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山田裕仁のスゴいレース回顧

【高松宮記念杯競輪 回顧】真の意味での“最強”の帰還

2025/06/23 (月) 18:00 16

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが岸和田競輪場で開催された「高松宮記念杯競輪」を振り返ります。

高松宮記念杯競輪を制した脇本雄太(撮影:北山宏一)

2025年6月22日(日)岸和田12R 第76回高松宮記念杯競輪(GI・最終日)決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①古性優作(100期=大阪・34歳)
②深谷知広(96期=静岡・35歳)
③清水裕友(105期=山口・30歳)
④太田海也(121期=岡山・25歳)
⑤郡司浩平(99期=神奈川・34歳)
⑥末木浩二(109期=山梨・33歳)
⑦脇本雄太(94期=福井・36歳)
⑧松谷秀幸(96期=神奈川・42歳)
⑨寺崎浩平(117期=福井・31歳)

【初手・並び】

←④③(中国)⑨⑦①(近畿)②⑤⑧(南関東)⑥(単騎)

【結果】

1着 ⑦脇本雄太
2着 ①古性優作
3着 ⑤郡司浩平

好天&猛暑の中、上半期を締めくくるGIが開幕!

 時間がたつのは本当に早いもので、今年も半分が過ぎようとしています。そんな「上半期を締めくくる」タイミングで迎えるのが、今年は大阪府の岸和田競輪場で開催された高松宮記念杯競輪(GI)です。選手が東西に分かれてそれぞれ勝ち上がり、決勝戦で激突するという東西対抗戦。今年は初日から最終日まで、まるで梅雨が明けたかのような好天と暑さのなかでの開催となりました。

 いわゆる「初日特選」は存在せず、全員が東西準決勝に進める4日目の「白虎賞」と「青龍賞」が、このシリーズのシード番組。とはいえ、二度の一次予選で上位に食い込んでポイントを稼がねば、S級S班であってもここは走れません。それでも、西の白虎賞には4名、東の青龍賞には2名のS級S班がキッチリと乗ってきましたね。なかでも目立っていたのが、脇本雄太選手(94期=福井・36歳)のデキのよさです。

 西の白虎賞に出走した選手のうち、一次予選をいずれも1着で通過していたのが、脇本選手と太田海也選手(121期=岡山・25歳)。太田選手は5番手から打鐘で仕掛けて、最終ホーム過ぎに先頭に立ちますが、脇本選手はこの時点で大きく離れた最後方と、絶望的な位置です。しかし、脇本選手は最終バックから一気に加速して、大外をブン回して豪快に捲りきってしまいます。

 太田選手マークの清水選手が2着、太田選手が3着という結果で、ライン戦における中国勢の勝利をひっくり返してみせた。脇本選手が絶好調時にみせる走りで、これには正直シビれましたね。続く東の青龍賞は、南関東ラインの番手から抜け出した郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)が勝利。郡司選手はこのところ、持ち前の安定感にさらに磨きをかけていますよね。デキも上々という印象です。

青龍賞は郡司浩平(左)、白虎賞は脇本雄太(右)(写真提供:チャリ・ロト)

新山は二予敗退…準決ではSS3名が脱落

 東のS級S班では、新山響平選手(107期=青森・31歳)が二次予選で敗れ、岩本俊介選手(94期=千葉・41歳)と眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)も、残念ながら準決勝で敗退。西では、犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)が準決勝で敗れて、勝ち上がりを逃しています。決勝戦に勝ち上がったのは、東の選手が4名で西が5名。三分戦で、単騎が1名というメンバー構成となりました。

 強力なのは近畿勢で、先頭を任されたのは寺崎浩平選手(117期=福井・31歳)。その番手を脇本選手が回って、福井勢の後ろを古性優作選手(100期=大阪・34歳)が固めるという布陣です。ライン先頭の寺崎選手が、捲るレースで自分の優勝も狙いにくるのか、それとも主導権を奪って「ラインから優勝者を出す走り」を仕掛けてくるのか。それによって、展開は大きく変わってくるでしょうね。

左から寺崎浩平、古性優作(写真提供:チャリ・ロト)

