閉じる
山田裕仁のスゴいレース回顧

【ウィナーズカップ 回顧】陳腐な言葉しか出てこないほどの熱戦

2025/03/24 (月) 18:00 47

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが伊東温泉競輪場で開催された「ウィナーズカップ」を振り返ります。

ウィナーズカップを制した古性優作(写真提供:チャリ・ロト)

2025年3月23日(日)伊東12R 第9回ウィナーズカップ(GII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①古性優作(100期=大阪・34歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・34歳)
③新山響平(107期=青森・31歳)
④深谷知広(96期=静岡・35歳)
⑤寺崎浩平(117期=福井・31歳)
⑥村田雅一(90期=兵庫・40歳)
⑦眞杉匠(113期=栃木・26歳)
⑧浅井康太(90期=三重・40歳)
⑨岩本俊介(94期=千葉・40歳)

【初手・並び】

←⑤①⑥(近畿)②④⑨(南関東)⑦(単騎)③⑧(混成)

【結果】

1着 ①古性優作
2着 ⑦眞杉匠
3着 ③新山響平

SS7名参戦の“春のビッグ”

 春どころか、まるで初夏のような陽気となった先週末。静岡県の伊東温泉競輪場では、ウィナーズカップ(GII)の決勝戦が行われています。333mバンクの伊東温泉競輪場が舞台ですから、短走路の得手・不得手も結果を左右しそうですね。この春のビッグには、負傷欠場となった平原康多選手(87期=埼玉・42歳)をのぞく、7名のS級S班が参戦しています。

 ナショナルチームで活躍する中野慎詞選手(121期=岩手・25歳)と太田海也選手(121期=岡山・25歳)の参戦も、このシリーズの見どころのひとつ。昨年末の静岡・ヤンググランプリで両者がみせた激闘は、まだ記憶にも新しいところです。このハイレベルな相手関係にあって、その卓越したスピードでどんな走りをみせてくれるのか、楽しみです。

初日特選では波乱決着も

 初日特選は3レースが組まれました。深谷知広選手(96期=静岡・35歳)、清水裕友選手(105期=山口・30歳)、眞杉匠選手(113期=栃木・26歳)の3名が激突した第10レースは、眞杉選手の番手にうまくハマった、松谷秀幸選手(96期=神奈川・42歳)が勝利。清水選手が2着、眞杉選手は3着という結果で、3連単配当が6万3,150円の波乱決着です。

 続く第11レースは、後方から豪快に捲った新山響平選手(107期=青森・31歳)の快勝でしたね。2着は、主導権を奪った青野将大選手(117期=神奈川・30歳)の番手から伸びた郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)。注目された脇本雄太選手(94期=福井・36歳)は、5番手から伸びきれず4着に終わっています。ここは、新山選手のデキのよさが目立ちました。

 そして第12レースは、野口裕史選手(111期=千葉・41歳)を叩いて犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)が主導権を奪取。その番手から松浦悠士選手(98期=広島・34歳)が早めに発進するも、後方から一気に捲った寺崎浩平選手(117期=福井・31歳)が捉えて、連係する古性優作選手(100期=大阪・34歳)とのワンツーを決めています。

2日連続で炸裂した『近畿ワンツー』

 そして、初日特選で3着以内だった選手が激突したのが、2日目第12レースの毘沙門天賞です。ここは、最終ホームから仕掛けた眞杉選手にうまく乗り、後方から捲った寺崎選手が1着。その番手を回った古性選手が2着と、超強力なメンバーを相手に近畿ワンツーを連続で決めています。3着は眞杉選手で、敗れたとはいえ、こちらもデキは上々でしょう。

毘沙門天賞を制した寺崎浩平(写真提供:チャリ・ロト)

 中野選手と太田選手は、残念ながらいずれも二次予選で敗退。ナショナルチーム仕込みのスピードは素晴らしいのですが、やはり自転車競技と競輪では勝手が違うというか…戦う相手に対する知識量が足りていない印象を受けましたね。レースの組み立てを考える上で、それは欠かせません。ここまで相手が強くなると、スピードだけでは押し切れませんから。

 そして準決勝も、初日〜2日目でデキのよさを感じさせていた選手が、キッチリ勝ち上がったという印象。地元期待の深谷選手も、自力で勝負した準決勝で、番手を回った郡司選手とのワンツーを決めました。とはいえ、深谷選手と郡司選手については、そこまで調子がよくは感じなかったんですよね。仕上がりのいい選手が多いだけに、決勝戦でどうかでしょう。

