2024/12/09 (月) 18:00 25
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが松山競輪場で開催された「金亀杯争覇戦」を振り返ります。
2024年12月8日(日)松山12R 開設75周年記念 金亀杯争覇戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松本貴治(111期=愛媛・30歳)
②山崎芳仁(88期=福島・45歳)
③深谷知広(96期=静岡・34歳)
④大槻寛徳(85期=宮城・45歳)
⑤浅井康太(90期=三重・40歳)
⑥橋本強(89期=愛媛・39歳)
⑦松谷秀幸(96期=神奈川・42歳)
⑧山賀雅仁(87期=千葉・42歳)
⑨犬伏湧也(119期=徳島・29歳)
【初手・並び】
←⑨①⑥(四国)⑤(単騎)③⑦⑧(南関東)②④(北日本)
【結果】
1着 ①松本貴治
2着 ③深谷知広
3着 ⑥橋本強
12月8日には愛媛県の松山競輪場で、金亀杯争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。静岡・KEIRINグランプリに向かう選手の欠場もあって、現S級S班からの出場は深谷知広選手(96期=静岡・34歳)だけ。ちょっと手薄な印象もあるメンバー構成となりましたが、それでも松井宏佑選手(113期=神奈川・32歳)や犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)など強力な機動型が何人も出場しており、面白いシリーズとなりましたね。
初日特選は、前を任せた松井選手が叩かれるも、自力に切り替えた深谷選手が4番手から捲って快勝。伊藤旭選手(117期=熊本・24歳)の番手からしぶとく伸びた北津留翼選手(90期=福岡・39歳)が2着で、深谷選手から離れるも懸命に後を追った松谷秀幸選手(96期=神奈川・42歳)が3着という結果。後手を踏んだ犬伏選手は、後方から捲るも6着という中途半端なレースになってしまいました。
町田太我選手(117期=広島・24歳)が一次予選で7着に敗れ、準決勝では松井選手や取鳥雄吾選手(107期=岡山・29歳)が勝ち上がりを逃すなど、機動力のある選手が次々と敗退。しかし、初日特選を勝った深谷選手は、危なげなく決勝戦に駒を進めています。犬伏選手も、二次予選、準決勝ともに2着で勝ち上がり。決勝戦は、この両者の激突という構図となりそうです。
3名が勝ち上がった四国勢は、犬伏選手が先頭で、その番手を地元の松本貴治選手(111期=愛媛・30歳)が回ります。3番手を固めるのも地元の橋本強選手(89期=愛媛・39歳)ですから、犬伏選手は責任重大。ここは、後ろにも勝機のある走りをしてくることでしょう。地元のエース級である松本選手は大きなチャンスを得ましたが、犬伏選手のダッシュは強烈ですから、ついていくだけでも大変ですよ。
南関東勢も3車ラインで、先頭は深谷選手。番手は松谷秀幸選手(96期=神奈川・42歳)で、3番手を山賀雅仁選手(87期=千葉・42歳)が固めます。北日本勢は、山崎芳仁選手(88期=福島・45歳)が前で、大槻寛徳(85期=宮城・45歳)が後ろという組み合わせ。強力な自力選手が相手となるだけに、こちらは中団で立ち回りたいところです。しかし、どちらもスタートが速くはないので、初手の位置取りが注目ですね。
そして、単騎勝負を選択したのが浅井康太選手(90期=三重・40歳)。上々のデキという印象だったのですが、準決勝で腰を痛めたとのことで、果たしてその影響がどうなのかでしょう。主導権を奪うであろう四国勢の直後で立ち回れれば、一発の魅力は十分。準決勝のように、勝負どころで内の最短コースを抜けてくるようなレースができれば、優勝争いまで期待できそうです。
それではさっそく、レース回顧といきましょう。レース開始を告げる号砲と同時に飛び出したのは、1号車の松本選手と3号車の深谷選手。ここは内の松本選手がスタートを取って、四国勢の前受けが決まります。その直後に南関東勢がつけましたが、後から位置を主張した浅井選手が4番手に入って、深谷選手は5番手から。そして後方8番手に山崎選手というのが、初手の並びです。
後ろ攻めとなった山崎選手が動いたのは、青板周回(残り3周)の後半から。外からゆっくりとポジションを上げていって、赤板(残り2周)掲示の通過に合わせて、先頭の犬伏選手を斬りにいきます。しかし、先頭の犬伏選手は突っ張って抵抗。山崎選手は無理せず、打鐘前の2コーナーで引きました。空いていたスペースに大槻選手が入り、自転車を下げた山崎選手が、その前の4番手につけます。
