2025/02/17 (月) 18:00 25
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが静岡競輪場で開催された「たちあおい賞争奪戦」を振り返ります。
2025年2月16日(日)静岡12R 開設72周年記念 たちあおい賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①深谷知広(96期=静岡・35歳)
②荒井崇博(82期=長崎・46歳)
③眞杉匠(113期=栃木・26歳)
④浅井康太(90期=三重・40歳)
⑤新山響平(107期=青森・31歳)
⑥河端朋之(95期=岡山・40歳)
⑦坂井洋(115期=栃木・30歳)
⑧嘉永泰斗(113期=熊本・26歳)
⑨岩本俊介(94期=千葉・40歳)
【初手・並び】
←①⑨(南関東)③⑦(関東)⑧②(九州)⑤④(混成)⑥(単騎)
【結果】
1着 ①深谷知広
2着 ⑨岩本俊介
3着 ⑥河端朋之
2月16日には静岡競輪場で、たちあおい賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。今年初の特別競輪である豊橋・全日本選抜競輪(GI)の直前となりますが、それを見据えた超ハイレベルなメンバーが集まりましたね。S級S班からは、岩本俊介選手(94期=千葉・40歳)と新山響平選手(107期=青森・31歳)、眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)の3名が、このシリーズに出場しています。
眞杉選手は、昨年のKEIRINグランプリ以来となる今年の初出場で、初日特選に出走した松浦悠士選手(98期=広島・34歳)も同様に今年の初出場。それだけに、体がどれだけ仕上がっているのか注目が集まります。これら超強力メンバーを迎え撃つのが、地元のエースである深谷知広選手(96期=静岡・35歳)。愛知から静岡に移籍後は、まだ地元記念の優勝がないんですよね。
特別競輪の決勝戦のような豪華メンバーとなった初日特選。ラインが4つに単騎が1名のコマ切れ戦で、どこからでも入れる混戦模様でした。突っ張り先行で主導権を奪った新山選手を眞杉選手が叩いて先頭に立つも、最終バックから捲った深谷選手がこれを捉えます。しかし、深谷選手の番手を奪っていた単騎の松浦選手が、最後の直線入り口で中を割って抜け出し1着。深谷選手と連係を外すも、最後よく伸びてきた岩本選手が2着です。
松浦選手は久々を感じさせない走りで、眞杉選手も4着とはいえ、ここに向けてしっかり身体をつくってきた様子がうかがえました。深谷選手は3着という結果でしたが、こちらも動きは上々でしょう。松浦選手は続く二次予選でも1着をとりますが、準決勝の最終バックで落車のアクシデント。デキのよさを感じさせていただけに残念で、次のGIにダメージが残らないか心配ですね。
岩本選手、新山選手、眞杉選手のS級S班3名は、いずれも二次予選と準決勝ともに1着で勝ち上がりを決めました。なかでも強さを感じたのは、風が強いなか打鐘前から仕掛けて主導権を奪い、そのまま最後まで粘りきった新山選手の準決勝ですね。岩本選手と眞杉選手も内容のある走りができており、決勝戦に向けて視界よし。深谷選手も危なげなく勝ち上がったように、やはりいいデキにあるようです。
そして迎えた決勝戦は…なんと、初日特選の「ほぼ完全な再現」となりました。ライン4つのコマ切れ戦で、各ラインの選手と並びはまったく同じ。松浦選手のかわりに河端朋之選手(95期=岡山・40歳)が入りましたが、松浦選手と同様に単騎勝負です。車番が変わるので初手の並びは変化すると思われますが、果たして展開はどうか。なにかと激突することが多い、新山選手と眞杉選手の動きがポイントとなりそうです。
南関東勢は、先頭が地元の深谷選手で、番手に岩本選手。深谷選手が内の狭いところに入ったのもあって、初日特選では連係を外していた岩本選手ですが、今度はしっかりと深谷選手を援護したいところです。九州勢は、嘉永泰斗選手(113期=熊本・26歳)が前で、荒井崇博選手(82期=長崎・46歳)が番手を回ります。初日特選では歯が立たなかった相手に、嘉永選手が今度はどう立ち向かうかですね。
関東勢は、眞杉選手が先頭を任されて、坂井洋選手(115期=栃木・30歳)が番手という並び。ここも前々に攻めていくであろう眞杉選手は、新山選手が逃げた場合に今度はどうするのか? 決勝戦ではやり合う展開に「ならない」と私は考えましたが、なんともいえないところです。そして新山選手は初日特選と同様、浅井康太選手(90期=三重・40歳)との混成ラインで勝負となりました。
単騎勝負を選んだ河端選手は、混戦模様のここならば、展開をついての一発も十分に狙えそうですね。では、実際にどのような展開になったかを追いつつ、決勝戦を回顧していきましょう。レース開始を告げる号砲が鳴って、いい飛び出しをみせたのは1番車の深谷選手と3番車の眞杉選手、7番車の坂井選手の3名。ここは最内の深谷選手がスタートを取って、南関東勢の前受けが決まります。
眞杉選手は3番手からで、嘉永選手が5番手。新山選手は7番手からの後ろ攻めとなって、最後尾に単騎の河端選手というのが、初手の並びです。レースが動いたのは、青板(残り3周)周回の後半です。後方の新山選手がポジションを上げていきますが、単騎の河端選手は連動せずに後方待機のまま。新山選手に合わせて動いたのは、5番手にいた嘉永選手でした。嘉永選手が前の内外併走で、赤板(残り2周)掲示に向かいます。
