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山田裕仁のスゴいレース回顧

【アーバンナイトカーニバル 回顧】画竜点睛を欠くも吉澤純平は強かった

2021/08/09 (月) 18:00 4

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがアーバンナイトカーニバル(GIII)を振り返ります。

強烈な捲りの脚を見せ優勝した吉澤純平(黒・2番車)(撮影:島尻譲)

2021年8月8日 川崎12R アーバンナイトカーニバル(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①白戸淳太郎(74期=神奈川・48歳)
②吉澤純平(101期=茨城・36歳)
③門田凌(111期=愛媛・27歳)
④櫻井正孝(100期=宮城・34歳)
⑤伊原克彦(91期=福井・39歳)
⑥内山雅貴(113期=静岡・26歳)
⑦雨谷一樹(96期=栃木・31歳)

⑧簗田一輝(107期=静岡・25歳)
⑨高原仁志(85期=徳島・40歳)

【初手・並び】
←③⑨(四国)⑥⑧①(南関東)④(単騎)⑦②(関東)⑤(単騎)

【結果】
1着 ②吉澤純平
2着 ③門田凌
3着 ④櫻井正孝

機動力のある自力選手が揃った決勝戦

 8月8日に川崎競輪場で行われた、アーバンナイトカーニバル(GIII)の決勝戦。次週にオールスター競輪(GI)が控えているとあって、S級S班どころかS1のトップクラスも出ていないという、かなり手薄なメンバーとなりました。確たる中心といえる選手の不在もあって、シリーズを通して高配当がよく出ていた印象ですね。

 初日特選に出場した選手で決勝戦まで勝ち上がったのは、もっとも競走得点が高かった高原仁志選手(85期=徳島・40歳)など、わずか3名。この結果も、このシリーズがいかに混戦模様だったかをよく表しています。デキのいい機動型のS2選手が、決勝戦まで多く勝ち上がったというのも、その証明でしょう。

 地元・南関東は3名が決勝に進出。ライン先頭を任されたのは内山雅貴選手(113期=静岡・26歳)で、準決勝では前がもつれたところを絶妙のタイミングでカマシて捲り、簗田一輝選手(107期=静岡・25歳)とともに勝ち上がってきました。こちらは、ラインの2番手を簗田選手、3番手を地元の白戸淳太郎選手(74期=神奈川・48歳)が固めます。

 いかにもデキがよさそうだったのが、門田凌選手(111期=愛媛・27歳)。準決勝と同様に、高原仁志選手(85期=徳島・40歳)とのコンビで優勝を狙います。その準決勝では、前を抑えて打鐘から主導権を握って、最後の最後までギリギリ粘るという、なかなかの内容を見せていました。高原選手は、本当にいいときのデキにはまだまだという印象でしたが、それでもその力はやはり侮れません。

 そして、準決勝で門田選手と高原選手のコンビを打ち破っているのが、雨谷一樹選手(96期=栃木・31歳)です。絶好の展開に恵まれたとはいえ、直線で見せた脚の鋭さは目を見張るもの。こちらも調子は、かなりよかったと思います。関東ラインの2番手は、、負傷休養から復帰して2場所目となる吉澤純平選手(101期=茨城・36歳)。勝ち上がりの内容を見るに、前場所よりもデキが明らかによくなっていましたね。

 あとは、単騎となった櫻井正孝選手(100期=宮城・34歳)と伊原克彦選手(91期=福井・39歳)も、当然ながら軽視はできません。入ろうと思えばどこからでも入れるレースで、誰が主導権を握ってどういったレースメイクをするか次第で、結果はガラッと変わることでしょう。それだけに難しいですが、機動力のある選手が多くて展開読みが面白くもある。そんな決勝戦になったといえます。

残り1周、分断された雨谷と吉澤の関東ライン

 スタートの号砲が鳴ってまず飛び出していったのは、白戸選手と門田選手。結局は門田選手が先頭に立ち、後ろに高原選手を迎え入れます。そして3番手〜5番手に、地元の南関東ライン。単騎の櫻井選手が6番手、関東ラインの雨谷選手が7番手、最後方に単騎の伊原選手というのが、初手の並びとなりました。

