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山田裕仁のスゴいレース回顧

【WTミッドナイトG3 回顧】変えてはいけないものもある

2025/02/20 (木) 18:00 27

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが小松島競輪場で開催された「WTミッドナイトG3」を振り返ります。

WTミッドナイトG3を優勝した鈴木竜士(写真提供:チャリ・ロト)

2025年2月19日(水)小松島9R ウィンチケットミッドナイトG3(最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①新田祐大(90期=福島・39歳)
②鈴木竜士(107期=東京・31歳)
③松坂洋平(89期=神奈川・42歳)
④金子幸央(101期=栃木・32歳)
⑤佐藤礼文(115期=茨城・33歳)
⑥島川将貴(109期=徳島・30歳)
⑦久田裕也(117期=徳島・25歳)

【初手・並び】

←①③(混成)②④⑤(関東)⑦⑥(四国)

【結果】

1着 ②鈴木竜士
2着 ①新田祐大
3着 ④金子幸央

深夜の小松島バンクに新田祐大参戦!

 2月19日には徳島県の小松島競輪場で、ウィンチケットミッドナイトGIIIの決勝戦が行われています。全国的に厳しい寒さとなった上に、小松島バンクはかなりの強風が吹いていたようですね。2日目の準決勝3レースは、いずれも「風速4.5m」でした。そのほかにも、深夜のレースとなることや、無観客開催であることなど、出場した選手は体調やモチベーションの維持など、いろいろ大変だったと思います。

 昨年は“目玉”として平原康多選手(87期=埼玉・42歳)が出場していましたが、残念ながら調子が悪かったんですよ。しかし今年は、グランドスラマー・新田祐大選手(90期=福島・39歳)が、なかなかいいデキで出場してきました。新田選手はこれが今年の初出場ですが、身体をしっかりつくって臨んできた様子。能力も実績も「断然」で、シリーズを牽引する存在となるのは間違いありません。

 初日特選は、新田選手が前受けからいったんは6番手に下げるも、打鐘から巻き返して主導権を奪い、そのまま押し切りました。新田選手と連係した松坂洋平選手(89期=神奈川・42歳)が離れ、そのポジションを鈴木竜士選手(107期=東京・31歳)が奪って最後よく差を詰めましたが、こちらは2着まで。中団から捲った高久保雄介選手(100期=京都・38歳)が3着と、各ラインの先頭が上位を占めています。

初日特選を制した新田祐大(写真提供:チャリ・ロト)

 新田選手は、番手戦となった準決勝も危なげなく勝利して、完全優勝に王手をかけて決勝戦へ。初日特選で2着だった鈴木選手も、準決勝1着で決勝戦に駒を進めてきました。このシリーズを大いに盛り上げたのが、島川将貴選手(109期=徳島・30歳)と久田裕也選手(117期=徳島・25歳)の地元コンビ。デキのよさが目立っていたのが久田選手で、相手関係が強くなった準決勝でも、力強い先行でワンツーを決めていました。

地元コンビと関東3車は新田に対抗できるか

 決勝戦は三分戦となり、新田選手は初日特選でも連係していた松坂選手と、再び混成ラインを形成します。新田選手が捲る展開となった場合、松坂選手が再び離れてしまうのでないかという懸念はありますね。3名が勝ち上がった関東勢は、先頭を任されたのが鈴木選手で、番手を回るのが金子幸央選手(101期=栃木・32歳)、3番手を佐藤礼文選手(115期=茨城・33歳)が固めるという布陣です。

 そして、初日から3日連続で連係するのが、久田選手と島川選手の地元・徳島コンビ。ここも、久田選手が先頭で島川選手が番手です。車番に恵まれなかったここは後ろ攻めとなりそうですが、前受けが新田選手ならば、斬らせてくれる可能性が高そう。相手は強いですが、新田選手をうまく後方に置く展開を作り出せれば、いまの久田選手のデキならば一発があっておかしくないでしょうね。

地元の意地を見せたい久田裕也(写真左)と島川将貴(写真提供:チャリ・ロト)

新田が前受け、地元勢は6番手からのスタート

 機動力上位の新田選手が順当に勝利するのか、それとも番狂わせがあるのか? それではさっそく、レース回顧といきましょう。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、1番車の新田選手と2番車の鈴木選手、そして6番車の島川選手が飛び出しました。ここは枠番的に有利な新田選手がスタートを取って、前受けを決めます。鈴木選手は中団3番手となり、四国コンビは6番手からの後ろ攻めというのが、初手の並びです。

初手は新田祐大が前受け、関東勢が中団、徳島勢が最後方に(写真提供:チャリ・ロト)