赤板通過で誘導員が離れると、まずは嘉永選手が深谷選手を斬って先頭に。新山選手は少し離れた外で、ほかの動きを見定めます。新山選手は、赤板後の1センター過ぎから再び動いて前を斬りにいきますが、嘉永選手はすんなりとは退きません。打鐘前のバックで新山選手が嘉永選手の前に出ますが、ここで動いたのが後方にいた眞杉選手。レースが打鐘を迎えるのと同時に、新山選手を叩きにいきました。
打鐘後に新山選手と浅井選手が前に出切りますが、2センターでは外から眞杉選手が急接近。4コーナーを回ったところで、眞杉選手マークの坂井選手は追走が苦しくなったのか、降りて嘉永選手を内に押しやり浅井選手の後ろに入り込みます。単騎で新山選手を叩くカタチとなった眞杉選手は、新山選手と先頭でもがき合ったままで最終ホームを通過。激しく身体をぶつけ合い、最終1センターを回ります。
最終2コーナーで眞杉選手が先頭に立ち、新山選手はその番手に入って、バックストレッチに進入します。再び一列棒状となりますが、ここで満を持して動いたのが、後方でタイミングをうかがっていた深谷選手です。最後尾でいっさい動かずにいた河端選手も、この仕掛けに連動。ほぼ同じタイミングで、4番手の坂井選手も自力で捲りにいきますが、これは最終バックで浅井選手にブロックされてしまいます。
眞杉選手が先頭で、2番手に新山選手という隊列のままで最終3コーナーへ。その後ろでは、内の浅井選手と外の坂井選手が絡んでいます。その外から、イエローライン付近を通って前との差を一気に詰めてきた深谷選手。スピードに乗った捲りで、最終2センターでは前を完全に射程圏に入れて、外に出した新山選手に並びかけます。先頭でよく踏ん張っていた眞杉選手は、残念ながらここで力尽きました。
直線の入り口で眞杉選手を捉えて、先頭に立った深谷選手。新山選手や浅井選手がそれを追おうとするも、こちらも脚をなくしてしまっています。深谷選手マークの岩本選手がぴったりと続き、深谷選手の仕掛けに乗った河端選手も、30m線で3番手に浮上。ゴール直前、ジリジリと伸びた岩本選手が深谷選手をよく追い詰めますが…最後の力を振り絞った深谷選手が、その追撃を凌ぎきりました。
後方から力強く捲りきった深谷選手が、先頭でゴールラインを駆け抜けて優勝。特別競輪の優勝と同じくらいの価値を感じる、地元記念制覇だったことでしょう。2着は岩本選手で、南関東勢のワンツー決着。3着は深谷選手の捲りに連動した河端選手で、中団から自力で捲った坂井選手が4着。再び前でもがき合う展開となった新山選手と眞杉選手は、7着と8着という結果に終わっています。
以上、初日特選の再戦となった決勝戦は、展開までほとんど初日特選と同じという、驚きの結果となったわけです。新山選手と眞杉選手が「今度はやり合わない」という私の読みは、完全にハズレでしたね。先行に強いこだわりを持つ新山選手と、前々で攻める意識の強い眞杉選手。この両者が激突するのは自然なことではあるのですが…それにしても互いに退きませんねえ(笑)。
この展開も追い風となり、再び後方からの捲りで一気に突き抜けた深谷選手。11秒1という素晴らしい上がりからもわかるように、展開が味方してはいますが、基本的には力でねじ伏せているんですよね。4度目の挑戦で見事につかんだ、地元記念の優勝。この勢いに乗って、次は生まれ故郷である愛知県でのビッグに挑みます。強い相手にこの走りができたことで、深谷選手もいい手応えを感じているでしょう。
それに深谷選手は、勝ち上がりの過程で突っ張り先行をみせていましたよね。これが、決勝戦へのいい“布石”となっていた。持ち前のスピードを生かせる後方からの捲りが得意パターンとはいえ、車番的にもここは突っ張り先行があって不思議なし。ほかのラインがこれを意識してくれることで、有利に立ち回れるんですよ。内容的にも非常に強く、完勝といえる結果だったと思います。
深谷選手の強烈な加速に、ぴったり離れずついていった岩本選手が2着。優勝こそできていませんが、岩本選手もS級S班という看板に恥じない走りができていますよね。3着の河端選手も、レースの流れを冷静によく読めていた。初日特選での松浦選手のように優勝できれば最高だったでしょうが、今日の深谷選手を差すのはさすがに難しい。取れた選択肢のなかでは、最良のものを選べたのではないでしょうか。
逆に、今後へ向けての課題が浮き彫りとなったのが嘉永選手です。だいぶ調子が戻り、FIの相手関係ならば強い走りで優勝できるようになりましたが、超一流が相手となると、現状ではデキも力も足りていない。初日特選、決勝戦となすすべなく終わってしまった経験を糧に、さらなるレベルアップをはかる必要があるでしょう。勢いのある近畿や南関東に九州が張り合っていくためにも、嘉永選手の成長は欠かせません。
さて…豊橋・全日本選抜競輪(GI)はどのような戦いとなり、どんな結果が出るのか? 脇本雄太選手(94期=福井・35歳)のデキにもよりますが、このままいくと古性優作選手(100期=大阪・33歳)を擁する近畿勢と、今年に入ってからいい風が吹いている南関東勢の激突となりそうです。新山選手や眞杉選手の巻き返しにも期待したいところですが、果たしてどうなるか。決勝戦が、いまから楽しみですよ!
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。