2025/07/09 (水) 12:00 14
7月10〜13日の4日間、弥彦競輪場で「開設75周年記念 ふるさとカップ(GIII)」が開催される。脇本雄太(36歳・福井=94期)、新山響平(31歳・青森=107期)、松浦悠士(34歳・広島=98期)とS班が3人君臨する形だが、「S」はほかにもいる。
109期としてデビューしてしばらく「Sueki」のSと「Super Man」のSを重ねたのか…スーパーマンのウエアを着ていた、末木浩二(33歳・山梨=109期)。日大時代には3年連続3冠という不滅の記録を打ち立てた英雄だ。華やかな将来を約束されたような男だが、なんともじわじわ、じわじわと戦うステージを上げてきた。
もどかしい思いもあったものの、優しい性格なのだろうと見守ってきた。応援してきた。109期の卒業記念レースを取材してからだ。私は末木を追いかけてきた。「前田さん!すごい生徒がいました!」。若手記者が、卒業記念の時に教えてくれたのが、末木だった。
明らかに強いのだけれど、「うふ、うふ」と受け答えが怪しい。なにかにおびえているように話すのだが、レースになるとカッコいい。末木が決勝に勝ち上がった時、決勝のメンバー9人は、末木以外は西日本の生徒だった。優勝したのは太田竜馬(29歳・徳島=109期)だ。
その決勝のレースで生まれたのが“俺たちの末木”というフレーズ。東日本1人の決勝で、末木は果敢に先行した。おどおどしているわけだが、レース後に「東日本の選手が1人だったので、レースの主導権だけは取る気持ちでした」とつぶやいた時にバチンときた。
何かを背負って戦う男、ということで“俺たちの末木”になった。平素の受け答えでは感じさせないのに、レースで示してくれる。この男、6月岸和田の「第76回高松宮記念杯競輪(GI)」で決勝に乗った。末木が、GIの決勝に…。
末木は1走目に落車し、そこからの決勝進出だった。そもそもが補欠からの繰り上がり。仲間たち、ラインの力で決勝の切符をつかんだ。本人の力もあるのは間違いないが、この時はラインの力の方が大きかった。
このことが末木をより大きくさせる、いや、末木浩二の本来の姿に引き戻すと感じている。関東の仲間とのあれだけの戦いがあった後だ。末木が見せないといけないものが生まれている。もう、優しいだけじゃダメだ。
関東に対しての戦いをこれからは責任を持ってやっていかないといけない。ファンに向けての走りを、見せていかないといけない。やってくれると信じているし、それだけの実力は秘めている。鬼になれ、末木。
その高松宮記念杯の準決。諸橋愛(47歳・新潟=79期)の死闘があった。周回の最中から、前受けした松井宏佑(32歳・神奈川=113期)を、関東3番手の諸橋が並走して下げさせようとした。松井からすれば、ラインの先頭の選手が来るならともかく…と思ったことだろう。
しかし諸橋は2年前の高松宮記念杯や昨年の富山記念でも「今のルールで戦うにはこれしかない」と勝負をかけてきた。ルールと車番の状況を鑑みて、打開しないといけない。内外線間を走る選手に対しての押圧という行為になるので、また先頭誘導員に対する差し込みの危険も…とリスクを負うが、ハナから簡単に負けることなどできないという意地が生んだプレーだ。
これが諸橋だ、と思う。2年前の高松宮記念杯の時に、力ずくで位置を取る姿を見て「競輪ギャングだ」という話をしたことがあって、諸橋からは「ルールの範囲内なんだから、ギャングはやめてよ」と言われたことがある。
確かに大げさに話したことは反省するものでありつつ、その上で「そこまでやる」に酔いしれたと伝えたい。容易に誰でもやれるものではない。覚悟を持って、牙をむく。諸橋は確実にカッコいい。今回、欠場になってしまった無念の思いがどれほどのものかは切実。しかし必ず、「競輪に命を懸けている」男の戦いが、まだまだバンクを沸かせてくれると信じている。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。