2024/12/16 (月) 18:00 22
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが玉野競輪場で開催された「ひろしまピースカップ」を振り返ります。
2024年12月15日(日)玉野12R 開設72周年記念in玉野 ひろしまピースカップ(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松浦悠士(98期=広島・34歳)
②菅田壱道(91期=宮城・38歳)
③山田庸平(94期=佐賀・37歳)
④佐々木眞也(117期=神奈川・30歳)
⑤渡部幸訓(89期=福島・41歳)
⑥池田良(91期=広島・38歳)
⑦太田海也(121期=岡山・25歳)
⑧鈴木玄人(117期=東京・28歳)
⑨新山響平(107期=青森・31歳)
【初手・並び】
←⑨②⑤(北日本)⑧(単騎)④(単騎)⑦①⑥(中国)③(単騎)
【結果】
1着 ①松浦悠士
2着 ③山田庸平
3着 ⑥池田良
12月15日には岡山県の玉野競輪場で、ひろしまピースカップ(GIII)の決勝戦が行われています。全面リニューアル工事が進められている広島競輪場は、2025年に「アーバンサイクルパークス広島」として新装オープン予定。それもあって、広島記念は昨年に引き続き、今年も玉野競輪場での開催となりました。どのような施設に生まれ変わるのか、来年が本当に楽しみですよね。
注目の的はもちろん、松浦悠士選手(98期=広島・34歳)。地元を代表する選手であるのは言うまでもなく、4回目となる地元記念制覇に挑みます。静岡・KEIRINグランプリに出場予定である新山響平選手(107期=青森・31歳)や、ヤンググランプリ連覇が視野に入る太田海也選手(121期=岡山・25歳)も、当然ながら注目株。レベルの高い選手が揃って、かなり面白いシリーズになりましたよ。
初日特選では、前受けから突っ張ろうとする新山選手を、バンクを一気に駆け下りた太田選手が叩いて主導権を奪取。3番手に下げた新山選手が打鐘から巻き返そうとするも、それを退けた太田選手が先頭を守りきります。しかし新山選手は再び仕掛け、太田選手の番手から出ようとした松浦選手も捉えきって快勝。こんな走りができるのですから、新山選手の仕上がりは相当なものです。
この初日特選で山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)は、接触による車体故障でゴール後に落車し、残念ながら2日目以降は欠場に。松浦選手は二次予選と準決勝でいずれも1着をとって、決勝戦に駒を進めます。初日特選で激突した新山選手と太田選手も、二次予選と準決勝を順当に勝ち上がって、決勝戦で再び相まみえることに。輪界最強クラスの機動型がぶつかり合うさまは、やはり本当にワクワクしますね。
決勝戦は、ラインが2つに単騎が3名というメンバー構成となりました。3名が勝ち上がった中国勢は、太田選手が先頭で番手に松浦選手、3番手を池田良選手(91期=広島・38歳)が固めるという布陣。準決勝で上位独占を決めたそのままの並びで、決勝戦に挑みます。地元勢に前を任された以上、太田選手のやることはひとつ。ラインから優勝者を出すべく、アグレッシブな走りで勝負してくるでしょうね。
同じく3車ラインとなった北日本勢は、新山選手が先頭で、番手を回るのが菅田壱道選手(91期=宮城・38歳)。3番手が渡部幸訓(89期=福島・41歳)という隊列で、新山選手と菅田選手は準決勝に引き続きの連係です。好調モードの新山選手は、ここも前受けからの突っ張り先行に持ち込みたいでしょうが、車番的にどうか。初手からどのような攻防が繰り広げられるのか、注目しましょう。
そして、単騎で勝負するのが山田庸平選手(94期=佐賀・37歳)と佐々木眞也選手(117期=神奈川・30歳)、鈴木玄人選手(117期=東京・28歳)の3名です。昨年の覇者である山田選手も、デキのよさが感じられた選手の一人でしたね。最近は番手を回ることが多いですが、まだまだ自力でも勝負できるところを見せてほしいもの。佐々木選手と鈴木選手も、うまく立ち回って存在感を発揮してほしいですね。
二分戦で新山選手と太田選手が激突という、初日特選の再戦ムードが漂っていた決勝戦。どのような展開と結果になったのか…それでは、レースを振り返っていきましょう。レース開始の号砲と同時に飛び出したのは、2番車の菅田選手と8番車の鈴木選手。内の菅田選手がスタートを取って、北日本勢の前受けが決まります。中国勢も前を取りたかったでしょうが、ここは北日本勢が出鼻をくじきましたね。
