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山田裕仁のスゴいレース回顧

【周防国府杯争奪戦 回顧】現行ルールを“味方”につけた松本貴治

2024/11/05 (火) 18:00 40

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが防府競輪場で開催された「万博協賛・周防国府杯争奪戦」を振り返ります。

3回目のG3制覇を果たした松本貴治(提供:チャリ・ロト)

2024年11月4日(月)防府12R 開設75周年記念 周防国府杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①清水裕友(105期=山口・29歳)
②菅田壱道(91期=宮城・38歳)
③武藤龍生(98期=埼玉・33歳)
④桑原大志(80期=山口・48歳)
⑤松本貴治(111期=愛媛・30歳)
⑥小岩大介(90期=大分・40歳)
⑦吉田拓矢(107期=茨城・29歳)
⑧杉森輝大(103期=茨城・42歳)
⑨太田海也(121期=岡山・25歳)

【初手・並び】

←⑨①④(中国)⑤⑥(混成)②(単騎)⑦⑧③(関東)

【結果】

1着 ⑤松本貴治
2着 ⑥小岩大介
3着 ③武藤龍生

6連覇中の地元・清水裕友が主役

 11月4日には山口県の防府競輪場で、周防国府杯争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。防府競輪場のリニューアル工事のため、昨年は玉野での開催だったこのシリーズ。10月1日にオープンしたばかりの真新しい防府バンクに、3名のS級S班を含む豪華メンバーが集いました。なかでも注目を集めたのはもちろんこの人、防府記念をここまでなんと6連覇している、清水裕友選手(105期=山口・29歳)です。

 ただでさえ勝つのが難しい地元記念を、これほど続けて優勝している時点で、とんでもない「偉業」なんですよね。これだけ地元ファンの期待に応えられているというのは、元競輪選手としてちょっと妬ましくなるほどですよ(笑)。静岡・KEIRINグランプリを見据えている部分もあるでしょうが、まずはここに全力で臨んでくるはず。普段とは異なるプレッシャーがあるなかでの戦いとなりそうですね。

7連覇のプレッシャーを背負って臨む清水裕友(提供:チャリ・ロト)

 そんな清水選手にとって何よりも心強かったのは、太田海也選手(121期=岡山・25歳)の出場でしょう。前節の小松島F1は、初日に斜行で失格となり途中欠場という結果だっただけに、ここで巻き返したい気持ちは強いはず。しかし、清水選手と松本貴治選手(111期=愛媛・30歳)の前を任された初日特選では、主導権を奪うも、ホームから仕掛けた深谷知広選手(96期=静岡・34歳)に捲りきられます。

 深谷選手のデキは上々のようで、二次予選では豪快に捲り後続を突き放して快勝。清水選手は、二次予選ではレース後「失格を覚悟した」とコメントするほどヒヤッとしたシーンがありましたが、2着で準決勝に駒を進めています。太田選手も、二次予選は1着で無事に準決勝に進出。準決勝では再び清水選手の前を走って、中国ラインによる上位独占を決めています。最後は清水選手に差されましたが、いい粘りでしたよ。

 しかし、深谷選手は準決勝で、後方からの仕掛けを取鳥雄吾選手(107期=岡山・29歳)の番手から捲った松本選手に合わされてしまい、5着に敗退。そして山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)も、打鐘前からの大カマシでスタンドをおおいに沸かせるも、粘りきれず6着という結果に。強敵であるS級S班の2名が勝ち上がれなかったことで、清水選手の「空前絶後の7連覇」が、がぜん現実味を帯びてきました。

決勝は3分戦、7連覇懸かる清水は太田海也に前を託す

 決勝戦は、ラインが3つに単騎が1名というメンバー構成に。中国勢は、先頭が太田選手で番手を回るのが清水選手、3番手を固めるのが桑原大志選手(80期=山口・48歳)という、準決勝とまったく同じ並びとなりました。清水選手が1番車を貰えましたから、太田選手は前受けからの突っ張り先行で勝負してきそう。333mバンクの防府で「二段駆け」をやられると、他のラインはかなり厳しいですよ。

決勝戦、大役を任された太田海也(提供:チャリ・ロト)

 そんな中国勢に真っ向から立ち向かうのが、同じく3車ラインとなった関東勢。先頭を任されたのは吉田拓矢選手(107期=茨城・29歳)で、このシリーズでの動きのよさはかなり目立っていました。同様に、番手を回る杉森輝大選手(103期=茨城・42歳)も間違いなく好調モード。3番手は、武藤龍生選手(98期=埼玉・33歳)が固めます。関東勢は、このデキのよさをうまく生かしたいところですね。

 松本選手は中国勢とは連係せず、小岩大介選手(90期=大分・40歳)との即席コンビで勝負。とはいえ、別線での勝負を選択したとはいえ、中国勢を潰しにいくような走りはやりづらいですよね。車番的に後ろ攻めとなりそうですが、そこからどうレースを組み立てるかが難しい。唯一の単騎である菅田壱道選手(91期=宮城・38歳)は、中団で巧みに立ち回って、どこまで上位に食い込めるかでしょう。

地元勢が前受け、関東3車は最後方に

 それでは、そろそろ決勝戦の回顧といきましょうか。レース開始を告げる号砲と同時に、素晴らしい飛び出しをみせたのが5番車の松本選手。いったんは1番車の清水選手よりも前に出ますが、松本選手は清水選手の後ろに下げて、中国勢が前受けとなります。太田選手が先頭に立ち、松本選手は4番手から。単騎の菅田選手が6番手で、吉田選手は後方7番手からの後ろ攻めとなりました。

