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すっぴんガールズに恋しました!

【野寺楓】初優勝は100万車券! 目標にコツコツ向き合う26歳のモットー「今日を一番好きな日に」

アプリ限定 2025/04/01 (火) 18:00 30

日々熱き戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。その素顔と魅力に松本直記者が深く鋭く迫る『すっぴんガールズに恋しました!』。今回は2月に初優勝を挙げ100万円車券を演出した野寺楓選手(26歳・静岡=122期)。“今日を一番好きな日に”がモットーの野寺選手は、デビュー後大敗が続いても、その都度目標を立ててコツコツ努力を重ねてきた。

自転車のメッカ・伊豆で育つ

 静岡県伊豆市出身の野寺楓。3歳上の姉、楓、3歳下の梓と3姉妹で仲良く育った。姉の影響で小学校低学年から陸上競技を始め、中学3年生まで打ち込んだ。

三姉妹でロードレース選手の叔父を応援(本人提供)

 自転車のメッカである伊豆で育った彼女と自転車との出会いは小学4年生のときだった。祖父がいとこと一緒に自転車教室(伊豆サイクルスポーツクラブ)へ連れて行ってくれた。

「元々叔父(野寺秀徳)がロードレース選手で、大会の応援に行ったりしていたので小さいころから自転車は身近にありました。その影響もあって小4で自転車に乗り始めました。伊豆サイクルスポーツクラブには当時、野原美咲ちゃんや鈴木奈央ちゃんもいました。みんなで集まって練習したりする時間がすごく楽しくて、自転車に熱中しました。中学は陸上部でしたが、自転車競技の大会はあれば参加していました」

伊豆サイクルスポーツクラブで野原美咲(左)らと出会う(本人提供)

 高校は自転車競技の名門校、県立伊豆総合高校へ進学した。

「高校は部活中心の生活でした。東海地区の大会では1番になることがあったけど、同学年では小泉夢菜ちゃんが圧倒的に強くて全国大会では勝つことができなかった。それでも自転車は楽しくて、一生懸命練習していました」

大学進学後、ガールズケイリン挑戦を決断

 親交のあった野原美咲や鈴木奈央を追いかけて、高校卒業後すぐにガールズケイリン選手を目指すのかと思いきや、野寺の選択肢にガールズケイリン選手は「1ミリもなかった」という。

「進路に迷いはなかった。キャンパスライフへの憧れがあって、とにかく大学生になりたかったんです。東京に出て、キラキラした大学生活をしてみたくて」

 そうして自転車競技の推薦で、千葉にある順天堂大学へ進学した。順天堂大の1年生は佐倉にある学生寮に入ることが決まりだ。野寺の思い描いていた“都会のキラキラしたキャンパスライフ”とはちょっと違ったが、寮生活も楽しかったと振り返る。

「思っていた生活とは違ったけど、楽しかったですよ。女子の学生寮はいろんな学部の生徒が集まるので楽しかった。結局大学も自転車中心の生活になりましたね(笑)」

自転車中心の大学時代(本人提供)

 そして大学卒業後の進路を決めるタイミングで、ガールズケイリン選手を目指すことにしたのだった。それには猛威を振るった新型コロナウイルスも大きく影響していたという。

「就職活動の時期がコロナ禍とまるかぶりだったんです。リモート就活がほとんどで、自分のやりたいことが見えてこなくて…。そうなると自分には自転車しかないかなって思いました。楽しく自転車をやるならガールズケイリン選手かなと」

 大学時代には教員免許を取得していた野寺。体育教師の道もあったが…。

「教職に就くなら競輪選手をやったあとでも挑戦ができるかなって。あと、伊豆で一緒に練習することがあった山口真未さんのガールズケイリン挑戦も自分の中では大きかったですね。身近な存在だった真未さんが落合達彦さんに弟子入りをして選手を目指した。『それなら自分も!』と私も落合さんに師匠になってもらい、養成所を受けてみようと思いました」

