2022/01/27 (木) 17:04
犬伏湧也をご存知だろうか? 119期で26歳。身長こそ170㎝で決して大きくないが、胸囲は105cm。何より驚くのは、背筋力が200超の230キロいうこと。どっしりとして、軸がぶれないタイプなのだ。
この犬伏は、徳島の生光学園の野球部出身。甲子園出場こそないが、甲子園を狙える高校と言える。そこで中軸を担っていたのだから身体能力の高さが伺えよう。高校卒業後は、駒沢大学に進学したが、野球を諦め、この世界を目指すようになった。しかし、すぐに合格できるほど甘い世界ではない。適性受験すること3回目で、やっと合格。養成所時代は在所成績1位に君臨も、卒業記念レースは無傷で勝ち上がりながら決勝5着に終わった。苦労しただけに、勝負対する思いは他の選手とは違うのかも知れない。
デビュー後はトントン拍子に出世街道をまっしぐら。昨年11月にはS級へ特別昇班を果たした。S級2場所目の高知F1では、早くもS級初優勝。気持ちいい逃げと、パワフルなまくりは大器を予感させる逸材だ。野球で培ってきたものが、競輪でも生かされていると感じる。
そして犬伏の名前を一躍広めたのが、1月の大宮記念の準決勝だろう。自力の相手は深谷知広、坂井洋、松岡篤哉。最終ホームで坂井を叩いた犬伏は、スピードを緩めずアクセル全開の先行。坂井も一流レーサーであることは間違いないが、遅れを取る。そして深谷が後方から巻き返してくると、両者の壮絶なもがき合いは、ゴール寸前まで続いた。あの深谷に対して真っ向勝負を挑み、最後の最後まで粘った。これほどのつばぜり合いは、久しく見ていなかった。これが競輪の醍醐味、これぞ競輪。勝敗ではなく感動した。深谷を相手に、これほどのレースができる新人を初めて見た。
大宮記念の準決勝。4犬伏と1深谷が激しい自力戦を展開
結果は深谷が微差で3着。犬伏は4着に敗れて、決勝進出はならなかった。それでも負けて強しの印象を、全国の競輪ファンに植え付けたことは間違いないと断言できる。それだけ内容が濃い素晴らしいレースだった。知人の記者は「性格は素直で真面目」と、人間性に太鼓判を押した。目先の1勝も確かに大事だが、それ以上のもの、先を見据えていると感じた。
26日に終わった松山F1。決勝は、九州勢が二段駆けの態勢。犬伏は5番手からレースを組み立てた。案の定、九州勢は原口昌平が先行して、岩谷拓磨、坂本健太郎、井上昌己が続いていく。犬伏は最終ホームから一気に仕掛けると、後ろの山形一気はついていけず、単独で後続を千切る展開になる。だが、競輪は個々の力があっても一人では勝てない。援軍を失った犬伏は、岩谷以下に追いつかれ力尽き、4着でシリーズを終えた。勝負に勝って、レースで負けたということだろう。しかし、ファンを唸らせるレースができるのは強みでもある。まだまだトップレベルとの差はあるだろうが、順調に成長していってもらいたいと思う。
Text/Norikazu Iwai
(掲載写真:Perfecta Navi編集部)
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岩井範一
Perfecta Naviの競輪ライター