閉じる
山田裕仁のスゴいレース回顧

【蒲生氏郷杯王座競輪 回顧】“包囲網”を敷かれた古性優作

2025/01/27 (月) 18:00 45

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが松阪競輪場で開催された「蒲生氏郷杯王座競輪」を振り返ります。

郡司浩平が完全Vで大会連覇!(写真提供:チャリ・ロト)

2025年1月26日(日)松阪12R 開設74周年記念 蒲生氏郷杯王座競輪(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①古性優作(100期=大阪・33歳)
②浅井康太(90期=三重・40歳)
③深谷知広(96期=静岡・35歳)
④山田庸平(94期=佐賀・37歳)
⑤佐藤慎太郎(78期=福島・48歳)
⑥小川勇介(90期=福岡・40歳)
⑦岩本俊介(94期=千葉・40歳)
⑧岩津裕介(87期=岡山・43歳)
⑨郡司浩平(99期=神奈川・34歳)

【初手・並び】

←③⑨⑦(南関東)①⑧(混成)②(単騎)⑤(単騎)④⑥(九州)

【結果】

1着 ⑨郡司浩平
2着 ④山田庸平
3着 ⑦岩本俊介

新旧S班5名に地元浅井と豪華面々

 1月26日には三重県の松阪競輪場で、蒲生氏郷杯王座競輪(GIII)の決勝戦が行われています。これが今年の始動戦となる岩本俊介選手(94期=千葉・40歳)や、立川記念(GIII)で強さをみせた郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)、そして和歌山記念(GIII)で早々と今年の初優勝を決めた古性優作選手(100期=大阪・33歳)と、ここには3名のS級S班が出場しています。

 そのほかにも、前年のS級S班である佐藤慎太郎選手(78期=福島・48歳)と深谷知広選手(96期=静岡・35歳)、中部地区の“重鎮”である浅井康太選手(90期=三重・40歳)などが出場と、メンバーレベルの高さはなかなかのもの。それだけに注目された初日特選は、主導権を奪った深谷選手の番手から抜けた、郡司選手の快勝でした。

前S班佐藤慎太郎(左)と中部の重鎮・浅井康太(写真提供:チャリ・ロト)

 中団から単騎の古性選手が捲りにいくも、それを郡司選手がブロック。古性選手のスピードを削いでからの仕掛けで、南関東ライン3番手の岩本選手とのワンツーを決めています。自力で勝負した二次予選でも豪快な捲りを決めていたように、郡司選手は前場所の立川と同様、かなりいいデキにある様子。郡司選手は準決勝でも1着をとって、完全優勝に王手をかけます。

 古性選手は、二次予選、準決勝ともに1着で勝ち上がりますが、自分でもコメントしていたように、そこまでデキがいいとは感じませんでしたね。そんな状態であっても、レースの組み立てでしっかり結果を出せるのが、古性選手の強みであり凄味でもあります。岩本選手も、二次予選と準決勝を1着で優出。番手を回っての結果とはいえ、調子はなかなかよさそうです。

初日特選9名中8名が決勝戦へ

 初日特選のメンバー9名のうち8名が勝ち上がりと、再戦ムードの漂うレースとなった決勝戦。唯一の3車ラインとなった南関東勢は、先頭が深谷選手で番手に郡司選手、3番手が岩本選手という、初日特選とまったく同じ並びとなりました。「全員が昨年と今年のS級S班」という強力ラインナップで、選手のデキも上々。総合力は間違いなくトップで、「二段駆け」も大アリでしょう。

左から深谷知広、郡司浩平、岩本俊介(写真提供:チャリ・ロト)

 古性選手は、岩津裕介選手(87期=岡山・43歳)と「西の混成ライン」を形成。前を任された古性選手は1番車のメリットを生かして、前々の位置から勝負してきそうですね。そして九州勢は、山田庸平選手(94期=佐賀・37歳)が先頭で、番手に小川勇介選手(90期=福岡・40歳)という組み合わせ。車番に恵まれず後ろ攻めとなりそうなので、立ち回りにひと工夫が必要でしょう。

