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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

命を削りながら走る脇本雄太「勝ちたい意欲がなくなったら引退するんだろうな」、そして対戦相手で嫌な選手は?

2024/06/26 (水) 18:00 40

脇本雄太は岸和田競輪場で開催された「第75回高松宮記念杯(GI)」(6月11〜16日)で6日間の激闘を終えた。先行日本一、の実力を見せつけての決勝進出。決勝は神奈川勢に屈したものの、ケガ、病気とアクシデント続きだった今年にあって、ワッキーらしさを見せてくれた。「復活した」と言えるのか…現状を語る。

不安も抱えながらもようやくスタートラインに立てた(撮影:北山宏一)

「自分としては良くない」手応えを感じられない日々

 4月西武園記念初日特選を走ったのち、椅子から立てなくなって途中欠場となり、欠場が続いていた。ようやく5月高知「全プロ記念競輪」で戦列に復帰。ただし、開催前には「ずっとちょこちょこと練習はしていたけど、大阪で練習する機会があって参加して、でも不安は抱えている状態」と手応えはつかめていなかった。初日は2着。スピードは戻っているようだったが「自分としては全然よくない」としか感じられなかった。

 勝ち上がったスーパープロピストレーサー賞では同県の後輩・寺崎浩平に前を任せた。「寺崎君には勝ちにこだわってもらいたいと思ってました。後ろが俺だからというのはもう…ね」。寺崎は中団を確保してのまくり追い込み勝負で「いずれかはワンツーを、というのを目指しているし、あの走りで良かった。ただ、周りの人がどう評価するというのもありますからね」。可愛い後輩・寺崎と模索する日々もある。

ほぼ気持ちで走り切った宮記念杯

 6月11日からは岸和田競輪の「第75回高松宮記念杯競輪」が控えていた。近畿地区の大事なGⅠだ。「間に合うか微妙なところで、間に合ったらいいな…」。6日間で5走する過酷なシリーズ。2日目からの登場だったが、1走目はいいところなく7着に終わった。

「腰の感じが治ってなく不安なところがあって、それが表に出た」

 厳しいか…と思われたものの、歴戦の猛者だった。立て直した。「ほぼほぼ気持ちですね。頭ではわかっていても体が反応してくれなかったんですが」。2走目は早めに主導権を握り、ハイペースで駆け抜けた。気持ち奮い立たせて、体を酷使した。

S級 西日本準決勝では南修二と連係(撮影:北山宏一)

 準決は南修二と2車だったが、打鐘前から動いてワンツーを決めた。3番手に入った犬伏湧也のまくりを許さなかった。レース前は「犬伏君が先頭に立って8番手になるのはよくない、と思ってました」と想定。しかし「初手が理想的な形で、あまり考えずに行けるな、と」。自分のタイミングをつかむだけだった。

 決勝は古性優作と南と3車で挑んだ。並びは「僕がそうしたいと意思表示して決まった感じですね。相手がどう並ぶとかも関係なく」決まった。神奈川3車の二段駆けが、見えていた。

「勝負しないといけないと思っていたんですが、許してくれなかったですね(苦笑)。気持ち早めに叩かないとダメと思っていて、あれ以上早いと僕も持たなくなるので」

 残り2周の地点で制圧を図ったものの、郡司浩平の気迫の走りが上回った。北井佑季がGI初優勝を飾り、今年前半のGI3つの内、2つを南関が手にした。

決勝では郡司浩平の気迫の走りが上回った(撮影:北山宏一)

「南関が盛り返してきたというのは、近畿だけではなく他の地区も感じているでしょうね。でも僕自身としてはマイペースで行くしかない。とにかく僕自身の状態を良くしていかないといけないので」

 高松宮記念杯の走りは、復活という言葉にはまだ遠い。「ようやくスタートラインに立てた」が真実の声だ。「ここからしっかり練習とケアをどういうバランスでやっていくか、それを探りながらやっていくことになります」。肉体との相談をおろそかにできない事実は変わらない。

 そんな中で白虎賞は近畿7人が三分しての戦いになった。特別選手紹介では、「古性君が発端となって」三谷将太をイジって盛り上げるという、ファン大爆笑の流れもあった。「今年の奈良記念の初日に僕と古性君が別線で、東口(善朋)さんが即決で古性君のラインを選んだんですよね。そんなところからも始まってましたね(笑)」。近畿別線はラインの先頭になる者だけでなく、後ろの選手たちも大変なのだ。

舟券の買い始めのきっかけはあのライバル選手

 6月5日には住之江ボートで配信番組の出演やトークショー、表彰式のプレゼンターも務めた。ギャンブル全般については「僕自身博才はないので」というのが自己診断。「楽しんでやろうと思って、実際に楽しめました」と1日を堪能した。

 ボートレース界とは「三国の萩原(秀人)」さんが競輪好きで交流があって、ゲーム好きでつながっている人もいますよ」という。始まりは「市田(佳寿浩・引退)さんがKEIRINグランプリに出場した時に、中島孝平さんと交流会を持ってそこから。ただその時は舟券を買おうとかはなかったんです」。しかし…。

深谷知広からの勧誘で舟券を買い始めた(撮影:北山宏一)

