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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

脇本雄太が見ている世界は!? 復帰戦を前に仲間、ライバル、若手について語る

2022/01/30 (日) 18:00 28

脇本雄太の考える競輪の全体像とは…。ラインを組んだ仲間、しのぎを削ってきたライバル、これからの若者たちへの思いを紐解くことで、ワッキーの見ている世界が明らかになる。自身にはないすごさを持つあの先輩、そして因縁のライバルとは、誰なのか。(取材・構成:netkeirin編集部)

Zoomで行われた取材。脇本雄太選手がラインに対する考えなど競輪について幅広く語った

ラインは大事…だけど緩めたりすることはありません

 多種多様な選手が集い、日々、勝利を目指して競い合っている。レースがなければ、トレーニングの毎日。「でもね、競輪はメンタルスポーツなんですよ」。爆発しそうな太もも、強靭でしなやかな肉体こそが武器と思える競輪だが、脇本雄太が見ている世界はそこにとどまらない。何が見えているのか、他の選手への思いから、ほどいていこう。

 ラインを組んで衝撃だった選手は?

「衝撃っていう感じではないですけど。自分の中では、付いてもらった時にどれだけ安心感があるか、が大事なんです」。数え切れないほどの選手たちとラインを組んで戦ってきた。しかし、一人だけ、やはり、すごい。

「村上(義弘)さんと一緒に走る時に、最初のころは、こうしたいという意図をすべて伝えていたんです。でも今となってはそういう話はしないし、タイミングとか一体化しているんですよ。村上さんほど僕のことを知ってくれている人はいない。自分の持っている思考を…」

 振り返ると、驚くほどの次元だ。レース後、必ず一緒にレースについて話し合うが「感想戦っていうんですかね、自分がこう思った、ということを村上さんはすべて読めているんですよ」という。しかも「オーバーペースになっていると、そこも汲み取ってくれる。最後にタレてきたとこ、とか最終バックとかじゃなく、残り1周とかでもわかるらしいんですよ…」。前を走っている脇本の心ともつながることで、ライン完全一体となった戦いができる。

 そこまでの境地には…と、脇本自身が恐れるほどで「自分にはわからないですよ。番手を回る経験が少ないのもあるけど、自分のことで精いっぱいなんです。後ろを回ったら、後ろの動きもしないといけないし」と苦笑いだ。なぜ村上には可能なのか、については「前を走ってきた経験があるし、よっぽど自力があるからでしょうね」と、この時ばかりは「すげ〜よな〜」と他人事のようだった。

脇本選手に大きな影響を与えた村上義弘選手(撮影:島尻譲)

 愛を込めて“大阪の3人”と呼ぶ南修二、稲川翔、そして古性優作とも、熱い連係を繰り返してきた。生粋の番手屋の南については「修二さんは、前の選手に対する信頼がすごい。仕事を重視しているので、やり過ぎて前を抜けないまでありますもんね」。稲川は「村上さんの次に意思疎通できる人」。古性は「離れるのもほとんど見ないし、仕事もやり過ぎなくらいする。付いてくれるとうれしいし、頼もしい」という存在だ。

 ただし、脇本の信条は「ラインで決めること、なんです」だけに「大阪の3人は失格するくらいやってくれるんですよね。成り行き上、仕方ない失格はありますけど、基本的にはラインで決めてこそ、なんです」と笑顔を見せた。若いころはかばってもらうことも多かった脇本だが、今やみんなを連れ込んでいく立場。連係の内容は変わってきており「まずは付いてきてもらうことが重要。後ろを狙う選手も多くなってきたんで」。脇本の全開のスパートに付いていき、ライン決着を果たす。「付いてこれるように緩めて、とかは自分のスタイルじゃない。優しくないって言われますけど(笑)」。強敵を倒し続けるためには、高いレベルでの連係を求めるのみだ。

 まだ挙がるべき名前はあるが、そんなこんなは、これから先にとっておこう。では、ラインを組む仲間ではなく、対戦する選手たちについて。気になるライバルは、やはり…。

「昔から、ね。もう長い付き合いですよ。フカヤ。因縁があるんですよね…。フカヤ本人もそこそこ意識しているでしょうし、自分ももちろん意識しています」

 1個下の深谷知広とは高校時代から面識があり、競輪でもナショナルチームでも競い合ってきた。現在の深谷をどう見ているのか。「行き所に躊躇が一切見られない。その意志が半端ない」と語気を強める。対戦する時には「ダッシュもトップスピードもあるので、自分のタイミングとかぶらないようにすることを考えます。同じタイミングだと行かれちゃうんで」。現在の互いの駆け引きも如実に吐露しつつ、かつてもがき合ってきたことも思い出される。

