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山田裕仁のスゴいレース回顧

【よさこい賞争覇戦 回顧】巧さに強さで打ち勝った長島大介

2021/08/02 (月) 18:00 5

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがよさこい賞争覇戦(GIII)を振り返ります。

長島大介(橙色・7番車)が佐藤慎太郎(白色・1番車)の追撃を抑え優勝(撮影:島尻譲)

2021年8月1日 高知12R よさこい賞争覇戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①佐藤慎太郎(78期=福島・44歳)
②眞杉匠(113期=栃木・22歳)
③石原颯(117期=香川・21歳)
④中川誠一郎(85期=熊本・42歳)
⑤河村雅章(92期=東京・38歳)
⑥山中貴雄(90期=高知・38歳)
⑦長島大介(96期=栃木・32歳)

⑧志村太賀(90期=山梨・38歳)
⑨坂本健太郎(86期=福岡・41歳)

【初手・並び】
←②⑦⑤⑧(関東)①(単騎)③⑥(四国)④⑨(九州)

【結果】
1着 ⑦長島大介
2着 ①佐藤慎太郎
3着 ⑧志村太賀

3連勝の佐藤慎太郎は単騎、4車の関東ラインが人気に

 8月1日には高知競輪場で、よさこい賞争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。決勝戦の当日は現地にいたんですが、連日の真夏日でカラッカラに乾いたバンクコンディション。3日目には島川将貴選手(109期=徳島・26歳)がバンクレコードを20年ぶりに更新するなど、かなり速い上がりが出る状態だったのは間違いないでしょう。

 S級S班からの唯一の出場者だった佐藤慎太郎選手(78期=福島・44歳)は、初日特選からの3連勝で完全優勝にまっしぐら。しかし、北日本の選手は佐藤選手以外に誰も勝ち上がれずで、決勝戦は単騎となりました。デキのよさが目立っていた新山響平選手(107期=青森・27歳)が勝ち上がれなかったのは、佐藤選手にとっても痛かったですね。

 それとは対照的に、4人が決勝戦へと駒を進めたのが関東勢。ここは4車が連携して、1つのラインで戦うことになりました。その先頭を任されたのは眞杉匠選手(113期=栃木・22歳)で、ライン番手は眞杉選手と同県の長島大介選手(96期=栃木・32歳)に。そして、調子がよさそうな河村雅章選手(92期=東京・38歳)が3番手、志村太賀選手(90期=山梨・38歳)が4番手を固めます。

 四国ラインは、捲る競輪で存在感を発揮していた石原颯選手(117期=香川・21歳)と、高知がホームバンクである山中貴雄選手(90期=高知・38歳)のコンビ。落ち着いた展開になりやすい500mバンクでもあり、仕掛けどころが難しいレースになりそうですが、組み立て次第で好勝負に持ち込めそうです。

 そして、中川誠一郎選手(85期=熊本・42歳)が先頭を走る九州ライン。積極的に主導権を奪いにいくケースは考えづらいので、こちらも相手の動きを見ながらのレースとなりそうです。となれば、やはり優勢なのは関東ライン。あとは単騎となった佐藤選手の動き次第だな……というのが、レース前の見立てでした。

佐藤慎太郎は「関東の3番手」を最初から狙っていた!?

スタート後は4車の関東ラインが前付け。佐藤慎太郎は関東ラインの直後にポジションを取る(撮影:島尻譲)

 さて、決勝戦。スタートすると、まずは佐藤選手と眞杉選手、中川選手が飛び出していきますが、先頭を取りきったのは眞杉選手。つまり、関東ラインの「前受け」です。その直後に単騎の佐藤選手が続き、6番手に石原選手、8番手に中川選手というのが初手の並び。ところが、赤板(残り2周)を過ぎても動きらしい動きはなく、初手のままの態勢で打鐘を迎えてしまいます。

