2025/07/14 (月) 18:00 10
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが弥彦競輪場で開催された「ふるさとカップ」を振り返ります。
2025年7月13日(日)弥彦12R 開設75周年記念 ふるさとカップ(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①武藤龍生(98期=埼玉・34歳)
②脇本雄太(94期=福井・36歳)
③松浦悠士(98期=広島・34歳)
④坂井洋(115期=栃木・30歳)
⑤石原颯(117期=香川・25歳)
⑥末木浩二(109期=山梨・33歳)
⑦新山響平(107期=青森・31歳)
⑧三谷竜生(101期=奈良・37歳)
⑨浅井康太(90期=三重・41歳)
【初手・並び】
←⑤③(中四国)④⑥①(関東)⑦(単騎)②⑧⑨(中近)
【結果】
1着 ⑥末木浩二
2着 ③松浦悠士
3着 ②脇本雄太
7月13日には新潟県の弥彦競輪場で、ふるさとカップ(GIII)の決勝戦が行われています。このシリーズに出場のS級S班は、脇本雄太選手(94期=福井・36歳)と松浦悠士選手(98期=広島・34歳)、新山響平選手(107期=青森・31歳)の3名です。脇本選手は岸和田・高松宮記念杯競輪(GI)での力強い走りが、まだ記憶にも新しいところですね。あの素晴らしいデキが維持できているのか、注目です。
S級S班以外では、浅井康太選手(90期=三重・41歳)や取鳥雄吾選手(107期=岡山・30歳)、坂井洋選手(115期=栃木・30歳)、石原颯選手(117期=香川・25歳)なども、侮れない存在でしょうね。機動力上位の選手が多いのもあって、弥彦の400mバンクでスピード感のある戦いが見られそうですね。好メンバーの初日特選は、三分戦で単騎が1名というメンバー構成となりました。
後ろ攻めから前を斬った中四国勢先頭の石原選手が、打鐘後の1センターから腹をくくって逃げる展開に。関東勢が中団で、単騎の新山選手はその後ろ。近畿勢の先頭である脇本選手は、得意の後方から捲るスタイルで勝負です。しかし、石原選手の逃げがかかっているのもあって、新山選手や脇本選手の捲りは不発。中団から捲った坂井選手も、番手から捲って出た取鳥選手に、仕掛けを合わされてしまいます。
結局、石原選手の番手から捲った取鳥選手が1着で、中四国ライン3番手の松浦選手が2着。勝負どころでキレイに内を抜けてきた武藤龍生選手(98期=埼玉・34歳)が3着に入るという結果で、脇本選手と新山選手は悔いが残る結果になりましたね。デキについてもちょっと不安が残りましたが、脇本選手はその後の二次予選と準決勝を、いずれも10秒8の上がりで快勝して、決勝戦への勝ち上がりを決めます。
脇本選手は「2日目のレース後から腰痛が出ている」とコメントしていましたが、それで準決勝ではあの走りができたのですから、そこまで心配はいらないでしょう。松浦選手も脇本選手と同様に、二次予選と準決勝で1着をとって決勝戦に進出。松浦選手は、だいぶいい頃のデキに戻してきている印象でしたね。そして新山選手もキッチリ勝ち上がりと、S級S班は3名とも決勝戦に駒を進めています。
それ以外で調子のよさを感じたのは、石原選手と末木浩二選手(109期=山梨・33歳)でしょうか。石原選手は1着こそ取れていませんが、内容は上々といえるものでした。末木選手は岸和田・高松宮記念杯競輪(GI)でも決勝戦に進出していたように、近況のよさが光りますね。立川のFIを負傷欠場していましたが、このシリーズでの走りをみるかぎり、いいデキをキープできているようです。
決勝戦は、初日特選組が7名で各ラインの先頭も同じと、再戦ムードが色濃く漂うメンバーとなりました。3車となった関東勢は、坂井選手が先頭で番手が末木選手、3番手を武藤選手が固めるという布陣です。近畿勢は、先頭が脇本選手で番手に三谷竜生選手(101期=奈良・37歳)という組み合わせで、その後ろの3番手に浅井選手がついて、中近ラインを形成します。これも、初日特選と同じですね。
2車となった中四国勢は、先頭が石原選手で番手に松浦選手。そして、唯一の単騎勝負が新山選手です。新山選手が単騎だと、普通に考えれば石原選手の主導権が濃厚。しかし、初日特選の結果を踏まえて、他のラインや新山選手が戦略・戦術を変えてくる可能性が十分あります。石原選手と松浦選手のデキがいいのは、ほかの選手もわかっていますからね。今度はどのような展開となるのか、楽しみですよ。
それでは、決勝戦の回顧に入ります。レース開始を告げる号砲が鳴ると、1番車の武藤選手と3番車の松浦選手、9番車の浅井選手の3名が自転車を前に出していきます。中団が欲しい関東勢は前を譲り、松浦選手がスタートを取りました。石原選手を先頭に迎え入れて、3番手に坂井選手。切れ目の6番手に単騎の新山選手が入って、脇本選手は7番手からの後ろ攻めというのが、初手の並びです。
