2025/02/12 (水) 18:00 18
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが奈良競輪場で開催された「春日賞争覇戦」を振り返ります。
2025年2月11日(火)奈良12R 開設74周年記念 春日賞争覇戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①古性優作(100期=大阪・33歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・34歳)
③佐々木悠葵(115期=群馬・29歳)
④山本伸一(101期=奈良・41歳)
⑤松井宏佑(113期=神奈川・32歳)
⑥道場晃規(117期=静岡・27歳)
⑦山崎芳仁(88期=福島・45歳)
⑧皿屋豊(111期=三重・42歳)
⑨三谷将太(92期=奈良・39歳)
【初手・並び】
←⑥⑤②(南関東)①⑨④(近畿)③⑦(混成)⑧(単騎)
【結果】
1着 ⑤松井宏佑
2着 ①古性優作
3着 ⑨三谷将太
2月11日には奈良競輪場で、春日賞争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。昨年末の激闘によるダメージが大きかったようで、脇本雄太選手(94期=福井・35歳)は連続欠場。しかし、「西」の代表である古性優作選手(100期=大阪・33歳)と、「東」を代表する郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)が出場し、平原康多選手(87期=埼玉・42歳)も登場と、3名のS級S班がシリーズを牽引します。
そのほかにも、小林泰正選手(113期=群馬・30歳)や佐々木悠葵選手(115期=群馬・29歳)、地元代表である三谷将太選手(92期=奈良・39歳)と三谷竜生選手(101期=奈良・37歳)など、粒ぞろいのメンバー構成。今年に入ってから絶好調の郡司選手は、ここでも優勝すればGIIIの3連続優勝となります。それを半月のうちに達成するとなれば、これはめったに見られない記録でしょう。
三分戦となった初日特選は、松井宏佑選手(113期=神奈川・32歳)の番手に飛びついた古性選手が郡司選手からポジションを奪うも、打鐘前から一気にカマシた佐々木選手が出切って、その番手から運んだ小林選手が1着。3番手から捲った古性選手が2着で、後方から最後よく差を詰めてきた郡司選手が3着という結果でした。古性選手が、初日から捌きの競輪で勝負してくるというのは、ちょっと珍しいですよね。
平原選手は、続く二次予選で残念ながら5着に敗退。皿屋豊選手(111期=三重・42歳)の捲りが鋭かったとはいえ、あの展開で勝ち上がれないというのは、やはり本調子を欠いているのでしょう。しかも、ゴール後に落車して3日目以降は欠場に。平原選手は体格があるので、落車したときのダメージも大きいはずなんですよ。落車が続くこの悪い流れを、どこかで断ち切ってほしいものです。
古性選手はその後、二次予選1着、準決勝3着という結果で勝ち上がりますが、本人がコメントしていたようにデキはいまひとつ。先のGIを見据えた調整で、疲労がたまっている状態に感じられました。郡司選手は二次予選を勝ち、準決勝では慣れないライン3番手で連係を外すも、そこから巻き返して連勝。奈良記念の三連覇がかかっていた地元の三谷竜生選手は、残念ながら準決勝で4着に敗退しています。
勝ち上がりの過程でデキのよさが感じられたのは、道場晃規選手(117期=静岡・27歳)や皿屋選手でしょうか。郡司選手も前場所ほどの勢いは感じられず、決勝戦は展開ひとつで誰にでもチャンスがありそうな様相となりました。古性選手の調子がよくないというのは、ほかの選手からすれば大きなチャンス。しかし古性選手は、捌きの競輪で勝負してきた初日特選のように、デキが悪くとも勝負できる走りをしてきます。
3車が勝ち上がった近畿勢は、先頭が古性選手で番手に三谷将太選手、3番手を山本伸一選手(101期=奈良・41歳)が固めるという布陣。後ろに地元の選手がついているのもあって、古性選手の立ち回りがなおさら注目されます。同じく3車の南関東勢は、先頭が道場選手で番手に松井選手、3番手が郡司選手という隊列。いかにも「二段駆け」がありそうで、初手から動いてくる可能性もあるでしょう。
佐々木選手は、山崎芳仁選手(88期=福島・45歳)との即席コンビで勝負。車番に恵まれなかったのもあって、後ろ攻めからどう組み立てるかが難しいレースになりそうです。そして唯一の単騎が皿屋選手で、道中うまく立ち回って、調子のよさを生かす走りをしたいところ。主導権を奪うラインの直後につけたいですが、こちらも車番が悪いので、ひと工夫が必要となるでしょうね。
それでは、決勝戦のレース回顧に入ります。レース開始を告げる号砲が鳴って、いい飛び出しをみせたのは2番車の郡司選手と1番車の古性選手。ここは前に出た郡司選手がスタートを取って、南関東勢の前受けが決まります。古性選手は中団4番手からで、佐々木選手は後方7番手から。そして最後方に単騎の皿屋選手というのが、初手の並びです。前受けを狙ってきたのですから、南関東勢は突っ張り先行に持ち込みそうです。