勢いある近畿勢と総合力抜群の南関勢

 三分戦で単騎が1名というメンバー構成となった決勝戦。3車ラインの近畿勢は、ここも寺崎選手が先頭を任されました。番手を回るのは古性選手で、3番手を村田雅一選手(90期=兵庫・40歳)が固めます。寺崎選手と古性選手は、ここまでオール連対と好気配。村田選手も、豊橋・全日本選抜競輪(GI)に続く特別競輪での優出と、近畿勢は相変わらず勢いがありますね。

 同じく3車の南関東勢は、ここは郡司選手が先頭となりました。地元の深谷選手が番手を回り、3番手が岩本俊介選手(94期=千葉・40歳)と、こちらも総合力の高さはかなりのものです。郡司選手が先行という展開も十分にありそうで、それが叶えば、深谷選手が優勝する可能性はかなり高いはず。動きがいい岩本選手にもチャンスがありそうです。

 新山選手は、浅井康太選手(90期=三重・40歳)と即席コンビを結成。単騎と2車では大違いですから、後ろに浅井選手がついてくれたのは新山選手にとって心強いはずです。とはいえ他地区連係ですから、得意とする逃げで勝負してくるかどうかは微妙なところ。自分だけが届くような捲りに構えるケースも、このメンバー構成ならばあり得ます。

新山響平(左)と浅井康太で即席ライン誕生!(写真提供:チャリ・ロト)

 そして、オールラウンダーの眞杉選手が唯一の単騎。デキのよさは文句なしで、新山選手と郡司選手が主導権を巡って争う展開にでもなれば、なおさら面白いでしょうね。車番が悪いだけに、初手からどのように立ち回ってくるのか、要注目です。それでは、前置きがかなり長くなってしまいましたが、決勝戦の回顧といきましょう。

前受けは近畿、南関東は中団から

 レース開始を告げる号砲と同時に飛び出したのは、1番車の古性選手と2番車の郡司選手、8番車の浅井選手。ここは最内の古性選手がスタートを取って、近畿勢の前受けが決まります。南関東勢の先頭である郡司選手は4番手からで、単騎の眞杉選手が7番手。そして後方8番手に新山選手というのが、初手の並びです。ここまでは、おおむね想定どおりですね。

南関は中団、新山(3番車・赤)は後方8番手から(写真提供:チャリ・ロト)

 後ろ攻めとなった新山選手が動いたのは、青板(残り3周)周回の2コーナー過ぎから。外からポジションを押し上げて、バック通過と同時に誘導員が離れると、先頭の寺崎選手を斬りにいきます。寺崎選手は「それなりに」突っ張る姿勢をみせますが、2センターを回ってホームに帰ってきたところで新山選手が先頭に立ち、赤板(残り2周)掲示を通過します。

“かかり抜群”新山は全力モード!

 ここで動いたのが、後方の郡司選手。赤板後の1センターで一気に前との距離を詰めていきますが、3番手の寺崎選手は少し外に出しながら加速して、その動きを牽制します。そして、先頭の新山選手は全力モードにシフト。仕掛けを合わされて、しかも外を回らされることになった郡司選手は、寺崎選手の前に出ることができません。

 ここでレースは打鐘を迎えて、新山選手が素晴らしくかかった先行で先頭をキープ。郡司選手は早々と失速して、打鐘後の2センターで戦線を離脱します。先頭で飛ばす新山選手の後ろでは、内の浅井選手と外の寺崎選手が併走。瓦解した南関東勢は、岩本選手が村田選手の後ろの6番手、深谷選手が7番手で、最終ホームを通過しました。

“素晴らしいカカり”で先頭キープする新山(3番車・赤)(写真提供:チャリ・ロト)

新山と寺崎の激闘、そこに単騎・眞杉の強襲!

 そして最終1センター手前、後方でひたすらじっと脚をタメていた眞杉選手がここで仕掛けます。前では、新山選手の番手にいた浅井選手が苦しくなって後退気味。だというのに、新山選手のスピードは衰えません。バックストレッチでは、新山選手を乗り越えようとする寺崎選手と、前に出させない新山選手のせめぎ合いが続くところに、眞杉選手の捲りが飛んできます。

単騎・眞杉匠(7番車・橙)の強襲スタート!(写真提供:チャリ・ロト)

 最終バックでは、眞杉選手が一気に前を飲み込みそうなスピードで強襲。眞杉選手の後ろに切り替えた深谷選手が、一瞬で離されてしまうほどの勢いです。しかし、これをしっかり見ていたのが古性選手。最終3コーナーでヨコに動き、なんと一発のブロックで眞杉選手を受け止めてしまいます。両者がイエローラインの外までいって、戻りつつ最終2センターを回りました。

