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山田裕仁のスゴいレース回顧

【KEIRINグランプリ2020回顧】改めて感じた“脇本時代”の到来

2020/12/31 (木) 18:00 8

故障明けの脇本雄太は2着に敗れたはしたが実力を存分に見せた(黒の服色)

2020年12月30日(水) 平塚11R KEIRINグランプリ2020(GP)

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①郡司浩平(99期=神奈川・30歳)
②脇本雄太(94期=福井・31歳)
③松浦悠士(98期=広島・30歳)
④和田健太郎(87期=千葉・39歳)
⑤清水裕友(105期=山口・26歳)
⑥守澤太志(96期=秋田・35歳)
⑦平原康多(87期=埼玉・38歳)
⑧新田祐大(90期=福島・34歳)
⑨佐藤慎太郎(78期=福島・44歳)

【並び】
←③⑤(中国)①④(南関東)⑧⑨⑥(北日本)②⑦(混成)

【結果】
1着 ④和田健太郎
2着 ②脇本雄太
3着 ⑨佐藤慎太郎

 今年は平塚競輪場で開催された、暮れの大一番・KEIRINグランプリ。勝利の女神が微笑んだのは、グランプリ初出場の和田健太郎(87期=千葉・39歳)選手でした。2着に、ここも素晴らしいスピードで先行した脇本雄太(94期=福井・31歳)選手。3着には、ディフェンディングチャンピオンの佐藤慎太郎(78期=福島・44歳)選手が入っています。

 まずは、展開から振り返りましょうか。一発勝負のグランプリらしく、展開がもつれるケースもあるか--と考えていたんですが、結果的にはかなりシンプルな流れになりましたね。大方の予想通り、先行したのは脇本選手でした。打鐘手前からのカマシ先行で先手を奪おうとしたところで、その番手を奪おうと松浦悠士(98期=広島・30歳)選手が飛びつきますが、それは叶わず3番手に。

【最終H】←②⑦(混成)③⑤(中国)①④(南関東)⑧⑨⑥(北日本)

 最終ホームでは、郡司浩平(99期=神奈川・30歳)選手が5番手、新田祐大(90期=福島・34歳)選手が7番手。「先行日本一」の脇本選手がすんなり逃げるカタチを許してしまっているのですから、一本棒の7番手では新田選手は厳しい。北日本ラインが前受けするカタチならば一発もあるかと思っていましたが、残念ながら存在感をまったく発揮できずに終わってしまいました。

 同様に、5番手からの捲りで勝負した郡司選手も厳しかったですね。前にいる松浦選手が何かやってくれないと、脇本選手との勝負に持ち込めません。最終1センターからの仕掛けで捲りにいきましたが、松浦選手に並びかけるのが精一杯。そこでブロックされて、彼のグランプリは終わってしまいました。ここで間隙を突いて伸びてきたのが、松浦選手から切り替えた清水裕友(105期=山口・26歳)選手。最終2センターでは、完全に前を「食う」勢いでした。

 その清水選手を、脇本選手の番手を走る平原康多(87期=埼玉・38歳)選手が、ヨコの動きでブロック。しかし、大きく膨らんでしまい、内がぽっかりと空いてしまいます。この“勝機”を逃さなかったのが、内に進路を取っていた和田選手。前にいた選手が次々にいなくなったところを、最短コースで一気に強襲。先頭で粘っていた脇本選手まで飲み込んで、スタンドからどよめきの声があがるなか、先頭でゴールを駆け抜けました。

 大きなレースを勝つときはそういうものですが、優勝した和田選手は、本当にすべてがうまくいったと思います。また、先行した脇本選手も「さすが」のスピードと粘りでしたね。ただ、あの踏み出しで勝てなかったのは、ベストの状態ではなかったということ。競輪祭で落車したダメージが、やはり残っていたんでしょうね。そんな状態で先行して2着に粘るんですから、本当に強いですよ。

 ちょっと判断が難しいのが、最終2センター過ぎから清水選手をブロックしにいった平原選手の動き。詳しくはレース後のコメントを待ちたいですが、5着という結果から考えるに、私は「脇本選手を差せるような脚は残っていないので、ライン番手としての仕事をした」のだと思います。即席コンビで、連携することは二度とないかもしれませんが、それでも番手は番手。自分が勝てないならばーーという判断だったのではないでしょうか。

 あとは、今節を通して「中を捌いてきた選手」がよく活躍していたのも、印象に残りましたね。そもそも平塚のバンクは、よほど脚を余している選手でもないと、外からでは伸びないんですよ。グランプリでも上位を占めたのは、内を通ってきた選手ばかり。3着も、和田選手と同様にぽっかり空いた内をすくった佐藤選手でした。そういった平塚バンクの特性も、この結果に影響した気がします。

 そして改めて感じたのが、脇本時代の到来でしょうか。抜けて強い自力選手がいる時代というのは、その選手にどうやって勝つかが課題となるわけですが、共倒れも辞さないような覚悟で勝負を挑むような自力選手が、いまは見当たりません。今回のグランプリも、脇本選手に自分のレースをさせて、「やっぱり強かったね」という結果となった。グランプリという舞台を考えれば、仕方のないことではあります。

 とはいえ、その強い自力選手を打ち負かさないことには、自分の時代はやってきません。「脇本にだけは絶対に勝たせない!」という気持ちの強さや、タテ脚のある選手が出てきてくれないと、この世界も盛り上がりませんからね。おそらく来年も脇本選手の「一強」時代が続くでしょうが、この流れを変えるようなイキのいい選手の登場を、今後ぜひ期待したいところです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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