2025/08/02 (土) 18:00 11
7月は真夏の祭典「サマーナイトフェスティバル」で久しぶりに白星をゲットし気分のいい中川誠一郎。元祖・一発屋の存在感はまだまだ怪しく輝いている。瀬戸際には変わらない男の日常を含めて競輪の魅力を紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】
ーー7月の開催は宇都宮FIを欠場したため、玉野GIIサマーナイトフェスティバルだけでした。
宇都宮はバンクレコードを出したこともあるし相性がいいから走りたかったんですけど、腰の痛みがどうにもならず泣く泣く欠場となりました。
ーー玉野の話をうかがいます。2日目の選抜戦で見せ場がありました。
あれは、たまたまですね。瓜坊(瓜生崇智)がスタートを頑張ってくれたし、仕掛けてみようかなという気になって。まさに展開が向きました。
ーービッグ戦線では2022年玉野のサマーナイトフェスティバルで2勝して以来、3年ぶりの1着でした。
今回は森田(優弥)と高橋晋也君が相手だったけど、何か思うところがあって。何て言えばいいのかな…。段々と昔に戻っているのかなと感じたんですよ。
ーーそれは、どういうことですか。
オレが警戒されていなかった時代に、ということです。タイトルを取る前のオレってほとんど警戒されずに今回みたいな展開でたまに来る選手だったじゃないですか。それが、ちょっと売れてしまったがために警戒をされるようになってしまったんです。
ーー若手たちに相手にされていなかったからまくれたということでしょうか。
そうです。元々はただの一発屋ですから。彼らは踏み合いになってもアイツにはまくれないだろうと、たかをくくっていたのだと思います。
ーーたしかに昔は一発屋のイメージでした。人気を背負うと平気で飛ぶのに、たまに会心の一撃が飛びだして、穴党ファンには貢献していました。
GIを取ってしまい、一発屋界隈で半端に名前が売れてしまったんですよ。キングオブ一発屋ですから。
ーー「一発屋界隈」という言葉があるのですね。当時はどのような選手がいたのでしょうか。
三重の梅澤謙芝さんは一発屋中の一発屋でしのぎを削りました。芸風はまったく一緒。今ならハラケン(原田研太朗)。我々の業界も栄枯盛衰があって趣深いのです。
ーー3日目には、その原田選手と連係しました。
ハラケンがいた時点でガッツポーズでした。もう一発屋同士、ニオイがわかるものですから。
ーーこれまで連係したことはあったのですか。
どっかのオールスターのシャイニングかオリオンでありました。一発屋コンビがまさかの大舞台で。
ーー2015年の松戸オールスター競輪「オリオン賞」で連係しており中川選手が1着を取っています。
そうでしょ。ワッキーとか豪華メンバーがいるなか、一発屋コンビが決まったんです。それを思い出したものだから絶対に並びたかった。でも、初めはハラケンがいるのを知らず、記者から柳詰(正宏)と2人だと聞かされていたんです。
ーー九州地区は柳詰選手と2人でした。
最初は、また自力かよってうんざりで。柳詰が前でやってくれるわけがないし、思わず舌打ちをしてしまったんですよ。
ーーそんな柳詰選手に牙を向かなくてもいいじゃないですか。
いやいや、柳詰にじゃなくて自力扱いされたことに対してですよ。だけど、今のはそう見えましたか(笑)。
ーー勘違いしていました。
クソ暑い夏に46歳が毎日、毎日、自力でやるのはきついんですよ。4日間に1回ぐらいにしてくれよ、ってそんな思いが態度に出てしまったんです。
ーーそれは番組が悪いのではなく、2日目にまくりが決まってしまったからではないですか。
いやいや、アラフィフの域に入ったそんなオッサンを先頭で組まないでほしい。往年のいい一発を一回、見せたんだから、もう許してほしいですよ。
ーーそれもあって原田選手がいてホッとしたのですね。
そんなことがあって不貞腐れていたら、ハラケンの名前を見つけたんです。あ…いた! って。さっきも言いましたがガッツポーズですよ。
ーー回る場所があっただけよかった、と。
あとはどうやって柳詰を言いくるめるかでした。
ーー柳詰選手とはどういう話を。
とりあえずは、ハラケンに付いていいかの意思確認をしました。でも「えっ? … えっ?」って戸惑ってた(笑)。
