2025/02/03 (月) 18:00 26
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが高松競輪場で開催された「玉藻杯争覇戦」を振り返ります。
2025年2月2日(日)高松12R 開設74周年記念 玉藻杯争覇戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①犬伏湧也(119期=徳島・29歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・34歳)
③成田和也(88期=福島・45歳)
④坂本健太郎(86期=福岡・44歳)
⑤福田知也(88期=神奈川・42歳)
⑥田中大我(115期=奈良・26歳)
⑦香川雄介(76期=香川・50歳)
⑧島川将貴(109期=徳島・30歳)
⑨松谷秀幸(96期=神奈川・42歳)
【初手・並び】
←⑥③(混成)①⑧⑦④(混成)②⑨⑤(南関東)
【結果】
1着 ②郡司浩平
2着 ③成田和也
3着 ①犬伏湧也
2月2日には香川県の高松競輪場で、玉藻杯争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。高松競輪場は全面リニューアル工事が予定されているため、これが現在のバンクで行われる最後の記念開催となります。それだけに、思い入れの強い地元の選手は、かなり気合いが入っていたことでしょう。有力である脇本雄太選手(94期=福井・35歳)や清水裕友選手(105期=山口・30歳)の欠場も、それに輪をかけたかもしれません。
しかし、先週の松阪記念(GIII)を優勝したばかりの郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)が、追加あっせんを受けて出場してきました。そのほかにも、S級S班である新山響平選手(107期=青森・31歳)や、四国地区を背負って立つ存在となりそうな犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)、近況好調な伊藤颯馬選手(115期=沖縄・25歳)など、なかなか面白い出場メンバーとなりましたね。
ラインが4つのコマ切れ戦となった初日特選は、郡司選手が果敢に先行し、それを新山選手が叩きにいく展開を、犬伏選手が豪快に捲って抜け出しました。そして、犬伏選手マークの河端朋之選手(95期=岡山・39歳)が、ゴール直前に犬伏選手を差して快勝。郡司選手は5着、新山選手は9着と、いい結果を出せずに終わっています。うまく展開に乗ったとはいえ、犬伏選手の捲りは力強かったですね。
郡司選手はその後、二次予選、準決勝と連勝で巻き返して決勝戦へ。しかし、新山選手は準決勝で5着に敗れて、勝ち上がりを逃しています。波乱決着となったレースも多く、初日特選メンバーで決勝戦に駒を進められたのは3名だけ。1着こそ取れていませんが、田中大我選手(115期=奈良・26歳)のデキのよさはかなり目立っていましたね。これが記念での初優出で、どんな走りができるか楽しみです。
3名が勝ち上がった四国勢は、犬伏選手が先頭で、その番手を島川将貴選手(109期=徳島・30歳)が回ります。3番手を固めるのは地元の香川雄介選手(76期=香川・50歳)で、4番手に九州の坂本健太郎選手(86期=福岡・44歳)がついて、4車ラインとなりました。車番にも恵まれたここは、前受けからの突っ張り先行で、“数の利”を生かす走りをしてくる可能性が高そうですね。
南関東勢は、先頭を任されたのが郡司選手で、番手に松谷秀幸選手(96期=神奈川・42歳)、3番手が福田知也選手(88期=神奈川・42歳)という神奈川トリオ。近況絶好調の郡司選手が先頭で、車番的にも中団でうまく立ち回るレースをしてくるでしょう。オール神奈川という結束力の強さも魅力で、当然ながらここも有力。犬伏選手が楽に主導権を取れるような展開には、郡司選手はしないでしょうからね。
田中選手は、成田和也選手(88期=福島・45歳)との即席コンビを結成して、記念決勝戦に挑みます。勝ち上がりの過程とは相手が違う上に、車番にも恵まれなかったここは、立ち回りのなかなか難しいレースになりそうです。犬伏選手と郡司選手が前でやり合う展開を願い、その間隙をついての一発を狙うイメージでしょうか。なんとか食らいついて、ぜひ存在感をみせてほしいものです。
それでは、決勝戦の回顧に入っていきましょう。レース開始を告げる号砲が鳴って、いい飛び出しをみせたのは3番車の成田選手。1番車の犬伏選手、2番車の郡司選手も続きますが、ここは成田選手がスタートを取りきって、田中選手が先頭の混成ラインが前受けとなりました。犬伏選手は3番手からで、郡司選手は後方7番手というのが、初手の位置取り。レース前の想定とはかなり異なる隊列となりました。
後方となった郡司選手が動き出したのは、青板(残り3周)周回の4コーナーから。赤板(残り2周)掲示に合わせて進出しますが、先頭の田中選手は突っ張って、郡司選手を前に出させません。郡司選手もここは無理に斬りにはいかず、3番手におさまって赤板の1センターを通過。犬伏選手が後方6番手に変わりますが、打鐘前のバックストレッチで、犬伏選手は前との差を詰めていきます。
