2025/03/05 (水) 18:00 19
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが名古屋競輪場で開催された「金鯱賞争奪戦」を振り返ります。
2025年3月4日(火)名古屋12R 開設75周年記念 金鯱賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①山田英明(89期=佐賀・41歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・34歳)
③武藤龍生(98期=埼玉・33歳)
④大槻寛徳(85期=宮城・45歳)
⑤深谷知広(96期=静岡・35歳)
⑥山内卓也(77期=愛知・48歳)
⑦小林泰正(113期=群馬・30歳)
⑧笠松信幸(84期=愛知・45歳)
⑨新山響平(107期=青森・31歳)
【初手・並び】
←②⑤⑧⑥(混成)⑦③(関東)①(単騎)⑨④(北日本)
【結果】
1着 ⑤深谷知広
2着 ②郡司浩平
3着 ⑧笠松信幸
3月4日には愛知県の名古屋競輪場で、金鯱賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。決勝戦当日は肌寒い気候で、あいにくの雨模様でもありましたね。しかし、バンクを走る選手達はそれをまったく感じさせない、アツい走りをみせてくれました。ここにはS級S班から、岩本俊介選手(94期=千葉・40歳)と郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)、新山響平選手(107期=青森・31歳)の3名が出場しています。
そのほかでは、近況の好調さが目立っている深谷知広選手(96期=静岡・35歳)の出場も、注目されるところ。見るからに「南関東勢が強力」という出場メンバーでしたね。深谷選手は先週の豊橋・全日本選抜競輪(GI)に続いて、元・地元である愛知での大レース出走。現場につめかけたファンからは、深谷選手を熱心に応援する声が飛んでいました。深谷選手、やはり人気がありますね。
三分戦となった初日特選は、赤板(残り3周)掲示で小林泰正選手(113期=群馬・30歳)が斬りにきますが、突っ張って新山選手が先頭を主張。これを打鐘からの仕掛けで郡司選手が叩いて主導権を奪い、前に完全に出切りました。最後の直線で、番手の深谷選手が郡司選手を差して1着。3番手を固めていた岩本選手が3着に入って、南関東3車で確定板を独占するという好発進を決めています。
その後、岩本選手は二次予選で7着に敗れて勝ち上がりを逃しましたが、新山選手は二次予選と準決勝をいずれも1着で決勝戦に進出。同様に郡司選手も、2日目からは連勝で勝ち上がっています。深谷選手は準決勝で、ライン番手が関東勢に捌かれて孤立無援となるも、裸逃げで非常によく粘って2着。あの展開で小林選手を最後まで抜かせないのだから、いまは本当にデキがいいですね。
そして迎えた決勝戦は、初日特選の再戦ムードが濃厚に漂うメンバーとなりました。三分戦で、ラインの先頭を任された選手はまったく同じ。山田英明選手(89期=佐賀・41歳)が、唯一の単騎というのまで変わりません。変わったのは、山内卓也選手(77期=愛知・48歳)と笠松信幸選手(84期=愛知・45歳)という、地元勢の存在です。番組面での有利さはあったとはいえ、よくここまで駒を進めてきましたよ。
南関東勢は、ここも郡司選手が先頭で、番手に深谷選手という並び。そして地元・愛知の2車が、勝ち上がりの過程でも連携していた南関東勢の後ろにつきます。3番手が笠松選手で、4番手が山内選手という混成ライン。車番にも恵まれて“数の利”も生かせるここは、郡司選手は前受けからの突っ張り先行を主体で考えてくるでしょうか。郡司選手も相変わらずデキがよさそうで、決勝戦もここが中心でしょう。
2車ラインの関東勢は、こちらも初日特選と同様に、小林選手が前で番手が武藤龍生選手(98期=埼玉・33歳)という組み合わせ。北日本勢は、新山選手の番手を大槻寛徳選手(85期=宮城・45歳)が回ります。多勢に無勢で車番的にも不利なので、新山選手と小林選手は初日特選での敗戦を踏まえて、戦略を変えて臨んできそうですよね。どういった立ち回りとなるのか、初手から注目です。
ではさっそく、決勝戦を回顧していきましょう。レース開始を告げる号砲と同時に、内の山田選手、郡司選手、武藤選手と、外の笠松選手も飛び出していきました。ここは郡司選手がスタートを取って、初手での前受けを決めます。中団5番手に関東勢の先頭である小林選手がつけて、単騎の山田選手が7番手。後方8番手に北日本勢の先頭である新山選手というのが、初手の並びです。
