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山田裕仁のスゴいレース回顧

【燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯 回顧】松浦悠士は“なぜ”強いのか

2021/08/25 (水) 18:00 19

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII)を振り返ります。

先頭を駆ける松浦悠士(黒・2番車)。岩津裕介(黄・5番車)、藤岡隆治(緑・6番車)を引き連れ、ラインで上位独占を果たした(撮影:島尻譲)

2021年8月24日 松戸10R 燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①吉田拓矢(107期=茨城・26歳)
②松浦悠士(98期=広島・30歳)
③中川誠一郎(85期=熊本・42歳)
④山口泰生(89期=岐阜・39歳)
⑤岩津裕介(87期=岡山・39歳)
⑥藤岡隆治(98期=徳島・45歳)
⑦佐々木雄一(83期=福島・41歳)
⑧荒井崇博(82期=佐賀・43歳)
⑨渡邉雄太(105期=静岡・26歳)

【初手・並び】
←②⑤⑥(中四国)③⑧(九州)①⑦(混成)⑨④(混成)

【結果】
1着 ②松浦悠士
2着 ⑤岩津裕介
3着 ⑥藤岡隆治

好調な機動型の選手たち、松浦選手が敗れる可能性もあった

 8月24日(火)には松戸競輪場で、燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII)の決勝戦が行われました。いわき平オールスターからの連戦で、ここには松浦悠士選手(98期=広島・30歳)と新田祐大選手(90期=福島・35歳)、佐藤慎太郎選手(78期=福島・44歳)、和田健太郎選手(87期=千葉・40歳)と、4名のS級S班が出場。しかし、決勝戦まで駒を進めたのは松浦選手だけでした。

 準決勝で、新田選手と佐藤選手というSSコンビを見事に退けてみせたのが、中川誠一郎選手(85期=熊本・42歳)です。いわき平オールスターに続いての決勝戦進出と、今は本当にデキがいい。その準決勝では、主導権を奪いにきた新田祐大選手(90期=福島・35歳)に対して引かずに突っ張り、そして逃げ切るという非常に強いレースを見せていました。いくら調子がいいとはいえ、これには驚かされましたね。

 そして、オールスターではイマイチだった調子をしっかり戻してきたのが、今シリーズの松浦選手です。初日の特選は2着でしたが、4車連係と圧倒的に有利な北日本ラインに対して混成2車で戦った結果としては、上々といえるもの。彼らしい競輪の巧さもあっての結果ですが、調子が戻ってきている様子が十分にうかがえました。同地区の“仲間”をキッチリ勝ち上がらせているのも、さすがですよ。

 佐々木雄一選手(83期=福島・41歳)との即席コンビとなった吉田拓矢選手(107期=茨城・26歳)や、決勝戦では山口泰生選手(89期=岐阜・39歳)と連係する渡邉雄太選手(105期=静岡・26歳)も、調子はよかったですよ。つまり、決勝戦を走る機動型の選手は、いずれも好調だったということ。しかも舞台は、333mバンクの松戸です。展開次第では、松浦選手が敗れるケースも十分に考えられました。

吉田選手、渡邉選手の隙を突いて仕掛けた松浦選手の好判断

 それでは、レースを振り返っていきましょう。スタートから飛び出していったのは松浦選手で、そこに岩津裕介選手(87期=岡山・39歳)と藤岡隆治選手(98期=徳島・45歳)が続いて、中四国ラインを形成。相手の出方を待つことになる「前受け」は不利となることも多いんですが、ここはそのほうがベターという判断だったのでしょう。それでも勝てるという自信がうかがえます。

 その後に続くのは、中川選手と荒井崇博選手(82期=佐賀・43歳)の九州ライン。スタートを取りにいく気配も見せた中川選手でしたが、引いてこの位置を選択しました。そして、吉田選手が6番手で、渡邉選手が後方8番手というのが、初手の並び。もっとも強い松浦選手が、最後方からの仕掛けとなる可能性もある並びです。さて、ここからどういう「切って切られて」が繰り広げられるのか……。

 青板(残り3周)のバックで、後方にいた渡邊選手が上昇を開始。先頭の松浦選手を抑えたところで、先頭誘導員が外れます。そこをさらに吉田選手が「切り」にいって、いったん先頭に。これらが早い段階での動きだったのもあって、松浦選手は5番手までポジションを下げます。そして赤板(残り2周)を通過しますが、その次に動くと思われた中川選手は、意外にも動かず8番手のままです。

