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山田裕仁のスゴいレース回顧

【シン東京ミリオンナイトレース 回顧】ここでは役者が違った和田健太郎

2025/07/17 (木) 18:00 11

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが京王閣競輪場で開催された「シン東京ミリオンナイトレース」を振り返ります。

シン東京ミリオンナイトレースを制した和田健太郎(写真提供:チャリ・ロト)

2025年7月16日(水)京王閣11R シン東京ミリオンナイトレース(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①鈴木玄人(117期=東京・29歳)
②山崎賢人(111期=長崎・32歳)
③和田健太郎(87期=千葉・44歳)
④田中誠(89期=福岡・41歳)
⑤吉田有希(119期=茨城・23歳)
⑥藤田周磨(117期=埼玉・28歳)
⑦中釜章成(113期=大阪・28歳)
⑧山口多聞(121期=埼玉・23歳)
⑨寺沼拓摩(115期=東京・26歳)

【初手・並び】

←②④(九州)③(単騎)⑦(単騎)⑤⑨①(関東)⑧⑥(関東)

【結果】

1着 ③和田健太郎
2着 ⑥藤田周磨
3着 ⑦中釜章成

勝ち上がりでデキの良さ光った田中誠

 7月16日には東京都の京王閣競輪場で、シン東京ミリオンナイトレース(GIII)の決勝戦が行われています。玉野・サマーナイトフェスティバル(GII)の開催直前というタイミングの「裏開催」で、3日制のナイターGIII。サマーナイトの後には京王閣記念があるので、ごく短い期間のうちにGIIIが連続して開催されることになります。ナイターが続くというのも、いかにも夏らしいですね。

 出場選手で競走得点が最も高かったのは、山崎賢人選手(111期=長崎・32歳)。自転車競技の世界選手権覇者なのですから、脚力が上位であるのは言うまでもありません。とはいえ山崎選手は、競輪では自分のよさをうまく出せずに終わってしまうケースが多いんですよ。レースの組み立てを工夫したり、展開を読む力をもう少し磨ければ、もっと上にいける選手のはずです。

山崎賢人(写真提供:チャリ・ロト)

 初日特選には、中部の山口富生選手(68期=岐阜・55歳)や北日本の伏見俊昭選手(75期=福島・49歳)など、ベテラン勢も出場。四分戦となったこのレースは、打鐘で阿部拓真選手(107期=宮城・34歳)を叩いた山崎選手がそのまま主導権を奪い、長い距離を駆ける展開となりました。山崎選手はかかりのいい逃げで後続を封殺し、ゴール直前まで粘るも、最後は差されてしまいます。

 最後の直線でいい伸びをみせた岩津裕介選手(87期=岡山・43歳)が1着で、2着に松岡貴久選手(90期=熊本・41歳)。ライン先頭の山崎選手は3着でしたが、ライン戦では完勝しているわけで、上々の内容でしょう。山崎選手は、翌日の準決勝では後方から捲って2着という結果で優出を決めるも、かなり遅い仕掛けになったのもあって、連係していた岩津選手は勝ち上がりを逃しました。

 勝ち上がりの過程でデキのよさが感じられたのは、田中誠選手(89期=福岡・41歳)ですね。準決勝では、連係していた黒瀬浩太郎選手(123期=広島・25歳)の捲りが最後で止まるも、勝負どころからいい伸びをみせて2着に突っ込みました。決勝戦の九州勢は2車となりましたが、山崎選手の番手を回れるというのは大きな魅力。この相手関係ならば、一発があって不思議ないでしょう。

田中誠(写真提供:チャリ・ロト)

決勝は関東5車が別戦、和田と中釜は単騎

 過半数となる5名が勝ち上がった関東勢は、2つのラインに分かれました。吉田有希選手(119期=茨城・23歳)が先頭のラインは、番手が寺沼拓摩選手(115期=東京・26歳)で3番手を固めるのが鈴木玄人選手(117期=東京・29歳)と、地元勢が続きます。そして、もうひとつの関東ラインは、山口多聞選手(121期=埼玉・23歳)が先頭で番手が藤田周磨選手(117期=埼玉・28歳)という、埼玉コンビです。

 単騎で勝負するのが、和田健太郎選手(87期=千葉・44歳)と中釜章成選手(113期=大阪・28歳)の2名。和田選手は前場所の松戸FIで優勝しており、前に恵まれなかったこのシリーズでも、地味にいい走りをしているんですよ。レースを読む力は「断然」で、混戦模様だけに単騎でも侮れません。中釜選手も、前がもつれるような展開になれば、得意の捲りが炸裂する可能性がありそうです。

 それでは、決勝戦の回顧に入りましょうか。レース開始を告げる号砲が鳴って、まずは7番車の中釜選手がいい飛び出しをみせます。しかし、その後に牽制が入り、どのラインも前に上がってこようとしません。誘導員と中釜選手の距離が開いていくなか、次に動いたのは単騎の和田選手。続いて山崎選手も動いて、ここでようやく九州勢の前受けが決まりました。和田選手が3番手、中釜選手が4番手で続きます。

