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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

失敗は前進への力 脇本雄太が過去のしくじり体験から学んだ事は!?

2022/03/13 (日) 18:00 28

失敗、それは人生の扉。誰もが避け得ない事態だが、その時、どうするか…。そもそも“失敗”という言葉をどうとらえているのか。脇本雄太も今の地点にたどり着くまでに、数々の失敗を経てきた。ただ気が付いたことは、その言葉が何を示しているのか、ということだった。(取材・構成:netkeirin編集部)

コロナ対策のため今回もリモートで取材を行った

何も出来なかった全日本選抜から学んだラインの生かし方

 今までで“これは失敗”というものはーー。この問いに対し脇本雄太は「全日本選抜の決勝ですね、高松の。ヒロユキ(村上博幸)さんが優勝した時のレースです」と答えた。近畿ラインから優勝者が出たレースだが…。2014年2月12日のこと。

「それはあくまでヒロユキさんが強かったから。僕自身はあのレースでは何もできなかった。全力で前に出ようとしたけど、前受けで踏み込んだ新田(祐大)さんが番手の(松岡)健介さんのとこで粘る形になったんですよ。あの時はラインとしての生かし方をわかっていなかった」

 脇本にとっての失敗の理由は、勝てなかったから…には依拠しない。ラインで、がある。「自分のテーマの一つで、ラインで決めるにはどうしたらいいか、があるんです。だから高松の失敗は自分の中で一番のものと思うんです」。現在の自分を形作るための失敗として、鮮明に覚えている。

 失敗の中では「ただ、落車の失敗だけは何も得られない」と苦笑いを浮かべる。2012年9月、前橋のオールスター決勝では「落車して村上(義弘)さんも巻き込んでいるんですよね。何かを考える時はいつも村上さんと一緒。何で失敗したかを考える時間がいっぱいありました」と、つらい思いもした。でも村上義弘がそばにいたことで、立ち直っていけた。

2012年オールスター決勝。負傷しながらゴールした(撮影:村越希世子)

 ここにも近畿の文化がある。仲間が失敗した時に「自分だと先行選手としての立場でアドバイスとか、話をしますね。自在選手の場合だと古性(優作)君がする、とか。マーク屋なら(南)修二さんが、とか。GIではよく見る光景なんです。ただちょっと近畿に先行選手が少なくなって最近オレの出番はないかな(苦笑)」と支え合っている。

近畿を引っ張る脇本選手(左)と古性優作選手(撮影:島尻譲)

 平素の失敗は…、「ありますよ!」。競輪ではレースを終えた選手を仲間たちが敢闘門に迎え、自転車を受け取る“自転車取り”という文化がある(現在はコロナ禍によって禁止中)。「ある時、睡眠調整に失敗して、仮眠を取ろうとしたんですよ、そしたら…」。うわ!! 目が覚めると自転車取りに行かないといけない先輩のレースが終わってしまっていた…。

「もう平謝りですよ。あっちゃならんことですから…」

 他にも細かい失敗は「選手になってからはそうないかな。でも高校生の時くらいは一般常識レベルで結構失敗してました」と、若干ボーっとしていた。日の丸を背負う脇本選手! というよりは、やはりワッキーでしかない時もある。

 海外遠征も最初の頃は苦労した。特に時差については「8、9時間差があるのはザラですからね。時差が合わせられてないと全く気持ちが入らないんです。30分後に走らないといけないとわかっていても全くなんです」と対応に苦慮した。経験を重ねるにつれ克服し、「日本の競輪にも生きているんですよ。そういうのが。精神状態を合わせるとか」と武器に変えた。

 ちょっと気になる海外遠征中のお酒については…。「ま、多少ね。(中川)誠一郎さんとはよく飲んでましたけど。お酒は飲んでも調整自体はしっかりしていたんで。それに1か月くらいじゃ体の状態は変わらない。よく言っているんですけどそこからは精神の状態が重要。メンタルを維持するためにお酒を飲むのは、よかったと思う。特に誠一郎さんはね(笑)」。張り詰めたナショナルチームという、日の丸を背負う集団。しかし、緊張だけでは苦しい。

