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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

「椅子から立てない」動かない体と戦い続ける脇本雄太、ダービー決勝が終わった時に真っ先に思ったことは…

2024/05/24 (金) 18:00 46

4月20日、西武園記念の初日特選を走った脇本雄太は9着。そして、2日目以降を欠場となってしまった。ボロボロの肉体に何がまた起きていたのか。いわき平「第78回日本選手権競輪(GI)」と武雄記念(大楠賞争奪戦)も欠場となり、今、その体は…。ダービーを制した平原康多の姿を見て、何を思ったのか。

脇本雄太(撮影:北山宏一)

初日のレース後椅子から立てない…またも襲った痛み

 脇本雄太(35歳・福井=94期)の傷ついた体に、またも異変が起きた。西武園は出場したものの、「前検日の前日に急に」痛みに襲われた。開催直前でもあり「どうしようか悩んで走ったけど、初日のレース後、椅子から立てなくなってしまった」と振り返る。動かない体、とまた向き合うことになる。

 医者の診断では「腰椎の靭帯損傷ということでした。断裂までいってなくて損傷。症状自体は重くはない」というが、これまでのケガが重すぎることもある。「腸骨骨折よりははるかにマシ。高知の全プロは出場予定です」と笑顔も見せるが、そもそもそのケガも治り切ってはいない。

 ダービーも欠場を余儀なくされた。試練ばかり。ただいつものように「こればかりはしようがない。できることをやるしかないんで」と手を尽くし、治療に当たっている。とにかく「首だったり、腰だったり、肩甲骨は完全に分離しているし、肩鎖関節の脱臼も…」と治さないといけないところばかりなのだ。

外から観戦したダービー「リーチか…」

ダービー11R決勝戦(撮影:北山宏一)

 いわき平ダービーは外から観戦。もちろん、ただ眺めているわけではなかった。「僕自身、いわき平の中身もすべて知っていてですが、全体的にタイムが遅かったな、と感じました。テレビでは風速2、3mくらいでしたが、それ以上の感じでみんなきついのかなという印象を受けました」。先行選手が苦しむレースに、現場の様子が浮かんだ。

 決勝出場選手が決まると「清水(裕友)君のチャンスかな、って思いました。ダービーとの相性がいいでしょう。場所を問わず、大会との相性はあると思っているので、清水君がダービーに縁を持っている」と、清水に流れを感じたという。そして、決勝が終わった時に真っ先に思ったことは。

グランドスラムにリーチがかかった平原康多(撮影:北山宏一)

「リーチか…」

 雀卓を囲んでいて、誰かがリーチ棒を…ではない。平原康多(41歳・埼玉=87期)の優勝で、「リーチか…」。平原はダービーを制したことで、グランドスラムに残すところオールスター競輪のみとなったこと、それが頭に浮かんだのだ。

「敵ですけど、仲のいい選手の1人して、古性君(が優勝する)の次にうれしかった。僕以上に落車して苦しんでいると思ってましたから。ウィナーズカップの後にあった時も、まだ苦しそうな感じでしたよ」

 関東勢が2つに分かれ「その時のめぐり合わせなんでしょうね。平原さんとしては展開やメンバーに左右されやすい中で、あの優勝」。戦う相手だが、お祝いのメッセージを送るのか気になる所でもある。数多くのビッグV経験者は語る。

「送ってないです。獲ったことがあるからわかるんですけど、本当にみんなから来るんですよ、お祝いのメッセージが。僕としては直接会った時に言おうと思っています」

 お祝いのメッセージが来るのはうれしいことだが、あまりにも…ということがあるという。「グランプリを勝った時はすごかったです。同郷の選手たちや関係する人たちや、対応するだけで2時間くらいかかりました(笑)」。こうした事情を知る人たちは「おめでとう、とかの文章の後に、返信不要、って入れてくれるんです(笑)」

オリオン賞で深谷知広と夢のダッグ!?

まともに走れていないなかでの中間発表2位に戸惑いも(撮影:北山宏一)

 しかし、のんびりとはしていられない。復帰を見据え、そしてこれからの戦いがある。脇本としては「正直、ここから6日制5走のGIが続くので、それが問題」と戦える体の準備が重要になる。心の面でももどかしいことがある。8月平塚オールスター競輪のファン投票の中間発表で2位だった。

「自分が2位でいいのか…って。今年まともに走れてませんし。ウィナーズカップは優勝できたけど、納得できないレースも多い。それに、挽回したい気持ちもあるけど、ケガもあって…」

 驚きの高順位だった。性格的に順位は気にしないというが、1位に選ばれた時の心境はどうだったのか。「うれしいよりも、感謝という気持ちでした」。そして襲い掛かってきたものがあるという。

「それにかかるプレッシャーがとてつもないんです。それだけ期待されているということだし、見られている中で応えないといけない」

 ファンからの支持は責任に直結する。ドリームレースで時々見られるのが、この人がこの人にマークしては面白い…というケースだが「自分の走りで選ばれたのだから」と、特別な連係をすることは少ない。ドリーム、夢の一戦…、ワッキーと深谷の連係は、夢ではないか?