そしてレースは打鐘を迎えますが、ここで浅井選手が4番手のポジションを、外から奪い返しにいきました。内外併走となった山崎選手は、打鐘過ぎに引いて5番手に。後方7番手となった深谷選手は、じっと動かず脚をタメています。これで主導権は犬伏選手に決まって、一気にペースアップ。一列棒状となって最終ホームに帰ってきて、そのままの隊列で最終1センターを回りました。
そしてバックストレッチに入ったところで、後方の深谷選手が捲り始動。先頭で飛ばす犬伏選手の番手では、松本選手が前との車間をきって、何度も振り返りながら後続の仕掛けを待ち構えます。深谷選手は素晴らしい加速で差を詰めていき、最終バックでは山崎選手の外まで進出。最終3コーナー手前では橋本選手の外に並ぶところまで迫り、完全に前を射程に入れます。
ここで松本選手が進路を外に振って、深谷選手の動きをブロック。そして内の位置に戻りつつ、脚が鈍った犬伏選手の番手から前に踏み込みます。橋本選手の後ろにいた浅井選手は内に突っ込んで進路を探し、深谷選手は態勢を立て直して、外から再び前を追います。番手から捲った松本選手が先頭に立って、その後ろの橋本選手は内をしっかり締めながら、それにぴったりと続きました。
後方となった山崎選手も必死で前を追いますが、前との差をなかなか詰められないまま。内を突いた浅井選手は、橋本選手が内をしっかり締めながら松本選手に続いたことで、内で詰まらされそうな態勢です。外を回る深谷選手が再び迫ってくるという態勢で、最終4コーナーを回って最後の直線へ。番手捲りから先に抜けた松本選手が力強い伸び脚で、リードを広げにかかります。
外から深谷選手がジリジリと迫りますが、松本選手のブロックで一度スピードを削がれているのもあって、差がなかなか詰まりません。内で詰まらされた浅井選手は、直線に入ってから伸びがなく失速気味。深谷選手マークの松谷選手や、大外に出した山賀選手も、一気に前を捉えきるような勢いはなし。松本選手が先頭で踏ん張り、その直後で内の橋本選手と外の深谷選手が併走という態勢で、30m線を通過します。
そして、松本選手が最後まで他を寄せ付けず、そのままゴールイン。地元ファンの期待に応えて、2回目の地元記念優勝を決めました。僅差となった2着争いは外の深谷選手が競り勝って、橋本選手が3着。4着は深谷選手マークの松谷選手で、5着は山賀選手でした。レース前の想定どおり「四国勢と南関東勢の激突」となるも、うまくバトンを繋いだ四国勢が、南関東勢の猛追をからくも退けた…といった結果です。
優勝した松本選手は、7月の佐世保・ミッドナイトGIIIと11月の防府記念に続く、今年3回目のGIII制覇。ケガの影響などで調子を落としていた時期もありましたが、今年の躍進は目覚ましいものがありますね。深谷選手が仕掛けてきたタイミングなど“運”も味方につけての優勝でしたが、本当に力をつけているし底力もありますよ。自在型の選手として、まだまだ上を目指せそうなポテンシャルを感じます。
なぜ松本選手が幸運だったかというと、捲ってきた深谷選手をブロックにいったのが、3コーナー直前だったからです。あそこでスピードを削がれると、深谷選手といえども、立て直して急加速するのは難しい。そして当然、犬伏選手が後ろについた地元勢のために、躊躇なく飛ばしてくれたのも大きいですよね。同地区の仲間とはいえ、あれだけかかった逃げは、なかなかしてくれないですよ。
その背景にあったのは、シリーズを通して感じた「愛媛の選手を応援したい」という空気でしょうね。地元のエース級である松本選手を応援しよう、優勝させようという追い風が吹いていて、その風をうまくつかまえた結果の優勝だったように感じました。それはつまり、周りの選手にそう思わせるだけの“人望”と能力の両方が、松本選手にあったということです。
深谷選手も力を示しましたが、ここは四国勢が一枚上でしたね。初手で取りにいった中団に最後までこだわれば結果は違ったかもしれませんが…これはタラレバです。小倉・競輪祭(GI)での落車で、肩を脱臼した影響もゼロではなかったはずですが、それを感じさせない力強い走りを最後まで見せ続けてくれました。浅井選手は「ぎっくり腰」だったとのことで、最後に末を欠いたあたりは、やはり影響があったのでしょう。
3着の橋本選手も、松本選手とのワンツーこそ決められませんでしたが、かなりいい走りをしていたと思います。直後に単騎の浅井選手がいるのは、じつはかなりのプレッシャーなんですよね。後ろにいるのが「ライン先頭の自力選手」ではないので、外だけでなく内も警戒する必要がある。そんなプレッシャーのなかで、自分の仕事をまっとうしての3着ですから、価値があります。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。