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山田裕仁のスゴいレース回顧

【東京オーヴァルカップレース 回顧】内容濃い“熱戦”となった決勝戦

2025/07/29 (火) 18:00 11

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが京王閣競輪場で開催された「東京オーヴァルカップレース」を振り返ります。

内容濃い熱戦となった京王閣GIIIは鈴木竜士が優勝!(写真提供:チャリ・ロト)

2025年7月28日(月)京王閣12R 東京オーヴァルカップレース(GIII・最終日)決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①眞杉匠(113期=栃木・26歳)
②荒井崇博(82期=長崎・47歳)
③寺崎浩平(117期=福井・31歳)
④鈴木竜士(107期=東京・31歳)
⑤小倉竜二(77期=徳島・49歳)
⑥友定祐己(82期=岡山・46歳)
⑦吉田拓矢(107期=茨城・30歳)
⑧内藤宣彦(67期=秋田・54歳)
⑨三谷将太(92期=奈良・39歳)

【初手・並び】

←①⑦④⑧(関東+北日本)③⑨⑥(近畿+中国)②⑤(九州+四国)

【結果】

1着 ④鈴木竜士
2着 ⑦吉田拓矢
3着 ⑧内藤宣彦

豪華メンバー集結の3日制GIII

 7月28日は東京都の京王閣競輪場で、東京オーヴァルカップレース(GIII)の決勝戦が行われています。つい先日にもGIIIが開催されている京王閣ですが、今回はナイターではなくデイの3日間開催。S級S班では、清水裕友選手(105期=山口・30歳)、眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)の2名が出場。また、今年のダービーを制し、来期S班が確定している吉田拓矢選手(107期=茨城・30歳)も参戦しています。いずれも、玉野・サマーナイトフェスティバル(GII)で決勝戦に出場していた選手です。

左から、清水裕友、眞杉匠、吉田拓矢(写真提供:チャリ・ロト)

 これら3名が中心となるシリーズであるのは間違いなしですが、そのほかにも荒井崇博選手(82期=長崎・47歳)や新田祐大選手(90期=福島・39歳)、寺崎浩平選手(117期=福井・31歳)、地元代表である鈴木竜士選手(107期=東京・31歳)などが出場と、メンバーレベルはけっして低くありません。四分戦となった初日特選は、3連単34万6,600円という場外ホームラン級の高配当決着となりました。

 主導権を奪ったのは、唯一の3車である関東勢の先頭を任された眞杉選手。打鐘の直前で仕掛けて先頭に立つと、そのまま全力モードにシフトして押し切りを狙います。関東勢の直後4番手につけた寺崎選手が2コーナー過ぎから捲りにいきますが、眞杉選手の番手を回る吉田選手がこれを牽制。寺崎選手はそれを乗り越えて先頭に迫りますが、今度は眞杉選手が寺崎選手を外に大きく張って、ブロックにいきました。

 この眞杉選手の動きで空いた内を、吉田選手と関東ライン3番手の吉澤純平選手(101期=茨城・40歳)がまっすぐ伸びます。そこに、ブロックから戻った眞杉選手と態勢を立て直した寺崎選手も加わって、4車の争いとなります。最後は、最内からいい伸びをみせた吉澤選手が少し出て1着。眞杉選手が2着、寺崎選手が3着という結果で、関東勢がここでもライン戦の強さをみせました。

S班・清水は準決敗退に…

 しかし、初日特選を勝った吉澤選手は翌日の準決勝で4着に敗退。ここは、前受けから最初は突っ張るも関東勢を前に出し、4番手でうまく立ち回った寺崎選手が先頭の近畿勢がワンツーを決めています。近畿勢と連係した友定祐己選手(82期=岡山・46歳)が3着に入って、ラインの並びそのままで上位を独占。このシリーズでの寺崎選手は、後方からの単調な捲り一辺倒ではなく、位置を意識した走りができていますね。

左から、友定祐己、寺崎浩平(写真提供:チャリ・ロト)