スタートで牽制が入る(写真提供:チャリ・ロト)

前受け「させられた」山崎賢人

 吉田選手が先頭の関東勢が5番手で、後方8番手に埼玉コンビ先頭の山口選手というのが、初手の並び。つまり、どのラインも「前受けからの突っ張り」は考えておらず、斬って斬られてが繰り返されて後方に置かれる可能性が高い、前受けは避けたかったということ。前受けさせられた山崎選手が、ここからどうレースを組み立てるのか注目ですね。後方の山口選手は、青板(残り3周)周回の4コーナーで動きました。

 しかし、山口選手はここで前を斬りにはいかず、中釜選手の外併走で赤板(残り2周)掲示を通過しました。そして1センターを回ったところで加速して、先頭を斬りにいきました。ここで大きく位置を下げたくない山崎選手は、ある程度は前に踏んで、埼玉コンビの後ろを狙う姿勢。そこに今度は吉田選手が襲いかかりますが、九州勢の後ろにいた和田選手も同時に動き、田中選手の外に位置を上げます。

 ここでレースは打鐘を迎えて、一気にペースアップ。吉田選手は先頭の山口選手のところではなく、その後ろで山崎選手との併走となります。打鐘後の2センターを回って最終ホームに帰ってきたところで、吉田選手は再加速して先頭を叩きにいこうとしますが、藤田選手の外までいくのが精一杯。ここで、田中選手の外にいた和田選手が山崎選手の番手を奪い、最終ホーム過ぎには山崎選手の内に突っ込みました。

最終ホーム(写真提供:チャリ・ロト)

逃げる山口、番手・藤田は絶好展開

 中釜選手はじっと脚を温存しながら、最後方を追走。最終1センターでは、外から捲りにいった吉田選手が力尽き、進路を外にきって寺沼選手にあとを託しました。とはいえ、この状況でバトンを託されるのはなかなか厳しい。藤田選手の後ろに、内から和田選手、山崎選手、寺沼選手が並ぶカタチで、最終1センターを回ります。単騎後方の中釜選手もここで動き、鈴木選手の後ろにつけます。

 最終バックストレッチに入るところで、和田選手は藤田選手の後ろを確保。山崎選手は、その後ろに下がってしまいました。ここでも、山口選手がかかりのいい逃げで先頭をキープ。番手の藤田選手に絶好の展開となりそうですが、そこに外から自力に切り替えた寺沼選手が襲いかかります。最終バック手前で藤田選手の外まで並びかけますが、そこからがなかなか詰まりません。

最終バック(写真提供:チャリ・ロト)

 吉田選手以外の8車がギュッと密集した隊列となって、鈴木選手の後ろにいた中釜選手もここで仕掛けて、大外を回して先頭に接近。先頭でよく踏ん張っている山口選手の脚がここで少し鈍り始め、番手の藤田選手は少し外に出して、差しにいく態勢を整えます。和田選手は、その後ろの絶好位をキープ。捲りにいった寺沼選手は伸びを欠いて、その外からは中釜選手がいい脚で伸びてきました。

 山口選手が先頭のままで最終2センターを回って、最後の直線へ。藤田選手の直後にいた和田選手は、山口選手を差しにいった藤田選手の内を突きます。藤田選手が先頭に立ち、その内から和田選手と、大外から伸びてきた中釜選手が迫ってくるという態勢に。30m線では内を突いた和田選手が藤田選手に並び、そこから競り合いが続くも…ゴール線では和田選手が少しだけ前に出ていましたね。

ゴール(写真提供:チャリ・ロト)

和田のレース運びと立ち回りが一枚上

 僅差の2着が藤田選手で、外から伸びた中釜選手は3着まで。勝負どころで和田選手の後ろに切り替えていた田中選手が4着に食い込むも、山崎選手は存在感を発揮できないまま、7着に終わっています。吉田選手が先頭の関東勢も、5着の鈴木選手が最高着順という残念な結果に。後ろがもつれる展開となったことで、展開は埼玉コンビに向きましたが…それだけに、絶好の展開をモノにできなかった藤田選手は悔しかったでしょう。

 和田選手は2023年12月の伊東記念以来となる、通算5回目のGIII制覇。さすがはKEIRINグランプリ覇者という立ち回りの巧みさで、九州2車を内外から抜いて、なんのロスもなく藤田選手の直後を取りきったのには驚かされましたよ。前々、そして内にこだわったレース運びをしたからこそ、僅差で優勝をもぎ取ることができている。最後方から大外を捲った中釜選手とは、同じ単騎でも対照的でしたね。

一枚上の走りを見せた和田健太郎(写真提供:チャリ・ロト)

 そして山崎選手も「レースの展開読み」という点で、和田選手と対照的な走りになってしまっています。最終1センターで内の和田選手と外の寺沼選手に挟まれ、位置を下げてしまった時点で厳しかったですね。初手で前受けをさせられるなど、確かに難しい面のある決勝戦ではあったと思いますが、このシリーズでは“格上”といえる存在ですからね。競輪選手としてもう一段階、上のステージに上がってほしいものです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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