2025/01/14 (火) 18:00 38
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが和歌山競輪場で開催された「和歌山グランプリ」を振り返ります。
2025年1月13日(月)和歌山12R 開設75周年記念 和歌山グランプリ(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①古性優作(100期=大阪・33歳)
②松本貴治(111期=愛媛・31歳)
③菅田壱道(91期=宮城・38歳)
④椎木尾拓哉(93期=和歌山・39歳)
⑤東口善朋(85期=和歌山・45歳)
⑥石塚輪太郎(105期=和歌山・31歳)
⑦大槻寛徳(85期=宮城・45歳)
⑧山口富生(68期=岐阜・55歳)
⑨山田英明(89期=佐賀・41歳)
【初手・並び】
←③⑦(北日本)①⑧(中部近畿)②⑨(混成)⑥⑤④(近畿)
【結果】
1着 ①古性優作
2着 ②松本貴治
3着 ⑨山田英明
1月13日には和歌山競輪場で、和歌山グランプリ(GIII)の決勝戦が行われています。近畿地区における今年初の記念で、昨年のKEIRINグランプリ覇者である古性優作選手(100期=大阪・33歳)がここから始動します。新山響平選手(107期=青森・31歳)も、このシリーズが今年の初出走ですね。S級S班以外も、なかなか面白いメンバーとなりました。
注目の初日特選で1着をとったのは、唯一の単騎だった小林泰正選手(113期=群馬・30歳)。打鐘で後方からカマシた北日本勢の後ろにつけ、最後の直線では内をすくっての快勝です。2着は、新山選手の番手から差した菅田壱道選手(91期=宮城・38歳)で、3着は最後よく外から伸びた古性選手。逃げた新山選手は、よく粘るも5着という結果でした。
しかし新山選手は、二次予選で最終ホーム過ぎから捲りにいくも、堀江省吾選手(119期=長野・27歳)に大きく張られてしまい失速。6着という結果に終わり、勝ち上がりを逃しています。堀江選手はレース後、押し上げの反則で失格となりました。このシリーズの“目玉”でもあっただけに、新山選手がここで姿を消すのは残念でしたが、こればっかりは致し方ありませんね。
特選組だった窓場千加頼選手(100期=京都・33歳)も二次予選で敗退し、初日特選を勝った小林選手は準決勝で4着に敗れて、決勝戦に駒を進めることができませんでした。それとは対照的に、古性選手は安定感のある走りで、しっかり勝ち上がり。地元である和歌山勢も、記念らしい番組面での有利さがあったとはいえ、決勝戦に3名を送り込むことに成功しています。
近畿は合計4名が勝ち上がるも、地元・和歌山勢と古性選手は別線での勝負を選択。古性選手の後ろはには、柏野智典選手(88期=岡山・46歳)の反則失格により準決勝で3着に繰り上がった山口富生選手(68期=岐阜・55歳)がついて、中部近畿ラインを形成します。山口選手には、いきなり巡ってきたこの大きなチャンスを、ぜひ生かしてほしいものです。
和歌山勢の先頭は石塚輪太郎選手(105期=和歌山・31歳)で、番手を回るのは東口善朋選手(85期=和歌山・45歳)。ライン3番手は、椎木尾拓哉選手(93期=和歌山・39歳)が固めます。“数の利”を生かすためにも主導権を奪いたいところですが、石塚選手は初日からずっと番手を回っていましたからね。果たして自力で、しかもこの相手でどうかでしょう。
2名が勝ち上がった北日本勢は、菅田選手が先頭で番手に大槻寛徳選手(85期=宮城・45歳)という組み合わせ。初日特選から2着、1着、1着で勝ち上がってきたように、菅田選手のデキはよさそうですよ。松本貴治選手(111期=愛媛・31歳)は、山田英明選手(89期=佐賀・41歳)と組んで西の混成ラインで勝負。初日からアグレッシブな走りをみせている松本選手は、ここも要注目です。
徹底先行タイプの機動型が見当たらない、いわばオールラウンダー同士の戦いとなった決勝戦。その完成形ともいえる古性選手の力が抜けているのは、競走得点からも明白です。そんな古性選手を倒すために、他のラインがどういった戦略をもってここに臨むのか。他のラインが優勝者を出すための必要条件は「古性選手よりも前の位置で勝負すること」です。
それでは、決勝戦の回顧といきましょう。レース開始を告げる号砲と同時に飛び出したのは、3番車の菅田選手と7番車の大槻選手。つまり北日本勢は、最初から前受けを狙っていたということですね。菅田選手が先頭に立って、その直後3番手に中部近畿ライン先頭の古性選手。5番手は松本選手で、後方7番手に地元勢の先頭である石塚選手というのが、初手の並びです。
後方の石塚選手が動き出したのは、赤板(残り2周)掲示の手前と、遅めのタイミングでしたね。ホームストレッチから後ろから位置を上げていこうとしますが、その気配を察知した3番手の古性選手が先んじて動き、赤板通過の直後に先頭の菅田選手を斬ります。続いて松本選手も前を斬りにいって、1センターを回ったところで、今度は石塚選手が松本選手を叩きにいきました。
しかし、ここで松本選手は下げずに前へと踏んで、和歌山勢の番手で粘るカタチで応酬。石塚選手だけが前に出て、松本選手と東口選手、山田選手と椎木尾選手が内外併走の隊列となって、レースは打鐘を迎えます。古性選手は6番手となって、初手で前受けを狙った菅田選手は後方8番手に。松本選手と東口選手が内外で激しくぶつかり合いながら、打鐘後の2センターを回ります。
