2025/07/22 (火) 18:00 17
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが玉野競輪場で開催された「サマーナイトフェスティバル」を振り返ります。
2025年7月21日(月)玉野12R 第21回サマーナイトフェスティバル(GII・最終日)決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①眞杉匠(113期=栃木・26歳)
②清水裕友(105期=山口・30歳)
③郡司浩平(99期=神奈川・34歳)
④太田海也(121期=岡山・25歳)
⑤吉田拓矢(107期=茨城・30歳)
⑥和田圭(92期=宮城・39歳)
⑦坂井洋(115期=栃木・30歳)
⑧松谷秀幸(96期=神奈川・42歳)
⑨佐々木悠葵(115期=群馬・29歳)
【初手・並び】
←⑨①⑤⑦(関東)④②(中国)③⑧⑥(東日本)
【結果】
1着 ①眞杉匠
2着 ⑤吉田拓矢
3着 ⑧松谷秀幸
来月には函館・オールスター競輪(GI)も控えていますが、真夏のビッグといえば、このシリーズを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。今年は岡山県の玉野競輪場を舞台に、熱戦が繰り広げられたサマーナイトフェスティバル(GII)。7月21日には、その決勝戦が行われています。連休というのもあって、玉野競輪場には本当にたくさんのファンが詰めかけていましたね。
注目選手の一人であった脇本雄太選手(94期=福井・36歳)は、直前で欠場を発表。これでS級S班は8名の出場となり、3レースが組まれた初日特選に分かれて出走しました。しかし、第10レースでアクシデントが。勝負どころで捲りにいった松本貴治選手(111期=愛媛・31歳)を、山口拳矢選手(117期=岐阜・29歳)が牽制。これによる松本選手の動きで、連係していた松浦悠士選手(98期=広島・34歳)が落車してしまいます。
山口選手は、逃げた志田龍星選手(119期=岐阜・27歳)の番手から抜けて1位入線するも、レース後に失格となりました。落車を避けつつ後方からよく伸びた吉田拓矢選手(107期=茨城・30歳)が、繰り上がっての1着。落車した松浦選手は、肋骨の骨折など全治1カ月の診断とのことで、負傷で途中欠場となっています。ようやく本調子を取り戻しつつあっただけに、松浦選手としても悔しかったでしょう。
あと2つの初日特選は、清水裕友選手(105期=山口・30歳)と古性優作選手(100期=大阪・34歳)が勝利。しかし、2日目の第9レースでもアクシデントによって、S級S班の一人が姿を消します。前受けから突っ張って先行していた新山響平選手(107期=青森・31歳)ですが、連係していた菅田壱道選手(91期=宮城・39歳)が内に前輪を差し込んだことにより接触し、両者ともに落車してしまいます。これにより、新山選手も途中欠場となりました。
さらに準決勝の12レースでは、最後の直線での攻防で、内から狭いところを抜けてきた松谷秀幸選手(96期=神奈川・42歳)が、鈴木竜士選手(107期=東京・31歳)と軽く接触。これで振られた鈴木選手が転倒し、そのすぐ外にいた古性選手も巻き込まれて落車してしまいます。古性選手は前方に叩きつけられるような転倒で、右肩の打撲骨折疑いとの報道も出ていましたね。少しでも早い回復を祈ります。
そのほかにも落車が非常に多いシリーズとなり、13名もの選手が補充で走ることになりました。以前にも述べたことですが、競輪という競技の性質上、避けられない落車は確かにあります。しかし、「避けられたであろう落車」もかなり多い。車券を買って応援してくれるファンを最も落胆させ、選手の身体にも深刻なダメージが残りかねない落車を避けるように、全競輪選手はもっと意識すべきでしょう。
そんな激しいシリーズを決勝戦まで駒を進めてきた選手は、いずれも上々のデキという雰囲気。単騎のいない三分戦で、4名が勝ち上がった関東勢は、佐々木悠葵選手(115期=群馬・29歳)が先頭を任されました。番手を眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)が回って、3番手が吉田拓矢選手(107期=茨城・30歳)。最後尾を固めるのが坂井洋選手(115期=栃木・30歳)という、強力な布陣です。
2車の中国勢は、地元の太田海也選手(121期=岡山・25歳)が先頭で、番手が清水選手という組み合わせ。太田選手はオール先行での勝ち上がりで、決勝戦でも世界レベルのスピードをみせてくれそうですね。そして南関東勢は、郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)が先頭で番手に松谷選手。3番手に北日本の和田圭選手(92期=宮城・39歳)がついて、混成ラインとなりました。
4車という“数の利”があって、車番にも恵まれた関東勢。ここが前受けから突っ張り先行に持ち込むと、他のラインはなすすべなく終わってしまう可能性が十分あります。それを、郡司選手や太田選手がどのような戦略・戦術で崩しにくるのか注目ですね。それでは、決勝戦の回顧に入りましょう。レース開始の号砲が鳴ると同時に、内の1〜3番車がいい飛び出しをみせます。
