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山田裕仁のスゴいレース回顧

【椿賞争奪戦 回顧】戦略を“力”で封殺したナショナルチーム組

2021/12/20 (月) 18:00 13

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが椿賞争奪戦(GIII)を振り返ります。

昨年9月以来となる記念優勝を飾った新田祐大(撮影:島尻譲)

2021年12月19日(日) 伊東12R 開設71周年記念 椿賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①深谷知広(96期=静岡・31歳)
②北津留翼(90期=福岡・36歳)
③村田雅一(90期=兵庫・37歳)
④寺崎浩平(117期=福井・27歳)
⑤長島大介(96期=栃木・32歳)
⑥松坂洋平(89期=神奈川・39歳)
⑦坂口晃輔(95期=三重・33歳)

⑧椎木尾拓哉(93期=和歌山・36歳)
⑨新田祐大(90期=福島・35歳)

【初手・並び】
←⑨(単騎)④③⑧(近畿)①⑥(南関東)②⑦(混成)⑤(単騎)

【結果】
1着 ⑨新田祐大
2着 ①深谷知広
3着 ⑥松坂洋平

機動型の選手がそろった決勝戦

 2021年も残すところ、あと2週間ほど。明日の12月21日(火)には、KEIRINグランプリの共同記者会見が行われます。出場する選手の談話などもさまざまなメディアで報じられて、どんどん盛り上がってくる時期。どういう「並び」になり、どのような展開になるのかを考えるだけで、ワクワクしてきますね!

 しかし、惜しくもKEIRINグランプリには出場できなかった選手たちも、来年に向けて全国各地で頑張っています。12月19日には伊東競輪場で、椿賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われました。S級S班である新田祐大選手(90期=福島・35歳)を筆頭に、なかなかいいメンバーが揃った一戦。機動型の選手が多数勝ち上った決勝戦も、かなり見応えのある内容だったと思います。

 実績ナンバーワンの新田選手は、初日特選からオール3着での決勝戦進出。とはいえ、デキはけっして悪くありませんでしたね。このシリーズでは、力任せに押し切るのではなく、レースの組み立てを重視した走りをしていた印象。ここは相手もなかなか手強いですから、結果よりも「勝ち上がりの過程や内容」のほうを重視していたのかもしれません。単騎となりましたが、それでも堂々の優勝候補筆頭でしょう。

準決勝までは3着が続いていた新田祐大(撮影:島尻譲)

 新田選手と同じく注目を集めたのが、地元・静岡の深谷知広選手(96期=静岡・31歳)。その脚力は、新田選手に勝るとも劣らないモノがあります。つい先日にナショナルチーム引退が発表されましたが、自転車競技の250mバンクで磨かれた機動力は素晴らしいもの。その番手には、松坂洋平選手(89期=神奈川・39歳)がつきました。

 3名が勝ち上がった近畿ラインは、年末にはヤンググランプリに出場予定の寺崎浩平選手(117期=福井・27歳)が先頭。なかなかデキもよさそうで、ここは積極的に主導権を奪いにくる可能性が高そうです。ライン番手は村田雅一選手で(90期=兵庫・37歳)、3番手を椎木尾拓哉選手が(93期=和歌山・36歳)が固めるカタチです。

 自分の勝ちパターンに持ち込めると非常に強い北津留翼選手(90期=福岡・36歳)は、坂口晃輔選手(95期=三重・33歳)との即席コンビで挑みます。あとは、長島大介選手(96期=栃木・32歳)も新田選手と同様に、単騎を選択。今シリーズはかなり調子がよさそうなだけに、決勝戦でどんな走りを見せてくれるのか楽しみでしたね。細切れ戦でもあり、展開ひとつでチャンスが巡ってきます。

この日の北津留はひと味違った

 では、レース回顧といきましょう。スタートが切られると、外から勢いよく単騎の新田選手が飛び出していきました。その直後には近畿ラインの寺崎選手がつけて、南関東ラインの深谷選手は5番手から。そして7番手に北津留選手、最後方に単騎の長島選手というのが、初手の並びです。