「誠一郎さんに敬語をあまり使わないのも、ほぐす狙いもあるんですよ、実は。基本的にはダメですけど。チームなので全体の雰囲気をよくしないといけないから」

 真の狙いなのか後付けなのか…疑わしいところもあるが、先輩に対しじゃれ合い、和まし、そして中川の「オレ、10個上やぞ!!」の決めゼリフでチーム全体に温かい空気が訪れる。これが実は、大事。

強くなるためにフラットな上下関係が理想だが…

 日本的と言われる“上下関係”についても考えがある。ポイントだと考えているのは「下の人間が知識を持っていること」と話す。

「上下関係は、上の人が下の人に何かを教えるのには必要ですけど、練習とかには必要ない。ただ下の人が、やりたい、というだけでなくて知識を持って狙いを持って上の人に言わないと意味がない。何も考えずに主張するんじゃダメ。前提を間違わないことは大事」

 スポーツ選手として強くなるために“上下関係”は存在しない。今、その空気をワッキーは作り出している。「自分のところには色んな人から色んな会話が飛んでくるんですよ。上も下もなく、例えば平原(康多)さんや宿口(陽一)さんも。みんなが、一心、なんです。ボクというものを介して強くなっていければ」というフラットな空間がある。

 昨年6月に高松宮記念杯を制し、今年からS班になった宿口とは2月の奈良記念で同じ開催だった。久しぶりにふれあい「自分が年下ですけど、宿口さんはちゃんと聞いてくれて、それを素直に聞いて実践してくれていたんです。気づいたことがあったんで話したんですけど。そういう立ち居振る舞いだからこそ、強くなれるんだ」と感じたそうだ。

 ちょっと余談。そんな奈良記念の準決で脇本の番手の三谷竜生(34歳・奈良=101期)を松浦悠士(31歳・広島=98期)が飛ばすシーンがあった。松浦は記念初優勝を地元の広島で、三谷の番手でつかんだ歴史がある。「う〜ん、お世話になったとは言ってもね。勝つためには必要だったでしょう。だったら、やると思う。そうじゃないと竜生にも、お客さんにも失礼。ちょっと竜生にはかわいそうですけど(涙)」。

失敗は前へ進むための力に

 失敗を克服する一番の手段は何か。それは「一時期ね、近畿別線のガチンコ勝負で川村(晃司)さんにずっと勝てないことがあったんです。それでFIで負けてすぐかな、『向日町に合宿に行かせてください』ってお願いして、行かせてもらいました。行動に移せるのも重要。負けず嫌いもね(笑)」」という答えがある。失敗は、過程。次につなげてこそ、意味を持つ。

 奈良記念で復帰し、大宮FIは3連勝の完全V。しかし「思った以上に調子が上がっていない。ケガの痛みは、完治はしてないけど軽減されていて、どうというものではない」。やや歯切れが悪いのは「奈良の決勝みたいに綺麗にやられると、タテだけじゃ厳しいと感じた。自分の中で“変化”をどうやっていくか、この先ちょっとずつ考えないと。未知の領域に入りつつある」と思うところがあっての様子。

 もちろん、これも過程。奈良記念決勝の失敗は前進への力でしかなく“失敗”というものを全身で克服するのが生き様だ。久しぶりに宇都宮のGII「第6回ウィナーズカップ」(3月18〜21日)でビッグレースに復帰する。宇都宮の出走は「イナショー(稲川翔)さんが勝った高松宮記念杯以来でしょう。もう競輪場の構造も忘れちゃった。8年も経ってるんですよ! とにかくやれることをやるしかないです」も、楽しみでしかない。

競輪そのものや身体の変化に向き合いつつ前向きに競輪に挑む(撮影:島尻譲)

 競輪場にいるワッキーはやはり楽しそうだ。「やっぱり楽しまないとね! それに競輪は形態は変わりつつあるけど、面白さ、は変わっていない。それを伝えていきたいです」。そんなワッキーの最近の失敗は?

「あんまり妻と一緒にいてあげられてないかな(ポッ)。練習とか、開催もあって…。時々出掛けるくらいだけど、最近花粉症がきつくて…とか言って出なかったり…、これじゃ、ダメですね!!」

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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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