2022/04/25 (月) 18:00 30
競輪選手として必要な能力とは何か。競輪では、勝つために戦うために何が必要なのか。そして、それを生み出すものは何なのか。今回は競輪選手脇本雄太の奥に潜む“ゲーマー・ワッキー”としての一面をのぞかせる分析がある。競輪の楽しみ方は、ここにもある。(取材・構成:netkeirin編集部)
競輪選手をパラメータ分析するとどうなるのか。ダッシュ型とか、地脚型とかの表現が定型としてあるが…。
「あのですね、ダッシュといっても種類があるんです」。右手の中指で、かけていないはずのメガネをずり上げる(昔はかけていたが)。「例えばオレと新田さん。最高速度は一緒ですが、そこに到達するまでの時間が新田さんの方が圧倒的に早い」。ではその力は、新田祐大(36歳・福島=90期)を10とするなら?
「オレは6~7かな。S級で戦っている選手には、オレより上の選手はたくさんいる。自分は最高速度からの持久力で勝負しています。でも、ですね…。それを出せるかっていう部分があるので、簡単にダッシュを数値化するだけじゃ意味がないんですよ」
1 最高速度
2 ダッシュといっても瞬発力、加速の部分
3 持久力
単純な脚力の項目でいえば上記の3つという。
「読み、そして展開への対応力、それにね…。自力選手、先行選手を表現するのに大事なものがあるんですよ。簡単に言えば先行できるのか、ってこと。警戒された時でも先行できるのか、この力、う〜ん何ていうんでしょうね」。それを突破力と表現し、また「強引さ、これですね。オレはこれがズバ抜けているんですよ」。選手の強さを表現する時に、ただのタイムではなく、強さに直結するシステムを思い描く。
「オレをグラフにしたら、とんでもなくいびつになると思いますよ(笑)。読みとか、やってないし(笑)」
バランスが取れるのはやはり松浦悠士(31歳・広島=98期)の模様だ。「剛のワキモト、柔のマツウラ。松浦は柔軟で、しかもラインの力を引き出せるんですよね」。戦国シミュレーションゲームや育成系のゲームでは、基準のデータの他に特殊能力というシステムも備わる。
野球ゲームなら、流し打ち、強肩、連投など、戦国ゲームでは、外交、落石、仙術…という風に個人の特技を持つ。「あれね、小倉さんならハンドル投げ、古性は引っこ抜き、とかね。平原さんは中団取り、持ってますね」。複雑に一つのレースの中で、数値が変動し、技が発動され、展開が変わる。競輪。
ラインの力を引き出すといえば村上義弘(47歳・京都=73期)だ。
村上とラインを組めば「みんなの力がアップしますね。でもそういうのは村上さんと、松浦くらいかな…。ただ、人間だし何度も連係していくと信頼関係ができてきて、この人と一緒なら頑張ろうとか、やっぱりあるんですよ。相性、ってのも大事ですね」と8ビットの機材では及ばないステージに進んでいく。
先行選手と番手選手は分けた方がいいと続ける。「こういう言い方はあれかもしれないけど、番手選手のステータスを作るなら"殺気”、この項目が必要ですね」。ワッキーがレースを走ってきて感じたものこそが、競輪選手の実像。競輪選手の能力とは何か、と言われたら感じてきたもの、になる。
リアルだ。冒頭でダッシュにも色々ある、という話は追い込み選手の能力に影響する。「人によって全然違うので、付きやすい、付きづらい、があるんですよ」。だからこそ、すべてのレースで一様の力を発揮できるかどうか、に及ぶ。それが、競輪。誰の後ろでもきちんと力を発揮できるわけではないのだ。そんな人はいる?
「(佐藤)慎太郎さんだけじゃないかな…。後、全盛期の(稲川)翔君。成田(和也)さんも、そうだったかな」
それに自力選手でも人の後ろになるケースがある。「郡司(浩平)なんかは自力だと安定して強いけど、人の後ろだとどうなのってことがある。深谷(知広)の後ろだと抜群だけど」。スーパーファミコンではなく、スーパーコンピューターが必要だ。突き詰めるのが、ワッキー。悪魔的だ。
とりあえず、2人。先行選手・脇本雄太と番手選手・佐藤慎太郎を表現してもらおう。
勘?「勘です。番手を走る人に聞いたことがあって、ブロックがあるでしょう、あの時、勘らしいんですよ」。勘で動くのは危なくないか…。「いや、経験も含めてでしょうけど、このスピード感ならこの感じで来るから、こんな感じでブロックする。半分くらいは勘でやっているって聞いたことあるんですよ」。究極の世界、全力で自転車を70キロのスピードで走りながらの戦い。考えるのではなく、体に刻まれたものを頼りに走っている。
相性に関しては「波長」の分類わけが必要か。波長が近ければ持つ数値を発揮しやすくなると考えてみよう。村上義弘は「魂波長」を持つので、全員のパラメータが10%増す。特技のひとつだろう。
現実にちょっと戻ろう。宇都宮のウィナーズカップと玉野記念を走ってみて。「何か重要なものを感じたって考えれば、玉野の初日。リスクを取るということに関してつかめたものがある」。東京五輪後、またケガをしてから復帰後ーー。
「先行でもたない、というリスクを負えなかった」
出てしまえば何とかなる、それだけの状態、またそういうメンバー構成ならばいい。だが敵も敵。人気にもこたえないといけない。抱えているものは多いが、「そのリスクの取り方がつかめた」という。
体の状態については「もう絶好調と口にすることはないと思う。どんな時でも普通。東京五輪が完璧すぎて、あれが絶好調。もちろん、またそうなれるように努力はしていくんですけど、いや〜」。現在は普通を作り続けることから、の作業になっている。
今後は5月にいわき平競輪場で開催されるダービーが大きな目標だ。「予選スタートだし、最初からかなり張り詰めると思う」。高松宮記念杯は出走本数が不足して出場できない。ケガの時期と地区プロが重なったため、全プロに出場できず寬仁親王牌も走れない。
ファンサイドからすれば五輪代表だし何とかならないの!? という声もある。「いや、そういうのに抗う考えは自分にはないです。走れるところを、勝負します」。ワッキーのストーリーは、またこれから始まるばかりなのか。
レースもそうだが、競輪選手をグラフ化し、それがこの先どうなるのか…。「オレ監修の競輪ゲーム? ないない! やんない!」。待ち望まれる競輪育成シミュレーションゲーム、「ワキ娘」って怒られるか…。
脇本雄太
Yuta Wakimoto
脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。