 そしてセオリー通りに、赤板(残り2周)の手前から、後方にいた雨谷選手が上昇を開始。この動きに、最後尾にいた伊原選手もついていきます。先頭をいく門田選手を雨谷選手が抑えて、誘導員が離れたところでいったん先頭に。しかしすかさず、伊原選手がこの動きを叩きにいきます。門田選手は抵抗せず、4番手までポジション下げました。

 打鐘の手前で主導権を奪うべく仕掛けたのが、南関東ライン先頭の内山選手。グングンポジションを押し上げて先頭に迫ったところで打鐘を迎えますが、ここでポジションを下げるわけにはいかないとばかりに、雨谷選手が突っ張って抵抗。先頭を走っていた伊原選手はスッと引いて、南関東ラインと関東ラインが主導権を争う展開となりました。打鐘後の4コーナーを回ったところで、内山選手が先頭に立ちます。

 しかし、内山選手が外から雨谷選手の前に切れ込んだことで、雨谷選手が内山選手の番手を取るカタチに。これはマズイ!と簗田選手が雨谷選手を内に押し込んでポジションを奪い返そうとしますが、当然ながら雨谷選手も譲りません。この攻防の最中に、雨谷選手と吉澤選手の間にスペースが生まれてしまい、そこを南関東ライン3番手の白戸選手が確保。関東ラインは分断されてしまいました。

 その後も雨谷選手と簗田選手の番手争いが続きますが、最終バック手前で雨谷選手が競り勝ち、簗田選手は力尽きます。それとほぼ同時に、5番手にいた吉澤選手が外に出して自力捲り。また、後方で前の動きをじっと見ていた四国ラインや単騎の櫻井選手も、ここで一気に前へと襲いかかってきます。

最終2コーナー前、雨谷(橙)と簗田(桃)の激しい番手争い。雨谷との連係が外れた吉澤(黒)は自力に切り替える(撮影:島尻譲)

 先頭で必死にもがく内山選手を、捲った吉澤選手3コーナー過ぎで捉えて先頭に。その後ろのポジションは、後方から一気に差を詰めた門田選手が取りきりました。さらにその後ろでは、櫻井選手が高原選手をヨコの動きでどかして、門田選手の番手を奪取。先頭に立つ吉澤選手に門田選手が追いすがるという態勢で、最後の直線に入ります。

 直線では完全にマッチレースの様相に。道中で脚を温存できていた門田選手がグングン伸びて先頭に迫りますが、吉澤選手も最後まで踏ん張り続けて、両者がほぼ並んだところがゴール。「8分の1車輪差」という僅差の接戦をモノにしたのは、先に抜け出した吉澤選手のほうでした。大きく離れた3着には、門田選手の捲りに乗じてうまく立ち回りましたが、優勝争いには持ち込めなかった櫻井選手が入っています。

大怪我を乗り越えて優勝の吉澤。雨谷をサポート出来れば満点だった

大怪我から復活を果たした吉澤は3度目のGIII制覇。次走は8月13日からの青森競輪(FI)の予定(撮影:島尻譲)

 優勝した吉澤選手は、1カ月も入院する大きな怪我から復帰して、早々に記念を制したのだからたいしたもの。能力的にはオールスター競輪に出ていても不思議ではない選手ですから、だいぶ調子を戻してきていた今場所は、確かにチャンスだったんですよ。それを一発でモノにしたのは高く評価できますが、関東ラインを応援してくれたファンのことを考えると、手放しでは褒め称えられないですかね。

 というのも、あそこで前を開けて白戸選手に入られてしまったのは、明らかに彼のミスですから。展開がもつれたとはいえ、前を任せた雨谷選手の走りをサポートするという“役目”が果たせていない以上、満点はつけられないです。雨谷選手がいい走りをしていただけに、なおさらそこが惜しいというか。

 門田選手は着差が着差だけに、悔しかったでしょうね。前受けからスッと引いて、前がもつれる展開になるというのは理想的。捲ったのも、バックで吉澤選手が仕掛けるのを見計らったような、ベストのタイミングだったと思います。それでも差せなかったのだから、吉澤選手が強かったということですよ。

 どの選手も“優勝”の二文字を狙って、積極的なレースを仕掛けた決勝戦。レベルが高いとはいえなかったかもしれませんが、どの選手も勝ちたいという気持ちが前面に出た、いい走りができていたと思います。うん、いいレースでした!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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