「あの時は何も考えずにやり合ってましたね…フフっ。2人ともデビューから12、3年くらい経ちますか。でも、なんか色あせてない感じなんですよ。もう両方大人になって、いろいろ言わなくてもわかる。あれこれ言わなくても、わかる」

深谷知広選手(5番・黄)のレーススタイルには強い意思を感じると言う(撮影:島尻譲)

 優しくも厳しい視線を送るのは新山響平に対してだ。「成長してますよね。何回も対戦してますけど、また対戦となるときついな〜。オレと同じタイプなんですよ」。脚質もだが、脇本が逃げて、逃げてGIタイトルを目指したように、新山もその道を突き進んでいる。手も届きそうで「ナショナルで一緒にやっていた、という点では頑張ってほしいですよ。でも、競輪場に入ると敵なんですよね(苦笑)」と応援しつつも、倒し続けなければならない責任からは逃れられないという。

平原さんが後ろに付く意味を若手は重く考えて欲しい

 そう、責任ある位置にたどり着いたからこそ、思いを隠さず言葉にする。率直な願いを若手にぶつける。 「例えば“平原さんが後ろに付いた時の重さ”を感じ取ってほしい。僕は村上さんが自力で強い時に後ろに付いてくれる意味を、かなり重く見て走ってましたから」。無論、ただ逃げろ、とは言っていない。「それは、意味がない」ーー。

2020年のKEIRINグランプリでは平原選手は脇本選手の後ろを選択した(撮影:島尻譲)

「逃げるのは、逃げる、でいいんですよ。でも発進すればいいんでしょ、という考えは捨てた方がいい。発進を繰り返すことに意味はなくて、先行はするんですけど、覚悟を持って最後まで、ワンツーを目指して、という思いがないと。発進だけで終わっていった選手は何人もいるし、それを見てきた立場なんで」

 強い語調で若手へ叱咤の言葉を送る。そのままでは大きな将来は切り拓けないぞ、進むべき場所はそこじゃないぞと、訴える。いろんな背中を見てきたから、言わずにはいられない。彼らの挑戦を受ける立場であってもだ。自分は培ってきたものすべてで応じるのみ。脇本も全力だ。輪史最高の選手とすら称されるようになった男…。

「昔で言えば、吉岡(稔真)さんとか、そうした歴史はわからない。自分がどんな位置にいるのかも、自分ではわからない。それはファンの皆さんが判断してくれることだと思う。ただ、僕を超えるのなら、僕以上の思考を持たないとダメ」

 挑まれる苦労がつらければつらいほど、競輪が盛り上がっているという証拠。灼熱の油地獄こそ、生きる場所だ。競輪に志した若者たちの鼓動は、鳴りやむまい。

 そんな鬼が帰ってくる予定は、2月10日に初日を迎える奈良記念「春日賞争覇戦」。ケガはどうなったのか…。「場所が場所(腸骨の奥の方)なのでレントゲンとか精密なMRI検査でもくっついたかは見えない。自分の感じたものがすべて。でも練習での負荷は問題なくかけられているし、奈良記念で復帰は、当確といっていいです」。ニヤリと笑う姿がある。楽しみで仕方ないし、走れることの喜びにまた、のめり込める。

 その走りは、いかなるものか…。「脚が落ちたら、やりますよ。やらないといけないでしょう」。それは、ヨコの動きであり、位置取り。かつて平原のヨコで粘って、中団を取ろうとしたこともある。ただその時は流れ上、ラインの仲間の考えもあり、引いた。でも今後は自力中心だが、脚が落ちた(随分、先だろうが)と感じれば頭に入れていく。

「そもそも、やってみないというのはない。1回はやらないと。何回も負けたら考えますけど、やってみてどうかでしょう。例えば(同じ地区だが)ヨコにいるのが古性だから引く、はおかしい。古性がそのイメージを付けてきたことはあるんですけどね。古性はその自信もあるだろうし、それを築き上げたのは競輪選手としてすごい。そういう心理的、精神的な要素が強いんですよ、競輪は。ただね…、2、3回は挑戦しないと。う〜ん、いや、でも、オレは負けてもやっぱり何度でもいくかな、ハハハ!」

 そうだった。ワッキーの机の引き出しにはデスノートがしまい込んであるんだった。仮に平原に位置取りで何回か負けたとしても、勝つまでやるのがワッキーだ。たまに忘れそうになるが、この人、ヤバイ人だった…。

 しかし、復帰戦に向けて不安は不安で「ナショナルチームにいて長期間レースから離れたのとは違う。あの時は練習はできてましたから。今は練習の強度もわからないし、手探り。本当にイチからのスタート。点数もゼロからなんで」と再スタートへ向かう。2月になると直近4か月の競走参加がないので、競走得点は「0」になるのだ。

「まさか、1R1番車はないよな…。それだけは勘弁してください!!」

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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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