄太選手(94期=福井・35歳)、そして北井佑季選手(119期=神奈川・34歳)の3名。注目はやはり、地元・埼玉の代表でもある平原選手でしょう。

埼玉のスター・平原康多に注目集まる

 そのほかにも勢いのある機動型が何名も出場しており、面白いレースが繰り広げられるシリーズとなりそう。ラインが2つに単騎が3名というメンバー構成となった初日特選は、単騎捲りで力強く抜け出した伊藤颯馬選手(115期=沖縄・25歳)の快勝でした。逃げ粘った寺崎浩平選手(117期=福井・31歳)が2着で、地元・埼玉勢は森田優弥選手(113期=埼玉・26歳)が3着、平原選手が4着という結果です。

 寺崎選手の番手を回った脇本選手は、森田選手の外からの追い上げにより失速。人気の近畿勢と地元・埼玉勢がともに連対を外したのもあって、3連単146,770円という大波乱決着となっています。昨年末からずっと調子がよさそうな伊藤選手は、続く二次予選も1着と、デキのよさが目立っていました。しかし準決勝では、突っ張り先行した寺崎選手の力強い走りの前に、7着に敗れて優出を逃しています。

 脇本選手は、準決勝では後方から豪快に捲って1着で勝ち上がり。13秒6という上がりが示すように、やはりスピード勝負だと無類の強さを発揮しますよね。しかし、北井選手は二次予選で6着となり敗退。中団から捲っていったんは先頭で抜け出すも、最後は完全に止まってしまいました。前場所と同様に、「徹底先行」とは違う走りをアレコレと試行錯誤中のようですが、まだまだ形にできていませんね。

地元勢は大波乱…

 準決勝では、期待を集めた地元勢が、森田選手、宿口陽一選手(91期=埼玉・40歳)、平原選手という並びで勝ち上がりを狙うも、後方から捲った九州勢に粉砕されてしまいます。しかも勝負どころで、森田選手と西田優大選手(123期=広島・27歳)が接触。切り替えていた宿口選手と平原選手がそのあおりを受けて落車し、森田選手はレース後に失格という、惨憺たる結果に終わってしまいました。

 結局、決勝戦に駒を進められたS級S班は、脇本選手のみ。気配がよさそうなのは、初日からアグレッシブな走りをみせ続けている寺崎選手や、準決勝では単騎で最後方から力強く捲った佐々木眞也選手(117期=神奈川・30歳)などでしょうか。あとは嘉永泰斗選手(113期=熊本・26歳)もオール2着以内で勝ち上がりと、いっときに比べるとだいぶ復調してきたように感じました。

寺崎の後位は競り!

 三分戦となった決勝戦。注目は、佐々木眞也選手が近畿ラインの番手を競りにいくと宣言したことでしょう。近畿勢は、先頭が寺崎選手で番手を回るのが脇本選手、3番手を固めるのが村上博幸選手(86期=京都・45歳)という並び。つまり、脇本選手の位置を狙いにいくということです。ヨコの動きに弱いという脇本選手のウィークポイントをつかれると、前を走る寺崎選手としても楽ではありません。

寺崎の番手を争う佐々木眞也(左)と脇本雄太(写真提供:チャリ・ロト)

 2車となった関東勢は、佐々木悠葵選手(115期=群馬・29歳)が先頭で、番手を地元の武藤龍生選手(98期=埼玉・33歳)が回るという組み合わせ。佐々木悠葵選手も、近況かなり力をつけてきていますよね。そして九州勢は、嘉永選手が先頭で番手に徳永哲人選手(100期=熊本・42歳)、3番手が嶋田誠也選手(109期=福岡・32歳)という並びで勝負。嘉永選手が楽に主導権握るなら、この相手でもけっして侮れません。

脇本の外につけた佐々木眞也

 それでは、決勝戦の回顧に入っていきましょう。レース開始を告げる号砲と同時に飛び出していったのが、5番車の村上選手と1番車の武藤選手。ここは村上選手がスタートを取って、近畿勢の前受けが決まります。そして、佐々木眞也選手が脇本選手の外につけて、番手競りの態勢に。そして、中団5番手に佐々木悠葵選手、後方7番手に嘉永選手というのが、初手の並びです。

佐々木眞也(4番車・青)が脇本雄太(2番車・黒)の外につけ、番手競り態勢(写真提供:チャリ・ロト)

 レースが動き出したのは遅く、赤板(残り2周)周回のバックストレッチから。競りとなった近畿勢の番手は、佐々木眞也選手が内、脇本選手が外に入れ替わっています。後方から嘉永選手がポジションを上げていって、レースが打鐘を迎えて誘導員が離れるのと同時に、前を斬って先頭に。佐々木悠葵選手も続けて動いて、4番手を確保します。まだペースが上がらないままで、打鐘後の2センターを回りました。

 競られている脇本選手はポジションに固執せず、佐々木眞也選手の後ろに下げつつ最終ホームに。ここで後方の寺崎選手がカマシて、前を叩きにいきました。後ろが競りでタイミングが難しかったはずですが…寺崎選手、思いきった仕掛けでしたね。素晴らしいダッシュで一気に前へと迫って、最終1センターで嘉永選手の前に出ますが、ここで脇本選手が連係を外して離れてしまいます。

佐々木悠葵が急加速!

