2025/03/10 (月) 18:00 10
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが玉野競輪場で開催された「瀬戸の王子杯争奪戦」を振り返ります。
2025年3月9日(日)玉野12R 開設74周年記念 瀬戸の王子杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①清水裕友(105期=山口・30歳)
②南修二(88期=大阪・43歳)
③吉田拓矢(107期=茨城・29歳)
④取鳥雄吾(107期=岡山・30歳)
⑤山田庸平(94期=佐賀・37歳)
⑥柏野智典(88期=岡山・46歳)
⑦犬伏湧也(119期=徳島・29歳)
⑧岩津裕介(87期=岡山・43歳)
⑨松浦悠士(98期=広島・34歳)
【初手・並び】
←④⑧⑥(四国)⑤(単騎)⑦①⑨(中四国)②(単騎)③(単騎)
【結果】
1着 ③吉田拓矢
2着 ⑤山田庸平
3着 ⑦犬伏湧也
3月9日には岡山県の玉野競輪場で、瀬戸の王子杯争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。S級S班からこのシリーズに出場していたのは、平原康多選手(87期=埼玉・42歳)と清水裕友選手(105期=山口・30歳)、眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)の3名です。中国地区での注目選手を清水選手以外であげるならば、松浦悠士選手(98期=広島・34歳)と犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)でしょう。
そういえば、北井佑季選手(119期=神奈川・35歳)がS級S班から除外処分となったことにともない、犬伏選手が追加選出されましたね。個人的には「S級S班が8名になってもべつにいいのでは」と思っていますが、9名いなければ張り合いがないという考え方もあるのでしょう。いずれにせよ、これは犬伏選手にとって大きなチャンス。4月からの、さらなる飛躍に期待しましょう。
そんな犬伏選手も出走した初日特選は、ラインが2つに単騎が3名という構成に。眞杉選手が先頭の関東勢が前受けから突っ張ろうとしますが、打鐘前からカマシた犬伏選手が叩いて前に出ます。しかし、最終バック過ぎから眞杉選手が巻き返して、最終2マークできれいに内を抜けてきた平原選手が1着。2着は吉田拓矢選手(107期=茨城・29歳)で関東勢のワンツーと、中国勢にとって悔しい結果になりましたね。
しかし、平原選手は続く二次予選で福島栄一選手(93期=香川・41歳)と接触して、ともに落車。これに太田竜馬選手(109期=徳島・28歳)も巻き込まれ、平原選手はレース後に過失走行で失格となっています。平原選手はこれだけ落車が続くと、フィジカル面はもちろんのこと、メンタル面も心配になってきます。また、再乗できていなかった太田選手の怪我も気がかりですね。
二次予選では、眞杉選手も最下位に敗れて勝ち上がりを逃しています。打鐘から仕掛けた青野将大選手(117期=神奈川・30歳)に叩かれ、最終ホームからのもがき合いとなり、さらに内で詰まって身動きの取れないカタチとなってしまいました。負け戦ではキッチリ連勝していたように、調子はけっして悪くなかったと思います。伊東・ウィナーズカップ(GII)での巻き返しに期待しましょう。
S級S班の2名が早々と脱落するなか、存在感を大いに発揮したのが中四国勢です。番組面での有利さがあったとはいえ、決勝戦に過半数である6名が勝ち上がりました。しかし、豊橋・全日本選抜競輪(GI)の決勝戦もそうでしたが、決勝戦に“仲間”が多すぎるというのも、なかなか悩ましい。結局、地元・岡山勢の3車と「それ以外」が別線となり、決勝戦を争うことになりました。
初日特選と同じく、ライン2つに単騎が3名というメンバー構成となった決勝戦。中四国勢の先頭を任されたのは犬伏選手で、番手を回るのは清水選手。そして3番手を松浦選手が固めるという、超豪華布陣です。清水選手は二次予選、準決勝と連勝してきましたが、デキに関してはまだ復調途上といった印象。犬伏選手が主導権を奪えば絶好の展開となりそうなので、そこで勝機をモノにできるかどうかですね。
そして岡山勢は、取鳥雄吾選手(107期=岡山・30歳)が先頭で、番手を回るのが岩津裕介選手(87期=岡山・43歳)。3番手を固めるのが柏野智典選手(88期=岡山・46歳)という並びです。自分の走りをするためにも取鳥選手は主導権を奪いたいところですが、相手が犬伏選手となるとかなりキツいですよね。とはいえ、地元としてここは譲れない。遠慮など微塵もない、ガチンコ勝負を挑んでくるでしょう。
単騎を選んだのは南修二選手(88期=大阪・43歳)と山田庸平選手(94期=佐賀・37歳)、吉田選手の3名。デキのよさが目立っていた山田選手と吉田選手は、単騎といえども要注意でしょう。中四国勢と岡山勢が主導権を争ってもがき合う展開にでもなれば、勝機は十分あるはず。道中での動きがない落ち着いた展開となった場合でも、立ち回り次第で上位への食い込みが狙えそうです。