ーー柳詰選手からすれば中川選手が自力で戦うと思っていたのでしょうか。
そうでしょうね。だから「オレの自力に付くより、単騎で切れ目にいた方がもっといい着が取れると思うよ」と一発屋側の見解から提案をしました。
ーー自力で動くつもりはさらさらない、とも聞こえます。
オレに付いても8、9番手がほぼ確定。ハラケンの3番手でも9番手でしょ。それなら、単騎でやって真ん中にいればいい着があるでしょ。後ろにいて大敗するよりもいいですから。
ーーそういう経緯があって別々で走ったのですね。
柳詰はずっと葛藤していましたよ。3番手に付くか、決めずにやるか。オレが自由にしていいと言ったものの、やっぱり付かないといけないんじゃないか、みたいな。
ーー後輩からすれば難しい判断だったと思います。
(佐藤)慎太郎さんも「セイちゃんが変なこと言うから、柳詰が困ってんじゃん」とかあおってくるんですよ。
ーー佐藤選手まで登場してきたのですか。
慎太郎さんは柳詰が(小川)勇介に深刻な顔で相談していたのを見かけたようで、冷やかしに来ただけ(笑)。でも、オレは何も変なことは言っていないでしょ。
ーー当事者の話し合いです。どっちが間違いとかでもないですよね。
そうですよ。柳詰が以前にオレに付いたことがあって、そのオレがハラケンに付くと決めた。その先は柳詰が決めることなので。
ーー中川選手の手からは離れますね。
それでいて、まだ「誠一郎さんが動いた方がいいんじゃないですか?」とか提案をしてきたりもするんです(笑)。でもオレのハラケンに付く気持ちはブレなかった。
ーー結局は別々で走って、柳詰選手は4着、中川選手は8着でした。
柳詰は着にこそからめなかったけど「選抜」まで上がっていました。これはすべて前向きな提案をして差し上げたオレのおかげでしょう。
ーー最近、柳詰選手がコラムに出てくる機会が多いですね。
この間の(中本)匠栄と比べて愛がない、とかのくだりを読んだみたいで喜んでいました。また、ネタにして使ってくれましたね、とか報告してきた。
ーーけっこう、チェックされているのですね。
レース後に「この並びのネタをまたコラムで使ってください」とか言ってきたけど、今回の話は別に大して面白くないから微妙なんですよ。
ーーあまり、オチとかはないです。
オレが柳詰より先着した、とか柳詰がしっかり単騎で9着だった、とかだと面白かったんです。でも、このままだと選抜に上がれた柳詰の財布が潤っただけのいい話になっちゃう。
ーーとはいえ、玉野では久しぶりに元気な中川選手が見られてよかったです。
2日目のまくりを見た(伊藤)旭とタツ(松岡辰泰)が言うんです。「誠一郎さんがまくれたのを見たら、なんかやれるような気がしてきた」って。そりゃそうでしょう。
ーー後輩に力を与えたのならいいではないですか。
20歳も上のやつがまくれるのに、アイツらにまくれないはずはない。2人ともあの日から動きが積極的になっていたし、モチベーターとして役に立てたと思います。
ーー開催中のエピソードが他にもありましたら教えてください。
それこそ、ハラケンがサウナで話しかけてきて、松浦(悠士)の話題を超喜んでいました。「“バイト王”は最高っす。思わず吹き出しました」って。まさかハラケンに刺さるとは。
ーー松浦選手と原田選手は同期ですよね。
松浦もちゃんと挨拶に来てくれました。前検日に「お疲れ様です、バイト王の松浦です」って丁寧に一礼をされました(笑)。
ーーコラムやトークショーでのコラボレーションの話はしたのですか。
ちょっとだけしましたよ。ガールズ選手とのセットが多いから、たまにはオレをバーターで呼んでくれ、と。「いいですね、一緒に回りましょう」とかノッてくれた。どっかのキャスティング部門の人に引っかかればいいですが。
ーーただ、松浦選手は開催中に落車をして欠場となりました。
ちょっと、ひどかったみたいですね。今は早く治るよう祈願しています。回復したらまたバイト王とからみたいですし復帰をお待ちしています。
ーー前回、久しぶりに荒井選手と一緒でうれしいと話していましたが、実際に会っていかがでしたか。
荒井さんは相変わらず荒井さんでホッとしました。生で吉本新喜劇が見られた感じです。
ーーなぜ、吉本新喜劇が出てくるのでしょうか。
新喜劇を見ていると、お約束というか、ここでこのギャグが出ると分かっていても笑ってしまうじゃないですか。安定感のある笑いにホッとする部分。
