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山田裕仁のスゴいレース回顧

【大阪・関西万博協賛競輪in大垣 回顧】うまくいくときは本当にうまくいく

2025/03/17 (月) 18:00 12

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが大垣競輪場で開催された「大阪・関西万博協賛競輪in大垣」を振り返ります。

志田龍星が地元バンクでGIII初制覇!(写真提供:チャリ・ロト)

2025年3月16日(日)大垣12R 大阪・関西万博協賛競輪in大垣(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①山本伸一(101期=奈良・42歳)
②志田龍星(119期=岐阜・27歳)
③鈴木竜士(107期=東京・31歳)
④橋本壮史(119期=茨城・29歳)
⑤永澤剛(91期=青森・39歳)
⑥佐藤一伸(94期=福島・37歳)
⑦市橋司優人(103期=福岡・32歳)
⑧阿部拓真(107期=宮城・34歳)
⑨山口富生(68期=岐阜・55歳)

【初手・並び】

←④③(関東)②⑨(中部)⑥⑤⑧(北日本)①(単騎)⑦(単騎)

【結果】

1着 ②志田龍星
2着 ①山本伸一
3着 ⑦市橋司優人

主役の不在を埋めるのは…!?

 3月16日には岐阜県の大垣競輪場で、大阪・関西万博協賛競輪in大垣(GIII)の決勝戦が行われています。伊東・ウィナーズカップ(GII)の直前というタイミングではありますが、デイ開催の大垣とナイターの四日市で、連続してGIIIの決勝戦が行われるという豪華な日曜日となりました。あいにくの雨模様でしたが風は強くはなく、軽く感じるバンクコンディションだったようですね。

 ここには山口拳矢選手(117期=岐阜・29歳)が“主役”として出場を予定していたのですが、残念ながら欠場となりました。競走得点が高かったのは、追加で出場した河端朋之選手(95期=岡山・40歳)や、中本匠栄選手(97期=熊本・37歳)、鈴木竜士選手(107期=東京・31歳)など。いわゆる「裏開催」らしい、確たる中心を欠いたシリーズで、当然ながらかなりの混戦模様です。

左から河端朋之、鈴木竜士、中本匠栄(写真提供:チャリ・ロト)

不調の河端朋之と、対照的だった鈴木竜士

 初日特選は、ラインが4つに単騎が1名のコマ切れ戦に。後方から仕掛けた河端選手の番手にうまくハマった鈴木選手が、最後の直線で力強く抜け出して快勝しました。2着は、外から鋭く伸びた中本選手で、鈴木選手と離れるも自力でよく差を詰めた永澤選手が3着。河端選手はいいスピードをみせるも、末を欠いて7着に終わっています。河端選手のデキは、あまりよくは感じられませんでしたね。

 河端選手は二次予選でも、後方から捲るも勝ちきれず3着という結果。準決勝でも、単騎で捲りきるかという態勢から伸びきれず、4着で勝ち上がりを逃しています。そんな河端選手とは対照的に、非常にいいデキだったのが鈴木選手。菊池岳仁選手(117期=長野・24歳)の番手を佐藤一伸選手(94期=福島・37歳)に奪われるも、3番手追走から最後の直線で差しきって、無傷の3連勝で決勝戦に駒を進めています。

 そのほかでは、橋本壮史選手(119期=茨城・29歳)も動きのよさが目立っていた選手のひとり。山口選手にかわって地元・岐阜勢の主役を張った志田龍星選手(119期=岐阜・27歳)も、いい内容で勝ち上がってきました。初日特選組からの勝ち上がりは4名で、混戦模様らしく、調子のいい選手が決勝戦に駒を進めてきたという印象ですね。決勝戦は、ラインが3つに単騎が2名というメンバー構成となりました。

左から橋本壮史、志田龍星(写真提供:チャリ・ロト)

地元勢は志田に、御大・山口富生!