 続く準決勝も吉田選手と鈴木選手の関東ワンツー決着。関東勢の先頭である吉田選手は、自力に切り替えて先に抜け出した清水選手を最終2センターで捉えると、最後の直線でも番手の鈴木選手を差させず1着をとりました。関東勢と連係していた内藤宣彦選手(67期=秋田・54歳)もしっかり続いて3着に入り、このレースもラインで上位を独占。清水選手は5着で、勝ち上がりを逃しています。

 そして最後の準決勝は、前受けから突っ張った眞杉選手を後藤大輝選手(121期=福岡・24歳)が叩くという展開に。しかし、九州勢の3番手を眞杉選手が捌き、その位置からの早めの捲りで押し切りました。番手の高橋築選手(109期=東京・33歳)は離れてしまい、その後ろに切り替えた荒井選手が2着。最後いい伸びをみせた小倉竜二選手(77期=徳島・49歳)が3着と、ここはスジ違い決着でしたね。

 決勝戦は、いずれも混成ラインの三分戦に。3名が勝ち上がった関東勢は、眞杉選手が先頭で番手に吉田選手、3番手が鈴木選手という並びとなりました。その後ろに北日本の内藤選手がついての、4車ラインです。荒井選手は、小倉選手と即席コンビを結成。近畿勢は初日特選と同様に、寺崎選手が先頭で番手を三谷将太選手(92期=奈良・39歳)が回ります。ライン3番手には、友定選手がつきました。

眞杉がS取り成功! 寺崎は中団5番手から

 それでは、決勝戦のレース回顧といきましょう。レース開始を告げる号砲が鳴ると、1番車の眞杉選手と3番車の寺崎選手がいい飛び出しをみせますが、ここは最内の眞杉選手がスタートを取ります。眞杉選手が先頭のラインが前受けとなり、寺崎選手は中団5番手から。そして荒井選手が後方8番手というのが初手の並びで、前を取った眞杉選手は突っ張り先行に持ち込む算段かもしれませんね。

 後方の荒井選手が動いたのは、青板(残り3周)周回のバックから。早めに先頭の眞杉選手の外に並んで、抑えにいきます。眞杉選手は誘導員との距離をあけて、前に踏み込む態勢を整えながら併走。赤板(残り2周)掲示を通過すると、外の荒井選手が前を斬りにいこうとしますが、眞杉選手は突っ張ってこれを出させません。荒井選手は赤板後の1センターで下げて、5番手の位置を狙いにいきます。

突っ張って荒井(2番車)を出させない眞杉(1番車)(写真提供:チャリ・ロト)

寺崎浩平が間髪入れずに猛加速!

 しかし、ここで間髪を入れず動いたのが寺崎選手。2コーナーからの素晴らしい加速で、眞杉選手を叩きにいきました。寺崎選手は打鐘と同時に眞杉選手の外に並び、そして三谷選手までが眞杉選手の前に出切ります。しかし、3番手の友定選手は吉田選手のブロックを浴び、離れてしまいます。眞杉選手は近畿2車の後ろにつけて、打鐘後の2センターを通過。しかし、外で浮かされた友定選手も黙っていません。

間髪入れず寺崎(3番車)が猛加速!(写真提供:チャリ・ロト)

 最終ホームの手前で、友定選手が吉田選手を激しく内に押し込み、ポジションを奪い返しにいきます。これが、眞杉選手が外に出して前を捉まえにいったのとほぼ同時であったため、吉田選手や鈴木選手は眞杉選手の動きについていけません。今度は眞杉選手が外で浮くカタチになりかけますが、それを察知した眞杉選手は最終1センター、ヨコの動きで三谷選手を外から捌きにいきました。

 吉田選手に絡んでいた友定選手がここで力尽き、さらに眞杉選手が内に動いたことで、眞杉選手と吉田選手の連係が回復。しかし、ここまで縦横無尽に動いてきた眞杉選手の脚が、最終2コーナーを回ったところでさすがに鈍ってきます。それを察知した吉田選手は、眞杉選手の番手からここで発進。絡んでいる三谷選手と眞杉選手の間を抜けて、自力で前を捉まえにいきました。