 同じく3車ラインの南関東勢は、深谷知広選手(96期=静岡・35歳)が先頭で、番手を回るのが郡司選手。そして、3番手を松谷秀幸選手(96期=神奈川・42歳)が固めます。こちらも近畿勢に負けず劣らずの強力ラインナップですが、先頭が深谷選手となると、郡司選手も早めに前へと踏むわけにはいかない。「二段駆け」があり得るのはどちらも同じですが、この点がどう出るかでしょうね。

 中国勢は、勝ち上がりの過程で何度も連係している、太田選手と清水裕友選手(105期=山口・30歳)のコンビ。決勝戦でも当然、太田選手が前を任されています。二度目のビッグ優出となった太田選手が、ナショナルチーム仕込みのスピードで、ここでどのようなレースを仕掛けてくるのか注目です。番手の清水選手もかなり調子を戻してきているようで、太田選手の頑張り次第でチャンスは十分ありますよ。

 唯一の単騎勝負が末木浩二選手(109期=山梨・33歳)で、なんと追加あっせん&初日に落車という過程で、決勝戦まで勝ち上がってきました。東日本準決勝の展開など、かなり“運”にも恵まれたという印象ですが、そんなラッキーボーイがこの相手でどんな走りをみせるのか注目です。とはいえ、各ライン先頭の機動型が超強力なだけに、単騎の勝負となると一筋縄ではいかないでしょう。

追加参戦&初日落車の末木が、運を味方に優出(写真提供:チャリ・ロト)

好スタート太田が前受け、寺崎は3番手から

 ではそろそろ、決勝戦の回顧といきましょうか。レース開始の号砲が鳴ると同時に1番車の古性選手が前に出ていきますが、4番車の太田選手が好スタートを決めて、その前に出ます。太田選手が前受けを決めて、近畿勢の先頭である寺崎選手は3番手から。深谷選手は6番手からとなって、最後尾に単騎の末木選手というのが、初手の並びです。太田選手がスタートを取るというのは、意外でしたね。

 その後は淡々と周回が重ねられて、後方の深谷選手が動いたのは青板(残り3周)周回の4コーナーを回ったところから。先頭の太田選手は誘導員との車間をきって、後続が来るのを待ち構えています。赤板(残り2周)掲示の通過と同時に太田選手が突っ張りますが、深谷選手も引かず内外併走に。両者が先頭でもがき合いながら、赤板後の1センターを回りました。

先頭でもがき合う太田(4番・青)と深谷(2番・黒)(写真提供:チャリ・ロト)

 バックストレッチに入ったところで、内の太田選手が外の深谷選手をブロック。これで深谷選手は外に振られて、態勢を立て直しつつ内に戻ります。これでこの争いは太田選手が競り勝ち、少しだけペースが緩んだところで、レースは打鐘を迎えます。この緩んだタイミングを見逃さなかったのが、後方となっていた寺崎選手。主導権を奪おうと、外から一気のカマシで襲いかかります。

近畿勢が先頭奪取、太田は4番手に後退

 素晴らしいダッシュをみせた寺崎選手は、打鐘後の2センターで先頭を奪取して、近畿勢3車が出切って最終ホームに帰ってきます。叩かれた太田選手が4番手となり、深谷選手は後方6番手となってしまいました。南関東勢と連動していた単騎の末木選手が、再び最後方のポジション。そのまま全力疾走する寺崎選手は、後続を少しずつ引き離しながら、最終ホームを通過しました。

近畿勢が先頭奪取! 太田(4番・青)は4番手に後退(写真提供:チャリ・ロト)

 そして、後続をまったく寄せ付けないまま、最終1センターを通過してバックストレッチに進入。中団の太田選手、後方の深谷選手ともに脚を使わされているので、前との差をなかなか詰めにいけません。そして最終バックの手前で、寺崎選手の番手から脇本選手が早々と発進。先頭に立った脇本選手は、太田選手との差をさらに広げつつ、最終3コーナーに進入します。

 3番手の太田選手も必死に追いすがり、後方からは深谷選手もジリジリと差を詰めてきますが、先頭まではかなり距離がある。もうこの時点で、ライン戦は近畿勢の「完勝」です。脇本選手は最終2センターで後続をさらに突き放し、優勝争いは脇本選手と古性選手のどちらかに絞られたという態勢で、最後の直線に向きます。そこから大きく離れて、太田選手と清水選手。南関東勢は、まだその後ろです。

