閉じる
すっぴんガールズに恋しました!

【河内桜雪】運命変えた“オールスター”の舞台へ! 使命と葛藤背負ったアイドルレーサーが初のGIへ挑む

アプリ限定 2025/08/03 (日) 18:00 6

日々熱き戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。その素顔と魅力に松本直記者が深く鋭く迫る『すっぴんガールズに恋しました! 』。今回は女子オールスター競輪でGI初出場となる河内桜雪選手(22歳・群馬=122期)。運命に導かれ、少女時代から憧れた競輪選手という夢を叶えた河内選手。その華やかなルックスでデビューから注目を集め、広告塔としてメディアに出演する機会も多い。レースになると勝負根性をむき出しにするギャップも魅力の“アイドルレーサー”に心の内を聞いた。

小学生でガールズケイリンと運命的な出会い

 群馬県前橋市出身の河内桜雪は、幼い頃から活発に体を動かすことが好きで小学2年から新体操を始め、夢中になった。

「母が幼稚園の先生をしていて、幼稚園のそばに新体操の教室があったので通い始めました。新体操は楽しかったので、新体操の強い私立中学校への受験を考えていた時期もありました」

活発な少女時代(本人提供)

 しかし小学6年の夏、ガールズケイリンとの出会いによって河内の運命は大きく変わる。

「GI・オールスター競輪が前橋で開催されました(2014年9月・優勝は武田豊樹)。父に連れられて前橋競輪場で生で競輪を見たとき、2つの衝撃を受けたんです」

 地元で開催されたビッグレースを観戦し、その魅力に引き込まれた。

「1つ目は競輪の迫力。バンクを走る選手のスピード感が凄くて興奮しました。2つ目は表彰式に来ていた中村アンさんに会えたこと。ガールズケイリンコレクション(優勝は小林優香)を見て、女子の競輪もとてもかっこよかったので、選手を目指そうとその日に決めました。選手になれば芸能人に会えるかもという子どもらしい好奇心もあって(笑)」

 当時、新体操の強豪校への願書提出直前というタイミングだったが、一瞬にして競輪の魅力に取りつかれ、河内は競輪選手への道を歩み始めることを決意した。

家族の支えと競輪選手への道のり

 一人娘が競輪選手を目指すことを、父は賛成した。自身も社会人時代に競輪選手を目指した経験があり、親戚には元競輪選手の荒井春樹氏(99期・引退)もいたため、河内の夢を全面的に応援してくれたのだ。

 中学は競輪選手になるための準備期間と考えて、地元の公立中学へ進学し父との練習に時間を費やした。高校は前橋市内の自転車競技の名門・前橋工業高校へ進学。ガールズケイリン選手の南彩乃(旧姓・小林)は高校の先輩だ。

「決断してからは競輪選手になりたい気持ちが揺らぐことはなかった。(南)彩乃さんとは在学は重なっていませんが、私が中学生のときに何回か会ったことがあります。彩乃さんは在学中にジュニアのナショナルチームに所属していて格好良かった。自分も前工の自転車競技部に入って競輪選手を目指そうと思いました」

家族のサポートを受け自転車に乗り始めた(本人提供)

孤独な練習に耐えぬいた“揺るぎない信念”

 名門自転車競技部である前橋工業は中長距離種目に強く、ナショナルチームに所属する先輩部員もいた。それだけに練習は非常に厳しく、彼女は歯を食いしばって日々の練習に耐え続けた。

「部活では4人同級生がいましたが、女子は私以外いなかったですね。後輩も10人ほど入部するけど、練習がつらいからかしばらくすると各学年3人くらいまで減ってしまう感じでした」

 孤独な環境でも厳しい練習に耐えられたのは、明確な大きな目標があったからだ。ガールズケイリン選手になるという揺るぎない気持ちが、河内を強くした。

「平日は朝の4時30分に起きて6時に集合で練習。授業を受けて、もちろん放課後もみっちり練習でした。土日の休みも練習か大会。練習のときは乗り込みで、前橋から沼田市とか昭和村まで街道練習して、目的地に着いても1周10キロのコースを周回する練習をしていました。とにかく練習量は多かったですね」

厳しい練習に耐え抜いた高校時代(本人提供)

 両親の協力も、厳しい練習を乗り越える大きな支えとなった。

「父は練習で協力してくれたし、母には食事面でかなり支えてもらいました。朝、練習が終わるタイミングで朝と昼のお弁当を作って学校に届けてくれた。食べても食べても太れないくらいの練習量だったので、毎日タッパーにいっぱいご飯とおかずを詰めて持ってきてくれました」

養成所での成長とデビュー戦

 厳しい練習の成果は、競輪選手になる上での血となり肉となった。高校3年生の秋に受験した122期の日本競輪選手養成所の試験は一発合格。競輪選手への第一歩を順調に踏み出した。ちなみに、養成所合格発表後から入学までの間には、ケーキ屋でのアルバイトを経験したそうだ。