 2車となった中部勢は、先頭が志田選手で番手に山口富生選手(68期=岐阜・55歳)という、地元・岐阜コンビで決勝戦を戦います。まだGIIIを勝ったことがない志田選手にとって、ここは大きなチャンスでしょう。同じく2車の関東勢は、先頭が橋本選手で番手に鈴木選手という組み合わせ。どちらもデキがいいだけに、橋本選手が楽に先行できるような展開になると、他のラインは厳しいですよ。

 唯一の3車ラインが北日本勢で、先頭を任されたのは佐藤一伸選手(94期=福島・37歳)。番手を回るのが永澤選手で、3番手を阿部拓真選手(107期=宮城・34歳)が固めるという布陣です。佐藤選手は捲りが主体で、車番にも恵まれなかっただけに、3車といえども立ち回りがちょっと難しいところ。そして単騎で勝負するのが、山本伸一選手(101期=奈良・42歳)と市橋司優人選手(103期=福岡・32歳)です。

 機動力は志田選手が上位ですが、ここは橋本選手も積極的なレースを仕掛けてきそうで、そうなれば関東ライン番手の鈴木選手が展開有利。志田選手は、展開を読む判断力や立ち回りの巧さを求められそうです。動きのある展開になりそうなので、単騎勢も位置取りと仕掛け次第で上位争いができそうですが、果たしてどうか。それでは、決勝戦のレース回顧に入っていきましょう。

前受けは関東勢、単騎2名は最後方で一発狙う

 レース開始を告げる号砲が鳴って、いい飛び出しをみせたのは3番車の鈴木選手。以外にも関東勢が前受けを選んで、まずは橋本選手が先頭に立ちます。その直後3番手につけたのは地元の志田選手で、北日本勢は5番手から。そして単騎の山本選手が8番手、市橋選手が最後方というのが、初手の並びです。後ろ攻めとなった北日本勢が動いたのは、青板(残り3周)周回の4コーナーからでした。

関東勢が前受け選択、地元の志田は3番手(写真提供:チャリ・ロト)

 佐藤選手が外から位置を上げていくと、先頭の橋本選手はまったく抵抗せずに下げて、佐藤選手が先頭に変わって赤板(残り2周)掲示を通過します。この北日本勢に、単騎の山本選手が連動。4車が前に出ると、中団の志田選手もその後に続いて、橋本選手の外に並びます。単騎の市橋選手は、岐阜コンビの後ろにつけました。ペースがまったく上がらないまま、赤板周回のバック手前までいきます。

 前の北日本勢が内をあけているのをみて、内で身動きがとれない態勢になっていた橋本選手が、ここでまっすぐ前に加速。岐阜コンビの後ろにつけていた市橋選手は、切り替えてこの後ろにつけます。橋本選手は「内から先頭まで出られる」という読みだったのかもしれませんが、橋本選手が永澤選手の内まで入り込んだところで、先頭の佐藤選手が外帯線の内側に戻って、その動きを阻止。ここで、レースは打鐘を迎えました。

内が空いたタイミングで橋本(4番車・青)が加速するも、佐藤(6番車・緑)が阻止(写真提供:チャリ・ロト)

急加速の志田、後続を突き放す!

 完全に内で詰まらされるカタチとなった橋本選手と、それを前と外から包み込む北日本勢。先行したい橋本選手の動きを封じるためか、先頭の佐藤選手は打鐘後の2センターになっても、ペースを上げません。そこを一気にカマシて襲いかかったのが、後方でじっと様子をみていた志田選手。素晴らしい加速で、打鐘後の4コーナーで先頭に並ぶと、あっという間に後続を突き放しにかかります。

 ペースを落としていた佐藤選手はこのカマシに対応できず、慌てて全力モードに切り替えますが、志田選手や山口富生選手との差はどんどん開いていきます。より早く対応できたのは単騎の山本選手で、北日本勢の後ろから自力に切り替えて、前をいく岐阜コンビを追い始めました。内で詰まらされている関東勢は、最終ホームになっても状況は変わらず、身動きがとれないままです。

後続ぶっ放す志田(2番車・黒)、番手の山口富生(9番車・紫)との距離はどんどん開いていく…(写真提供:チャリ・ロト)

 先頭に立った志田選手は、最終1センターで後続をさらに突き放しますが、それをマークする山口富生選手がついていけずに、離れて追走する隊列となりました。そこからさらに離れて、佐藤選手や自力に切り替えた山本選手が追うという状況。関東ライン番手の鈴木選手は、いったん最後方まで下げてから外に出し、市橋選手の後ろに切り替えました。しかし、先頭の志田選手は、はるか彼方です。