粘る寺崎、差を詰めていくベテランコンビ

 先頭では寺崎選手が踏ん張っていますが、眞杉選手と絡んだ三谷選手は脚をなくして、ここで後退。しかし、寺崎選手は裸単騎となってからもよく粘ります。最終バックで吉田選手が外から迫り、最終3コーナーでは吉田選手に並ばれますが、食らいついて併走のままで最終2センターへ。吉田選手の仕掛けと同時に、後方にいた荒井選手も仕掛けて、前との差を詰めてきています。

裸単騎となっても粘る寺崎(3番車)(写真提供:チャリ・ロト)

 吉田選手は、最終2センターで先頭の寺崎選手を捉えて先頭に立ちます。寺崎選手もよく踏ん張りましたが、最後の直線に入ったところで失速しました。吉田選手マークの鈴木選手が外に出して差しにいき、さらにその外からは内藤選手が追うという隊列で、30m線を通過。後方からは荒井選手と小倉選手も伸びてきますが、上位に食い込むのはさすがに厳しい。ライン戦は、眞杉選手が先頭の関東勢が完勝です。

 先に抜け出した吉田選手が粘るも、差しにいった鈴木選手の伸びがいい。ゴール直前に横並びとなり、最後はこの両者によるハンドル投げ勝負になりますが…ゴールラインでは鈴木選手がほんの少しだけ出ていましたね。鈴木選手は2月の小松島ミッドナイトGIII以来、通算2度目となるGIIIを地元で達成。僅差の2着が吉田選手で、3着が内藤選手と、ラインによる上位独占を決めています。

ハンドル投げ勝負を僅差で制した鈴木(4番車)(写真提供:チャリ・ロト)

「楽な先行は絶対させない」寺崎の強い意志

 眞杉選手が先頭のラインが4車となり車番にも恵まれたことで「ものすごく単調な展開となってしまう可能性がある」と懸念していたのですが、フタを開けてみればなかなかの熱戦。この決勝戦を手に汗を握るものにしてくれた立役者は、やはり寺崎選手でしょうね。楽な先行など絶対にさせない…という強い“意志”を感じる仕掛けで眞杉選手を叩き、主導権を奪ったのはお見事でした。

今回の熱戦の立役者(撮影:北山宏一)

 最後は孤立無援となるもよく粘っての5着で、このシリーズを通して「単調な後方からの捲り」から脱却できていた。この走りができるならば、今後のビッグでもおおいに期待できますよ。優勝した鈴木選手は確かに「前のおかげ」で、展開に恵まれた面もありましたが、それでも準決勝では差せなかった吉田選手を決勝戦では差し切っている。この強い相手に地元で優勝できたというのは、大きな自信となるはずです。

かつての“黄金タッグ”を彷彿させる2人

 惜しくも2着に敗れた吉田選手は、番手から発進する際に眞杉選手に軽く接触しているのもあって、スピードに乗せきれなかった面があったように感じました。それもあっての2着惜敗ですが、眞杉選手の番手から自力に切り替えたタイミングなど、文句なしにいい内容だったと思いますよ。最後まで離れず追走して3着に食い込んだ内藤選手も、まだまだやれる!いう自信を得られたことでしょう。

 眞杉選手は8着という結果に終わりましたが、自分が先頭のラインを完勝に導いているわけで、負けて強し。このシリーズでも、自在に動ける強みを随所でみせていました。吉田選手とのコンビは今後も要注目で、かつて関東で一時代を築いた、平原康多・元選手と武田豊樹選手(88期=茨城・51歳)のコンビを彷彿とさせるというか。その系譜を継ぐ者として、さらに大舞台を賑わす存在となっていくのではないかと感じますね。

新・ゴールデンコンビが平原&武田の系譜を継いでいく(撮影:北山宏一)

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山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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