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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

自力で勝つこととラインで勝つことは全然違う、脇本雄太が抱える“番手の経験不足”の課題

2024/04/27 (土) 18:00 24

脇本雄太は3月取手競輪「第8回ウィナーズカップ(GII)」で久しぶりのビッグレース優勝を飾った。自力ではなく、窓場千加頼の番手で、3番手を古性優作が回る布陣だった。「ラインの力で勝てたことが」と今までと違う喜びを感じた。しかし、喜びよりも課題克服への意識も強く感じるレースだった。(取材・構成:netkeirin編集部)

脇本雄太(撮影:北山宏一)

ウィナーズカップにいたのは強気のチカヨリ

 窓場千加頼(32歳・京都=100期)とは3月取手「第8回ウィナーズカップ(GII)」の前の松山記念(金亀杯争覇戦)準決で同じレースだった。その時は「千加頼君が後ろを、ということだったので」と脇本雄太(34歳・福井=94期)が前を回った。窓場はレース後に「前で頑張ると言えなかった自分が悔しい」と唇を噛んだ。

 窓場はその悔しさをすぐに取手の戦いにぶつけ、決勝を前に脇本は「並びはどうなるのかな…と思ったけど、千加頼君が『前で頑張りたい』と。勝ち上がりを見ても付くことが自然と感じた。強気な走りをしていたので」と話すたくましさを見せていた。松山の時にはまだまだか…という感じもあったが、脇本としては「2月の岐阜の全日本選抜で寺崎(浩平)君と別線で走っていたでしょう。そこで何かは感じてました」というチカヨリの姿があった。

 決勝は前受けから突っ張る、という作戦。まず、Sを決めないといけない。1番車の脇本が前を取り切ることが、最初の仕事だった。が…。「Sは、頑張ったんですけどね(苦笑)」。他の選手にスパっと出られて脇本は圧倒的に立ち遅れてしまった。それでも古性優作(33歳・大阪=100期)が、ヒマワリのような明るさで飛び出していた。

 橙色のユニフォームがSを決めてくれたことで、窓場は敢然と突っ張り態勢に入った。北井佑季(34歳・神奈川=119期)が襲い掛かってきて、並走が続く。求められる番手の走り。「当たってきたら返そう、と考えていました。変に当たりに行くとか、慣れない動きはしないように」。冷静に窓場の後輪に集中しつつ、1角前で北井に頭をぶつけた。

「スタート遅すぎる!」と話す古性優作選手(写真提供:チャリ・ロト)

 そこに伊藤颯馬(25歳・沖縄=115期)が飛んできた。「スイッチしないといけない。コースが空けば、と北井君のところを見て」と伊藤後位に切り替えると、グイっと伸びて優勝を手にした。最後は余裕の抜け出しに見えたが「余裕はそんなになかったです。やっぱり番手の経験不足があるので。楽ではなかった」と大きく息をついた。

 自転車を降り、古性と2人で窓場を迎えた。3人の熱い空間。「ありがとう、って千加頼君に言いに行ったら、古性君から『スタート遅すぎる!』って(苦笑)。それで、ゴメン!って(笑)。ハハハ、まあ、事実ですしね」

自力で勝った時とラインで勝った時は全然違う

 スタートが遅かったのは紛れもない事実で、課題のひとつだ。これまで「ボク自身は初手の並びはどこでも良かったので」と前受けにこだわることもなく、Sも必要なかった。しかし「ラインとして動く時にやらないといけない。取れる時はしっかり取れるように」とスタンディング技術も磨いていく。

 ずっと先頭を走り続け、脇本の後ろの選手が優勝するシーンが多くあった。その先に、脇本は自らの力で優勝を何度もつかみ取ってきた。今回は近畿の後輩の頑張りに支えられての優勝ーー。

自力で勝った時と全然違う嬉しさがある(撮影:北山宏一)

「ラインのおかげで優勝できたのがうれしい。自力で勝った時と全然違う。数えきれないほど前で走ってきたし、先行選手の気持ちに対する汲み取り方もわかっている」

 もちろん「レース中には、古性君が動いてくれているな…とはわかっていたけど、後で見たら、あんなにやってくれていたなんて」と3番手の仕事人への感謝も尽きない。だからこそ「優勝はできたけど未熟さはたくさんあった」と表情を引き締める。「感謝しつつ、課題を」と、よりラインに貢献できる選手を目指していく。

番手を主張するべき選手にならないといけない

自分に足りないものはまだまだある(撮影:北山宏一)

 緊張感も責任感も増していく。ひとつ。ちょっと気になるのは、窓場ー古性ー脇本、で並ぶケースはありえたのか…ということ。あの決勝戦の時点では、古性が番手の方が隙のないラインだった可能性もある。

「番手発進がなければ、古性君が番手の方が良かったでしょう。純粋に先行選手との関係ですね。ラインの意味合いをどう取るか。ライン3人で決める、という狙いだったら古性君が番手の方がいい。ボクとしてはテクニックを付けて、そういう場合でも番手を主張するべき選手にならないといけない」

