2022/07/21 (木) 17:06
村上博幸が7月11日から13日まで開催された函館F1ナイター競輪で、約半年ぶりに復帰した。今年1月の大宮記念の準決勝で落車をし、左肩から激しくバンクに叩きつけられた。左鎖骨骨折はいうまでもなく、ダメージは全身に残った。このケガにより、村上は以後のレースを長期欠場。選手として、最高峰のグレードレースにも、その名前はなかった。
しかし、やっとファンの熱い期待のもと、函館で復帰を果たした。初日の予選は目標がない戦い。個人的な意見だが、復帰戦では自らの力を試す意味でも、目標がなくて良かったのかもしれない。中部、近畿ということで言えば、重倉高史はいたが、村上は連係しない道を選んだ。結果的に、流れの中で重倉の先行に乗る形にはなったものの、ここからが村上らしいところ。最終バックから、捲りを打って出たのだ。仮に重倉と最初から連係していたならば、別線をブロックしていたに違いないが、今回は元々、別々の競走をしているのだから、捲りに行っても不思議ではない。筆者はネットで見ていたが(もちろん、村上の頭で車券は買っていた)、仕掛けた時が早かったように思えた。ナイター、それも重い函館バンクで、あの位置から捲りを打って、果たして持つのか疑問だった。見ていて、ドキドキしていた。しかし、それも杞憂に終わった。堂々と押し切り、復帰戦を白星で飾ったのだった。捲りに行くことは、現在の状態を見る意味でも、考えていたことなのかもしれない。
そして、思わず唸ったのが、翌日の準決勝だ。目標にした高久保雄介が、最終ホーム手前から強引に先行した。3番手は松崎貴久。後方から磯島康祐が捲ってきて、追走は阿部拓真。初日に儲かった分をそっくりそのまま、村上の頭で買っていた筆者とすれば、もっと早く踏んでもよいのではと、勝手なことを思いながらネット観戦していたが、村上はギリギリまで高久保をかばっている。磯島から切り替えた阿部が、高久保と村上の間を割って突っ込んできた。それでも、村上は全く動じない。こちらとしては、気が気でない。正直なところ、かばいすぎて差せないのではないかとも思っていたが、芸術的な差しで1着、そして高久保を2着に残した。
先行したラインの選手を残す意味を、村上が改めて教えてくれたような気がした。高久保もあそこまでかばってもらえれば、先行選手冥利に尽きるだろう。余裕のない追い込み選手が番手だったら、間違いなくもっと早く踏み、高久保は3着にも残っていなかったかもしれないと推測する。これができるのが、超一流の選手と言われる所以だろう。半年ぶりの実戦でここまでの競走ができるのだから、本当のトップクラスは凄いのだと、改めて感心したものだ。やはりタイトルを何個も獲っている選手は、違う。久々に「THE・競輪」を見させてもらった。
残念ながら、最終日の決勝は6着に敗れたが、予選、準決勝の2日間のレースを見れば、復調間近とみていいだろう。競走本数不足の関係でG1、G2はなかなか出場できないが、それでも村上の走りを、これからも楽しみにしている。
Text/Norikazu Iwai
Photo/Perfecta Navi編集部
※掲載写真は過去に別開催で撮影したものです。
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岩井範一
Perfecta Naviの競輪ライター