つまり、2番車の清水選手と3番車の郡司選手は、関東勢の前受けを阻止しにいったということ。しかし、眞杉選手もスタートダッシュは速いですからね。結局は1番車の眞杉選手がスタートを取って、関東勢の前受けが決定。太田選手が先頭の中国勢が中団5番手、郡司選手は後方7番手からと、初手は車番通りの並びとなりました。問題は、ここからどう関東勢を突き崩すかです。
後方の郡司選手は、青板(残り3周)のバックストレッチから早々と動き出しました。ポジションを上げて、まずは先頭の佐々木選手を外から抑えにいきます。併走のままで2センターを回りますが、後方を振り返って太田選手に動く気配がないのを確認すると、郡司選手は赤板(残り2周)掲示の通過前に自転車を下げていきました。そして赤板を通過し、郡司選手は元のポジションに戻ることになります。
赤板後の1センターを回って、バックストレッチに入ったところで初手と同じ隊列に戻ると、先頭の佐々木選手は早々とペースを上げました。打鐘を迎える頃には全力モードにシフトしますが、打鐘後の2センターからそれを叩きにいったのが、中団にいた太田選手です。素晴らしいスピードで前との差を詰め、一気に眞杉選手の外まで迫って、最終ホームに帰ってきました。
追撃を待ち構えていた眞杉選手は、ヨコに動いてこれをブロック。内の眞杉選手と外の太田選手が絡み合いながら、最終ホームを通過します。最終1コーナーで、ブロックを乗り越えた太田選手が前に出ようとしますが、眞杉選手は今度はタテに踏み佐々木選手の番手から出て、太田選手の番手を奪取します。この動きで捌かれてしまった清水選手は、吉田選手の外併走で前を追います。
吉田選手と清水選手が絡みながら2コーナーを回って、バックストレッチへ。ここで後方の郡司選手も仕掛けて前を追いますが、最終バックでも坂井選手に並ぶところまでいけません。単騎で飛ばす太田選手のハコが奪取できた眞杉選手は、自分のタイミングでいつでもタテに踏める状況。関東勢が圧倒的有利という態勢で、最終3コーナーを回ります。ここで、郡司選手マークの松谷選手が、最内に突っ込みました。
外で浮かされた清水選手は、失速して後退。先頭ではまだ太田選手が踏ん張っていますが、ここで眞杉選手が仕掛けて、これを差しにいきました。吉田選手は何度も外を振り返りますが、後続が迫ってきている様子はない。しかし、郡司選手の内側を抜けて、吉田選手の死角から松谷選手が忍び寄ってきています。逃げる太田選手を眞杉選手が捉えてその外に並びつつ、最終2センターを回って最後の直線に向かいます。
最後の直線の入り口で眞杉選手が先頭に立ちますが、その後ろから伸びてきた吉田選手の伸びがいい。その後ろからは、内を突いた松谷選手と外を回った坂井選手が前を追いすがります。30m線でも眞杉選手が先頭で踏ん張っていますが、外からジリジリと差を詰める吉田選手がゴール直前で並び、最後はハンドル投げ勝負に。松谷選手と坂井選手は3着争いですが、こちらもほとんど横並びです。
眞杉選手と吉田選手が、完全に横並びでゴールラインを通過。どちらの優勝でも、ライン戦は関東勢の完全勝利ですね。長い写真判定となりましたが、ゴールラインでほんの少しだけ前に出ていたのは眞杉選手のほう。眞杉選手は昨年に続く、サマーナイトフェスティバルの連覇を達成です。こちらも非常にきわどかった松谷選手と坂井選手の3着争いは、内の松谷選手が微差で競り勝ちました。
後方から捲った郡司選手は、最後の伸びを欠いて5着。逃げた太田選手が6着という結果で、前を叩きにいった太田選手の番手を眞杉選手が捌くという点まで含めて、レース前に想定された展開通りだったといえるでしょう。佐々木選手の「全力」のあとは太田選手の「全力」を番手で追走しているわけで、眞杉選手はかなり脚を削られていたと思いますよ。展開的に有利だったのは、ライン3番手を回った吉田選手のほうでしょう。
その吉田選手の追撃を最後まで封じたのですから、眞杉選手は見た目以上に強い走りをしている。道中の立ち回りを含めて、自分の持ち味をしっかり出し切っての優勝で、文句なしの内容ですよ。それとは対照的に、後ろ攻めから他力本願の走りになってしまったのが郡司選手。ここで勝負するには「前を斬る」のが必要不可欠で、かなり脚を使うことになったとしても、それ自体はけっして不可能ではありません。
郡司選手は初日特選で、後方に置かれて捲り不発に終わっていましたよね。二次予選や準決勝での走りからもデキはよかったと思うのですが、このシリーズに関しては、気持ちの面で遅れをとってしまっている印象を受けました。「後ろ攻めから前を斬れずに元の位置に戻る」というパターンは想定内のはずで、問題はその後にどう攻めるのか。ビッグレースの決勝戦では、必ずこれが求められてきます。
3着に食い込んだ松谷選手は、デキのよさと立ち回りの巧みさを生かした走りで、関東勢の確定板独占に「待った」をかけましたね。中団から前を叩きにいった太田選手も、いいタイミングの仕掛けだったと思いますよ。あれ以上に待っても、後続の仕掛けを待ち構えている関東勢がやりやすくなるだけ。清水選手との連係を断たれ、裸逃げとなって6着に敗れたとはいえ、最後までいい粘りをみせていました。
この優勝で眞杉選手は、獲得賞金ランキングの3位に浮上。KEIRINグランプリ出場を決めている吉田選手とのコンビは、今後も大舞台での活躍が期待できそうですね。年末の大舞台へ向けての戦いはまだまだ続きますが…それをアツく盛り上げるためにも、避けられる落車は避けてほしいと切に願います。落車って本当に、走っている選手も応援しているファンも、誰も喜びませんから。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。