 高校、大学時代、ともに自転車競技に打ち込んだ小泉夢菜(早稲田大学)、松本詩乃(日本体育大学)が124期での養成所受験を決めていたことも、野寺の挑戦の後押しとなった。

122期で養成所へ コロナ禍の養成所生活

 そして迎えた日本競輪選手養成所の試験当日は、人生で一番緊張した日だったと振り返る。

「1回の挑戦で合格を決めようと思って臨みました。でも1次試験の500メートルタイムトライアルは緊張した。なんとかやり切ったけど、人生で一番疲れました」

 緊張と不安の中で行われた試験だったが、無事クリア。122期として日本競輪選手養成所への入所を果たした。

 野寺が入所した2021年はコロナ禍真っ最中で、週に一度の外出や夏季・冬季の帰省もなかった。隔離された1年間の養成所生活だったが、今となっては楽しかったと笑って話した。

「土日は同期のみんなでDVDを一緒に見たりして楽しくやっていましたよ。年下組が明るい子たちが多くて、いっぱい笑わせてもらった。外に出ることはできなかったけど、それなりに充実した時間でした。でも卒業間近で候補生のほとんどがコロナになってしまい、3週間部屋から出られない期間もありました…。大変だったけど、貴重な体験をすることができたと思っています」

同期の小泉夢菜(左)、渡部遥(右)と

苦しいときも目標に向かってコツコツ前進

 養成所を在所成績10位で卒業した野寺は、2022年4月30日松戸競輪場のルーキーシリーズでデビューを迎えた。

 予選2走は6、5着と苦戦したが、最終日の一般戦は河内桜雪を追走し差し脚を伸ばして1着。デビュー開催で初勝利を手にした。しかし2場所目の松山では落車、3場所目の四日市では落車失格とほろ苦いルーキーシリーズとなってしまった。

 さらに先輩と対戦が始まった7月からの本格デビュー後も大敗が続いた。

「本デビュー戦は青森だったけど、先輩たちの走り方がイメージできなくて大変だった思い出があります」

 野寺はその都度目標を設定して、コツコツ努力するタイプ。大敗が続いても、「とにかく力いっぱい走ること」を心がけてレースに向かった。そうして経験を積むと11月は豊橋、高松と2開催連続で決勝進出。序盤の大敗を巻き返し、ガールズケイリンの代謝デッドラインである競走得点47点を切ることなく1期目を終えることに成功した。

「大変だったけど47点を確保して終わることができました。少し慣れてきてからはスタートで前に出る組み立てをしていたんです。そうしたら自力で動く選手が自分の前に入ってくれることが増えて、点数を上げていくことができました」

 デビュー2年目の2023年5月、立川の最終日一般戦で本格デビュー後初の1着。約1年ぶりとなる白星でルーキーシリーズに続く2勝目をゲットした。これは高木佑真と本多優の先行争いを冷静に見極め、最終3角から自らまくりを繰り出した価値ある1着だった。

「2年目の目標は1勝することだったので、立川で勝つことができてよかったです」

 そしてデビュー3年目の2024年は『競走得点50点確保』を目標に掲げた。後半は高松の予選で1着を取るなど決勝に乗ることも増えたが、惜しくも50点には届かなかった。

妹のデビューで姉妹レーサーに

 この年の5月には妹・梓(126期)がガールズケイリン選手としてデビュー。姉妹レーサーとなった。

「妹からは一緒練習しているときに『養成所の試験受けてみる』って言われたような気がします。相談はなかったような…。私は『できるの?』って感じでした。妹のことは気になるけど何かできるわけではないし、ただ見守るだけでしたね」

 幼いころから仲の良かった妹。もしかすると姉の姿を見て選手を目指したのかもしれない。

「自分が選手になって賞金を持って帰ってくるのを見てやりたいと思ったのかもしれないですね。どんな風に開催を過ごしているのかは分からないけど、ほかの選手から『梓ちゃんレースが終わったあと、泣いていたよ』って話はよく聞きます(笑)。妹は負けず嫌いなんです」

師匠の落合達彦(中央右)、山口真未(左)、妹・梓(右)と128期の赤池七虹を応援(本人提供)

初優勝はなんと『100万車券』!

