2022/02/16 (水) 17:07
久しぶりに、本当に久しぶりに脇本雄太の雄姿を奈良記念でみることができた。昨夏の東京五輪は期待されたものの、メダルには届かず。その後は中0日というハードスケジュールの中、G1オールスター競輪に参戦。状態が心配されたが、準優勝と結果を残した。しかし、東京五輪のメダルだけを追いかけてきた代償はあまりにも大きかった。
腸骨の疲労骨折。競輪選手にとって重要な骨盤の右大腿骨を痛め、日常生活にも影響がでるほどの大ケガ。世界的に見ても、ごく稀な症状だった。本人の心労は計り知れないところだが、脇本は持ち前の明るさと気力で復活を遂げたのである。昨年10月から長期欠場。正直、いきなりの記念開催では苦しいと思っていたが、筆者の予想を覆すスピーディーな走りを連日見せてくれた。脇本がバンクに戻ってきた喜びは、競輪ファンにとって何よりだったに違いない。
その奈良記念だが、競走得点がゼロだったため、初日は特選ではなく一次予選から。地元の三谷竜生が番手で、京都の小笹隼人が3番手。脇本は前を取って、赤板、打鐘、最終ホームは車間を空けての7番手。どこから仕掛けるのだろうかと思っていたら、最終1コーナーから動き出した。そして、動き出したと同時に他の選手が止まっている錯覚に陥るほどのスピード。三谷は何とか付いていったが、小笹は離れてしまう。小笹が弱いのではなく、脇本が強すぎたのだ。二次予選は8車立て。番手はグランプリチャンピオンの古性優作。赤板から一気に飛び出すと、古性を振り切って1着。画面越しからも、現地のファンの歓声が聞こえてきた。やはり、脇本は千両役者だ。
準決勝は三谷竜生を連れて、またもや赤板から発進。松浦悠士がインで粘り三谷と競り、番手を奪取。松浦の脚力を考えれば、抜かれてもおかしくないのだが、脇本は難なく押し切って3連勝。メディアには「本調子ではない」とのコメントを発していたが、どう見てもモノが違う印象だった。迎えた決勝は中四国勢が5人で脇本包囲網を敷いた。ただし、3日間の動きを見れば、例え1対8でも勝ってしまうのではないかと思っていた。
レースは予想通り、中四国勢が早めに先行。中団に吉田拓矢がいて、脇本と古性は8、9番手。この位置からでも前団を飲み込めるだろうと思ってみていたが。しかし、脇本は動かない、いや動けなかったように見えた。一度も仕掛けることなく、7着でゴール。何もできない脇本の姿を見たのは記憶にない。本人もだが、筆者も声を上げて落胆した。脇本に何が起こっていたのか知るよしもないが、ただただ残念であった。
勝手に敗因を考えてみても、結論はでない。だが、やはり身体がまだ元に戻っていなかったのだろう。勝ち上がりの段階では、戦う相手のレベルも違う。しかし決勝は目の色が変わって当然であろう。7着という結果に、脇本を責めるのはおかしい。彼が奈良バンクに姿を見せたときの感動は、言葉では言い表せないほどだった。帰ってきてくれただけで嬉しかった。さらに予選、準決勝を圧勝したのだから、それで十分だと思えたほど。ケガが完治しているのかは分からないが、骨盤周辺は完治が難しいとも聞いたことがある。
次はG1全日本選抜競輪だと思っていたら、出場できないと言う。これは、おかしいと考える。脇本は国を背負って五輪を戦い、その結果でケガに悩まされた。杓子定規でものを考える体質では、この業界の先行きが不安になる。特例を認めてもよかったのではないかと考えるのは筆者だけではないだろう。
Text/Norikazu Iwai
Photo/perfectanavi編集部(奈良競輪場にて)
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岩井範一
Perfecta Naviの競輪ライター