 浅井選手と佐藤選手は、単騎での勝負を選択。言うまでもなく、いずれも能力、技量ともに高いレベルにある選手です。問題は、長島大介選手(96期=栃木・35歳)がいた初日特選とは違って、深谷選手の「先行一車」に近いメンバーだということ。南関東勢の直後を狙うか、それとも別ラインの3番手から勝負するのか。選択肢の少ない単騎だと、うまく立ち回るのが難しい一戦ですよ。

南関東が前受け、後方山田は工夫必要

 それでは、決勝戦の回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲と同時に、9番車の郡司選手が素晴らしい飛び出しをみせます。それに1番車の古性選手が続きますが、古性選手は前を譲って、郡司選手がスタートを取りました。南関東勢の前受けが決まって、古性選手は4番手に。単騎の浅井選手と佐藤選手がそれに続き、後方8番手に山田選手というのが、初手の並びです。

 南関東勢が前受けを選んだのですから、先頭の深谷選手は、突っ張り先行に持ち込む公算が大。後ろ攻めが山田選手ですから、突っ張る深谷選手と前でもがき合うような展開は考えづらいですよね。しかし山田選手も、突っ張られて元の位置に戻ったのでは、脚を無駄に消費するだけ。ここから優勝争いに絡んでいくために、かなり知恵を絞る必要が出てきました。

 レースが動き出したのは、青板(残り3周)周回の後半から。後方の山田選手がゆっくりとポジションを上げて、先頭の深谷選手を抑えにいきました。誘導員の直後で両者が内外併走となりますが、深谷選手は赤板(残り2周)掲示の前から山田選手とぶつかり合って意思表示。古性選手は小川選手の後ろに切り替えて、赤板を通過します。

山田庸平(4番車・青)がゆっくり上昇(写真提供:チャリ・ロト)

引いた山田は秀逸な動きで南関の後ろへ

 誘導員が離れたところで内の深谷選手が突っ張り、山田選手は赤板後の1センターで引きます。ここでの山田選手の動きが素晴らしかったんですよね。古性選手が外を回っているのに気づいてか、インベタでバックを踏んで、南関東勢の直後を確保。初手で古性選手がいた位置に山田選手が入り込み、古性選手はその外併走のカタチとなってしまいました。

 そのままの隊列でレースは打鐘を迎えますが、ここで古性選手は自転車を下げて、6番手に収まろうとします。しかし、打鐘後の2センターで、小川選手が古性選手の動きをブロック。この動きで、古性選手はイエローライン付近まで振られてしまいます。この間隙をついた単騎の浅井選手が内をしゃくって、古性選手の前に入り込みました。

古性優作(1番車・白)の前に入り込んだ浅井康太(2番車・黒)(写真提供:チャリ・ロト)

 主導権を得た深谷選手は、ここから全力モードにシフト。再び一列棒状となって、最終ホームに帰ってきます。古性選手が後方7番手に置かれる展開となって、そのままの隊列で最終1センターも回って、バックストレッチに進入しました。ここで、古性選手が後方から捲るタイミングを探り、少し外に出したのを見逃さなかったのが佐藤選手です。

 佐藤選手は岩津選手の内にスッと潜りこみ、最終1センターを回りながらこれを捌いて、まずは古性選手の後ろを確保。さらに、最終バックでは古性選手の内にも潜りこんで、浅井選手の直後まで進出します。前では郡司選手が、軽快に飛ばす深谷選手との車間をきって番手から発進できる態勢を整え、後続の仕掛けを待ち構えています。

発進準備万全の郡司浩平(9番車・紫)(写真提供:チャリ・ロト)

捌かれた王者古性、佐藤らの落車…

 最終バック通過と同時に、6番手の浅井選手が捲り始動。外の古性選手を捌きつつ、佐藤選手が浅井選手に連動します。これに合わせて、今度は4番手の山田選手が浅井選手をブロックしつつ、最終3コーナーから仕掛けて前を捲りにいきました。山田選手にブロックされた浅井選手は外に振られますが、態勢を立て直して再び前を追います。