 後方から早めに動いて北津留選手、坂口選手、長島選手の3名が前を抑えにいきますが、新田選手はスッとポジションを下げて4番手に。その直後、5番手となった寺崎選手が外からジワッと進出を開始します。寺崎選手は先頭誘導員が離れたところから一気に加速して、赤板(残り2周)では北津留選手を追い抜いて先頭に。さらに前へと踏んで、ここで主導権を奪いにいきます。

勝つための「工夫」ができていた北津留翼(撮影:島尻譲)

 しかし、南関東ラインの横を通過する際に、北津留選手の番手にいた坂口選手が近畿ライン3番手の椎木尾選手をヨコに張って、分断に成功。これにより、北津留選手は3番手という絶好のポジションを手に入れました。ここまでの動きを見て、今日の北津留はひと味違うぞ!と感じましたね。自分の得意パターンにこだわることなく、強い相手を少しでも後方に置くことを優先する“工夫”ができていました。

後方選手も「追い風」を活かす

 打鐘では一本棒となり、長島選手は6番手、新田選手は7番手に。前の動きをじっとうかがっていた深谷選手は、後方8番手からです。そのままの態勢で最終周回に入るか…というところで、奇襲をかけるように前を捲りにいったのが北津留選手。しかし、2コーナー過ぎでは早々と力尽きて、戦線を離脱してしまいました。道中で脚を使わされていた影響が、思った以上にあったのでしょう。

 そしてこの早仕掛けは、中団よりも後ろでじっと脚をタメていた選手にとって「追い風」となりましたね。2コーナー手前から長島選手が仕掛けると、そのスピードに乗って新田選手も上昇を開始。さらに、南関東ラインの深谷選手、松阪選手も後に続きます。そして長島選手は、かかりのいい捲りで前の集団を一気にゴボウ抜き。3コーナーを先頭で回ったときには、優勝が手に届くところまできていました。

 しかし…残念ながら相手が悪かった。長島選手の後ろにいたのは、競輪界でもトップクラスの脚力を誇る、新田選手と深谷選手でしたからね。長島選手は直線の入り口まで先頭で粘りきりましたが、そこからは外から一気に伸びた、新田選手と深谷選手の優勝争いに。ゴール前は接戦となりましたが、ひとつ前のポジションから仕掛けた新田選手が深谷選手を抑えきって、先頭でゴールラインを駆け抜けています。

僅差で勝ったのはひとつ前のポジションから仕掛けた新田選手(撮影:島尻譲)

 最終的には、後方でじっと脚を温存していた組が上位を独占。とはいえ、これは近畿ラインや北津留選手が「勝つために強者を少しでも後方に置く」戦略をとった結果で、それ自体はしっかり機能していたといえます。それに、最終的には4着に終わったとはいえ、見せ場がおおいにあった長島選手の捲りも素晴らしいもの。少しだけ仕掛けが早かったかもしれませんが、それもあくまで結果論ですからね。

元ナショナルは強かった

 この決勝戦に関しては、新田選手と深谷選手が強かった。いずれも元ナショナルチーム組で、自転車競技では333mバンクよりもさらに短い250mバンクで、数々の結果を残してきた選手でもある。333mバンクを苦にする選手もいるなかで、これはやはり大きな“強み”になります。脚力で上回る選手が、小回りバンクの経験値でも優位に立っているんですから、そりゃあ強いですよ。

 S級S班への復帰を目指す新田選手や競輪に専念する深谷選手が、来年どんなレースを見せてくれるのか、楽しみになる一戦でもありました。そして、自分の「勝ちパターン」のある選手がツボにはまったときの強さと、そうならなかったときの脆さを感じるシリーズでもあったと思います。

ゴール後に握手を交わす元ナショナルチームの二人(撮影:島尻譲)

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山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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