青板(残り3周)掲示を通過したところで、後方の佐々木選手がポジションを押し上げていきます。単騎の皿屋選手はこれに連動せず、最後方のままです。先頭の道場選手は、誘導員との車間をきって、突っ張る態勢を整えています。青板のバック通過で誘導員が離れると同時に、道場選手は前に踏み込んで先頭をキープ。佐々木選手はここは無理せず、自転車を後方に下げていきます。
佐々木選手は後方8番手となって、再び一列棒状で赤板(残り2周)のホームを通過。先頭の道場選手はここから、早々と全力モードにシフトしました。非常にかかりのいい先行で、隊列に変化のないまま、レースは打鐘を迎えます。道場選手の番手にいる松井選手は、何度も振り返りながら後方の動きをチェック。打鐘後の2センターを回り、最終ホームに帰ってきたところで、中団の古性選手が仕掛けます。
しかし、この仕掛けにキッチリ合わせて、松井選手は道場選手の番手から発進。古性選手を前に出させませんが、郡司選手の前に出た古性選手は外から圧をかけて、郡司選手の動きを封じにいきました。郡司選手は最終1コーナーで、下がってきた道場選手と外の古性選手に挟み込まれて接触。これで郡司選手は不運にも車体故障を起こして、ズルズルと下がってしまいます。
この攻防で、先頭に立った松井選手の番手を確保した古性選手。その後ろを、三谷将太選手と山本選手がしっかりと追走します。この時点でも、後方の皿屋選手や佐々木選手は動けないまま。かなり早いタイミングで番手から出た松井選手ですが、そのスピードは素晴らしく、古性選手を寄せ付けないまま最終バックを通過します。松井選手がこのまま粘りきるか、それとも近畿勢の逆転か?
タテ1列に7車が並ぶ状態のままで、最終3コーナーを回って最終2センターへ。孤立無援となった松井選手ですが、そのスピードはここでもまだ衰えません。後方から差を詰めてくる選手もいないまま、奈良バンクの短い最終直線に入りました。直線の入り口で、古性選手が外に出して差しにいきますが、先頭の松井選手は最後の力を振り絞って、古性選手に抜かせまいと踏ん張ります。
古性選手の後ろからは三谷将太選手や皿屋選手も追いすがりますが、前を捉えられるような勢いはなし。粘る松井選手と差す古性選手の勝負となり、ゴールライン直前で古性選手が松井選手の外に並び、内外でのハンドル投げ勝負となって、まったくの横並びでゴールラインを駆け抜けました。かなりの接戦でしたが、ゴールラインでほんの少しだけ前に出ていたのは、内の松井選手のほうでした。
古性選手は僅差の2位で入線し、その後には三谷将太選手、皿屋選手、山本選手が続きましたが、ゴール後に審議の赤ランプが灯ります。対象は古性選手、郡司選手、道場選手で、郡司選手の車体故障についての審議でした。しかし結果はセーフで、入線順位のままで確定。松井選手はこれで、通算3回目となるGIII優勝の達成です。かなり早い段階からの番手捲りで楽ではない展開でしたが、よく最後まで凌ぎきりましたね。
けっして目立つデキではなかった松井選手ですが、道場選手の気っ風のいい先行のおかげもあって、古性選手の猛追を封じることに成功。古性選手が郡司選手をキメにいったときに生まれたリードを、最後の最後まで守りきったという印象です。それに、直線が短く圧倒的に先行有利である、奈良の333mバンクも味方しましたね。333mバンクのなかでも、奈良はとくに捲りづらいですから。
接戦に敗れた古性選手については、やはり本調子にないというのが大きかったでしょう。それでも今回も、確実に優勝が狙える位置を取り、優勝が狙える立ち回りをしていますからね。初日特選とは違って今回はタテ脚勝負でしたが、主導権を奪った道場選手の逃げがかかっていたというのも大きかったはず。3着の三谷将太選手は「弟のぶんまで」とはいきませんでしたが、地元の意地はギリギリ見せられたというところでしょうか。
車体故障に泣いた郡司選手については「あれがなくとも優勝までは厳しかったのではないか」というのが、個人的な見解ですね。なぜなら、古性選手のほうが外から前に出て、郡司選手の動きを封じにいった「後」の出来事だったからです。あとは、ライン2番手や3番手だと、経験不足からまだ一抹の不安があるというのも実際の話。今後も、狙われるシーンが出てくると思いますよ。
佐々木選手は後方のままで終わって、残念ながら存在感をまったく発揮できませんでしたね。しかし、奈良バンクでこの展開になると本当にキツいですよ。車番の悪さがモロに響いた結果で、混成ラインというのもあった。取れる選択肢の少なさを考えると、この結果も「致し方なし」でしょう。近況のよさを生かせなかったのは残念ですが、力をつけているのは間違いないですから、さらなる飛躍を期待したいですね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。