 佐藤選手に捌かれた古性選手は、後方8番手という絶望的な状況。ここで郡司選手も前へと踏み込み、先頭の深谷選手との差を縮めていきます。南関東ライン3番手の岩本選手は、内をしっかり締めるのに専念しつつ追走。その外から山田選手が迫り、その後ろに内から小川選手、佐藤選手、浅井選手が並ぶという隊列で、最終2センターを回りました。

 ここで、残念ながらアクシデントが発生します。内に戻ってきた浅井選手が佐藤選手と接触して、佐藤選手が落車。その内にいた小川選手と、小川選手の後ろにいた岩津選手も巻き込まれ、落車してしまいます。前では、外に出した郡司選手が先頭の深谷選手に迫り、それを内から岩本選手、外から山田選手が追うという隊列で、最後の直線に入ります。

内に戻った浅井康太と佐藤慎太郎が接触…(写真提供:チャリ・ロト)

郡司が満を持して発進!

 直線の入り口で、脚が鈍った深谷選手を差して、郡司選手が先頭に立ちます。それを外からよく伸びる山田選手が追いすがりますが、番手から出るのをしっかり待てている分、郡司選手にはまだまだ余力があります。郡司選手の直後から追う岩本選手や、その後ろまで進出してきた浅井選手にも、一気に前を捉えられるような伸びはありません。

 大勢は決して、深谷選手の番手から力強く抜け出した郡司選手が、そのまま先頭でゴールラインを駆け抜けました。2着は、南関東勢の直後から捲った山田選手。3着は郡司選手マークの岩本選手で、4着に浅井選手。逃げた深谷選手は5着、古性選手は6着という結果に終わっています。郡司選手は完全優勝で、昨年に続く松阪記念の連覇も達成と、今年は1月から勢いに乗っていますね。

GP後勢いに乗る郡司浩平(写真提供:チャリ・ロト)

 2着に食い込んだ山田選手は、やはり「南関東勢の直後」を取れたのが大きかった。後ろ攻めからの組み立てで難しい面のある一戦でしたが、それでも郡司選手にあそこまで迫れたのですから、たいしたものですよ。3着の岩本選手も、郡司選手とのワンツーこそ果たせなかったとはいえ、シリーズを通して地味にいい仕事をしていました。S級S班という輪界の“看板”を背負う者としての責務を、しっかり果たせたといえます。

“包囲網”敷かれた古性

 末の粘りは欠いたとはいえ、深谷選手のスピードもさすがで、郡司選手の優勝に大きく貢献しましたね。すんなり主導権を奪えるメンバー構成だったのも、大きかったでしょう。それとは逆に、まるで「包囲網」を敷かれたようなレースとなり、やりたいことを徹底的に邪魔されたのが古性選手でした。九州勢と単騎勢は、一致団結して古性選手を阻んだといっても過言ではありません。

 山田選手にポジションを奪われたのは古性選手らしからぬミスで、それでリズムが狂ったのか、そこからは防戦一方。巻き込まれての落車こそ避けられましたが、後方に置かれて見せ場なく敗れる古性選手の姿なんて、ほとんど見た記憶がありません。しかしこれは言い換えれば、古性選手がそれくらい周囲からマークされる存在になったということ。よく言いますが、競輪は強い選手の嫌がることをしてナンボですからね。

 今回優勝した郡司選手も、苦汁をなめた古性選手も、ファンの期待に応えることを第一に考えている選手です。だからこそ、古性選手はこの結果を受けて、あのストイックな姿勢で、自分をさらに進化させるに違いありません。叩かれて、進化して、また叩かれて…その繰り返しで、超一流の選手はさらに自分をブラッシュアップさせていく。その過程を楽しめるのも競輪の醍醐味ではないかと、私は思います。

敗れた古性優作は更なる進化へ…(写真提供:チャリ・ロト)

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

閉じる

山田裕仁コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票