 先頭が寺崎選手、2番手が佐々木眞也選手となって、バックストレッチに進入。ここで脇本選手が、寺崎選手の後ろに戻るべく追い上げていきます。それを察知した佐々木悠葵選手も、脇本選手に連動。村上選手の後ろに続きますが、脇本選手にスピードをもらった佐々木悠葵選手の急加速についていけず、番手の武藤選手が離れてしまいました。追い上げた脇本選手は、最終バックで佐々木眞也選手の外まで迫ります。

 しかし、佐々木眞也選手はヨコの動きで脇本選手をブロック。これで勢いが削がれた脇本選手の外から、佐々木悠葵選手が一気に前を飲み込む勢いで飛んできました。佐々木悠葵選手から離れてしまった武藤選手も、自力で後方から猛追。しかし、徳永選手の外に並んだところで接触して、徳永選手とその後ろにいた嶋田選手が落車するアクシデントとなってしまいました。

後退する脇本雄太(2番車・黒)の外から勢いよく佐々木悠葵(9番車・紫)が飛んでくる(写真提供:チャリ・ロト)

 前では寺崎選手が踏ん張っていますが、佐々木眞也選手と脇本選手を乗り越えた佐々木悠葵選手が、最終3コーナーで先頭に並びかけます。自力で捲った脇本選手は、残念ながらここで失速。最終2センターでは佐々木悠葵選手が先頭に立ち、その後ろに寺崎選手、佐々木眞也選手、村上選手、武藤選手がタテ一列に並ぶカタチとなって、大宮バンクの長い最終直線に入りました。

 後方から位置を上げてきた武藤選手や村上選手が必死に追いすがりますが、前を行く3車の脚色は鈍りません。先頭の佐々木悠葵選手は差を詰められるどころか、逆に後続を引き離すほどの勢いです。2番手の寺崎選手もいい粘りをみせますが、そこにジリジリと佐々木眞也選手が迫って、30m線を通過。この時点で、もう大勢は決していましたね。佐々木悠葵選手がそのまま、先頭でゴールを駆け抜けました。

寺崎浩平(7番車・橙)が粘るも及ばず…(写真提供:チャリ・ロト)

勝つべくして勝った佐々木悠葵

 非常にいい粘りをみせた寺崎選手が2着、3着に佐々木眞也選手。4着が武藤選手、5着が村上選手という結果でした。佐々木悠葵選手は、2022年12月の高松記念以来となる、通算2回目のGIII優勝ですね。初手から中団でうまく立ち回り、上がりも13秒8という優秀なものですから、展開に恵まれた面があったとはいえ価値がある。文句なしに強かったし、本当に力をつけていると感じました。

「(佐々木)眞也さんは競りになったら引かないし、脇本さんが追い上げる形になると思ったので、そこでスピードをもらっていこうと。(その通りになり)完璧でした」

 このレース後コメントからもわかるように、佐々木悠葵選手は展開を見事に読み切っているんですよね。しかし、いくら展開が読めたとしても、それに合わせて動けるだけの能力がなければ勝てません。デキに左右されるとはいえ、持っている以上の力は出せませんからね。この決勝戦での佐々木悠葵選手は、それらをすべて兼ね備えていた。そういう意味では、勝つべくして勝ったといえます。

完璧な読みで大宮GIII制した佐々木悠葵(写真提供:チャリ・ロト)

 2着の寺崎選手も、敗れたとはいえ非常に強いレースをしています。自転車競技の走りから「競輪脚」になってきているというか…積極的に先行して粘る走りで結果が出せているので、本人もいい手応えを感じていることでしょう。最後は止まってもおかしくない、最終ホーム手前からの思いきったカマシで2着に粘りきったのですから、内容的には文句なし。あのタイミングだからこそ、前を叩けたともいえますからね。

得たものをどう活かすか

 脇本選手は、本人がレース後にコメントしていたように、ヨコの動きや競りへの対応力がやはり課題ですね。このウィークポイントは、初日特選でも露呈していました。脇本選手はライン先頭を走ることが多いですが、この決勝戦のように番手を回るケースも、今後は増えてくるはず。他地区にとっての「付け入る隙」であるのは明らかですから、ここは改善していかないとダメですよ。

 寺崎選手に叩かれた嘉永選手については、やはりまだ復調途上だと感じました。本当にいい頃ならば、寺崎選手の番手に飛びつけているはずです。それができず、寺崎選手と佐々木眞也選手に前に出られてしまって、以降はなすすべなく終わってしまっている。勝ち上がりの過程では通用しても、相手関係が強くなりデキのいい選手も多い決勝戦だと、まだ「足りない」現状なのでしょう。

 充実期を迎えつつある若手の上位独占や、他地区を迎え撃った関東勢の優勝で「東」の巻き返しが達成されたことなど、今後につながる結果でしたね。3連単89,710円という大波乱決着ではありましたが、自分の力をしっかり発揮できた選手が好走して、それができなかった選手が沈んだという結果で、そこまで意外ではなかったんですよね。ここで得たものを、各選手が次にどう活かすのか。それを追っていきたいですね。

ここで得たものを次にどう活かすか…(写真提供:チャリ・ロト)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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