 レースが動き出したのは、青板(残り3周)周回の3コーナーから。後方の久田選手が外からゆっくりとポジションを上げて、赤板(残り2周)掲示を通過して誘導員が離れたところで、先頭の新田選手を斬りにいきます。新田選手は抵抗せずに自転車を下げますが、それをみた鈴木選手は間髪をいれず動き、新田選手の外併走で動きを封じにいきました。新田選手は、インで包まれて身動きがとれません。

久田が決死の先行、新田は最後方に

 新田選手が6番手に下げていくところで、レースは打鐘を迎えました。先頭の久田選手は少しずつペースを上げて、打鐘後の2センター過ぎから全力モードにシフト。一列棒状で最終ホームに帰ってきて、そのままの隊列で最終1センターも通過します。後方に置かれる展開となった新田選手は、バックストレッチで仕掛けて捲り始動。島川選手は久田選手との車間をきって、後続の仕掛けを待ち構えます。

新田祐大は中団で粘らずに6番手に下げる(写真提供:チャリ・ロト)

 外から新田選手に被される前に動こうと、最終3コーナーでは金子選手が進路を外に出して、新田選手の前に出ます。しかし、この動きで空いたスペースに勝機を見いだした新田選手は、インに突っ込んでいきました。先頭で踏ん張っていた久田選手はここで脚がなくなり、番手の島川選手が外から差す態勢を整えて、最終2センターを回ります。島川選手の後ろには鈴木選手がつけて、その外から金子選手も前を追います。

抜け出す島川を捉えて鈴木竜士がGIII初制覇!

 島川選手が先頭にかわって、最後の直線へ。ここで、空いた内を突いた新田選手が、島川選手の直後まで進出してきました。外からは鈴木選手がいい伸びをみせますが、ここで新田選手が、内の島川選手と外の鈴木選手の間をこじ開けて進出。ゴール直前には、内から島川選手、新田選手、鈴木選手が並ぶところに、外からいい伸びをみせた金子選手も迫ってくるという、大接戦となりました。

 この接戦を制したのは、最後のハンドル投げでグイッと伸びた鈴木選手。2023年の立川以来となる、久々の優勝を決めています。新田選手は惜しい2着で、外から最後によく伸びた金子選手が3着。ライン戦で勝利した関東勢の間に、能力断然の新田選手が割って入るという結果となりました。初日特選の1着と2着が、着順が入れ替わったとはいえそのままワンツーですから、順当な結果といえるでしょう。

大接戦を制したのは鈴木竜士(写真提供:チャリ・ロト)

 鈴木選手は、2017年の平塚・ヤンググランプリ(GII)を制していますが、GIIIはこれが初制覇。7車のレースとはいえ、新田選手を破っての優勝ですから価値があります。初手から中団でうまく立ち回っており、仕掛けるタイミングも文句なし。調子のよさも手伝って、非常にいい走りができていたと感じました。あの展開、あの位置からでも優勝争いに加わってくる、新田選手もさすがでしたよ。

 地元・徳島コンビも見せ場は十分で、決勝戦を手に汗を握るものにしてくれた立役者といえます。残念ながら最後は力負けでしたが、シリーズを通して存在感は大いに発揮していました。昨年も感じましたが、メンバーレベルが高くて各ライン先頭の機動型が好調だと、7車でも面白いんですよね。番手がついていけずに離れるケースが少ないので、ビギナーでも展開読みが楽しみやすい。

GIIIの安売りに疑問、新規ファン獲得のための試行錯誤を

今開催優勝者の鈴木竜士(写真左)と児玉碧衣(写真提供:チャリ・ロト)

 しかし…このシリーズをGIIIに格付けするという点については、どうも納得がいかないというか。競輪祭(GI)の出場権も付与されないわけで、「ちょっと特別感のあるFI」といった位置付けでも、なんの問題もないと思います。GIII、つまり記念というレースの“格”は、絶対に安売りすべきものではない。出場している選手も、このシリーズがGIIIであることに違和感を覚えているのではないでしょうか。

「GIIIというグレードだけど、FIと比べて特別感はないです」

 優勝者インタビューで鈴木選手が語ったこの言葉が、すべてを表しています。久々の優勝自体はうれしそうでしたが、初めてGIIIを勝てたという大きな喜びは、私には感じられませんでした。4月から「KEIRIN ADVANCE」がスタートしますが、新たなファン層の獲得に向けた試行錯誤は確かに必要で、試してみる価値もあるでしょう。しかし…変えてはいけないものもある。少なくとも私は、そう思います。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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