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山田裕仁のスゴいレース回顧

【KEIRINグランプリ2021 回顧】思い切りのよさで勝機をモノにした古性優作

2021/12/31 (金) 18:00 22

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがKEIRINグランプリ2021を振り返ります。

古性優作(4番・青)は、スピードに乗った捲りから直線で後続を振り切りグランプリを見事に制覇した(撮影:島尻譲)

2021年12月30日(木) 静岡11R KEIRINグランプリ2021(GP・最終日)

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松浦悠士(98期=広島・31歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
③平原康多(87期=埼玉・39歳)
④古性優作(100期=大阪・30歳)
⑤佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)
⑥守澤太志(96期=秋田・36歳)
⑦吉田拓矢(107期=茨城・26歳)

⑧宿口陽一(91期=埼玉・37歳)
⑨清水裕友(105期=山口・27歳)

【初手・並び】
←②⑤⑥(混成)⑨①(中国)⑦⑧③(関東)④(単騎)

【結果】
1着 ④古性優作
2着 ③平原康多
3着 ②郡司浩平

関東ラインの仕掛けどころがレースのカギに

 12月30日に静岡競輪場で開催された、KEIRINグランプリ2021(GP)。来年の競輪界をリードする9名によるこの“祭典”を、心待ちにされていた方も多いんじゃないでしょうか。もちろん私も、このレースを本当に楽しみにしていましたよ。一発勝負であるがゆえに、デキの見定めなどが難しい面はありますが、それもグランプリの面白さのひとつ。さて、今年はどんなドラマが待ち受けているのでしょうか。

 先日の共同記者会見で並びが発表されましたが、大きなサプライズはなく、おおむね想定通り。松浦悠士選手(98期=広島・31歳)と清水裕友選手(105期=山口・27歳)の「中国ゴールデンコンビ」は、今年は昨年とは違って清水選手が前、松浦選手が後ろからの勝負となりました。もちろん、今年も優勝の有力候補。後ろを走る松浦選手には、ここも大きな期待をかけられそうです。

 関東ラインは、競輪祭(GI)を制した吉田拓矢選手(107期=茨城・26歳)が先頭を任されました。そして、番手に宿口陽一選手(91期=埼玉・37歳)、3番手に平原康多選手(87期=埼玉・39歳)という強力な布陣。レースの主導権をこのラインが握るというのは、ファンはもちろん、出場する選手も「確信」に近いレベルで感じていたことだと思います。関東が“どこ”で仕掛けてくるのかが、展開のカギといえるでしょう。

 郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)の後ろには、北日本の佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)と守澤太志選手(96期=秋田・36歳)がついて、混成ラインを形成。とはいえ、郡司選手と北日本の2名は今年、何度も連係してきた実績があります。即席ラインながら結束力はそれなりに高いですが、それでも郡司選手は「後ろが勝つため」の走りをすることはない。関東ラインを潰しにいくような走りはしづらいですよね。

 そして唯一の単騎となったのが、古性優作選手(100期=大阪・30歳)。考えるよりも先に身体が動くタイプの選手で、どんな流れになっても臨機応変に対応できるのは、彼の大きな強みです。単騎なので援護は期待できず、おのずと戦い方の選択肢は限られてきますが、主導権を奪ったラインの直後にでもつけられれば勝機は十分。そう考えた人が多かったのか、予想以上に人気を集めていました。

郡司と清水の攻防、古性は関東ラインの後ろへ

 では、レースの回顧に入りましょうか。スタートが切られてまず飛び出していったのは、郡司選手。私は車番的にも有利な松浦選手が「前受け」を選ぶ可能性が高いと思っていたので、これはちょっと意外でしたね。郡司選手の後ろに佐藤選手と守澤選手が続いて、中国ラインの清水選手は4番手から。そして、関東ライン先頭の吉田選手が6番手で、最後尾に単騎の古性選手というのが、初手の並びです。

 赤板(残り2周)の手前で真っ先に動いたのは、後方にいた吉田選手ではなく、中団の清水選手。まずは先頭の郡司選手を抑えにいきますが、先頭誘導員が離れたところで、郡司選手は譲らずに突っ張ります。ここの攻防では郡司選手が清水選手を抑え込みますが、そこを外からさらに叩きにいったのが吉田選手。2コーナー過ぎからグングンと前に踏んで、強引に主導権を奪いにいきました。

中国ラインの清水裕友(9番・紫)が仕掛けると郡司浩平(2番・黒)が応戦(撮影:島尻譲)

