2024/12/04 (水) 18:00 17
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが大垣競輪場で開催された「水都大垣杯」を振り返ります。
2024年12月3日(火)大垣12R 開設72周年記念 水都大垣杯(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松浦悠士(98期=広島・34歳)
②山口拳矢(117期=岐阜・28歳)
③中野慎詞(121期=岩手・25歳)
④瓜生崇智(109期=熊本・29歳)
⑤坂井洋(115期=栃木・30歳)
⑥白岩大助(84期=埼玉・45歳)
⑦森田優弥(113期=埼玉・26歳)
⑧不破将登(94期=岐阜・36歳)
⑨中本匠栄(97期=熊本・37歳)
【初手・並び】
←⑦⑤⑥(関東)①⑨(混成)②⑧(中部)③④(混成)
【結果】
1着 ⑤坂井洋
2着 ②山口拳矢
3着 ①松浦悠士
今年のKEIRINグランプリ出場をめぐる戦いは、先月末に行われた小倉・競輪祭(GI)で幕引きとなりました。しかし、来年の飛躍や再起を目指す選手たちの戦いは、これからも続いていきます。そんな選手たちにとって「最初の記念」となったのが、岐阜県の大垣競輪場で開催された水都大垣杯(GIII)。12月3日には、その決勝戦が行われました。好メンバー揃いの、たいへん面白いシリーズになりましたね。
まずは、残念ながらS級S班からの陥落が決まった、松浦悠士選手(98期=広島・34歳)と山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)の両名。来年の“復権”を目指すためにも、ここは力が入ります。そのほかにも、来年のS級S班である北井佑季選手(119期=神奈川・34歳)や、小倉・競輪祭でその力をみせつけた中野慎詞選手(121期=岩手・25歳)など、まさに多士済々といった出場メンバーです。
初日特選は、ラインが2つに単騎が4名という、いかにもマギレがありそうなメンバー構成に。ここを制したのは、後方から捲った北井選手の仕掛けに乗った、中野選手でした。2着は、果敢に主導権を奪いにいった松浦選手の後ろにつけた山口選手。中野選手の後ろへと俊敏に切り替えた坂井選手が3着という結果で、自力のある単騎勢がいい動きをみせていましたね。
初日特選を勝った中野選手は、二次予選と準決勝でも1着をとって、無傷の3連勝で決勝戦に進出。準決勝では、逃げて11秒0の上がりをマークするという文句なしの内容をみせています。好調モードの選手が多いシリーズでしたが、中野選手の動きのよさは、そのなかでも目立っていましたよ。あとは、二次予選と準決勝を連勝してきた森田優弥選手(113期=埼玉・26歳)も、かなりデキがよさそうでした。
それとは対照的に、どうも調子が上がってこないのが北井選手。二次予選で敗退と、このシリーズでも精彩を欠いていました。ここから静岡・KEIRINグランプリまでに、果たしてどこまで調子を戻せるか。キッチリ決勝戦まで駒を進めてきた松浦選手については、前場所の小倉・競輪祭ほどではないものの、悪くないデキにあるという印象。これならば、決勝戦でもいい走りが期待できそうです。
決勝戦は、ラインが4つのコマ切れ戦に。唯一の3車ラインとなった関東勢の先頭は、森田選手に任されました。番手を回るのは坂井洋選手(115期=栃木・30歳)で、こちらも近況でみせていたいいデキをキープ。ライン3番手を白岩大助選手(84期=埼玉・45歳)が固めるという布陣です。車番に恵まれず後ろ攻めになってしまいそうなので、森田選手がそこからどうレースを組み立てるか次第ですね。
中部勢は、地元の期待を背負う山口選手が先頭で、準決勝でも山口選手の後ろを回った不破将登選手(94期=岐阜・36歳)が番手という岐阜コンビ。不破選手は、これがうれしい記念初優出ですね。山口選手は、二次予選と準決勝では番手を回っていましたから、デキについての評価が難しい。それでも気合いは十分のはずで、ホームバンクでの記念決勝戦とあっては、ぶざまな走りはできません。
2名が勝ち上がった九州勢は連係せず、松浦選手と中野選手の後ろを選択。松浦選手の番手には中本匠栄選手(97期=熊本・37歳)がついて、中野選手の番手は瓜生崇智選手(109期=熊本・29歳)が回ることになりました。中野選手の番手という大きなチャンスを得た瓜生選手は、この好機をなにがなんでも生かしたいところ。1番車が貰えた松浦選手は、車番を生かして前々で立ち回ってきそうですね。
非常にデキがいい中野選手がすんなり逃げられるような展開になると、手も足も出ずに終わってしまう可能性がある。それをいかに避けるかが、他のラインがここで優勝するための必要条件といえるでしょう。また、素晴らしいスピードの持ち主である中野選手も、こと競輪においてはまだ経験不足。揺さぶりをかけられたときに、崩れずにいられるとは限りません。では、レースを回顧していきましょう。
レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、外から5番車の坂井選手と6番車の白岩選手がいい飛び出しをみせます。ここは白岩選手がスタートを取って、関東勢の前受けが決まりました。直後4番手には松浦選手がつけて、山口選手は6番手から。そして、後方8番手に中野選手というのが、初手の並びです。“数の利”も生かせる関東勢が前受けになったことで、がぜん面白くなりましたね。
後ろ攻めとなった中野選手は、青板周回(残り3周)のバックから始動。しかし、それに合わせて山口選手が動いたことで、しばらく両者が様子見となりました。ホームストレッチで中野選手が前に踏み込むと、山口選手も負けじと踏んで、併走のままで赤板(残り2周)掲示を通過。先頭の森田選手も突っ張って、3つのラインがもつれた状態で、打鐘前の1センターに入りました。
山口選手と中野選手が譲らず前に出たところで、不破選手が進路を外に振って、瓜生選手の動きをブロック。これで空いたスペースに森田選手がスッと入り込んだことで、山口選手と中野選手の番手が同時に連係を外すカタチとなります。1センターを回ったところで内の山口選手はポジションを下げて、中野選手が先頭で、その直後に内から森田選手、瓜生選手が並ぶという隊列にシフトしました。
そしてレースは打鐘を迎えますが、番手を森田選手に奪われている中野選手は、思いきってペースを上げることができません。瓜生選手は森田選手の外併走で圧をかけますが、態勢は言うまでもなく不利です。内からポジションを下げた山口選手は、するっと坂井選手の直後に入り込みました。そして打鐘後の2センターでは、後方にいた松浦選手が外から一気にカマシて、前に襲いかかります。
中野選手も慌ててペースアップしますが、カマシた松浦選手はグングンと前に迫り、最終ホームに帰ってきたところで先頭に並びました。時を同じくして、中野選手の番手奪還を狙っていた瓜生選手は、少し下がって森田選手の後ろに切り替えます。これで今度は、坂井選手が森田選手との連係を外すことに。最終1コーナー手前では、中野選手を叩ききった松浦選手が先頭に立ちました。
叩かれた中野選手は松浦選手の後ろに食らいつき、外の中本選手との併走状態に。そして最終1センターを回ったところで、自力に切り替えた坂井選手が、集団から捲りにいきました。その直後にいた山口選手は、一瞬だけ遅れるもこれに連動。素晴らしい加速をみせた坂井選手は、一気に前の集団を射程圏に入れます。4番手の森田選手も最終バック手前で仕掛けますが、坂井選手のような鋭い伸びはありません。
その後もグイグイと伸びた坂井選手は、最終3コーナー手前で中野選手と中本選手を抜き去り、先頭の松浦選手に接近。坂井選手の仕掛けに乗った山口選手も、少し離れて先頭集団に迫ってきました。しかし、それに気付いた森田選手が、ヨコの動きでブロック。山口選手は乗り越えるも、ここで少しスピードを削がれてしまいます。坂井選手は最終2センター手前で、松浦選手を捉えて先頭に躍り出ました。
最終2センター過ぎには、坂井選手が完全に抜け出して、それを離れて松浦選手と山口選手が追うという態勢に。外から内へと斬り込んだ山口選手は、松浦選手にも軽くブロックされますが、これも乗り越えて2番手に浮上します。そして最後の直線に入りますが、先頭の坂井選手は後続に大きな差をつけており、大勢は決したといえる状況。外からよく伸びた山口選手も、前には届きそうにありません。
中団からの力強い捲りで勝負を決めた坂井選手が、そのまま先頭でゴールイン。2021年の泗水杯争奪戦以来となる、2回目のGIII優勝となりました。近況でみせていたデキのよさが、ここで最高の結果につながりましたね。2着は山口選手で3着に松浦選手と、最後の直線に入った順番「そのまま」での決着。注目を集めた中野選手は、ゴール前で内から松浦選手に迫るも4着という結果でした。
展開が向いた面はあったとはいえ、文句なしに強い内容だった坂井選手。森田選手との連係を外してしまったのは「玉に瑕」だったかもしれませんが、それでもこの相手にこの走りでの優勝は、誇っていいものでしょう。そして森田選手も、中野選手を揺さぶるような、いい動きができていました。個々のレベルアップが図られてきた結果、いまの関東勢は本当に層が厚くなっていますよ。
最高の結果とはいかなかったものの、2着と地元の意地をみせた山口選手。じつは競輪祭の一次予選で犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)を相手に、今回の序盤と同じような動きをみせていたんですよ。自ら積極的に動くことで中野選手のレースプランを崩し、展開をつくることができていた。こういった走りがもっとできるようになれば、またビッグ制覇が狙えるはずです。
松浦選手も3着とはいえ、内容は非常によかったと思います。あそこでカマシて主導権を奪いにいく積極性や戦略眼の確かさは、さすが松浦選手といえるもの。おそらく自身でも、確かな手応えを感じたのではないでしょうか。中野選手については、経験不足からくる「油断」のようなものがあったような気がします。トップクラスにここまで目をつけられている以上、楽なレースをさせてもらえなくて当然ですからね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。