 自力選手には違いないので「ボクが先頭の方が3人で決まると考えれば、先頭です」の覚悟は変わらない。

 激熱な体験をした取手の4日間だったが、直前には首のヘルニアが判明していた。手、足のシビレは依然として続いている。現在は「治療に通っている段階」で「無理はできない」。だが原因の一つがわかったこともあり「手のシビレの方は少しずつですが良くなってきている」とほんの少しだが前進している。

 腰の持病は変わらず「足の方は良くなったり悪くなったり」が現実だ。今の体でできることをやるしかない。古性とともに静岡に行き、許可を得て250バンクでトレーニングを行った。最善のトレーニングを行い、埋めていく。また、「古性君にも足りないところがある。すごくいい経験になったと思う」と、仲間の成長も見越していた。

 古性は今年に入り「周りの成長がすごくて、自分は取り残されている」と何度も話している。そんな古性に対し「今回の合宿がきっかけになればいいな」。穏やかな視線を向けつつ、脅威に感じる部分もある。

古性優作選手は仲間でもありライバルでもある(photo by Shimajoe)

「古性君のヨコのテクニックにタテが身に付いたら、手がつけられない!あのヨコの技術は僕には身に付かないので!古性君がタテの吸収をすれば…。ハハハ」

 古性は仲間でありライバル。ライバルの存在はどの世界でも大きい。

みんなが良くなることが競輪界が盛り上がる近道

 平原康多(41歳・埼玉=87期)ともつながりがある。先だっては「妻がやっているラジオの仕事があって、競輪やプライベートの話をしてました。その後、平原さんと食事も一緒にしました」と親交を温めた。

 平原も近年は度重なる故障に襲われている。「平原さんも体のメンテナンスで難しいところに立っていると思うんです。ボクの経験上、こうしたら…というアドバイスはしました。ボク自身もケガは多かったので」。平原も多くの意見を取り入れるタイプで、模索に次ぐ模索を続けている。ただし、簡単な答えはない。

「体の大きさが違えば、どこに負担がかかるかも変わるんです。腰なのか膝なのか、首なのか」

 とにかく脇本としては自分の経験を惜しみなく伝えることが、自らの立場、責任と感じている。「みんなに話せることは話していて、通っているクリニックなんか、みんなが通うからボクが予約取れなくなって!(笑)。まぁみんなが良くなってくれることが競輪界の盛り上がりにつながるので」。41歳の皿屋豊(三重=111期)もその1人だそうで「皿屋さんの体のメンテナンスは充実していると思う。強いです!」と喜ぶものである。

メンタルが整わなかったらテクニックもクソもない

弟子の岸田剛選手(photo by Shimajoe)

 弟子も増え、「福井の練習グループは8人くらいになったのかな。サポートを考える年齢になっているので」と1人の選手としてだけではない道も進んでいる。岸田剛(25歳・福井=121期)は3月上旬に地元の福井でS級への特進を決めた。ただし、昇級後の3場所は苦戦が目立つ。

「トレーニングは強いんですけど、レースで出ていない。トレーニングでは古性君と遜色ないくらいですから。それに対してレースが弱すぎる」

 重要なのは、メンタル。脇本がずっと訴えてきている部分だ。心技体、と言われるが「8割メンタル。メンタルが整わなかったらテクニックもクソもない」と断言する。やはり「古性君は何をするにも恐れてないから強い。村上(義弘)さんも練習のタイムは出なくてもレースでは強い。そういうことです」という側面がある。

 戦友の三谷将太(38歳・奈良=92期)もそちらかと思われるものの「いや、実は将太はトレーニング強いんですよ!僕より強いところもある。トレチャン(トレーニングチャンピオン)なんですよ」という。「気持ちが出ているのと、発揮されるかは違う。気合が入っているのと、メンタルは違う」。将太は、将太だ…。

 競輪という複雑さを極める戦い。「気合は、メンタルを引き出すための気合。ボクは練習に対するものは理屈で考えますけど、本番に対するものは気持ちだと思っています」。五輪という究極の舞台を目指し、戦った経験がつながっている。

 レースに向けて心を整えること、そして力を発揮すること、の大事さを誰よりも知っている。「緊張し過ぎると思考が回らなくなる。緊張していないと、周りは見えても力は入らない。緊張していないのはマイナスしかない」

 肉体的には、わかりやすい技術向上のヒントも持っている。

250バンクはコーナリングが上手くなる

GI初制覇を成し遂げた地で新たな戦いが始まる(撮影:北山宏一)

 ポイントはコーナリング、テクニックの向上だという。小回りでカントのある形状なので「体の倒し方、テクニックがメチャクチャ必要なんです。250バンクを綺麗に走れれば、どこの競輪場でもスピードに乗せていけます。コーナーの時の不安材料がなくなるので、それをやるのとやらないとでは全然違います」と効能を訴える。なかなか機会は作りづらいかもしれないが、練習方法のひとつとして重要だという。

 西武園記念は初日出走後に体の異常に耐え切れず、2日目以降を途中欠場という形になってしまい、ダービーも欠場と、また不安な時間を過ごすことになってしまった。まずはもう一度、体のメンテナンスに力を入れて復帰を目指す。

 7月には福井記念(不死鳥杯)もあり「自分たちのグループも多く出られると思う。岸田君もそういう舞台を経験すれば…」。自身の体調を整え、この夏は、弟子の番手で、脇本も脇本で成長した姿を見せる。


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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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