 関東ラインの後ろにつけていた古性選手も、吉田選手の動きに連動。先頭に立っていた郡司選手は今度は抵抗せず、関東3車と古性選手を前に入れたところで、レースは打鐘を迎えます。こうなると厳しいのが、後方8〜9番手に置かれるカタチとなった中国ライン。打鐘過ぎの2センターから、清水選手は前との距離を詰めようと必死に追いすがりますが、その差はなかなか詰まりません。

 最終1センター過ぎで郡司選手の外に並ぶところまでいった清水選手ですが、その動きを察知した古性選手がブロック。また、清水選手の進出によって郡司選手は内に押し込められるカタチとなり、動きを封じられてしまいます。そして最終バック手前から、4番手にいた古性選手が前を捲りに。時を同じくして、早くから全力で踏んでいた吉田選手が力尽きて、宿口選手が番手捲りにいきます。

 しかし、宿口選手の伸びはイマイチ。それとは対照的に、古性選手は素晴らしい伸びを見せて、3コーナー手前で先頭に立ちました。そのスピードの鋭さは、平原選手をもってしてもブロックできなかったほど。直後にいた清水選手も、宿口選手の急加速についていけずに、口が開いてしまっています。

 そして古性選手は、4コーナーを回る頃にはセイフティリードを確保。古性選手にあっさり抜かれた宿口選手もなんとか粘ろうとしますが、余力はありません。その番手から外に出した平原選手、インの狭いところを突いた佐藤選手、ようやく内から抜け出せた郡司選手、大外を回った松浦選手なども伸びてきますが、こちらは2着争いが精一杯。古性選手の脚色は最後まで衰えず、後続を突き放して1着でゴールを駆け抜けました。

関東ラインは素直に走りすぎたかもしれない

 2車身差の2着が平原選手で、3着に郡司選手。誰も予想しなかったような完勝劇で、古性選手がグランプリ初出場での優勝を決めてみせました。清水選手や郡司選手についてこられると最後に差される可能性もあった仕掛けでしたが、結果的には絶好のタイミングでの捲り。主導権を取った関東ラインの直後を取りきって、前が力尽きたところを「サラ脚」で一気に捲ったスピードは、本当に素晴らしかった。

 こういう一発勝負のレースでは、思いきったレースができるかどうかが勝敗を分けます。最後の直線で差されるリスクを厭わず、「ここぞ!」というところで勝負にいって勝機をモノにした古性選手の走りは、賞賛されてしかるべきですね。来年2月に戦線復帰予定という脇本雄太選手(94期=福井・32歳)との“二本柱”で、今後の近畿を背負う屋台骨となっていくことでしょう。

今後の競輪界を背負う1人となった古性。復帰する脇本雄太との共闘が楽しみだ(撮影:島尻譲)

 関東ラインについては、ちょっと表現が悪いかもしれませんが……バカ正直なレースをやりすぎた感がありますね。というのも、誰もが「関東が主導権を握る」と確信している状況というのは、やりようによっては大きな武器となるんですよ。どこかで絶対に吉田選手が仕掛けてくると考えて、他のラインは「待ち」や「受け」の態勢となる。そこを逆手にとって、思いっきり仕掛けを遅らせるような手もあったと思います。

 それならば、吉田選手に「自分が優勝する」という可能性が生まれる。実際に、吉田選手や宿口選手に期待して車券を買ってくれているファンが大勢いるんですから、関東ラインから優勝者を出すための走りだけでなく、自分が勝つための走りもしなければならない。残念ながら私には、そういった意識が希薄だったように感じられました。自分が勝つ走りをしたほうが、ラインから優勝者を出せるケースも増えると思うんだけどなあ……。

 中国ラインについては、まずは初手で「前受け」を選んだほうがよかったのではないかと。この場合でも、郡司選手や吉田選手の出方次第では後方に置かれるケースが出てくるでしょうが、確率は下げられると思います。あとはやっぱり、赤板での攻防で郡司選手に突っ張られて、引いたのも敗因でしょう。結果論にはなりますが、もっと強引に斬りにいくか、あそこで動かずに待ってからカマシたほうがよかったですね。

 郡司選手は、動きたいところで内の動けない位置に入ってしまったのが厳しかったですね。脚にまだ余力はあったでしょうから、古性選手が捲ったときについていけるカタチになっていれば、結果は大きく変わったと思います。とはいえ、このあたりは結果論でありタラレバでもある。いちばん悔しいのは、それがよくわかっている郡司選手自身でしょう。

 そんなこんなで、今年のグランプリも終わって、明日からはまた「来年のグランプリ」を目指す戦いがスタートします。競輪という競技の面白さ、楽しさ、奥深さをもっと多くの方に知っていただけるように、来年も微力を尽くしますよ。それでは皆様、いい年末年始をお過ごしください!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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