2021/08/16 (月) 18:00 17
現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがオールスター競輪(GI)を振り返ります。
2021年8月15日 いわき平11R 第64回オールスター競輪(GI・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①新田祐大(90期=福島・35歳)
②脇本雄太(94期=福井・32歳)
③平原康多(87期=埼玉・39歳)
④古性優作(100期=大阪・30歳)
⑤佐藤慎太郎(78期=福島・44歳)
⑥中川誠一郎(85期=熊本・42歳)
⑦守澤太志(96期=秋田・36歳)
【初手・並び】
←①⑤⑦⑧(北日本)⑥(単騎)②④(近畿)③(単騎)⑨(単騎)
【結果】
1着 ④古性優作
2着 ②脇本雄太
3着 ⑦守澤太志
いつかは特別競輪を勝てると言われていた選手が、巡ってきた絶好のチャンスをしっかりとモノにした。そういうレースと結果だったと思います。
8月15日にはいわき平競輪場で、第64回オールスター競輪(GI)の決勝戦が行われました。そうそうたるメンバーが出場していましたが、ここでもっとも注目を集めたのはやはり、オリンピックから事実上の「直行」となった新田祐大選手(90期=福島・35歳)と脇本雄太選手(94期=福井・32歳)でしょう。
個人的には「少し休ませてあげたらいいのに」と思いますが、オリンピックでメダルが獲得できなかったことで、年末のグランプリ出場にはGIを勝つか、もしくは大幅な賞金の加算が必要となります。いずれにしても楽な条件ではないため、オリンピアンから競輪選手に戻る彼らにとって、無理してでも出場したほうがいい側面があるのでしょう。
とはいえ、長く競輪から離れていたことや、オリンピックでの疲労もあって、万全とはいえないコンディション。連日コメントしていたように、とくに脇本選手はかなり厳しい状態のなかでのレースだったようです。それでも日ごとに調子を上げて、決勝戦まで勝ち上がってくるのですから、やはりすごい。準決勝での後方からの捲りなんて、普通はあの位置からでは絶対に届かないですからね。
あとは、松浦悠士選手(98期=広島・30歳)と清水裕友選手(105期=山口・26歳)も、ここはデキがよくなかった。決勝戦まで駒を進めることができなかったのは、本調子ではなかったのが原因です。そして、ファン投票1位の平原康多選手(87期=埼玉・39歳)も、やはり調子はイマイチ。「なんとか決勝戦まで駒を進めた」というのが正直なところで、実際はまだまだというデキだったと思います。
逆に「メチャクチャ調子がよかった」と断言できるのが、深谷知広選手(96期=静岡・31歳)ですね。このシリーズで見せた内容から考えるに、ラインさえ組めていれば、新田選手や脇本選手とも互角の先行争いが可能だったことでしょう。それだけに、単騎となってしまったのが本当に残念。この強力な相手に対して単騎で戦うとなると、選択肢は決して多くはありませんからね。
脇本選手の番手を回る古性優作選手(100期=大阪・30歳)と、北日本ラインの3番手を固める守澤太志選手(96期=秋田・36歳)も、デキのよさは太鼓判を押せるレベル。単騎となった中川誠一郎選手(85期=熊本・42歳)も調子はよかったと思いますが、機動力があって自分で展開を作れるようなタイプではまったくないので、こちらは他のラインの出方次第。展開が向くかどうかがカギとなります。
地元である北日本ラインが4車と圧倒的に多く、近畿ラインが2車、そして単騎が3車という細切れ戦。スタートの号砲が鳴ると、まずは守澤選手と新田選手が飛び出していきます。つまり、数で勝る北日本ラインの「前受け」で、これは多くの人が予想した通り。その後に中川選手が続き、6番手に脇本選手、8番手に平原選手、そして最後に深谷選手というのが、初手の並びです。
レースが動き出したのは、先頭が赤板(残り2周)を通過してから。最後方にいた深谷選手が進出を開始し、誘導員が離れたところで先頭に立ちます。そして、この仕掛けに合わせて、脇本選手も一気に進出。最初からこのポジションを狙っていたであろう平原選手も、脇本選手と古性選手の後に続きます。
打鐘の手前から主導権を奪いにいく積極的な競輪で脇本選手が先頭に立つと、深谷選手は少し下げて、平原選手の「後ろ」を狙いに。しかし、深谷選手のこの動きを、新田選手が内に押し込めて封殺します。これで後方まで下げざるをえなくなり、深谷選手のオールスターは終了。ほぼ一本棒の態勢で、レースは最終バックにさしかかります。
ここから新田選手が必死に捲りにいきますが、先頭をいく脇本選手の「かかり」が非常にいい。意外にその差は詰まらず、さらに近畿ライン2番手の古性選手が軽くブロックを入れたのもあって、最終2センターでもまだ近畿ラインの2人が抜け出している状態です。そのまま最後の直線に入り、逃げ切りをはかる脇本選手を、少し外に出した古性選手が必死で追いすがるカタチとなりました。
さらにその外から平原選手や北日本ラインも襲いかかりますが、前が止まりそうで止まらない。ゴール前では6車が横にズラッと広がるという大激戦となりました。この接戦を僅差でモノにしたのは、脇本選手の番手から差した古性選手。そして2着にも脇本選手がギリギリ残って、近畿ラインでのワンツーを見事に決めています。
そして3着に、外から直線で鋭い伸びをみせた守澤選手。4着に平原選手、5着が新田選手、6着が佐藤慎太郎選手(78期=福島・44歳)と、ここまでは本当に僅差でした。レース展開は「主導権を握った近畿ラインを北日本ラインが捲るも捉えられず」というシンプルすぎるほどシンプルなものでしたが、見応えは十分。オールスターに相応しい、なかなかいいレースになったと思います。
脇本選手の番手という「優勝に近そうでじつは遠い」ポジションからしっかり結果を出した古性選手は、素直に褒め称えるべき。直線が長いいわき平のバンクや、ホームが向かい風だったこと、脇本選手が捲りではなく逃げる可能性が高いこと、そしてオリンピックから直行という厳しい日程など、ここは「脇本選手を差せる」絶好機だったんですよ。もう、ここしかない級の大チャンスだった。
でも、お膳立てが整っていたからといって、決して容易なことではありません。それを見事にモノにした古性選手の走りは、素晴らしいものでした。念願のGIタイトルを獲得した自信によって、彼はさらにひと皮むける可能性がありますよ。そして今後は、タイトルホルダーとしての走りも求められてくる。脇本選手のダッシュについていけないような競輪は、絶対に見せられません。
そして脇本選手も、当たり前ですがやはり強いですね。次のシリーズからは、あらゆるものを「競輪仕様」に戻した脇本選手が見られそうで、楽しみです。新田選手については、自分が潰れるような逃げや捲りをすることがない選手なので、あのような仕掛けになるのもある意味、想定通り。それを考えると、北日本ライン3番手から直線だけで「あわや」のところまで追い上げてきた守澤選手はたいしたものです。
脇本選手と新田選手の帰還に、古性選手という新たなGIウイナーの登場。年末のグランプリに向けて、今後の競輪がさらに盛り上がっていきそうな“予兆”のようなものも感じられた、いいオールスターでした!
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。