2025/04/07 (月) 18:00 16
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが高知競輪場で開催された「よさこい賞争覇戦」を振り返ります。
2025年4月6日(日)高知12R 開設75周年記念 よさこい賞争覇戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①犬伏湧也(119期=徳島・29歳)
②眞杉匠(113期=栃木・26歳)
③脇本雄太(94期=福井・36歳)
④小川勇介(90期=福岡・40歳)
⑤松井宏佑(113期=神奈川・32歳)
⑥志村太賀(90期=山梨・41歳)
⑦清水裕友(105期=山口・30歳)
⑧渡部幸訓(89期=福島・41歳)
⑨山崎賢人(111期=長崎・32歳)
【初手・並び】
←②⑥(関東)①⑦(中四国)⑨④(九州)③(単騎)⑤⑧(混成)
【結果】
1着 ⑦清水裕友
2着 ①犬伏湧也
3着 ⑤松井宏佑
4月6日には高知競輪場で、よさこい賞争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。このシリーズは、なんとS級S班が5名も出場という素晴らしいメンバーとなりました。この4月から新たにS級S班となった犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)が、ここでどんな走りをみせてくれるのかも楽しみですよね。当然ながら初日特選には、まるで特別競輪の決勝戦のようなメンバーが集まりました。
全員が自力で勝負できるという、かなり難解な一戦。脇本雄太選手(94期=福井・36歳)と古性優作選手(100期=大阪・34歳)の近畿勢が人気の中心となりましたが、この相手関係だと脇本選手がスピードで圧倒とはいきません。眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)と森田優弥選手(113期=埼玉・26歳)の同期連係や、ナショナルチーム仕込みのスピードがある山崎賢人選手(111期=長崎・32歳)も侮れないですよね。
最終ホームで犬伏選手を叩いた眞杉選手が主導権を奪いますが、最終1センター過ぎから単騎で捲った山崎選手が猛追。しかし、眞杉選手から離れていた森田選手は、山崎選手をブロックしたときに、自分が落車してしまいます。森田選手の後ろにいた新田祐大選手(90期=福島・39歳)と犬伏選手も、これに巻き込まれて落車。清水裕友選手(105期=山口・30歳)は、接触こそ避けるも大きく離されてしまいます。
後方から捲った脇本選手が前との差を一気に詰めて、そのスピードをもらった古性選手は最終2センターで内に突っ込みます。そして、最終4コーナーで眞杉選手と山崎選手の間をきれいに抜けて1着でゴール。外から最後よく伸びた松井宏佑選手(113期=神奈川・32歳)が2着で、山崎選手が3着という結果。古性選手が勝ったにもかかわらず、3連単は6万車券という波乱のスタートです。
落車のダメージが心配された犬伏選手ですが、二次予選と準決勝を連勝して、決勝戦に駒を進めます。脇本選手も二次予選から連勝を決めますが、準決勝でも最終バック後方からギリギリ捲りきるという展開となり、連係していた古性選手は4着で勝ち上がりを逃しています。脇本選手が「あそこからよく1着まで届いた」という展開でしたから、前を任せていた以上は致し方ありません。
とはいえ、古性選手以外のS級S班はキッチリ勝ち上がり、山崎選手や松井選手も決勝戦に進出という、初日特選の再戦ムードが漂う決勝戦となりました。ラインが4つのコマ切れ戦で、出入りが激しい展開となりそうです。中四国勢は初日特選と同様に、先頭が犬伏選手で番手に清水選手という組み合わせ。連勝を決めたとはいえ、落車のダメージがゼロということはないので、犬伏選手の状態が気になりますね。
関東勢は、眞杉選手が先頭で、番手を志村太賀選手(90期=山梨・41歳)が回ります。眞杉選手は上々のデキのようで、こちらも二次予選と準決勝を連勝。自在に攻められるオールラウンダーであることが、この混戦で生きるでしょう。九州勢は、山崎選手が先頭で、番手に小川勇介選手(90期=福岡・40歳)。山崎選手も好調モードで、この相手でもスピードは上位ですから、侮れません。
初日特選からオール連対の松井選手は、北日本の渡部幸訓選手(89期=福島・41歳)と混成ラインを結成。そして、唯一の単騎勝負が脇本選手です。どのラインの先頭も調子がいいので、大混戦となること間違いなし。実際に、人気もかなり割れていましたね。主導権を奪うのはおそらく犬伏選手でしょうが、眞杉選手や松井選手が思いきったレースを仕掛けてくる可能性もある。たいへん面白い決勝戦ですよ。