ーー言いたいことはわかりますが、どういうことですか。
レース後って勝ち上がった選手は共同インタビューがあるんです。会見場へ行き、そのあと撮影ゾーンまで移動して写真を撮られる、それがワンセットなんです。
ーーたしかに、そういう流れで取材は進んでいきます。
カメラマンが何人もいるから、選手はみんなちゃんとカメラに向かって目線を合わせて1ショットずつ、だいたい10ショットぐらい撮られるんです。リクエストがあればガッツポーズをしたり、腕組みをしたりと要望に応じたりして。
ーー新喜劇は関係ないではないですか。
それが、荒井さんは撮影ゾーンに来ても誰のカメラにも目を合わせず周囲を一瞥して、超無愛想な顔で去っていくんですよ。その風景がおかしくて。
ーーあまり、笑顔やガッツポーズを掲げる写真は見かけません。
だって、そういうのには絶対、寄り添わないから。ネット上で荒井さんのピンボケの写真とか見るとカメラマンの人たちの苦労がわかります。昔はガッツポーズにも応じていたようですが、今はそんなのはもうムリ。
ーーそんなにチェックをしていたのですか。
あの撮影会が好きすぎて見に行っちゃうんですよ。本当にそういうのが嫌なら、あのキャラクターのままに会見を終えたら帰っちゃえばいいのに、段取りは守って撮影ゾーンまでは律儀に行くんですよ。で、いざ撮影タイムになると、2秒ぐらい突っ立って怖い顔をして立ち去るんです。その流れが面白い。
ーー撮影ゾーンに来てもらえるだけでありがたいです。
もはやカメラマンや記者もオチがわかっているわけでしょ。来てはくれるけど思った写真は撮らせてくれないって。荒井さんを含めて、一連の流れをぜんぶ知っている人たちが集団となってオチに向かって進んでいく謎の予定調和感がたまらないんです。
ーー共同会見は基本的に勝ち上がった選手が呼ばれるものです。別に機嫌は悪くないのではないですか。
そうですよ。上機嫌だからあれなんじゃないですか。不機嫌だと絶対に来ないでしょ。
ーー中川選手が冷やかしにいくことを荒井選手は気付いているのですか。
もちろん。久しぶりにコントを見に来ましたとかいうと「お前が普段(特別戦線に)いないから見られんだけやろ」って。だから、今回は久々に見られてよかったですと伝えたら「お前が特別にいればいつでも見られるぞ」って。ああ、自覚しているんだな、と思いました。
そうだ、話は変わりますが飲み屋の知り合いに「菅原晃さんって面白いんですね」と言われました。
ーー先月のコラムで玉袋筋太郎さんのファンと言っていたのに、名前を間違えていたエピソードですね。
晃は天然なんですよ。だから、玉さんを普通にタマブクロ キンタロウって間違えてしまう(笑)。玉さんがコラムの宣伝をXでリツイートしてくれたのでよかったです。玉さんの名前の話で思い出したことがありました。
ーー名前の話とは。
大相撲の話題です。オレは子どもの頃からずっと相撲が大好きで千代の富士の大ファンでした。
ーーそのような話はこれまでコラムで聞いたことがありませんし意外です。
だから「お前がもし引退するときは、頭にウルフって書いて『体力の限界! 』って言って辞めろよ」って荒井さんにいつも言われるんです。
ーーそれもベタな話ですね。
名前の話に戻りますと、昇進したら改名する力士って多いじゃないですか。
ーー番付が上がるタイミングで四股名を変える話はよくあります。
大の里がちょうど横綱に上がるか上がらないかってころに、ケントと四股名は変わるのかな? って話になったんです。
ーー山崎(賢人)選手も相撲が好きなのですね。
いや、そっちのケントじゃなくて、ウチのケント、松本ケント(憲斗)っていうマニアックな後輩がいるんです。
ーー松本憲斗選手ですね。
オレは出世しても変わらんと思っていたけど、アイツは「いや、変わるかもしれませんよ」って言うんです。そのあとにポツリと「特大の里とか…」って(笑)。
ーー特大の里(とくだいのさと)ですか。
「特大の里」って雑な返しがめちゃくちゃハマったんですよ。もうバカバカしすぎて。大きくすりゃいいってもんじゃないでしょ。上半期イチの“笑撃”でした。新喜劇の荒井さんを超えました。
ーーまさか、荒井選手を超えるとは。
本当に面白かった。たぶん話の流れもあったのでしょうけど「特大の里」なんて、絶対ありえないし浮かばない。