後ろ攻めとなった脇本選手は、青板(残り3周)周回バックストレッチから早々と動いて、先頭の石原選手を抑えにいきました。単騎の新山選手は連動せず、最後方のままです。赤板(残り2周)掲示を通過して誘導員が離れると同時に、脇本選手は前を斬って先頭に。石原選手は抵抗せずに引きますが、ここで中近ライン3番手の浅井選手が離れて、松浦選手の後ろに入ってしまいます。
浅井選手は当然リカバーしようと、赤板後の1センター過ぎに三谷選手の後ろへと戻ろうとしますが、この動きをみた石原選手は外に出して、前を斬りにいこうとします。しかし、連係する松浦選手はうまく呼吸を合わせられず、石原選手だけが前に出るカタチとなってしまいました。連係を外した松浦選手は、打鐘前のバックストレッチで最内を真っ直ぐ進んで、打鐘で三谷選手の内に入りこみました。
単騎での先頭となってしまった石原選手を目がけて、打鐘に合わせて後方からポジションを上げていた坂井選手が急追。石原選手の後ろを取りきったところで、レースは打鐘を迎えます。ペースが上がらないまま打鐘後の2センターを回りますが、脇本選手の直後に入った松浦選手は、外に三谷選手が張り付いていて動けません。石原選手が先頭で、その直後に関東3車という隊列で、最終ホームに帰ってきます。
ここで動いたのが、じっと動かず最後方にいた新山選手。一気のカマシで先頭を叩きにいきますが、覚悟を決めた先頭の石原選手も全力モードにシフトして、最終1センターを回りました。カマシた新山選手は先頭までは出切れず、坂井選手の外併走に。そして、後方の位置となっていた脇本選手も、ここで始動します。その番手は松浦選手が取りきり、三谷選手と浅井選手の前に入って、脇本選手と一緒に前を追います。
最終2コーナーを回ったところで、石原選手の番手から坂井選手が前に出ました。これで合わされてしまった新山選手は苦しくなって、ついていくのが精一杯となります。最終バックでは坂井選手が先頭に立ち、それに末木選手と武藤選手が離れず続くという、関東勢にとって絶好の展開に。そこを、後方から差を詰めてきた脇本選手や松浦選手などが、最終3コーナーから強襲します。
武藤選手の直後まで差を詰めた脇本選手は、外の進路を選択。松浦選手はその内に入り、さらにその後ろには浅井選手という隊列で、最終2センターを回ります。坂井選手がまだ先頭で踏ん張っていますが、末木選手は少し外に出し差しにいく態勢を整えて、最後の直線へ向きます。武藤選手は坂井選手と末木選手の間を狙い、その外からは進路をこじ開けた松浦選手と、脇本選手が伸びてきました。
30m線を過ぎたところで差した末木選手が先頭に立ちますが、内を突いた武藤選手や、外から伸びる松浦選手と脇本選手とは僅差。ゴール直前では、末木選手の外に松浦選手と脇本選手が並んでのハンドル投げ勝負となります。文字通りの大接戦でしたが、ほんの少しだけ前でゴールラインを駆け抜けたのは、末木選手。末木選手にとって最高にうれしい、GIII初優勝の瞬間でした。
僅差の2着は松浦選手で、3着が脇本選手。武藤選手が4着、坂井選手が5着という結果で、ライン戦で勝利した関東勢を脇本選手や松浦選手が“力”でひっくり返そうとするも、末木選手がギリギリ凌ぎきったという内容ですね。末木選手のGIII初優勝を力強く後押ししたのが、坂井選手の巧みな立ち回り。石原選手のハコが転がり込んだとはいえ、その後の判断も冷静で、いい走りができていました。
初日特選で捲り不発に終わっていた新山選手は、その結果を踏まえての単騎カマシでしたが、あの展開ではさすがに厳しかった。石原選手という目標が手に入ったことで、合わせて出られた関東勢にツキもありましたね。脇本選手はレース後コメントによると、自分の後ろに松浦選手が入っているのに気づくのが遅れたようですね。最後はよく差を詰めましたが、関東勢が作り出した優位を逆転するには至りませんでした。
松浦選手が石原選手との連係を外したのは、「前受けから引いてのカマシ」という作戦だったからのようですね。それで瞬時の対応が遅れたとのコメントでしたが、それでもなんとか展開を読んで、石原選手の後ろに復帰してほしかったというのが正直なところです。石原選手のデキがよかっただけに、ちょっと可哀想だったというか。普通の選手にであればこんなことは言いませんが、そこは松浦選手ですから。
松浦選手がようやくいい頃のデキに戻ってきているのも、そう感じた背景にあります。内を回ったとはいえ、あの脇本選手の後ろから仕掛けて、ゴール線で前に出ているわけですからね。かなり時間を要しましたが、これなら今後のビッグの舞台でも、大いに活躍が期待できそう。S級S班に復帰したタイミングで調子を戻せているというのも、松浦悠士という「持っている」選手らしい話です。
下手をすると初日特選の再現もありそうな雰囲気でしたが、かなり動きのある面白い展開で、手に汗を握る決勝戦になったのはうれしいかぎり。松浦選手と脇本選手の追撃を封じたのですから、優勝した末木選手は胸を張れますよ。続く京王閣ナイターGIIIや玉野・サマーナイトフェスティバル(GII)でも、ファンが熱狂できるような面白いレースを、ぜひ期待したいものです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。