「ケーキやパンを作ることが好きだったので、近所のケーキ屋さんでアルバイトしました。選手になったらもうできないと思ったので、いい経験をさせてもらいました」

 日本競輪選手養成所122期は、河内と同じく高校卒業のタイミングで入所した候補生が多かった。同期生とは非常に仲が良く、楽しい1年間だったと振り返る。

「他の期の選手たちから気持ち悪がられるほど同期の仲がいいんです(笑)。家族みたいな存在ですね。ケンカもするけど、いつの間にか元通りの関係になる。養成所生活は大変なので、もう二度と戻りたくないと言う人が多いけど、私は122期の仲間と一緒ならもう1年養成所に行ってもいいと思います(笑)」

122期はデビューしてからも仲が良い

 競走訓練では着順を重視し、記録会やトーナメントでも結果にこだわって走った。

「同期はみんな運動神経が良く、タイムもバンバン出していた。私は自転車経験はあったけど、運動神経がいいわけでもなく特別優れたものがありませんでした。だから総合力で勝負するしかないと早い段階で思い、試行錯誤しました。高校時代の練習が厳しかったおかげで、養成所の練習も乗り越えられた。在校成績3位が取れてよかったです」

 122期の養成所生活はコロナ禍真っ最中。通常は年に2度ある帰省や、外出できる休暇もなかった。養成所内でのコロナ感染があったことから、卒業記念レースはスケジュールが変更され卒業式の後に行われた。世間が混乱に包まれるなか、様々な経験を積み心も鍛えた。

同期の松本詩乃(左)と畠山ひすい(中央)と

地元での初勝利と波乱の2年目

デビューは2022年4月末の松戸ルーキーシリーズ。惜しくも決勝進出はならなかったが、3戦目の大宮で初の決勝進出を果たし、準優勝という収穫を得た。

「ルーキーシリーズは走り方が難しかったですね。まだ戦い方がわかっていなかったかもしれません」

 同年7月、本格デビュー戦を地元の前橋で迎えることとなった。先輩レーサーとの初対戦となった1走目は3着。2走目では見事な差し脚を発揮し、デビュー初白星を地元で飾った。場内は割れんばかりの大歓声に包まれた。

「本デビュー戦は地元だったので、あっせんが決まったときからうれしかったんです。まさか勝てるとは思っていなかったので、2走目の1着はびっくりしました。差し切って1着が取れて、場内がすごく盛り上がったのがわかりました」

 小学生時代からの夢を叶えた河内を応援するため、地元の友人・知人も前橋競輪場に訪れていた。

「みんなが応援に来てくれていたのもわかったし、目の前で勝ててよかった。検車場に引き上げてきたら、検車員の方から『GIのような歓声だったね。おめでとう』と言ってもらえて本当にうれしかったです」

 その後も師匠の瀧野勝太(92期)や群馬支部の選手たちと練習を重ね、7月の前橋から9月の岸和田まで6場所連続で決勝進出。岸和田決勝で落車してしまったが、復帰後は11月の小田原から12月の西武園まで4場所連続で決勝進出と、ケガの影響を感じさせない好結果を残していった。

 2年目の2023年はアクシデントが続いた。1月の和歌山、6月の前橋、10月の西武園と3回落車。それでもレースになれば勝負根性を発揮し、車券に貢献。決勝に乗ることも多かった。

「2年目は落車が多かったですね。でも新体操をしていて体が柔らかいからか、骨折などの大ケガはなかったんです。体調を崩すことも多かった。元々朝型の人間だったので、競輪選手のリズムに慣れるのに時間が掛かりました。モーニング、デイ、ナイター、ミッドナイトといろんな時間帯を走るし、レースの遠征も多い。日々の生活がバラバラで大変でした。それが3年目でようやく慣れてきた感じがありました」

初のビッグレース出場

 3年目の2024年の大きなトピックは、8月に平塚で行われた女子オールスター競輪(F2)出場である。ファン投票11位で選出され、単発レース(2023年、2024年フレッシュクイーン)を除けば初のビッグレース出場を決めた。

「オールスターはまさか選ばれると思っていなかったので、びっくりしました。中間発表で6位だったので出られたらいいなと思ったけど、優勝もまだできていなかったので…」

2024年の女子オールスターに出場(記者提供)

 躍進の一因として、メディア出演の機会があったことも大きいだろう。華やかなルックスで“アイドルレーサー”としても注目を集め、スポーツバラエティ番組に出演したり、有名メディアからもインタビューを受けた。

