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山田裕仁のスゴいレース回顧

【広島GIII・決勝レース回顧】踏んだ“場数”の差が結果にも表れた一戦

2020/12/28 (月) 18:00 3

絶妙なタイミングでの仕掛けが決まり、記念競輪初優勝を飾った野原雅也

2020年12月27日(日) 広島12R ひろしまピースカップ(GIII・最終日)S級決勝

 左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①松谷秀幸(96期=神奈川・38歳)
②野原雅也(103期=福井・26歳)
③佐々木雄一(83期=福島・40歳)
④皿屋豊(111期=三重・37歳)
⑤鈴木竜士(107期=東京・26歳)
⑥町田太我(117期=広島・20歳)
⑦吉田敏洋(85期=愛知・41歳)
⑧山口拳矢(117期=岐阜・24歳)
⑨阿部力也(100期=宮城・32歳)

【並び】
←②⑤(混成)①(単騎)⑥③⑨(混成)⑧④⑦(中部)

【結果】
1着 ②野原雅也
2着 ⑤鈴木竜士
3着 ⑧山口拳矢

 12月27日(日)に行われた、広島競輪の開設68周年記念「ひろしまピースカップ(GIII)」決勝は、最終バック過ぎから仕掛けた野原雅也(103期=福井・26歳)選手が、4番手から捲って優勝。記念競輪初優勝のチャンスを、見事にもぎ取りましたね。2着は、野原選手マークの鈴木竜士(107期=東京・26歳)選手。人気を集めた山口拳矢(117期=岐阜・24歳)選手は、7番手からよく伸びるも届かず、3着に敗れています。

 優勝した野原選手は、中団から仕掛けたタイミングが絶妙でしたね。あれよりも早くても遅くても、後ろを走っていた山口拳矢(117期=岐阜・24歳)選手が先頭を任された、中部ラインに捲りきられる可能性が出てくる。まさに「早すぎず遅すぎず」というベストの仕掛けで、まだキャリアの浅い町田選手や山口選手との“場数”の違いを見せつけました。

 スピード抜群の捲りで勝ち上がり、デビュー最速でのG3制覇記録更新が期待された山口選手は、後方7番手からの競輪。二次予選や準決勝での好結果から「ここからでも捲りきれる」と考えていたでしょうし、実際に野原選手の仕掛けがもう少し早かったならば、彼が勝っていた可能性は十分あります。しかし、残念ながら届かなかった。この結果となった背景には、いくつかの理由があります。

 まずひとつが、「記念競輪の制覇」が大いに意識できるメンバーだったこと。記念とはいえSS級の選手は出場しておらず、若い自分たちにも優勝できる大チャンスです。世代交代が進めば、またこのようなメンバーで記念の決勝を戦う機会が来るかもしれませんが、それはいつになるかわからない。だからこそ、この勝機をモノにしたい。決勝へと駒を進めた選手は、みんなそう思っていたことでしょう。

117期の同期対決が話題を集めた山口拳矢(左)と町田太我(右)

 そして、同期である町田選手の存在が大きかった。山口選手も町田選手も「同期に勝たれたくない」と、かなり意識していたと思います。実際にスタート直後、山口選手と町田選手は、まずは自分が後ろのポジションを取りたいーーと牽制するような動きをしていましたよね。どちらも、相手の動きを抑えて、自分の行きたいタイミングで行ける「後ろ攻め」がしたかったということです。

 それに、レース中盤の駆け引きでも惜しいシーンがありました。山口選手が町田選手を抑えにいって、いったん町田選手を7番手に下げさせましたよね。でも、その後に町田選手が逃げて主導権を握るというのは、誰にでもわかることです。だから、あそこで山口選手は中団を取るだけでなく、思いきって先頭を走っていた野原選手を「切る」べきなんですよ。でも、それができずに7番手となった。優勝を意識し過ぎたのが理由でしょうね。

 優勝したい思いや同期を意識する気持ちは、町田選手も同じです。ただ、彼は山口選手とは違って、勇猛果敢な「先行」こそが持ち味。地元でもあり、打鐘前から思いきって踏んでいきましたよね。さらにいえば、「野原選手が中団で山口選手が7番手」という一本棒の並びになるのが理想で、そのカタチを作りにいったというのもあります。最後は力尽きて9着に敗れたとはいえ、自分のやるべきことをまっとうした、いい競輪でした。

 山口選手については、レースの組み立てに“幅”を持たせることが、今後の課題となりますね。今節も捲る競輪だけで勝ち上がりましたが、記念や特別を勝つとなると、そこに至るまでの過程がなおさら重要となります。そのあたりにも、今回優勝した野原選手との差があったのではないでしょうか。本来はどんな競輪でもできる「自在」な選手ですから、この敗北をバネに、来年はさらなる飛躍を期待したいところです。

 私も現役時代の若い頃は、同期の神山雄一郎選手(61期=栃木・52歳)と一緒に走ると、やはりその存在を必要以上に意識したものです。しかも、記念優勝が手に届きそうなところにあれば、なおさらでしょう。しかし、その気持ちが強すぎてしまうと、結果は出せません。そういう部分のあった山口選手と町田選手に対して、最後まで冷静な走りで勝機を逃さなかった野原選手。その差が、勝敗を分けたといえるでしょう。


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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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