 打鐘で誘導員が離れてからも、しばらくは様子見のまま。レースが動き出したのは4コーナー過ぎで、6番手にいた石原選手が一気にカマシて主導権を奪いにいきます。そして、ここで時を同じくして動いたのが、関東ラインの直後にいた佐藤選手。河村選手や志村選手の意識が「外」に向いた瞬間を狙いすましたかのように、インの空いたスペースからスーッとポジションを押し上げていきました。

 内側追い抜きの反則を取られていませんから、河村選手と志村選手は外帯線(内側から2本目のライン)の「外」を走っていたということ。私も現場で見ていましたが、入っていけるだけのスペースがありました。そして、佐藤選手がそんな好機を見逃すはずがありません。おそらく最初から「関東の3番手」を狙っていたと思うんですが、それが労せずに転がり込んできたわけですから。

 そして外からは、石原選手が強襲。最終ホームを過ぎたあたりで、四国ラインが先頭に躍り出ます。眞杉選手も抵抗しますが余力はなく、それを悟った長島選手が自力に切り替えて、前を追う展開に。その間に佐藤選手は、得意とするヨコの動きで河村選手を退けて、長島選手の番手をキッチリと取りきっています。このあたりの立ち回りの巧みさは、さすがとしか言いようがないですね。

 最終バックでは長島選手が前にグングン迫り、最終3コーナーでは外から並びかけて先頭に。その番手を走る佐藤選手の後ろには、関東ラインの4番手だった志村選手がつけています。つまり、河村選手と佐藤選手が入れ替わったカタチですね。そして、この3人が完全に抜け出した態勢で、最後の直線に入ります。

自力勝負でS班の追撃を凌いだ長島大介はお見事

優勝した長島大介(左)は、ラインで連係した眞杉匠(右)とゴール後、言葉を交わす(撮影:島尻譲)

 石原選手の番手にいた山中選手や、一発を狙って後方でじっと待機していた坂本健太郎選手(86期=福岡・41歳)も追いすがりますが、前にはとても届きそうもない。先頭の長島選手が粘りきるか、それとも佐藤選手が差すか……という、手に汗握る最後の攻防。凱歌が上がったのは、長島選手のほうでした。

 前の態勢は最後まで変わらず、2着に佐藤選手、3着に志村選手。優勝者インタビューで「後ろが佐藤選手だったのに気付いていなかった」とコメントしていましたが、それくらい最後まで必死だったということでしょう。石原選手のカマシに慌てず対応して、早くから自力勝負となったにもかかわらず、最後まで粘りきったのは本当にお見事。長島選手が見せた強さは、かなり印象的でしたよ。

 2着の佐藤選手については「相変わらず巧いな」という言葉に尽きます。とくに調子がよかったわけではなく、それでいてしっかり結果を出してくる。狙っていたポジションがすんなり奪えたのはラッキーで、関東ライン4車の連係が前後でうまくいっていなかったようにも感じました。そういう“隙”をつけるというのも、彼がずっとトップクラスでいられる理由のひとつでしょうね。

 3着の志村選手は、結果オーライの競輪というか。河村選手もそうですが、後ろに佐藤選手がいて何かを狙っているのがわかっていながら、内を空けていたわけですからね。レース後コメントによれば「勝負したい気持ちもあったから、わざと余裕をもって空けていた」とのこと。とはいえ、それで長島選手の番手を取られる結果になったんですから、やはり失敗ですよ。褒められたものではありません。

 一気のカマシで主導権を奪いにいった石原選手は、いいレースをしましたね。結果はともないませんでしたが、この展開で勝負にいくならば、あのタイミングしかない。眞杉選手をうまく出し抜いて先頭に立つところまではいけましたが、結果的に今日は長島選手が強かったということ。四国ラインを応援してくれていたファンの方にも、納得してもらえるレースができていたと思います。

 そして、結果的に何もできずに終わった九州ラインについて。石原選手のカマシについていきたかったところでしょうが、踏み遅れてしまった以上は、最後まで脚をタメて一発勝負に賭けるしかない。中川選手と坂本選手という組み合わせなので、致し方のない面もありますが、もう少し積極性がほしかったですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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