「フカヤですよ」

 舟券に関しては「買い始めのタイミングは、深谷(知広)が『やろうよ』って。仲間を作ろうとしたんでしょうね」と、まさかのライバルからの勧誘だった。それでも「本場に行けたのは住之江と三国だけ。練習があるのでどうしても休みを作りづらい。他のボートレース場にも行きたいんですけどね」というのが実情で、時間がない中、何か新しい企画などがあればと考えてもいる。

 競輪とボートレースについては「共通点が多いなと感じました。住之江には最終日に行ったので、優勝戦の選手紹介が終わってからの顔つきの変化とか、競輪と同じだなと感じました。時間の終わり方とかも同じだし」。気になったのは「競輪は1日走っても1回ですが、ボートは2回ある。その違いとか聞いてみたりしました」。トークショーでは、驚きもあった。

「優勝戦に乗った選手で僕のことを知っている人たちがいて、松井繁さんも僕のことを知ってくれていたんですよ!」

 公営競技史上で最多の獲得賞金を誇る、あの松井繁だ。「交流の場とかはないけど、ボート界のレジェンドでリスペクトしている人ですから」とうれしかった。そして、優勝戦は松井繁狙いの作戦で勝負した。

 近年のワッキーは麻雀の世界との交流で、競輪界にも盛り上がりを、と活動している。「僕はインドアちっくですが、どこでも手を出せるんで。ボート好きも競輪界にはいっぱいいるんで、イベントとかできたら面白いですね。3人。フカヤ、マツウラ、ワキモトで! 松浦(悠士)はボートだけじゃなくて全部やれますからね」という公営競技界全体のエースでもある。

競輪選手は命を削って走っている

競輪に対して楽しく向き合ったら負ける(撮影:北山宏一)

質問が届いている。“満身創痍でも、なおペダルを踏もうとするその原動力は何ですか?”。少し、時間がある。

「何なんでしょうね…」

 競輪そのものへの思いと言ってもいい。回答は「純粋にレースに対して勝ちたい意欲があるから、ですかね。選手同士で、特に同型の自力選手に出るんですが、コイツにだけは負けたくないな、と。ずっとそれでやってきているんで。これがなくなったら引退するんだろうな、と思います」。

 ワッキーは、続ける。「競輪に対して楽しく向き合ったら、負ける、と思うんです。楽しまない」。そういう鬼たちが、あふれている。

「今のGI戦線で着を度外視して、楽しんで、という選手はいない。命を削って走っている。古性君なんか、あんなスレスレのところを行くなんてすごいでしょう。最後まで負けたくないという気持ちで走っていますし」

 プロであることの使命感や、勝負師としてのド根性が、体のど真ん中にある。高い精神性を誇っている。また、プロとしての技術は無論、卓越している。

ヨシタク、眞杉、平原さんは相手して嫌だな…

スタートの挙動で相手の戦法がわかる(撮影:北山宏一)

 ある能力をワッキーは身につけているという。「スタートの挙動でどうしようとしてくるか、わかります」。パッと、わかるという。

「例えば、後ろ攻めでふたするだろうな、とかスタートの時にわかります。その挙動を見て、なるほど…、と思ってますよ。スタートした時に、そうか、君たちはこういう感じなんだな…と。デビューしてすぐは分からないと思うけど、GIとかで戦っている回数も違うのでわかるようになります。」

 相手も相手。ちょっとしたテクを混ぜてくる。「最近あるのは、思いっきり出て、やめる、というのですね。岸和田の2走目もあったかな」。ワッキーはそうした小細工とは無縁で生きてきた。

「自分の中ではちょこちょこやっているつもりなんですが、中団で引かない、とか普通の人は普通にやるレベルのことかな。小細工をしないイコールレースに対する力の入れ方というか、自信の表れ、と思ってください」

 色んなうまさ、技術が競輪にはあるだけだが「松浦はそういうのを含んでいますよ。でも最近は前がいて、犬伏がそれをできていない、みたいなのもありますよね」と分析している。そして思い浮かぶのはあの地区。

戦法の幅を感じる吉田拓矢(撮影:北山宏一)

「ヨシタク(吉田拓矢)がうまいイメージがありますね。眞杉(匠)も。それにもちろん、平原(康多)さん。先行も織り交ざって、相手して嫌だな、と。戦法の幅を感じます」

 いろんな戦術を織り交ぜ、高いレベルでの勝負をしているのが関東地区の印象で「平原さん、武田(豊樹)さんが作ってきたものなのかな」と感じている。そして今では「深谷もそっちよりになってきた、深谷は段違いでうまいですから。この前、坂井洋を相手に位置を取っていたでしょう。坂井相手に普通に位置を取れる。お互い歳を取って分岐点だけど、僕だけ置いていかれている…」と嫉妬の眼差しを真っすぐ送る。

 脇本雄太という、輪史一の先行選手と称される男。高松宮記念杯の戦い。あれだけの先行は、他の選手の追随を今でも許さない。

「自分の中では頑張ってやった方だと思いますよ。先行選手では一番歳くってて一番先行して…」

 高松宮記念杯の後は「1日休んで、ちょっと練習して…とやっていたら結構きつかった。もう1日休んでもよかったかな」と疲労は困憊だ。取手記念の戦いはまた、体と相談しながらになる。


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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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