「僕としては全然いいですよ。深谷君は番手の経験を積んで、十分テクもあるし、追走もうまい。ヨコも弱くない。うらやましい!」

 古性優作(33歳・大阪=100期)がいるので実現は今後もなさそうだが、ファンはちょっと見てみたい。「そうだな〜、古性君が落ちることはないし、きっと俺が先に落ちていきますからね。よし、歳を取ってオリオン賞で深谷君と、ワハハ!!」

食事は6時間前、カフェインは4時間前

計りまで持ち歩いている寺崎浩平(撮影:北山宏一)

 ファンからの質問で、「例えば12R16時30分出走だった場合、お昼ご飯は何時に食べますか?」という現実的なものが送られてきた。お昼ご飯の時間は「地区にも、個人にもよるんですが近畿は基本的に10時に食べますね」とのこと。脇本個人としても、厳密に考えている。

「ナショナルチームの栄養士の教えを参考にしています。レースの前、6時間は空けたい。だから16時30分発走なら10時30分までには食べ終える。あとはゼリーとかの捕食で調整します」

 昼を取らなければ「集中できないと思う」。また過去にはレース後にもどしてしまうこともあったが、その時は「カフェインの取り方を分かっていなかった。緊張に対するカフェインの取り方がよくなかった」と振り返る。現在では「4時間はカフェインを取らないようにしています。これは完全に個人差があって、人によってバラバラ。逆算して取っている人もいますよ」と知識も得て、自身で対応している。

 とはいえ、ワッキーはワッキー。「まあ、お菓子とかもちょっとは…」というが、身近にヤバい奴がいるという。

「寺崎(浩平)は計りを持っているんですよ。サプリメントにもこだわっていて、時間や分量をしっかり計算している。俺はそこまでこだわるのは性に合わない」

ファン投票の中間発表で1位だった男「ラジオって通信機器ですかね?」

今の時代にラジオにハマる古性優作(撮影:北山宏一)

 また、発走までのルーティンにも質問が届いた。かつては発走機で体を叩いて鼓舞することもあったが、気持ちが入り過ぎる、と控えめになった。顔見せから後は、決めている。

「競輪場によって差はあっても、顔見せから後に15分未満になることはない。15分前にタイヤに空気を入れて、ストレッチしてオイルを塗ります。オイルを塗る時にビニール手袋を大体みんな使うんですが、僕は使わない。手袋を準備するのがめんどくさいから(笑)。なので、オイルを塗った後、手を洗ってうがいして。それからシューズを履いて、行きたくなくてもトイレに行きます。最後にヘルメットをかぶって」

 よく音楽を聴いている選手がいるが、「僕も聴いてますよ。ヘルメットをかぶる時には外しますが…、といえば、そう!」。変な奴がいるという。

「ヒロト(清水裕友)が発走ギリギリまで聴いているんですよ。ヘルメットをかぶって、それでイヤホンを付けて、って。ヘルメットをかぶっているから『付けづらくね!?』と思うけど…」

 清水がヘルメットをかぶった後にどうやってイヤホンを付けているのか、は今後のテーマだ。

 そうこうしていると、いつも近くにいる男が「最近、ラジオにハマっているんですよ!今の時代にラジオって! ネットラジオとか、見るラジオとか言っている時代ですよ。ラジオは俺には理解できない。それに、『ラジオって通信機器ですかね』って聞いてきて、テレビが見られるんだからラジオなんて大丈夫だろ!って(笑)。一方的に受信しているだけなんだから、もう!」

 ファン投票の中間発表で1位だった男です。

寝返りの時が危ない…とにかく固定して寝るように意識

全プロ記念競輪では新車できっかけを掴めるか(撮影:北山宏一)

 しかし、体は痛む。いまだに「寝返りの時が危ない」という。「腸骨の骨折は痛みがまだあって、普段の生活はいいんですが、寝返りで右のおしりが下になった時に来るんです。右は肩甲骨も折れているし…」。夜中、無意識で体が動いて激痛が走り…。「とにかく固定して寝られるように意識するしかないんです」

 昔のスポコン漫画で寝返りを打たない訓練のため、抜いた刀を体の周りに何本も立てておく、というものがあったが…。

「死ぬ! 死んじゃうよ!」

 肩甲骨の骨折はよほど厳しいもので「まともな睡眠も取れなかった。それに車のハンドルを持てないのが」と影響は大きかった。ただ、右手を添えられるようになってからは運転も大丈夫。「ちょうど僕の車は左手だけでウインカー、ワイパー、ライトが使えるんです。左側をやったら、終わります」

 高知の全プロ記念で元気な姿を…。高知の前には近畿での全体合宿を行う。「そこで新車の感触がよければ、高知でも使おうと思っています」。何かしらのきっかけでも、プラスに働けば…。以前のエントリーで古性との250バンクでの合宿の話があったが、古性はその合宿が「とてもいい経験になりました」と悩みを吹き飛ばすきっかけになったと話していた。

「古性君にとって何かの示唆になってくれていたらうれしいですね。でも、自分に対しての示唆とかヒントが…、それがなかなか…」


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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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