それでは、決勝戦のレース回顧に入ります。レース開始を告げる号砲と同時に飛び出したのは、スタート回数が圧倒的に多い取鳥選手。地元・岡山勢の前受けが決まって、その後ろには、後から位置を主張した山田選手が入りました。犬伏選手が先頭の中四国勢は5番手からで、8番手に南選手、9番手に吉田選手というのが初手の並び。前受けを選んだということは、取鳥選手は突っ張り先行狙いでしょうか。
その後は動きがないまま周回が進んで、赤板(残り2周)掲示を通過しても先頭誘導員は離れないまま。後方の単騎勢が動かないのをみて、赤板後の1センターで犬伏選手が動きました。単騎の南選手と吉田選手も、これに連動。先頭の取鳥選手は突っ張らず、5車を前に出して後方に構えます。ここでレースは打鐘を迎えますが、それと同時に取鳥選手は一気にカマシて、前を強襲します。
先頭の犬伏選手もここで退くわけにはいかず、急加速して応戦。山田選手は岡山トリオとは連動せず、吉田選手の後ろにつけます。最終ホーム手前で取鳥選手が犬伏選手の外に並びますが、内の犬伏選手もまったく譲らず、もがき合いとなりました。ここで取鳥選手が犬伏選手を内に押し込み、犬伏選手が態勢を立て直す間に取鳥選手を岩津選手までが前に出て、最終1センターを回ります。
しかし、ここで柏野選手が離れてしまいます。元の位置に戻ろうとする柏野選手と、そうはいかない内の清水選手との、激しいぶつかり合いとなります。その間に、態勢を立て直した犬伏選手が3番手の位置に復帰。犬伏選手は最終バック手前から外に出して、前を捲りにいきます。しかし、柏野選手と南選手が外側に張り付いている清水選手と松浦選手は身動きがとれず、犬伏選手の捲りについていけません。
ここで満を持して動いたのが、後方でじっと動かずにいた吉田選手。犬伏選手が捲りにいくのとほぼ同時に仕掛けて、前との差を一気に詰めていきます。その後ろにいた山田選手も、吉田選手マークで追走。前では、単騎で捲りにいくカタチとなった犬伏選手が、岩津選手の外まで進出しています。内圏線よりも内にいる清水選手は身動きが取れず、松浦選手も周りを囲まれて進路がないという、絶望的な状況です。
最終3コーナーでは全体が一気に凝縮。前では取鳥選手が踏ん張っていますが、捲りにいった犬伏選手のほうが勢いはいい。取鳥選手の番手から外に出した岩津選手と、その後ろに復帰した柏野選手が前を追いますが、後方から捲った吉田選手が、もうその外にまで進出してきています。下げざるをえなかった清水選手と松浦選手は、この時点で最後方と完全に立ち後れています。
最終2センターでは、力尽きた取鳥選手を捉えて犬伏選手が先頭に立ちますが、その直後まで迫った吉田選手と山田選手が、一気に飲み込んでしまいそうな勢い。取鳥選手の番手にいた岩津選手は、ここで犬伏選手の後ろに切り替えました。犬伏選手を外から吉田選手が追うという態勢で、最終4コーナーを回って最後の直線へ。外から伸びる吉田選手は、30m線で犬伏選手を捉えて、先頭に立ちました。
吉田選手の外から差しにいった山田選手がジリジリと差を詰めますが、捲った吉田選手のスピードはまったく衰えず、そのまま先頭でゴールイン。昨年6月の取手以来となる、通算7回目のGIII優勝を決めています。2着は吉田選手の捲りに乗った山田選手で、3着に犬伏選手。犬伏選手を叩いて主導権を奪った地元・岡山勢は、残念ながら岩津選手の4着が最高着順となりました。
イメージしていた以上に真っ正面からぶつかり合った、中四国勢と岡山勢。取鳥選手も意地をみせましたが、叩いたはずの犬伏選手に捲り返されたのですから、これはもう相手を褒めるしかないでしょう。取鳥選手が前受けからの突っ張り先行を選ばなかったのは、内で詰まらされるのを嫌ったからではないでしょうか。実際に、中四国勢の清水選手と松浦選手は、内で身動きのとれない状況に陥っています。
取鳥選手に叩かれ、清水選手との連係も断たれて、それでも取鳥選手を捉えて先頭に立っている犬伏選手の走りには、正直なところ驚かされました。S級S班に選出されるだけのことはある…と、改めて感じ入りましたね。後方から捲った吉田選手のスピードも素晴らしかったですが、犬伏選手と取鳥選手のガチンコ勝負となり、展開が向いたのは間違いない。もっとも強い走りをみせたのは、犬伏選手でしょう。
清水選手は展開に泣いた面もありましたが、やはり記念の決勝戦クラスが相手となると、まだまだデキが「足りない」現状なのでしょう。松浦選手は、今回に関しては完全に展開負けで、勝負どころであの位置になってしまったのでは、致し方ありません。デキ自体はけっして悪くなさそうでしたから、過去に2回の優勝があるウィナーズカップに向けて、さらに調子を上げていってほしいものです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。