ここでレースは打鐘を迎えて、田中選手が先頭の一列棒状で打鐘後の2センターを通過。そして4コーナーを回ったところで、後方の犬伏選手が仕掛けます。しかし、犬伏選手の猛烈なダッシュにライン3番手の香川選手はついていけず、ここで連係を外してしまいました。そして、後方の仕掛けを待ち構えていた郡司選手は、これに合わせて中団から仕掛けて、最終ホームを通過します。
最終1センターで犬伏選手が先頭に出ますが、合わせて仕掛けた郡司選手がその直後に入り込み、島川選手と内外併走に。一気に叩かれた田中選手は、かなり苦しい展開となりました。最終1センター過ぎで動いたのが、田中選手の番手にいた成田選手。郡司選手の番手にいた松谷選手を、ヨコの動きで内から捌いて、そのポジションを奪いにいきます。その直後、今度は郡司選手が外の島川選手を張って、捌きにいきました。
内の郡司選手と外の島川選手は大きく外にいって、捌かれた島川選手はここで失速。郡司選手は内に戻りながら、抜け出している犬伏選手の後を追います。最終バック手前で、成田選手と郡司選手の動きで空いた最内をついて、連係を外していた香川選手が後方から進出。最短距離で郡司選手の直後を狙いにいきますが、ここは成田選手が競り勝ちました。犬伏選手は、最終バックでも後続を引き離して単独先頭のままです。
最終3コーナーでも犬伏選手が先頭ですが、それを追う郡司選手が、少しずつその差を詰めていきます。後方から差を詰めてくる選手はまったく見当たらず、優勝争いはこの時点で前にいる選手に限られました。最終2センターで郡司選手が犬伏選手の直後まで迫って、その後ろには成田選手、香川選手、松谷選手、福田選手がタテ一列に並ぶという態勢で、最後の直線に向きました。
先頭でよく踏ん張っていた犬伏選手ですが、直線の入り口で外から差しにいった郡司選手に、30m線で捉えられました。その番手を奪った成田選手が外から追いすがりますが、郡司選手との差は詰まりそうで詰まらない。内の犬伏選手は、郡司選手や成田選手に捉えられた後もいい粘りをみせています。結局ここで大勢は決して、中団から捲った郡司選手が先頭のままゴールインしました。
2位で入線したのは成田選手で、逃げた犬伏選手が粘って3位で入線。しかし、ゴール後に赤ランプがともって、このレースは審議となりました。審議対象は1位で入線した郡司選手で、島川選手を捌きにいったときの動きが「押し上げ」の反則にあたるのではないか…というのが、審議の内容です。確かにリプレイを見返してみても、今回の郡司選手は、島川選手をイエローラインの外まで押し上げているんですよね。
果たして審議結果がどうなるか…と注目されましたが、結果は「セーフ」の判定。これにより、郡司選手は記念の連続優勝となりました。想定された展開とは大きく異なったものになりながらも、勝負できる位置を常にキープする立ち回りや、犬伏選手の仕掛けを読んでの捌きなど、郡司選手の持ち味が随所で感じられる走りでした。審議となったのはさておき、文句なしに強い内容だったと思います。
いい機会なので、ここで「押し上げ」の反則についての失格基準を紹介しておきましょう。「KEIRIN.jp」の競輪資料室に掲載されているので、誰でも確認することができます。今回の審議において取り沙汰されたのは、この項目となります。
「自ら一方的に押圧又は押し上げを行い、内外線間の幅の4倍程度の幅に至った場合」
イエローラインの外まで押し上げたら反則だと思っている方がいるかもしれませんが、じつはそうではなく、「内外線間の幅の4倍程度の幅に至った場合」に反則がとられるのですよ。そして、今回の郡司選手の動きは、これに該当するとは見なされなかった。だから、失格ではなくセーフという判定となったわけです。この「4倍程度」という曖昧な部分が、このルールの難しいところなんですよね。
結果はセーフでしたが、おそらく郡司選手自身は「失格となってもおかしくない」と感じていたでしょうね。それくらい、どっちに転んでもおかしくないほど難しい判定だったと思います。しかし、今回はセーフという判定が下った。危うさを自覚していた郡司選手としては、ホッと胸をなで下ろしたことでしょうね。そういう意味では、いまの郡司選手には勢いだけでなくツキもあります。
犬伏選手も、持ち前のダッシュとスピードを生かしたいいレースをしていましたが、ここは郡司選手の立ち回りが一枚上でしたね。孤立無援となってからも、いい粘りを発揮して最後まで食らいついていました。2着の成田選手は、果敢に突っ張った田中選手のおかげもあっての結果とはいえ、冷静な立ち回りは見事なもの。地元代表の香川選手も、連係を外してしまってからも諦めず、全力の走りができていたと思います。
記念初優出ながら苦い結果に終わった田中選手は、レース後のコメントを確認したところ、「何もできないで終わるのは絶対に避けたい」という思いからの走りだったようですね。とはいえ、さすがに勇猛果敢すぎるというか…もっと自分が優勝できる可能性を追求して、ギリギリまで展開を見極める走りをしてもよかったように感じました。前受けから突っ張るにしても、その後にどうするかまではしっかり見据えておくべきでしょう。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。