 後方の吉田選手は、残り4周の段階から早々と動いて、先頭の太田選手を抑えにいきました。中国勢と関東勢が内外ぴったり併走で、青板(残り3周)標識を通過。先頭誘導員の直後で互いに前を主張しながら1センターを回って、バックストレッチに入ります。バック通過で誘導員が離れると同時に、内の太田選手が前へと踏み込んで突っ張ると、吉田選手は無理せず自転車を下げて、後方の位置に戻っていきます。

吉田拓矢が押さえに行くが、太田海也が突っ張る(提供:チャリ・ロト)

 ここで桑原選手が離れかけましたが、必死の挽回で中国ライン3番手に復帰。初手と同じ隊列での一列棒状となって、赤板(残り2周)のホームを通過します。その後は動きがないままで、1センターを回ってバックストレッチに入り、そして打鐘を迎えました。先頭の太田選手はスピードを上げて、全力モードに移行。打鐘後の2センターを回って、最終ホームに帰ってきます。

 ここで、後方の吉田選手が捲り始動。最終1センターでは小岩選手の外まで進出しますが、太田選手の逃げがかかっているのもあって、前との差をそれ以上に詰めることができません。吉田選手の捲りが不発に終わったところで、今度は中団にいた松本選手が、バックストレッチに入ったところから追撃を開始。桑原選手がヨコに動いてブロックにいきますが、松本選手はそれをあっさり乗り越えて、前に迫ります。

松本貴治が捲り炸裂で快勝、清水の連覇途絶える

 最終2コーナー手前で後ろを振り返って、松本選手が捲ってきたことに気付いていた清水選手。合わせて番手から発進できる態勢を整えますが、グングンと伸びる松本選手は、最終バックで清水選手の外に並びました。最終3コーナー過ぎでは、前を捲りきって先頭に。清水選手も太田選手の番手から前に踏み込みますが、追走でかなり脚を使っていたのか、グイッと伸びてくる気配がありません。

中団から捲り迫る松本貴治(5番車)(提供:チャリ・ロト)

 時を同じくして、いちばん後ろにいた武藤選手が最内に突っ込み、最短コースを通って桑原選手の内にまで進出。小岩選手の後ろにいた単騎の菅田選手は、勝負どころでちょっと前との差が開いてしまっています。最終2センターでは松本選手が抜け出し、マークする小岩選手も離れず追走。清水選手は外に出すも、太田選手の前に出ることすらできないままで、最後の直線に向きました。

 直線の入り口で、完全に抜け出した松本選手。離れた後ろからは小岩選手と、内からスッと外に出した武藤選手が追いすがります。その外からは菅田選手も伸びてきますが、防府バンクの短い直線では3着争いが精一杯。清水選手も、ようやく太田選手の前に出て必死に前を追いますが、武藤選手や菅田選手との3着争いが精一杯という脚色です。大勢は決して、松本選手が先頭でゴールラインを駆け抜けました。

松本貴治(5番車)が後続を突き放して優勝(提供:チャリ・ロト)

 2着は松本選手マークの小岩選手で、接戦となった3着争いは武藤選手が競り勝ちました。デビュー戦で初優勝を決めた防府バンクで、自身通算3度目となるGIII優勝を決めた松本選手。中国勢と関東勢が脚を削り合うなか、中団をほぼサラ脚で回ってこられたのですから、展開が向いたのは間違いありません。それでも、仕掛けてからのスピードは素晴らしいもので、力をつけているしデキもよかったんですよね。

勝因は位置取りの差、現行ルールの難しさ

 最大の勝因は、初手で中団を取れたこと。これについては、2着の小岩選手もレース後に「勝因の50%は自分達が4番手、5番手を取れたこと」とコメントしていました。スタートダッシュを決めてポジションを取りにいった、松本選手の好判断ですよ。後ろ攻めとなった吉田選手は、早々と前を抑えにいくも、結局は元のポジションに戻らざるをえなかったわけですからね。

 誘導員の早期追い抜きに対するペナルティが大きい現行ルールだと、思いきって前を斬りにいくのが本当に難しい。しかも、今回の舞台は333mバンクの防府で、誘導員が離れた直後にコーナーがくるじゃないですか。しかも先頭にいるのは、ナショナルチーム仕込みのダッシュを持つ太田選手。この条件下で、後ろ攻めとなった吉田選手が前を斬るのは、至難の業だったといっても過言ではありません。

中団を取る好判断が光った松本貴治(提供:チャリ・ロト)

 この決勝戦における後ろ攻めの厳しさをよく理解していたから、車番的に不利だった松本選手は、スタートを取れるほどの勢いで出していった。中国勢が、いつもは連係する“仲間”であるというのも、背景にはあったでしょうね。車番通りの後ろ攻めだと、関東勢以上に選択肢が少ないレースになってしまう。それを避けるために初手で中団を取りにいった好判断が、松本選手自身の優勝にもつながっているわけです。

 残念ながら連覇記録が途絶えた清水選手については、太田選手のかかりのいい逃げを追走することで、思っている以上に脚を削られていた。それにデキに関しても、過去のこのシリーズほどいいとは感じませんでした。それでも、7連覇という大記録に手が届くところまできたこと自体が本当にすごいし、素晴らしい。清水裕友という選手が「持っている」ことを、改めて実感しましたね。

清水裕友は惜しくも7連覇を逃した(提供:チャリ・ロト)

 3着に追い込んだ武藤選手も、最後方のポジションから最内の最短コースを綺麗に抜けて、直線の入り口ではスッと外に出すという巧みなレースをしている。武藤選手の持ち味をしっかり出した、いい走りだったと思います。デキのよさが目立っていた吉田選手は、それを生かせない厳しいレースとなりましたが、そうなったのは戦略・戦術の面で松本選手に負けたから。そこは、今回の大きな反省材料でしょう。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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