ではそろそろ、決勝戦の回顧といきましょう。レース開始を告げる号砲が鳴って、いい飛び出しをみせたのは6番車の志村選手。ほかが控えたのもあって、ここは関東勢が前受けを決めます。その直後3番手は犬伏選手で、5番手に山崎選手。単騎の脇本選手が7番手につけて、最後方8番手に松井選手というのが、初手の並びです。これは、レース前に想定された範囲の並びといえるでしょう。
レースが動き出したのは、赤板(残り2周)掲示を過ぎた後の1センターから。後方の松井選手が外からゆっくり位置を上げて、誘導員が離れる打鐘に合わせて、前を斬りにいきます。5番手にいた山崎選手も動いて、松井選手が先頭に立った直後に、これを叩きにいきます。打鐘後の2センターを回ったところで山崎選手が前に出て、再び一列棒状となって最終ホームに帰ってきました。
ここで動いたのが、後方の位置取りとなっていた犬伏選手。素晴らしい加速で一気に前との差を詰め、最終1センターでは小川選手の外まで進出。ずっと後方で動かずにいた脇本選手もここで始動しますが、7番手にいた眞杉選手が合わせて動き、脇本選手を前に出させません。そして眞杉選手は最終2コーナー過ぎで、ヨコの動きで脇本選手をブロック。そのスピードを削ぎにいきます。
その間に前では、犬伏選手が山崎選手の外まで進出。ここで前に出すわけにはいかない山崎選手が抵抗しますが、犬伏選手が踏み勝って先頭に躍り出ます。後方では、眞杉選手にブロックされた脇本選手が失速。眞杉選手はその後に仕掛けて、前との差を詰めにいきます。最終バックでは、犬伏選手に叩かれた山崎選手は位置を下げて、今度は松井選手が捲り始動。眞杉選手はその後ろにつけて、前を射程圏に入れました。
しかし、かかった逃げをみせる犬伏選手のスピードはまだ衰えない。最終2センターでもまだ、先頭の犬伏選手と番手の清水選手が抜け出したままです。清水選手の後ろからは、山崎選手と松井選手が追いすがりますが、前との差はなかなか詰められないまま。さらにその後ろからは、眞杉選手が大外から捲ってきますが、一気に前を飲み込むほどの勢いはありません。そして、最後の直線に向きました。
先頭の犬伏選手がよく踏ん張るところを、番手から外に出して差しにいった清水選手。清水選手は前との差をジリジリと詰めて、犬伏選手に並びます。その後方からは山崎選手と松井選手が前を追いますが、その脚色は清水選手とほとんど同じ。大外を回った眞杉選手は、直線に入ってからは伸びを欠いて、山崎選手や松井選手に並ぶところまでいけません。そして清水選手がゴール前、犬伏選手を捉えます。
そのまま清水選手が先頭でゴールラインを駆け抜け、その後ろは内から犬伏選手、山崎選手、松井選手が横並びでゴール。清水選手は、今年の初優勝をこの高知バンクで決めました。僅差となった2〜3着争いは、逃げた犬伏選手がギリギリ粘りきって2着。中四国勢がワンツーを決めて、3着が松井選手、4着が山崎選手という結果。眞杉選手は7着、脇本選手は最下位の9着に終わっています。
優勝した清水選手ですが、優勝者インタビューでも口にしていたように、このシリーズでは犬伏選手や取鳥雄吾選手(107期=岡山・30歳)など、前の選手の頑張りに助けられていました。だいぶ調子を戻してきてはいますが、本調子の頃に比べると75%くらいのデキでしょうね。それでもこの強力なメンバー相手に優勝してしまうのですから、やはり“持っている”選手ですよ。ダービーに向けて、勢いもつきましたね。
S級S班の看板を背負う初めてのシリーズとなった犬伏選手も、素晴らしいレースをしたと思いますよ。初日の落車で腰を痛めていたとのことですが、それを感じさせない力走でしたね。山崎選手が松井選手を早めに叩いてくれたおかげで、「斬って斬られて」の順番とタイミングが向いて、ワンテンポ待って仕掛けられたのもよかった。それが、最後の最後での粘りにつながっています。
それとは逆に、「斬って斬られて」の順番とタイミングが向かなかったのが、後方に置かれる展開となった眞杉選手。脇本選手を止めたことで仕掛け遅れましたが、眞杉選手としては、あれを見過ごすわけにはいかないですよ。単騎といえど、相手はあの脇本雄太なのですからね。展開が向かなかった中で、眞杉選手なりの“最善手”を選択したというだけの話。次の武雄記念での巻き返しを期待しましょう。
見応えのある好内容のシリーズや決勝戦が続いているのは、元選手としても、一人の競輪ファンとしてもうれしいかぎり。選手意識の高まりや、レベルの向上を実感できていますよ。この決勝戦でも、選手全員が優勝を目指して、自分の役割や仕事をキッチリ果たしていました。こういった面白いレースを続けることが、応援してくださるファンに対する、いちばんの恩返しですからね!
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。