 デビュー4年目の2025年。目標は『決勝で3着までに入ること』と決めた。

 新年1場所目の名古屋は5、4着とギリギリの勝ち上がりだったが、決勝ではスタートを決めて熊谷芽緯の後ろをゲットすると、ぴったりマークして準優勝。いきなり目標を達成してしまった。このレースの3連単は60万5,470円と大穴だった。

「びっくりしました。Sを取る作戦は誰も上がってこなかったら泳がされてしまうのでリスクもあります。名古屋は熊谷芽緯ちゃんが上がってきてくれたので、後ろに入って追走することができました。芽緯ちゃんがかかっていて奥井迪さんを合わせていったので強かった。自分の力ではなく展開がよかったですね」

 前受けで自力選手を受ける戦法は2月の熊本でも実を結んだ。石井貴子(東京・104期)の番手に入ると、石井が持ち味全開の先行勝負に持ち込んだ。後方から迫ってきた小林優香の伸びはいまひとつで、最終4角を絶好の番手で回ってくると、直線で差し脚を伸ばし初優勝をつかみとった。

「本当に貴子さんが強かった。予選2走目も同じような展開で貴子さんに付いていくことができたので。決勝はチャンスをモノにできたことはよかったですね。熊本の優勝は実感があまりなかったんです。モーニングで表彰式とかもなかったので(笑)」

 このレースの3連単はなんと108万7,070円。ガールズケイリン史上5度目となる『100万車券』を演出した。

(撮影:北山宏一)

「実は決勝が終わったあと急いで東京に戻って、妹とCreepy Nutsの東京ドームライブに行ったんです。初優勝した日にライブを見ることができて最高の1日になりました」

 記念すべき瞬間のあとは戦友でもある妹とともに楽しい時間を過ごし、初優勝の余韻に浸った。

新たな目標に向かってコツコツ励む

 初優勝後には地元伊東の開催があり、同期選手や地元の選手から「優勝おめでとう」と声をかけられていた。徐々に実感が湧いてきたのではないだろうか。

「人生の中で自分が優勝できる日が来るのかなって思っていたので…。優勝できたことはうれしかったんですけど、まだそんなに強いわけでもないので、恥ずかしいし照れますね」

 名古屋の準優勝、熊本での初優勝。今年の初めに立てた目標は早くも達成したが、新たな目標は昨年のリベンジとなる『競走得点50点』だ。

「優勝したあとの開催で決勝に乗れなかったし、もっと安定して決勝に乗れる選手になりたい。全体の脚力アップはもちろん大事だし、やっぱりダッシュ力の強化が必要だと感じます。人の後ろに付いて行けるようになったけど、踏み出しで遅れることがまだある。踏み出しで遅れてしまうと、自分の欲しい位置を他の人にとられてしまうので、瞬発力を付けていきたいですね」

モットーは「今日を一番好きな日に」

 生まれ育った伊豆は自転車のメッカ。練習バンクのサイクルスポーツセンターには静岡のガールズケイリン選手が多く集まり、抜群の練習環境だ。

「鈴木奈央ちゃん、久米詩ちゃんにいろんな男子選手もいるし、サイクルスポーツセンターはいい練習環境です。練習で奈央ちゃん、詩ちゃんをまだ抜けたことがないし、まずは練習で抜けるようになりたいです」

 野寺楓のモットーは「今日を一番好きな日に」。

 楽しく自転車ができるならと挑戦したガールズケイリン。昨日より今日、今日より明日がもっと“好きな日”になるように、その都度目標を立ててコツコツ努力を続けている。

 持ち前の明るさで練習もレースも楽しみながら取り組む野寺楓の物語は、自転車ともに前へ進んでいく。

“バズ・ライトイヤー”風の自転車とともに「無限の彼方へ、さあ行くぞ!」

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すっぴんガールズに恋しました!

松本直

千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。

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