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山田裕仁のスゴいレース回顧

【瑞峰立山賞争奪戦 回顧】手持ち札で“最善”を尽くすことの大事さ

2021/07/27 (火) 18:00 6

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが瑞峰立山賞争奪戦(GIII)を振り返ります。

ベテランの稲垣裕之が連覇を達成(撮影:島尻譲)

2021年7月26日 富山12R 開設70周年記念 瑞峰立山賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①竹内雄作(99期=岐阜・33歳)
②柿澤大貴(97期=長野・31歳)
③稲垣裕之(86期=京都・43歳)
④堀内俊介(107期=神奈川・31歳)
⑤阿部力也(100期=宮城・33歳)
⑥藤井侑吾(115期=愛知・26歳)

⑦小原太樹(95期=神奈川・32歳)
⑧宮越孝治(82期=富山・42歳)
⑨三谷将太(92期=奈良・35歳)

【初手・並び】
←⑥①⑧(中部)③⑨(近畿)④⑦(南関東)②(単騎)⑤(単騎)

【結果】
1着 ③稲垣裕之
2着 ⑨三谷将太
3着 ⑥藤井侑吾

デキの良さが光った藤井侑吾の中部ラインが人気に

 7月26日には富山競輪場で、瑞峰立山賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。ビッグレースの後というのもあって、このシリーズにはS級S班の出場なし。競走得点がもっとも高いのが浅井康太選手(90期=三重・37歳)という混戦メンバーで、しかも舞台は、333mバンクで先行有利である富山競輪場。しかも、いつにも増して主導権を握ったラインが強いバンクコンディションだったように感じました。

 デキのよさが目立っていたのは、なんといっても藤井侑吾(115期=愛知・26歳)でしょう。初日から逃げる競輪で結果を出し続け、準決勝でも打鐘からのカマシ先行で2着に好走。決勝戦では、機動力のある竹内雄作選手(99期=岐阜・33歳)が2番手、ホームバンクでの記念で力が入る宮越孝治選手(82期=富山・42歳)が3番手を固めるとあって、人気に推されていました。

 2車となった近畿ラインは、稲垣裕之選手(86期=京都・43歳)が先頭。とはいえ、積極的に主導権を奪いにいくようなタイプではありませんから、展開がカギとなります。そして「高校の先輩&後輩」コンビで優勝を目指すのが、南関東ラインの堀内俊介選手(107期=神奈川・31歳)と小原太樹選手(95期=神奈川・32歳)。堀内選手が藤井選手をすんなり逃がすか、それとも叩きにいくかで、展開はガラッと変わります。

 あとは、単騎となった阿部力也選手(100期=宮城・33歳)と柿澤大貴選手(97期=長野・31歳)も侮れません。立ち回り次第にはなりますが、ここで上位争いができるだけの能力も技術もある2人ですからね。となると、中部ライン優勢も“盤石”とまではいえない……というのが私の見立て。じつはひとつ、気がかりなポイントがあったんですよ。それについては、後で触れるとしましょうか。

絶好のタイミングで仕掛けた稲垣裕之

 それでは、決勝戦の回顧に入っていきます。スタートが切られると、まず飛び出していったのが小原選手。しかし、竹内選手や稲垣選手も負けじと前に出ていきます。つまり、すべてのラインが、ここは「前受け」を意識していたということ。最終的には竹内選手が先頭となり、前に藤井選手を迎え入れました。あとは、4番手に稲垣選手、6番手に堀内選手。単騎の2人は8番手と9番手というのが、初手の並びです。

 青板(残り3周)のバック手前から、堀内選手が進出を開始。先頭を走る藤井選手を、まずは抑えにいきます。そして誘導員が離れますが、藤井選手は引かずに突っ張って、主導権を主張。しかし、堀内選手もそこからポジションは下げません。番手を走る竹内選手の横を併走したままで、レースは赤板(残り2周)に突入。稲垣選手や単騎の2選手はじっと動かずに、前の動向をうかがいます。