 バックストレッチに入ったところでは、もうセーフティリードといっていいレベルで後続を突き放した志田選手。後続が必死に前を追い、その差がジリジリと詰まってはいますが、その差は絶望的なほどです。北日本ライン先頭の佐藤選手はそれほど伸びがなく、最終バックでは外から追う山本選手や、その動きに乗った市橋選手が、北日本勢の前に出ます。最後方まで下げた鈴木選手も、大外から仕掛けました。

セーフティリード保った志田、地元でGIII初制覇!

 最終3コーナーで、山本選手が山口富生選手を射程に入れますが、先頭の志田選手はまだまだ先。山本選手の外からは、市橋選手と鈴木選手が伸びてきます。北日本ライン番手の永澤選手は、ここで市橋選手の後ろにスイッチ。山本選手が山口富生選手の直後まで迫り、それを内から佐藤選手、外から市橋選手と鈴木選手が追いすがるという隊列で、最終2センターを回ります。

 そして最後の直線に向きますが、先頭の志田選手は完全に独走状態。必死に粘る山口富生選手を、ここで山本選手が捉えて単独2番手に浮上します。その後ろは市橋選手や、大外から伸びる鈴木選手、内を割って伸びてきた永澤選手、鈴木選手の仕掛けに乗った阿部選手などが、内外でズラリと広がる大激戦に。しかし、先頭の志田選手はセーフティリードを保ったまま、ゴールラインを駆け抜けました。

2〜3着争いは5車横並びの大接戦!(写真提供:チャリ・ロト)

 5車が横並びでの大接戦となった2〜3着争いは、山本選手がよく残して2着。そして3着は市橋選手と、単騎で勝負した2名が上位に食い込みました。4着は永澤選手で、阿部選手が5着。人気の中心だった鈴木選手は、最後よく差を詰めるも6着に終わっています。志田選手は、これがうれしいGIII初優勝。それを地元で、これほどの完勝劇で決められたのですから、喜びもひとしおでしょう。

 しかも志田選手は、前場所の京王閣FIに続く連続優勝。その資質の高さは前々から評価されていましたが、これでようやく「実績」がともないましたね。「どうぞカマシてください」というような展開に恵まれたとはいえ、仕掛けたタイミングはドンピシャ。番手の山口富生選手に遠慮せず、全力でいったのもよかったと思います。地元ワンツーを決められればベストですが、それを意識して自分が負けたのでは本末転倒です。

「うまくいくときは本当にうまくいく」の典型

 志田選手のカマシに最も早く対応できたのが、2着の山本選手。それにうまく乗った市橋選手も、好結果を出すことができましたね。まったく存在感を発揮できずに終わってしまった橋本選手については、打鐘前になぜ内を突き進んだのか、私にはちょっと理解できませんでした。前が空いていたとはいえ、佐藤選手が内を締めたら、それだけで確実に詰まらされるというのに…う〜ん、やっぱりわからないですね。

 そんな橋本選手をうまく封じ込めた佐藤選手ですが、こちらはこちらで、志田選手のカマシに対する警戒心がなさすぎます。ペースを上げると包囲網が崩れる危険性があるとはいえ、あそこまでペースを落としたままだと、カマシが飛んできて当然。もう少しスピードを上げて、志田選手のカマシに飛びつくなどの対応策が打てる状況にしておかねばなりません。あれほどスピード差があると、何もできませんからね。

 志田選手の優勝は「うまくいくときは本当にうまくいく」の典型でしたが、それでもやはり、大垣のGIIIを地元の選手が獲れたのは本当にうれしい。まだまだ伸び盛りですから、この優勝で自信をつけて、山口拳矢選手と張り合えるような存在になってほしいですね。あとは…勢いのない中部地区を少しでも盛り上げるために、愛知・岐阜・三重・富山・石川の各県に一人ずつくらいは、イキのいい若手が出てきてほしいものです。

伸び盛りの志田は山口拳矢(右)と張り合える選手を目指す!(写真提供:チャリ・ロト)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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