「やっぱりメディアに出させていただけたのは大きいと思いますね。私は小さいころからテレビが大好きで、出演のお話をいただいたときはうれしかった。テレビ局ではタモリさんやかまいたちのお二人に会えました。ジャンクSPORTSに出演したときは浜田雅功さんに突っ込まれた(笑)。まさか自分が浜田さんから突っ込まれる日が来るなんて思っていなかったし、楽しかったです」

 子どもの頃、初めて見たレースがオールスター競輪。競輪選手を目指すきっかけにもなった舞台に、ファン投票で選ばれ出場を決めたのだから、喜びもひとしおだ。女子オールスター競輪で初めてビッグレースに参加したことは、河内にとって大きな財産となった。

アイドルレーサーとしての使命と葛藤

 一方で、デビューからコンスタントに決勝進出をしているものの、優勝はまだない。メディアなどで注目を浴びることが多いゆえに、“成績が伴っていない”などといった辛辣な声が本人の目にも届いている。

「そういった声は極力気にしないようにしています。ファンの方々もそういう声があることを知っていて『気にしなくていいよ』と言ってくださって、その気持ちがありがたいですね。結果を出すために努力して、私のことを応援してくれる人の声に耳を傾けたいと思っています」

 メディアに出演する理由は、なによりガールズケイリンがもっと広まり、競輪界が盛り上がることを願っているからだ。最近、うれしい声が届いたという。

「地元の群馬で、私がきっかけで競輪を知った男の子が競輪選手を目指しているという話を聞きました。メディアに出る一番の理由は、競輪やガールズケイリンの知名度を上げたいから。それで選手を目指す人が増えてほしいからなので、本当にうれしかったです」

ともに人気レーサーの高木佑真(左)と

 まだ地上波や大手メディアで競輪が取り上げられることは多くないのが現状だ。河内のようにオファーを受けて表に出ることは、誰もができることではない。

「競輪に興味を持ってもらうきっかけになったり、競輪場に来る人が増えたらいいですよね」

 ガールズケイリンの広告塔としての役割を担っていることも、ファン投票の結果につながっているはずだ。

自身の運命変えた“オールスター”の舞台へ

 今年はここまで準優勝が4回と、初優勝の期待は高まるばかりだ。そして、今年からGIに昇格した『女子オールスター競輪』が控えている。河内にとってGI出場は初めてだ。

 ファン投票は中間で7位、最終結果は7,739票を獲得し8位と、1年前より順位も投票数もアップ。これは彼女が多くのファンに支持されている証だ。

「8位という結果はうれしい。なかなか結果が出せない中でも大勢の人が投票してくれたので、感謝しかないです」

初めてGIに出場する(撮影:北山宏一)

 さらに河内は6月に引退した日野未来(ファン投票5位)の繰り上がりで、初日のドリームレースに出走することに。ドリームレースは準決勝進出が決まっているため、勝ち上がりも有利だ。

「ドリームレースを走れるのは光栄です。未来さんとは開催で一緒になったときに2人で後泊したこともあるし、メイクや美容の話で盛り上がる仲でした。未来さんの代わりにはなれないけど、せっかくもらえたチャンスなので生かしたいです。繰り上がったからには頑張りたいですね」

 初めてのGI出場が、奇しくも河内の人生を変えたオールスターの舞台。こんな巡り合わせがあるのかと本人も驚きを隠せないが、本番に向けて練習に熱が入る。

「最近はバンクで男子選手と一緒にバイクを使った練習をして鍛えています。ついていけるようにご飯をいっぱい食べて、体重を増やしてトレーニングをしている。レースの上がりタイムが良くなっているし、レースの組み立ても最近は意識を変えました。前は好位が取れるレースが多かったけど、最近は取れないことが増えた。だから今年は自分から動いて位置を取りに行っています。位置が取れないときは自力を出すことも意識しています」

 今年のガールズケイリンは、ナショナルチームの佐藤水菜がGIを2勝と主役の座を握っている。そこに元ナショナルチームの太田りゆや梅川風子、グランプリ3回優勝の児玉碧衣が猛追している状況だ。超新星の仲澤春香もおり、400メートルバンクでの上がりタイムは11秒台後半が連発するパワフルなスピードレースになっている。

 身長は155.6cmと小柄な河内には不利な状況だが、抜群の嗅覚を誇るレースセンスや勝負根性を武器に対抗することはできるはず。昨年のガールズグランプリを優勝した石井寛子のレーススタイルが、河内の目指すところかもしれない。

 運命に導かれ、たどり着いた初めてのGI『女子オールスター競輪』。いつか「宇都宮の女子オールスター競輪で河内選手を見てガールズケイリン選手を目指しました」と言われるほどの存在感を発揮し、輝くことを期待したい。

つづきはnetkeirin公式アプリ(無料)でお読みいただけます。

  • iOS版 Appstore バーコード
  • Android版 googleplay バーコード

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

すっぴんガールズに恋しました!

松本直

千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。

閉じる

松本直コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票