後方の新山選手が動いたのは、青板(残り3周)周回の2センターから。勢いよく上がっていって、赤板を通過した誘導員が離れると同時に、郡司選手を斬って前に出ました。新山選手に続いて小林選手も動き、打鐘前のバックストレッチに入ったところで、新山選手を斬って先頭に。単騎の山田選手はこれらに連動せず、最後方でじっと脚をためています。再び一列棒状となって、レースは打鐘を迎えました。
このまま小林選手の主導権か…と思われましたが、打鐘後の2センターで新山選手が仕掛けて、一気に前を叩きにいきます。郡司選手もこれに連動し、大槻選手の直後につけてポジションを上げていきました。後方では単騎の山田選手が、山内選手が前のダッシュに必死でついていこうとするところを、外からキメてポジションを奪取。笠松選手の後ろを確保して、最終ホームを通過します。
最終ホーム通過で小林選手を捉えた新山選手は、最終1センターでこれを叩ききって、バックストレッチ入り口で先頭に立ちました。しかし、ここで間髪を入れず、郡司選手が捲り始動。素晴らしいダッシュで、先頭との距離を一気に詰めていきます。新山選手に叩かれた小林選手は、脚をなくして後退。郡司選手は、最終バックで前を射程圏に入れますが、大槻選手はこれをブロックできません。
前で粘る新山選手に郡司選手が迫って、最終3コーナーを通過。ここで深谷選手の後ろにいた笠松選手は、内の空いたスペースに斬り込んでいきます。その外からは、仕掛けた山田選手がいいスピードで上がっていって、深谷選手の直後まで進出。先頭で粘る新山選手を、外から郡司選手と深谷選手、山田選手が追って、内の狭いところを笠松選手が狙うという隊列で、最終2センターを回って最後の直線を向きます。
最後の直線の入り口で、内をきれいに抜けてきた笠松選手が郡司選手の直後を確保。郡司選手は新山選手を捉えて、先頭に立ちます。しかし、内の新山選手はその後もいい粘りを発揮。郡司選手の外に出した深谷選手が差しにいって、その後ろからは山田選手が詰め寄るという態勢で、30m線を通過します。そして…ここでグンと伸びた深谷選手が、一気に郡司選手を差して先頭に躍り出ました。
郡司選手の外に出した笠松選手や、その外から伸びた山田選手は、内で粘る新山選手との3着争いまで。黄色いユニフォームの深谷選手が、先頭でゴールラインを駆け抜けました。2月の静岡記念に続く今年2回目の記念優勝で、意外にも名古屋記念はこれが初制覇なんですね。前場所である豊橋・全日本選抜競輪の決勝戦では3着だった深谷選手が、元・愛知のスター選手として、今度は優勝でファンの期待に応えています。
2着は郡司選手。小林選手を叩いて出切った新山選手を、早めに捲りにいってねじ伏せているのですから、本当に強かったですよ。初日特選の結果を踏まえて、新山選手が仕掛けを遅くしているにもかかわらず、初日特選と同じくラインでの上位独占ですよ。番手を回るケースも増えてきているとはいえ、やはり郡司選手は自力のほうが強いというか、凄味があるというか。いやはや、恐れ入りました。
僅差となった3着争いを制したのは、地元・愛知の笠松選手でした。4着に新山選手、5着が山田選手という結果で、3連単配当は1番人気の830円という堅い決着。とはいえ、ゴール前は手に汗を握りましたよ。先頭の深谷選手よりも、大接戦の3着争いに目がいったというか…心情的にはやはり、中部の選手で地元でもある笠松選手を応援していましたからね。優勝こそできませんでしたが、この3着は誇れるものですよ。
私は名古屋競輪場の近くにあるスタジオで配信番組に出演中だったのですが、笠松選手がちょっとだけ前に出ているのをスーパースローで確認できたときには、思わず声が出てしまいました(笑)。前受けからの突っ張り先行ならばともかく、郡司選手が捲る展開で離れずに追走するのは、本当にキツかったはずです。文字通りの「地元の意地」をみせてもらった感じで、胸がいっぱいになりましたね。
4着に敗れた新山選手も、この走りをしてその上をいかれたのであれば仕方がないという、納得感のある敗北だったのではないでしょうか。新山選手もいいレースをしていましたが、ここは郡司選手が本当に強かったということです。単騎の山田選手も見せ場は作っての敗北で、小林選手も自分にできること、やるべきことをしっかりやった上で敗れている。文句なしに、いい決勝戦だったと思います。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。