ーーたしかにそうですね。
木瀬親方が弟子に「金峰山」とか付けるじゃないですか。熊本でみんなに愛されるように、とか。少し変だけど愛があって裏付けもある。でも「特大の里」じゃ、これまでの相撲界の歴史やしきたりとか背景がぜんぶ吹き飛んじゃう。
ーー結局、大の里は名前を変えませんでしたね。
オレの中では勝手に「特大の里」に変換されてしまいました。玉さんの話から、そんなことを思いだしました。
ーー先月、ステッカーの話がありましたが、置いてくれる店は決まったのですか。
ああ、引き受けてくれる店が決まりました。最初は1店舗だったのですが、サテライト味千から「うちでもどうでしょう?」と提案をいただきました。
ーー「サテライト味千」というのは熊本競輪場の前にある「味千ラーメン」のことですよね。ならば、2店舗ですか。
はい。1つ目は高校の同級生が熊本の街中でやっているイタリアン&バーです。
ーーステッカーはどういう基準でもらえるのですか。
飲み食いをして、オレのファンですとか言ってもらえたらOKです。酒を飲めない方は食事だけでも。普通にステッカーくださいってよりはいいでしょう。店内でステッカーと一緒に写真を撮ってもらい、顔出しOKの人がいたらこのコラムに載せますよ。
ーー何枚あるのですか。
とりあえず各店舗先着10枚で、無くなり次第、終了とかにしましょうか。イタリアンは熊本市内の繁華街のなか、サテライトは競輪場の目の前にあります。皆さま、ふるってお越しください。
イタリア料理店 Largo
熊本県熊本市中央区安政町2-29 セントラルビル3F
TEL:096-223-8042
味千ラーメン 競輪場前店
熊本県熊本市中央区水前寺5丁目24-34
TEL:096-383-1455
ーー今月も質問が届いていますのでお答えください。
Q、私もお酒が大好きで良い晩酌しますが中川選手が競輪選手の中で酒豪と思う東日本、西日本の選手、熊本の選手を教えて下さい。(熊本県/40代/男性)
基本的に友達が少ないからあまり詳しくないですが、東だと新田(祐大)や(菊地)圭尚、成清(貴之)さんですね。西だと佐々木豪が強かった。熊本は、やはり色々と技も込みで松川(高大)でしょう。ちなみに(松岡)貴久は酒に飲まれるタイプです。
Q、ChatGPTに「中川誠一郎の魅力は?」と聞いたところ「『最後まで一流』の引き際も潔く『競輪界のレジェンド』として美しい幕引きでした」と勝手に引退させられていました。特別競輪でバチバチやるのは厳しいですけど、まだまだやれると思うのですが引き際は考えますか?(ゲスト、詳細未回答)
ChatGPT君も大したことないですね! もう少し勉強させるためにSNSで「中川誠一郎、強い!」、「中川誠一郎、嘉永泰斗にそっくり!」とかつぶやいといてください。
Q、先日、新幹線で玉野競輪へ向かっている途中、新鳥栖駅から荒井さんが乗ってきて自分のヨコに座ったんです。あいさつをして、そのうち会話が途切れると、荒井さんはやおらスマホを取り出してYouTubeをご覧になりました。そのときに一瞬だけ検索履歴が見えたんです。そこに「荒井崇博 競輪」というワードを発見してしまいました。エゴサとかするのかな、と思ったのですが、誠一郎さんもエゴサとかするのですか?(熊本県/117期/25歳/男性)
もちろん、しますよ。昔なら2ちゃんねるの自分のスレッドを見に行ったりしていました。間違った情報があれば自分で書き込んで訂正したり。文句を言われるのは商売柄しょうがないし、言われてこそ本物。アンチがいてこそのワタクシです。それはそうと、質問者の情報が多いですね。
Q、中川先生! サマーナイト2日目ありがとうございました! コラムいつも読んでます! 平原さんの次に好きです!(埼玉県/40代/女性)
平原の次ってことは選手・平原康多の亡き今でいうと、選手では1番ってこと?? いいですねぇ〜。ありがとうございます! 黄色い声援は常に大歓迎です。
Q、落車と納税どっちの方が嫌ですか?(ゲスト、詳細未回答)
そんなの、落車に決まっているでしょうが。愚問すぎますよ(笑)。そんなにオカネが好きそうに見えるのかな… まあ、大好きなんですけど。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。