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山田裕仁のスゴいレース回顧

【九十九島賞争奪戦 回顧】初日とは“真逆”の展開をつくった深谷知広

2021/12/27 (月) 18:00 7

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが九十九島賞争奪戦(GIII)を振り返ります。

今年最後の記念で優勝を飾った和田健太郎。S級S班のプレッシャーを背負い1年間戦い続けた(撮影:島尻譲)

2021年12月26日(日) 佐世保12R 開設71周年記念 九十九島賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①和田健太郎(87期=千葉・40歳)
②井上昌己(86期=長崎・42歳)
③新山響平(107期=青森・28歳)
④松岡健介(87期=兵庫・43歳)
⑤深谷知広(96期=静岡・31歳)
⑥竹内翼(109期=広島・30歳)

⑦小川勇介(90期=福岡・37歳)
⑧金子幸央(101期=栃木・28歳)
⑨鈴木裕(92期=千葉・37歳)

【初手・並び】
←③⑧(混成)④(単騎)⑤⑨①(南関東)⑥②⑦(混成)

【結果】
1着 ①和田健太郎
2着 ②井上昌己
3着 ⑨鈴木裕

今年最後の記念競輪に集まった強豪たち

 12月26日には佐世保競輪場で、今年最後の「記念」となる九十九島賞争奪戦(GIII)の、決勝戦が行われています。S級S班からは、昨年のグランプリ覇者である和田健太郎選手(87期=千葉・40歳)が出場。そのほかにも、深谷知広選手(96期=静岡・31歳)や新山響平選手(107期=青森・28歳)といった強豪が出場しており、なかなか見応えのあるシリーズだったといえます。

 地元である長崎から決勝戦まで勝ち上がったのは、井上昌己選手(86期=長崎・42歳)だけ。とはいえ、さすがは地元記念というべきか、非常にいいデキでここに臨んできていた印象でしたね。とはいえ、自力での勝負はできませんから、決勝戦では竹内翼選手(109期=広島・30歳)の番手を回ることに。この混成ラインの3番手は、小川勇介(90期=福岡・37歳)選手が固めます。

 初日の特選では、後方7番手に置かれて捲り不発という不甲斐ない結果に終わっていた深谷選手。その後の二次予選では2着、準決勝では1着と立て直してきましたが、初日特選と似たメンバーとなる決勝戦で同じ轍を踏むわけにはいかず、どういった戦い方をしてくるかが注目されます。展開次第とはいえ、ここは積極的に主導権を奪いにくる可能性もありますよね。

 そして、深谷選手の番手を走るのが鈴木裕選手(92期=千葉・37歳)で、3番手に和田選手というのが、南関東ラインの並び。他のラインが混成の即席ラインであるのに対して、こちらは地区でしっかりまとまっているので、結束力にも期待できます。単騎の松岡健介選手(87期=兵庫・43歳)が、この後ろを狙ってくるケースもあるでしょう。

 競輪祭でその力を見せつけた新山選手は、金子幸央選手(101期=栃木・28歳)とのタッグで決勝戦に挑みます。とはいえ、調子は悪くないものの、さすがに競輪祭ほどのデキにはない様子。準決勝は捲るレースで1着をとりましたが、ここには深谷選手という強力な機動型がいるだけに、積極的に主導権を取りにいくべきかどうか、新山選手も判断が難しかったでしょうね。

南関東ラインが打鐘前に早々に出切る

 では、決勝戦のレース回顧に入っていきましょう。スタートの号砲が鳴って、外から勢いよく飛び出していったのが金子選手。内の選手が積極的にスタートを取りにいく姿勢を見せなかったのもあり、先頭を取りきりました。事前の相談で、新山選手は「前受け」を選択していたということでしょうね。3番手には単騎の松岡選手がつけて、深谷選手は4番手から。そして7番手に竹内選手というのが、初手の並びです。

 赤板(残り2周)の手前から、まずは竹内選手が進出を開始。先頭の新山選手を抑えにいって、先頭誘導員が離れたところで先頭に立ちます。ここで、金子選手の後ろにいた単騎の松岡選手は、小川選手の後ろにスイッチ。その直後、今度は深谷選手が一気に前へと踏み込んで、打鐘前から早々とカマシ先行。南関東ラインが完全に出切るカタチで、打鐘を迎えます。

 竹内選手は4番手、新山選手は8番手からのレースとなりましたが、各ラインの車間が開いたのもあって、最終ホーム通過時にはかなりタテ長の隊列に。2コーナーを回ったあたりから、竹内選手が必死に前を捲りにいきますが、深谷選手のかかりがいいのもあって、なかなか差が詰まりません。竹内選手は最終バックで、和田選手の横に並びかけるところまでいくのが精一杯でしたね。

 ここで深谷選手の番手にいた鈴木選手が、竹内選手の捲りをブロックしようと進路を外に振ったんですよね。しかし結果的には、その前に竹内選手が力尽きて「空振り」に終わっています。そして、力尽きた竹内選手が外にいったタイミングと、後方から新山選手が一気に捲ってくるタイミングが合ってしまった。新山選手は竹内選手を避けて、大きく外を回る進路を取ってしまいます。ここで内に切り込めていれば、また違う結果が出ていたかもしれません。

タイヤ差を制したのは和田選手

 そして3コーナーでは、竹内選手の番手にいた井上選手が前を強襲。前を射程圏に入れて4コーナーを回って、直線に入りました。先頭は深谷選手でしたが、早くから全力で踏んだのもあって、直線の入り口で優勝争いからは脱落。その外から差したのが鈴木選手で、深谷選手と鈴木選手の合間を縫うように和田選手も伸びてきます。さらに外からは、井上選手と小川選手がグングン迫ってくる。

 ゴールした瞬間は、この4名がほとんど横並びという大激戦。和田選手と井上選手が少しだけ出ていましたが、どちらが勝ったのかわからないほどの僅差です。結果は、タイヤ差で和田選手が優勝。ちょうど1年前、グランプリの大舞台でファンをあっと言わせた男が、それ以来となる優勝を決めました。そして3着に、鈴木選手。深谷選手は5着、勝負どころで外を回ってしまった新山選手は7着に終わっています。

和田(1番・白)は昨年のKEIRINグランプリような差しを見せた(撮影:島尻譲)

 チャンピオンジャージで過ごした1年でしたが、落車が続いたのもあって、なかなかいいコンディションでレースに臨めていなかった和田選手。それだけに、1年の最後をこのようなカタチで締めくくれたのはうれしいでしょうね。深谷選手の果敢な先行があってこその結果とはいえ、最後に見せた脚の鋭さはさすがでしたよ。

 初日特選では、新山選手が勇猛果敢に先行して、自分の後ろの選手を上位に導いた。そのレースで深谷選手は、後方に置かれて何もできずに不発という、不甲斐ないレースをしてしまった。その反省を踏まえて立て直してきた深谷選手が、今度は決勝戦で初日特選とは“真逆”のレースをつくり出したといえます。ペースを緩められる瞬間がなく、さすがに最後は力尽きてしまったとはいえ、本当に力強い走りでした。

敗れはしたが力強い走りを見せた深谷知広(撮影:島尻譲)

 新山選手は、後方に置かれる展開になったのもありますが、やはり勝負どころで竹内選手の外を回ってしまったのが致命傷。積極的に主導権を奪いにいかなかったのは、おそらく競輪祭の時ほどには自分のデキに自信がなかったからでしょうね。反省点の多いレースになってしまいましたが、彼はまだまだ強くなれる選手。来年のさらなる飛躍のためにも、この敗北を糧としてほしいと思います。

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山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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