 吉田選手や渡邊選手も、次に仕掛けるのは中川選手だと思っていたのでしょう。何度も後ろを振り返りながら、打鐘の手前まで流し気味に走っていました。その間隙を絶妙のタイミングで突いたのが、5番手にいた松浦選手。中川選手が動くのに先んじて一気のカマシを打ち、打鐘過ぎで早々と先頭に立ちました。

渡邉選手(左)と吉田選手。いずれも26歳とこれからの成長が期待される若手選手(撮影:島尻譲)

 反応が遅れた吉田選手は、中四国ラインにあっさり飲み込まれて4番手に。渡邊選手はさらにその後ろと、かなり厳しいポジションに追い込まれました。そこで外からグングン上昇してきたのが、松浦選手のカマシを一瞬遅れて追いかけた中川選手。完全に抜け出した中四国ラインを九州ラインが必死に追うカタチで、最終周回に突入します。

 中川選手がジリジリと差を詰めてきたところで、中四国ライン3番手の藤岡選手がブロック。それでも中川選手は必死で追いすがりますが、さらにその前では岩津選手が待ち構えており、さらに松浦選手の「かかり」もいいとあっては、いかにも厳しい。最終2センターでも中四国ラインが抜け出している態勢のままで、最後の短い直線に入ります。

 これは、松浦選手の番手を走る岩津選手にとって絶好の展開。松浦選手の仕掛けるタイミングがやや早くなったのもあって、二次予選のように差し切るシーンまでありそうな流れだったと思います。実際に、直線では岩津選手がいい伸びを見せて松浦選手に肉迫しますが、それでも抜かせないのが松浦選手の“強さ”。ギリギリ残して先にゴールに飛び込み、今年6度目の記念制覇を決めています。

 2着に岩津選手、そして3着に藤岡選手と、中四国ラインが上位を独占。これで競輪祭への出場が決まった藤岡選手は、本当にうれしかったでしょうね。個人としても勝ち、そしてライン戦でも完勝してみせた松浦選手のレース運びには、満点がつけられます。それに対して、ほかの機動型の選手はいかにも不甲斐なかったというか。それもあって、松浦選手の強さばかりが目立つレースになった印象です。

「ある程度」までは行けてもタテ脚だけで勝てないのが競輪

 もっとも残念だったのは、やはり中川選手の走り。捲る競輪のほうが優勝に近いという判断だったのでしょうが、あのデキで後方からになるくらいならば、いったん前を「切り」にいったほうが絶対にいいですよ。その結果、仕掛けてきた松浦選手との主導権争いになり、前でもがき合うような展開になったとしても、勝てる可能性はあった。実際に準決勝では、前で突っ張る競輪をして新田選手に勝っているわけですからね。

 吉田選手や渡邊選手にしても、もっといくらでもやりようはあったはず。もし初手の並びの時点で失敗したならば、そこからどう挽回するかを、周回中に考えなきゃダメです。自分の思い通りにいった場合はいいですが、そうならなかった場合にどう動くか、どう攻めるかという「引き出し」を、もっと増やしていく必要がありますね。脚力を磨くだけで勝てるほど、記念や特別は甘くないですから。

 機動力のある若い選手に、ヨコの動きを身につけろとは僕は言いません。今の競輪が、タテ脚があれば「ある程度のところまで」到達できるものになっているのも事実です。しかし、トップクラスの脚力を有する脇本雄太選手(94期=福井・32歳)や新田選手であっても、記念や特別では負ける。競輪がラインというチーム戦であり、そこに「展開」という要素があるかぎり、負けてしまうんですよ。

今年記念競輪6勝目となった松浦選手。”競輪IQ”と脚力が高いレベルでかみ合っている(撮影:島尻譲)

 そんな競輪という世界で結果を出し続けるには、レースの組み立てが上手いことが必須条件。自分が力を発揮できると同時に、他の選手やラインに力を「出させない」ためにはどうすればいいのか? それを、もっと深く考えるべきでしょう。さまざまなパターンを想定して、臨機応変に対応し、正解に近い答えを導き出せる。それこそが、じつは松浦選手のもつ最大の“強み”なんです。

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山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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