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【競輪×競馬 特別対談】強制引退に収入ゼロ…厳しい公営競技界 山口真未さんと水口優也さんが志す“生き残る選手の育成”

2025/07/07 (月) 18:02 9

元ガールズケイリン選手の山口真未さんと先日騎手を引退したばかりの水口優也さんのご協力により実現したnetkeirinとnetkeibaの初コラボ対談。前編では、30代で早期現役引退を決めるまでの心境などを伺いました。
後編は、業界の育成システムと現状について。わずかデビュー1年半でクビになる可能性のある競輪の代謝制度と、「あっせん」というシステムがないため収入ゼロもあり得る競馬。厳しい現実を目の当たりにした二人が考える、“生き残る術”とはーー。(取材・構成:大恵陽子、撮影:稲葉訓也、対談日:2025年6月25日)

元ガールズケイリン選手・山口真未さん(右)と元競馬騎手・水口優也さん

現役時代の“生き残る術”とは

ーー水口さんは引退に際して、「頑張った」「惜しいな」など多くの声がありました。

水口優也さん(以下・水口):ありがたいですよね。一個人では味わえることがなくて、表に立たせてもらえる職業だからこそ応援も嘆きも受けられると思います。

山口真未さん(以下・山口):競輪に挑戦しなかったらファンの人と思いを共有することもできなかったと思います。せっかくこの道に行かせてもらって、自分も成長させてもらえたので、元競輪選手という立場をちゃんと意識して、責任を持って次世代に伝えていくことが役割だと思っています。

水口:元騎手という肩書をつけてもらったことは自分としても信念になります。

ーーお二人ともセカンドキャリアでは次世代育成に取り組みたいとのこと。一つのポイントとなるのが “どう育てるか”だと思います。それぞれの業界の現状を教えてください。

山口:日本競輪選手養成所の指導は少しずつ変わってきていて、最近ではデビューしてすぐに上の選手と戦えるようなトレーニングやレース方法、マインドの持ち方などを教えていると聞きます。女子は男子のようにグレード分けされていなくて、班が1つしかないので、本デビューでいきなりグランプリレーサーと対戦することもあります。そうすると格差でやられてしまって、ストレート代謝になってしまう選手もいると思います。どう生き残るかというマインドの作り方を女子は特にやっていかないといけないと思います。

水口:競馬学校もカリキュラムは昔と全く違うと思います。デビューする子が年々、レベルが高くてビックリするくらい上手いんです。ただ、メンタルが弱い子が最近は多いのかな、と思います。僕も昔は騎手でいることで満足してしまったタイプの人間ですけど、生き残るために反骨心を持ってどういうルートを歩むのか。騎乗技術を磨く、オーナーさんと仲良くなる、色んなルートがあると思うんですけど、諦めずにそれを見つけられるメンタルを持ってほしいです。僕が教える子には、メンタルや生き残る術など、騎乗技術を埋める何かも作ってあげられればいいなと思います。

ーー山口さんの話の中に「代謝」という言葉が出てきました。競輪の場合は、代謝制度というのがあるとか?

山口:半年毎に男子選手は30人、女子選手は3人が「代謝」と言って、成績下位がクビになります。デビューから最低1年半は選手を続けられるんですけど、私の同期(120期生)は1年半で3人がストレート代謝(最短の1年半で代謝になること)になり、その半年後にも2人が代謝になってしまいました。その中には、体力がわりとあったけどルーキーシリーズで落車して骨折した子や、他のスポーツでの日本代表経験者もいました。

水口:競馬でも、どんなに能力があると言われている競走馬でも、怪我をしてしまえば成績が出せない馬になってしまいます。

山口:どう怪我や体調不良をしのいでちゃんと仕事するかというのは、プロにとっては腕の見せ所というか、大事なことかなとも思います。一方で、ストレート代謝がかかる最初の1年半をクリアすると、養成所時代に生活費などを貸費制度で借りていた場合でも返済が終わって稼げるようになります。あっせん(決められたレース出場)で最低でも何十万円かは収入がある状況。選手によっては意識の差が出てきます。意識の底上げができれば、もっと面白いレースもできるんじゃないかなという思いがあります。

水口:競馬はあっせんがないので、騎乗依頼がなければ収入は0。その時点で辞める覚悟をしなくちゃいけません。僕も騎乗数が少なくなって1年で1勝しかできず、引退を覚悟した人間。まだ23歳で若かったのでもう1回頑張ろうと思って15年間騎手を続けられましたけど、1〜2年で辞める人もいれば、生活ができなくても引退しなくてもいいのが騎手です。

五輪メダリストが競輪選手に転向

ーー他競技のスポーツ経験者が入ってくることでの底上げも期待できそうです。

山口:競輪では2020年に、平昌五輪のフリースタイルスキー・モーグルで銅メダルを獲った原大智選手が入ってきました。女子でも幅広い種目から選手が入ってきているところで、さらにトップ選手が入ってきてくれればいいと思います。

水口:サッカーやバスケ、バレーなど昔に比べて女子のスポーツも盛り上がっています。競輪や競馬など公営競技ももっと女子が増えれば、と思います。ただ、知られていないことと、ちょっとイメージが悪いだけかなと。ギャンブルのイメージですけど、真剣勝負をした上で賭けられているだけで、きっといい意味でイメージとは違うよっていうのも伝えなくちゃいけないと思っています。

山口:競輪も福祉車両や検診車に補助金を出すなど社会貢献活動をしています。もっと周知していければ、イメージも変わるのかな、と。そして目指すは男女平等の競輪界。男女5対5ぐらいの人数になっていければ、女子も班分けができて各級班でアグレッシブな面白いレースができるんじゃないかなと思います。

水口:競馬も男性・女性が全くない世界。1年目も30年目もいきなり同じ土俵でレースをするので、そこに関しては貪欲になると思います。

ーーnetkeirinとnetkeibaの初コラボ対談を各2回に分けて行いました。最後にファンへメッセージをいただけますか。

水口:競馬学校を含めて競馬界で18年間、お世話になりました。応援してくださったファンのみなさまには、本当に感謝しています。ここまで順風満帆ではない騎手生活でしたけど、満足してやりきった思いで引退できることを本当にありがたく思っています。全てが自分の人生で財産になっているので、この経験を生かして違う視点から競馬を楽しんでいければと思います。今後とも応援よろしくお願いします。

山口:引退してからも元気にしています。今後は競輪の普及も自転車競技のことも、両輪で頑張りたいと思っています。自転車は乗るのも観るのも両方面白いです! どこかの競輪場で一ファンとしてみなさんと一緒に応援できる日を楽しみにしています。

(文中敬称略)

netkeibaではお二人が選んだ共通のセカンドキャリア「育成」について意気投合。お互いの業界の発展を目指し、協力して未来を切り拓く決意を明かしていますので、ぜひ両サイトで対談をお楽しみください! netkeirinとnetkeibaは、お二人のさらなるご活躍を心から応援しています。

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