鈴木選手が4番手、佐々木選手が5番手で、後ろ攻めとなった太田選手は6番手から。そして最後方に山田選手というのが、初手の並びです。隊列に動きがあったのは、青板(残り3周)周回のバックストレッチ。中国勢と、それに連動した山田選手は進路を外にきって、2センターでフェンス沿いまで駆け上がりました。太田選手はホームストレッチに入ったところで、大外からの山おろしで一気に加速しました。
先頭誘導員との車間をきって備えていた新山選手も、それに合わせて突っ張ります。しかし初日特選と同様、赤板掲示の通過直後に前に出たのは太田選手のほう。叩かれたのを察した新山選手が引いたのもあって、赤板後の1センターで4車が前に出切りました。ここで機敏に動いたのが、単騎の鈴木選手。北日本勢の後ろから切り替えて山田選手の後ろにつけると、さらに内をしゃくって、山田選手の内に潜りこみました。
そしてレースは打鐘を迎えますが、この鈴木選手の動きに乗ったのが、同じく北日本勢の後ろから切り替えていた佐々木選手。スッと鈴木選手の後ろにつけて、5番手を確保しました。ポジションを奪われた山田選手は、仕方なく下げて佐々木選手の後ろに入ります。ここで少しペースが緩みますが、後方7番手となった新山選手は動かないまま。再び一列棒状となって、最終ホームに帰ってきます。
主導権を奪った太田選手は、ここから全力モードにシフト。そのままの隊列で最終1センターを回って、バックストレッチに進入しました。太田選手の逃げがかかっているのもあって、後方に置かれた新山選手は差をまだ詰められないまま。松浦選手は太田選手との車間を少しきって、いつでも発進できる態勢を整えます。そして最終バックで、5番手にいた佐々木選手が前を捲りにいきました。
山田選手も、佐々木選手の仕掛けに追随。佐々木選手は最終3コーナーで池田選手に外から並びかけますが、ここで松浦選手が前に踏み込みました。番手から捲った松浦選手は、最終2センターで太田選手の外併走に。中団から捲った佐々木選手は、内からブロックにいった池田選手に勢いを削がれてしまいました。新山選手も後方から差を詰めてきますが、勢いはまったくありません。
最終2センターを回ったところで松浦選手が単独先頭となって、少し離れて内から太田選手、池田選手、佐々木選手が並ぶ隊列に。その後ろには、後方から空いた内に突っ込んだ渡部選手と、コースを探す山田選手が並びます。捲り不発に終わった新山選手は、ここで完全に失速。早めの番手捲りでセイフティリードを築いた松浦選手が、後続を引き離しつつ最後の直線に入ります。
先に抜け出した松浦選手を池田選手が追いますが、その差はまったく詰まらないまま。伸びがいいのは佐々木選手の内から抜けてきた山田選手ですが、どうみても前には届きません。内を突いた渡部選手は進路がなく、池田選手の後ろで詰まっている状況。30m線を過ぎたところで山田選手が池田選手の前に出ますが…レースの決着は、とっくの前についてしまっていましたね。
大きなリードを保ったまま、先頭でゴールラインを駆け抜けた松浦選手。地元ファンの期待に応える、4回目の地元記念制覇を達成しました。今年は松浦選手にとって苦しい1年となりましたが、それだけにこの優勝は本当にうれしかったはず。ゴール後から優勝インタビューまで、その口元にはずっと笑みがこぼれていました。初日特選での敗戦を糧とした、中国勢による見事なバトンリレーでしたよ。
最後よく伸びた山田選手が2着で、池田選手が3着という結果。山田選手はやはり、池田選手の後ろを奪われたのが痛かったですね。レース後コメントでも触れていましたが、あれがなければ、最後はもっと際どい勝負ができたかもしれません。3着の池田選手は、地元ワンツーとはいきませんでしたが、内容のある走りで松浦選手の優勝をアシスト。これで競輪祭の出場権獲得が得られたのは大きいですよ。
大敗に終わった新山選手については、いくらデキがよくても、この展開で7番手に置かれてしまうとやはり苦しい。先頭で飛ばすのが太田選手となると、新山選手クラスであっても、差を詰めるに詰められませんからね。あとは、新山選手が得意とする「前受けからの突っ張り先行」に対して、ひとつの対抗策が示されたというのも大きい。誰にでもできるものではないとはいえ、新山選手は危機感を覚えたでしょうね。
とはいえ、新山選手の仕上がりは上々で、このデキならばグランプリでの走りが本当に楽しみです。12月17日(火)の共同記者会見で並びも発表されて、暮れの大一番に向けてますます盛り上がっていくことでしょう。そして、本調子を取り戻した松浦選手が、次の佐世保記念でどのような走りをみせてくれるのかも楽しみ。2025年の“奪還”に向けて、さらに弾みをつけたいものです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。