 赤板のバックを通過しても隊列は動かずに、そのまま打鐘を迎えます。一応は藤井選手が先頭も、その番手のポジションを竹内選手と堀内選手が「競る」カタチで最終周回へ。ここで、後方にいた稲垣選手が動きました。藤井選手の番手を取りきろうと、堀内選手が竹内選手を内に押し込めようとしているところを、稲垣選手が強襲。近畿ラインの直後にいた単騎の2人も、この動きに呼応して上がっていきます。

 意識が内の竹内選手のほうにいっていた堀内選手は、この動きにすぐさま対応はできません。絶好のタイミングで仕掛けた稲垣選手と、その番手を走る三谷将太選手(92期=奈良・35歳)は、中部ラインからのブロックを受けず、大きく外を回されるロスもないという最高のカタチでグングン先頭に迫り、最終バックで藤井選手を捉えて抜け出しました。最後の直線が短い富山だと、この時点で「勝負あった!」ですね。

 稲垣選手の捲りに乗じた阿部選手は、意識が外に向いた堀内選手のブロックで外に張られて、万事休す。その堀内選手が戻ってきたところを、今度は稲垣選手の後ろにいた柿澤選手が大きく外に張りにいくなど、激しい攻防が繰り広げられました。その前では、近畿ラインに抜け出されてからも藤井選手がしぶとく粘っていますが、態勢は変わらず。差を詰める三谷選手を振り切って、稲垣選手が1着でゴールしました。

 2着が三谷選手で、3着に最後までよく粘った藤井選手。ゴール前、激しくやり合った柿澤選手と堀内選手の影響で4車が落車するアクシデントがありましたが、レースがおおむね決着した「後ろ」での出来事だったので、結果に影響はなかったと思います。前がもつれる展開になったとはいえ、最高のタイミングで捲りにいった稲垣選手の勝利は文句なし。まさにベストの仕掛けでした!

 そして、3着に終わったとはいえ、藤井選手の走りもよかった。彼自身は前受けの競輪ではなく、カマシ先行のような機動力を生かせるスタイルのほうが力を出せると思うんですが、ここはライン戦の競輪に徹していましたね。その上での“最善”の走りができていたように感じました。記念の初制覇が十分に意識できた決勝戦で、それだけにこの結果は悔しかったでしょうが、得られたものは大きかったはずです。

今シリーズで存在感を見せた藤井侑吾(撮影:島尻譲)

車券に絡めなくてもファンを納得させる走りを見せた堀内俊介

 そしてそれは、堀内選手についてもいえること。藤井選手を抑えにいって、引かなかった場合は「番手競り」のレースをすると、最初からプランを立てていたのでしょう。竹内選手はマーク屋ではありませんから、機動力やタテ脚はあっても、ヨコの動きはそれほど怖くはない。ここが、私がレース前に懸念していたポイントです。もし浅井選手が決勝に残って、藤井選手の番手にいた場合と比べると、はるかに与し易い。

 だから、そこを狙われる可能性は十分にあったし、実際に堀内選手は「ここで引いて後方に下げるよりも好勝負になる」と判断して、実行したわけです。残念ながらいい結果を得ることはできませんでしたが、車券を買って応援してくれたファンに納得してもらえる走りはできていた。手持ちの“札”のなかで、最善を尽くす走りができていたと思います。

7着に終わった堀内俊介だがベストなレースは見せた(撮影:島尻譲)

 逆にいただけないのが、何を狙っていたかがわかりづらい競輪だった、阿部選手と柿澤選手です。この混戦ムードにあって、何かやってくれるはず……と期待したファンは、決して少なくなかったと思うんですよ。しかし、着をまとめることはできても、優勝争いには絡めないレースの組み立てをしてしまった。もう少しやりようがあったと思うだけに、残念でなりません。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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