粘る新山、伸びる眞杉、そして…

 ここでもまだ、新山選手のスピードは鈍りません。戻ってきた古性選手は寺崎選手の外につけて、さらに外からは、態勢を立て直した眞杉選手が追います。眞杉選手の後ろには深谷選手がつけていますが、ほぼ最後方というかなり厳しい位置。最終4コーナーでは、最内を回る浅井選手が力尽きた寺崎選手の前に出て、2番手に浮上して最後の直線に向きます。

 直線の入り口で、外から伸びる古性選手が一瞬で浅井選手を捉えて、2番手に浮上。古性選手の直後からは村田選手も伸びてきますが、それを一瞬で追い抜いたのが、イエローライン付近を伸びた眞杉選手です。30m線を過ぎても新山選手がまだ粘りますが、ゴールラインの直前に古性選手がその前にグイッと出て、先頭に浮上。眞杉選手は外をよく伸びるも、届きません。

 そして…古性選手が先頭でゴールラインを駆け抜けました。昨年のKEIRINグランプリ覇者が、今年初のビッグ獲得です。2着は後方から捲った眞杉選手で、ギリギリまで逃げ粘った新山選手が3着という結果。4着は近畿ライン3番手の村田選手で、地元の期待を背負った深谷選手は5着まで。逃げる新山選手を乗り越えられなかった寺崎選手は、8着に終わっています。

グランプリ覇者、2025年初のビッグ獲得!(写真提供:チャリ・ロト)

陳腐な言葉しか出てこないほどの“超熱戦”

 手に汗を握る決勝戦で、「もう何も言うことはありません!」というひと言で終わってもいいほどです(笑)。S級S班が上位独占と“格”をみせた結果で、上位の3選手はデキもよかったですからね。車券を獲るのは難しかったですが、納得の結果ですよ。眞杉選手の捲りを一発で止めた古性選手のスーパープレイには、もう感心するしかありません。

「(古性のブロックに)見えてんのかよ! って感じでしたね(笑)。逃げた新山さんも相当、強い。すごいレースだったなぁ」(眞杉選手)

「すごいレースだったなぁ」と話す眞杉匠(写真提供:チャリ・ロト)

 2着だった眞杉選手のレース後コメントからは、勝者に対する賞賛と悔しさの両方が伝わってきましたね。あの捲りを止めた古性選手もすごいし、そこから立て直して2着に食い込んできた眞杉選手もすごい。浅井選手がツキバテするほどかかっていた新山選手の逃げもすごい…と、「すごい」という陳腐な表現しか出てこないほどの熱戦でした。

勢い止まらぬ近畿、誰が歯止めをかけるのか

 南関東勢は「勝負にいっての力負け」で、郡司選手の仕掛けに寺崎選手が合わせて出たのもキツかったでしょうね。その寺崎選手も、新山選手の逃げを乗り越えられず、力尽きて終わっている。それくらい、この決勝戦で新山選手がみせた走りは強かったということです。寺崎選手に関していえば、この走りを決勝戦でしなくてもよかったのでは…と思う部分もありますね。

 番手を回った古性選手が優勝しているのですから、寺崎選手の走りが悪かったなどというつもりは毛頭ありません。とはいえ、このシリーズでみせた強さを考えると、ちょっともったいないというか。負けても勝ち上がれる2日目の毘沙門天賞でこの走りを試した上で、決勝戦では得意とする捲りで勝負したほうがよかったのではないかと感じたんですよ。

 寺崎選手は、このハイレベルなシリーズでも“主役”を張れるほどの存在感を発揮していました。能力的に、ビッグを獲れて何の不思議もないでしょう。自分が勝てるレースをすれば、ラインの仲間にもおのずとチャンスが訪れるわけですから、決勝戦ではもっと思いきった走りをしていい。特別競輪のタイトルを獲れるチャンスというのは、そうは巡ってきませんから。

 豊橋・全日本選抜競輪に続くビッグ優勝で、さらに勢いづきそうな近畿勢。古性選手の強さ、脇本選手の速さはいまさら言うまでもないですが、そのほかも本当に層が厚いですからね。とはいえ、他地区も黙ってはいないはずで、これに誰が歯止めをかけるのか? ゴールデンウィークの名古屋・日本選手権競輪(GI)が、いまから楽しみになってきますね。

止まらない近畿の勢い…(写真提供:チャリ・ロト)

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

閉じる

山田裕仁コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票