 深谷選手は大外を回り、郡司選手は太田選手と清水選手の後ろへ。そして松谷選手は最内を狙うという進路で、後続も最終4コーナーを回って最後の直線へ。しかし、先頭の脇本選手とそれを差しにいった古性選手は、はるかに前方です。後続を突き放した脇本選手に、外から古性選手が迫ろうとしますが、その差が詰まりそうで詰まらない。後方では、清水選手の外に出した郡司選手がいい脚で伸びています。

近畿ワンツー決着、接戦となった3着は…

 脇本選手は最後まで古性選手を寄せ付けず、先頭のままゴールイン。シリーズ5走すべて1着という完全優勝で、豊橋・全日本選抜競輪(GI)に続く、今年のビッグ2勝目をあげました。古性選手が2着で、近畿勢のワンツー決着。太田選手の番手から伸びた清水選手と、後方からよく追い上げた郡司選手の接戦となった3着争いは、外の郡司選手のほうが少しだけ前に出ていました。

脇本雄太(7番・橙)が完全優勝!古性(1番・白)を寄せ付けず(写真提供:チャリ・ロト)

 3連単は1番人気の1,670円という堅い決着で、2着の古性選手と3着の郡司選手との着差は、じつに6車身。前受けから突っ張った太田選手と、後ろ攻めから仕掛けた深谷選手が前でもがき合った時点で、こういう決着が濃厚だと見えましたよね。とはいえ、殊勲賞は言うまでもなく、打鐘前から躊躇なくカマシて主導権を奪いにいった寺崎選手。彼がラインから優勝者を出す走りに徹した結果が、この圧勝劇だったといえます。

太田海也は何が正解だったのか…

 レース後コメントで「後ろより前だと思った」と語っていた太田選手。そう考えての前受け選択だったわけですが…う〜ん、これが正解だったかどうかはなかなか判断が難しいですね。太田選手は2023年の小倉・競輪祭(GI)の決勝戦でも前受けから勝負をしていたんですが、その時と同様に「何もできずに終わりたくはない、真っ向勝負がしたい」という意思を感じる判断だったように感じました。

太田海也は真っ向勝負に挑んだか(写真提供:チャリ・ロト)

 前受けから突っ張らず深谷選手を前に斬らせると、その次は近畿勢が前を斬りにくる順番で、ここで寺崎選手が前を斬りにくると、中国勢は後方の位置取りになってしまう。それならば「内」という有利さがあるなかで、前受けから南関東勢も近畿勢も突っ張ってしまおう…という作戦だったのかもしれません。とはいえ、深谷選手を相手した後に続けて寺崎選手も相手するというのは、さすがに厳しいでしょう。

 こういうのはタラレバなので、何が正解だったのかは私にもわかりません。ただ、最初から中団を狙っていた近畿勢にとって、この太田選手の選択がプラスに働いたというのは事実です。寺崎選手の脚をもっと削れるような、レースの組み立てや作戦があったのではないかと思いましたね。そして、今回の脇本選手の素晴らしいデキを考えると、それでも結局は近畿勢が優勝していたのではないかと感じます。

完全優勢の近畿、他地区は巻き返しなるか!?

 太田選手や深谷選手が寺崎選手の脚を少しでも削る作戦で挑み、自力に切り替えた脇本選手が前に踏むタイミングが早くなったとしても、近畿勢の3番手にはまだ古性選手が控えている。寺崎選手が「ラインから優勝者を出す走り」を選んでいるかぎり、この決勝戦における近畿勢優勢の構図は揺るがなかったのではないでしょうか。“最強”脇本の復活を感じさせるほどに、このシリーズでの脇本選手は強かった。

 ここまで3つのGIのうち2つを脇本選手が制して、さらに獲得賞金の面でも優位に立っている近畿勢。このまま突っ走られては盛り上がりませんから、下半期には他地区の巻き返しを期待したいところです。7月の玉野・サマーナイトフェスティバル(GII)に8月の函館・オールスター競輪(GI)と、ここからもビッグが目白押し。イキのいい若手が一気に台頭してくるようなシーンも、ぜひ見てみたいですね。

復活した”最強の脇本雄太”(写真提供:チャリ・ロト)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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