そしてホームストレッチでは、内の松本選手が東口選手の前に出て、石塚選手の番手を奪取。最終ホームでは椎木尾選手が東口選手の内に入って、松本選手と山田選手の連係をなんとか阻止しにいきます。しかし、山田選手はさらにその内へと潜り込み、最終1センターで椎木尾選手を捌いて、その前に出ました。これにより、和歌山勢は完全に切り崩されてしまいます。
この様子を6番手で動かず見定めていた古性選手は、最終2コーナー過ぎから捲り始動。それとほぼ同時に、2番手の松本選手が仕掛けて、先頭の石塚選手を捲りにいきます。前と少し口があいてしまっていた山田選手も、最終バックで差を詰めて、松本選手の番手に復帰。その後ろに切り替えた椎木尾選手の外から、捲った古性選手が迫るという態勢で、最終3コーナーに入りました。
後方に置かれていた菅田選手も、古性選手の仕掛けに乗って差を詰めてきますが、まだ前とはかなり差がある状況。古性選手は、最終2センターで椎木尾選手の前に出ますが、先に抜け出した松本選手と山田選手を一気に捲りきるほどの勢いは感じられません。松本選手が抜け出し、それを山田選手が追うという隊列のまま変わらず、最後の直線に向きました。
ここで古性選手は、踏み込み直してさらに加速。松本選手を差しにいった山田選手の外から、力強くと伸びてきます。内に進路をとった椎木尾選手はそれほど伸びがありませんが、古性選手を終始しっかりマークしていた山口選手は、イエローライン付近から前を急追。さらにその外からは菅田選手もいい伸びをみせますが、これは完全に「時すでに遅し」ですね。
先頭の松本選手はいい粘りをみせて、30m線でも先頭を死守。そこに、山田選手を外から捉えた古性選手が迫ります。そして…松本選手の脚色が鈍ったところで古性選手がグイッと前に出て、先頭でゴールラインを駆け抜けました。断然の人気に推された古性選手が、昨年に続く和歌山記念の連覇を達成。問題は2〜3着争いで、こちらは4車がズラリ横並びとなっています。
この大接戦は、松本選手が粘りきって2着。3着は山田選手で、古性選手マークの山口選手は惜しくも4着という結果。最後に大外からいい伸びをみせた菅田選手が5着で、地元・和歌山勢は残念ながらいずれも6着以下。けっして楽な展開ではありませんでしたが、終わってみれば古性選手の「順当勝ち」という結果です。さすがはS級S班、さすがは昨年のKEIRINグランプリ覇者ですよ。
殊勲賞は、このレースをエキサイティングなものにした松本選手でしょう。番手を狙いにいった相手は地元・和歌山勢で、いわば“悪者”になるのを覚悟の上でのイン粘り。松本選手や山田選手のレース後コメントによると、「最初から狙っていたものではまったくない」とのことでした。とはいえ、まさに獅子奮迅の働き。シリーズを通して、松本選手はおおいに存在感を発揮していました。
それとは逆に、ほとんど存在感を発揮できずに終わってしまったのが菅田選手。前述したように、このレースでラインから優勝者を出すためには「古性選手よりも前の位置で勝負する」のが必要条件でした。それに、道中で脚を使ってでも徹底的にこだわったのが松本選手で、脚を使わないことを優先してしまったのが菅田選手という印象ですね。勝負の姿勢は、雲泥の差だったといえます。
松本選手に切り崩されてしまった地元・和歌山勢については、残念ながらここでは力不足だったというのもあるでしょうね。やるべきことはやっていますが、簡潔にいえば「力およばず」という結果。自力で勝負して勝ち上がってきたわけではない石塚選手が先頭という時点で、懸念はあったわけです。記念の決勝戦ともなると、相手の能力やデキが変わってきますからね。
そして…ちょっと気になるのが、このところの「東」の勢いのなさです。昨年の秋から、記念や特別ではずっと「西高東低」の状況が続いているんですよ。宇都宮・共同通信社杯競輪(GII)は眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)が優勝しましたが、弥彦・寛仁親王牌(GI)と小倉・競輪祭(GI)、そして静岡・KEIRINグランプリはいずれも近畿勢の優勝です。
深谷知広選手(96期=静岡・35歳)や新山選手、坂井洋選手(115期=栃木・30歳)などが記念を制してはいますが、全体的にはどうも劣勢というか。イキのいい若手の台頭についても、東よりも西のほうが目立っている印象です。次なる記念の舞台は「東」である大宮競輪場ですから、関東地区の選手や地元・埼玉勢には、この流れを変えるような奮起を期待します。
それに、ずっと古性選手の“一強”が続いたのでは、競輪という競技自体が盛り上がりません。この決勝戦での松本選手のように、そこに対抗していくための工夫や戦略をしっかり練って、レースに臨んでほしいもの。それを繰り返してきたのが競輪であり、ラインという仲間で戦う競技の醍醐味でもあります。そういった意味でも、「東」はこの流れにそろそろ歯止めをかけてほしいですね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。