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山田裕仁のスゴいレース回顧

【佐世保GIII・決勝レース回顧】勝負を分けた強い気持ちと“仲間”の存在

2020/12/21 (月) 18:00 6

2番吉田拓矢は8番神山拓弥(写真左端)との連携を決め、記念競輪初優勝を飾った

2020年12月20日(日) 佐世保12R 九十九島賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

 左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①山崎賢人(111期=長崎・28歳)
②吉田拓矢(107期=茨城・25歳)
③村上義弘(73期=京都・46歳)
④笠松信幸(84期=愛知・41歳)
⑤小川真太郎(107期=徳島・28歳)
⑥須永優太(94期=福島・32歳)
⑦山口泰生(89期=岐阜・39歳)
⑧神山拓弥(91期=栃木・33歳)
⑨新山響平(107期=青森・27歳)

【並び】
←③⑦④(中部近畿)①⑤(混成)⑨⑥(北日本)②⑧(関東)

【結果】
1着 ②吉田拓矢
2着 ⑨新山響平
3着 ⑥須永優太
※3位で入線した⑧神山拓弥選手は失格となりました

 今日からこの『netkeirin』さんで、グレードレースの回顧を担当させていただきます、山田裕仁です。元・競輪選手という側面からはもちろん、皆さんと同じく「車券を買う側」からの見方もまじえつつ、競輪の面白さや奥深さをお伝えしたいと思っております。お付き合いのほど、どうかよろしくお願いします!

 ではさっそく、12月20日(日)に佐世保競輪場で行われた「GIII・九十九島賞争奪戦」決勝の回顧に入りましょう。優勝したのは、関東ラインの先頭を任された吉田拓矢(茨城・107期)選手。特別競輪の決勝にも顔を出すようになり、近年ますます存在感を発揮している彼ですが、記念(GIII)を制したのは意外にも今回が初となります。

 前節で落車しており、その影響がどうかと心配していたのですが、まったくの杞憂でしたね。準決勝でも、まずは中団を取って打鐘からは積極的に主導権を握り、そのまま押し切るという強い内容を見せていました。それに、番手を回った神山拓弥(栃木・91期)選手を、決勝に残せたのも大きかった。

 それとは対照的に、準決勝の結果が尾を引いたのが、人気を集めた山崎賢人(長崎・111期)選手です。準決勝は地元・長崎の3車連携で盤石かに思われましたが、他のラインに牽制された結果、最終バック7番手に置かれる展開に。そこから捲りきったのはさすがの脚力で、調整も完璧だったと思いますが、自分だけしか決勝に進めない結果になってしまったのは大きな誤算でしょう。

 地元や同地区の"仲間”がラインの2番手や3番手を固めてくれれば、決勝では「自分は負けてもラインの誰かが勝ってくれればいい」と腹をくくって、思いきったレースができる。しかし、残った地元勢は山崎選手だけで、決勝でラインを組んだのは他地区の小川真太郎(徳島・107期)選手。連携はするが勝ちたいのは自分という、いわば「かりそめ」の関係です。

 しかも、番手を回る小川選手の調子がいいのは、準決勝までのレース内容からも明らか。山崎選手の仕掛けが早いと、直線で差されてしまう可能性が十分にあります。地元の期待を背負っているだけに勝ちたい、でも自分が逃げるような積極策は取りたくない--そういった迷いが、随所に感じられる走りでしたね。体調はベストでも、気持ちの面で負けてしまっていた。それが、今回の敗因です。

 スタート直後に逡巡して前を取りに行かなかったのも、迷う気持ちの表れ。ほかのラインが前を切ったところでカマシ気味に先行する手を考えていたと思いますが、赤板(残り2周)からまず前を切ったのは吉田選手で、次いで北日本ラインの先頭を走る新山響平(青森・107期)選手。迷いのある山崎選手は打鐘で8番手に置かれ、その後もほとんど巻き返せずに、最終2センターで落車という残念な結果に終わってしまいました。

 思いきって先行した新山選手は、持ち前のスピードを生かしたいい逃げでしたね。結果的に2着に敗れたとはいえ、ペース配分もよく、最後までよく粘っています。ただし、ここまで捲るレースで勝ち上がってきただけに、「逃げさせられる形になってどうか」という不安があった。絶好の3番手が取れた吉田選手に展開が向いたのは事実ですが、決勝まで至る過程においても、吉田選手が一歩リードしていたと思います。

 村上義弘(京都・73期)選手は、中団5番手からの捲りで必死に追い上げようとしましたが、差が詰まりませんでしたね。誰かの番手を回る競輪で勝ち上がってきただけに、決勝になって自力で勝負というのは、やはり厳しい。自分の後ろについてくれた中部の選手のためにも--と奮闘するも、力及ばずといったところでしょう。

 競輪がチーム戦であることや、勝負に挑む選手の「心理」がいかに展開や結果を左右するかが、初心者の方にもよくわかる一戦となりました。実力のある選手が絶好調で臨んでも、強い気持ちと、それを支えてくれる“仲間”なしには勝てない。それが、競輪の面白さであり、同時に難しさでもあるのです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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