2024/11/11 (月) 18:00 45
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが四日市競輪場で開催された「泗水杯争奪戦」を振り返ります。
2024年11月10日(日)四日市12R 開設73周年記念 泗水杯争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①寺崎浩平(117期=福井・30歳)
②新山響平(107期=青森・31歳)
③伊藤旭(117期=熊本・24歳)
④大森慶一(88期=北海道・43歳)
⑤三谷将太(92期=奈良・39歳)
⑥柴崎淳(91期=三重・38歳)
⑦佐藤慎太郎(78期=福島・48歳)
⑧井上昌己(86期=長崎・45歳)
⑨中野慎詞(121期=岩手・25歳)
【初手・並び】
←③⑧(九州)⑥(単騎)⑨②⑦④(北日本)①⑤(近畿)
【結果】
1着 ②新山響平
2着 ①寺崎浩平
3着 ⑦佐藤慎太郎
11月10日には三重県の四日市競輪場で、泗水杯争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。小倉・競輪祭(GI)の前にここで調整を…という選手が多かったのか、3名のS級S班以外も、かなりの豪華メンバーとなりました。古性優作選手(100期=大阪・33歳)が不参加だったにもかかわらず、それを感じさせない選手レベルの高さ。昨年の覇者である地元の浅井康太選手(90期=三重・40歳)も、注目選手の一人でしょう。
初日特選で人気を集めたのは眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)で、3車ラインとなった北日本勢の先頭である新山響平選手(107期=青森・31歳)が続きます。近畿勢の先頭を任された寺崎浩平選手(117期=福井・30歳)や、単騎の松浦悠士選手(98期=広島・33歳)も侮れないところ。これはかなりの混戦模様か…と思われましたが、結果は意外なほどの順当決着でした。
前受けから突っ張る新山選手と、それを叩きにいった寺崎選手が、前でもがき合う展開に。新山選手が主導権を奪いきりましたが、じっと後方で脚をタメていた眞杉選手が最終バック手前で一気に捲りきって1着。眞杉選手マークの佐々木悠葵選手(115期=群馬・29歳)が2着で、このラインに連動した単騎の浅井選手が3着という結果です。展開が向いたとはいえ、ロング捲りで勝負を決めた眞杉選手の強さが目立ちましたね。
しかし、眞杉選手は二次予選で、ブロックするときに連係する守澤太志選手(96期=秋田・39歳)の前輪を引っかけ、落車させてしまいます。これで失格となり、当然ながら眞杉選手は勝ち上がれず。そして準決勝では、松浦選手と浅井選手がそれぞれ4着に敗れて、決勝戦進出を逃しました。決勝戦に勝ち上がったS級S班は、北日本の佐藤慎太郎選手(78期=福島・48歳)と新山選手の2名です。
勝ち上がりの過程において“主役級”の活躍をみせたのが、中野慎詞選手(121期=岩手・25歳)。競輪への復帰戦となった前場所の函館F1では、完全優勝を決めていました。このシリーズでも、3日間すべてバックを取る積極的な走りで、他のラインを圧倒。二次予選、準決勝と続けて番手を回った、佐藤選手のバックアップも心強かったことでしょう。好調な北日本勢のなかでも、その存在感は際立っていましたね。
4名が勝ち上がった北日本勢は、決勝戦ではひとつのラインに結束。先頭を任されたのは中野選手で、番手を回るのが新山選手。佐藤選手が3番手で、最後尾を大森慶一選手(88期=北海道・43歳)が固めるという布陣です。スタートが速い大森選手がいるので、前受けからの突っ張り先行と、そこからの「二段駆け」が大アリ。しかも4車という“数の利”まであるのですから、他のラインは厳しい戦いとなります。
近畿勢は、寺崎選手が先頭で、番手が三谷将太選手。初日特選では新山選手ともがき合って共倒れに終わっただけに、さらに強力布陣となった北日本勢に対して、寺崎選手がどういう選択をするのか興味深いですね。九州勢は、伊藤旭選手(117期=熊本・24歳)が前で、井上昌己選手(86期=長崎・45歳)が後ろという組み合わせ。そして唯一の単騎が、地元の期待を背負って立つ柴崎淳選手(91期=三重・38歳)です。
それでは、決勝戦のレース回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲が鳴って、まず飛び出していったのが3番車の伊藤選手と4番車の大森選手。ここは内の伊藤選手がスタートを取りきって、九州勢の前受けが決まります。北日本勢は中団につけましたが、後から単騎の柴崎選手が位置を主張し、これを前に入れて4番手に。そして、後方8番手に寺崎選手というのが、初手の並びです。
青板(残り3周)掲示を通過した直後、後方の寺崎選手が早々と動き出します。抑えにいったのは先頭の伊藤選手ではなく、中団に位置する中野選手のほう。これを嫌った中野選手は、寺崎選手と三谷選手を前に迎え入れ、後方6番手に下げます。北日本と近畿の位置が入れ替わって、赤板(残り2周)を通過。しかしまだペースは上がらず、先頭誘導員が残ったままで1センターを回りました。
ここで、後方の中野選手が動きます。バンクを駆け下りながらの一気のカマシで先頭をうかがいますが、それに合わせて中団の寺崎選手も動き、こちらは中団を確保。バックで中野選手が先頭に立ち、レースは打鐘を迎えます。北日本勢は3車が前に出切りましたが、ライン4番手の大森選手は連係を外して離れてしまい、寺崎選手に捌かれてさらにポジションを下げることに。大森選手は近畿勢の後ろに入って、再び一列棒状となって最終ホームに帰ってきます。
主導権を奪った中野選手はガンガン飛ばして、中団の近畿勢や後方の九州勢を引き離しつつ先頭をキープ。隊列に変化のないまま、最終1センターを回ってバックストレッチに進入します。近畿勢の後ろにいた大森選手は、脚をなくして後退。ここで、後方に置かれていた伊藤選手が仕掛けますが、中野選手の逃げがかかっているのもあって、前との差をなかなか詰めることができません。
続いて、最終バック手前で寺崎選手も仕掛けます。こちらはいい加速で前との差を瞬時に詰めて、一気に先頭集団を射程圏に捉えました。そして最終3コーナー手前で佐藤選手の外に並びますが、ここで脚の鈍り始めた中野選手の番手から新山選手が発進。寺崎選手との差を保ったまま、先頭に躍り出ました。寺崎選手マークの三谷選手は、少し離されたのもあってか、佐藤選手の後ろに切り替えます。後方からはようやく九州勢や柴崎選手が差を詰めてきますが、間に合うかどうかはかなり微妙でしょう。
新山選手が先頭に立ち、外から寺崎選手が迫るという態勢で、最終3コーナーを通過。ここで佐藤選手が内から寺崎選手に並びかけ、内外で絡み合いながら最終2センターを回って、最後の直線に向きました。先頭に立った新山選手の脚色は衰えず、直後から追う寺崎選手や佐藤選手との差は詰まらないまま。外からは伊藤選手がいい伸びをみせますが、三谷選手が内から併せにいって、イエローライン付近で絡み合います。
これで大勢は決して、先に抜け出した新山選手がリードを保ったまま、先頭でゴールラインを駆け抜けました。内の佐藤選手と外の寺崎選手との2着争いは、最後までジリジリと伸びた寺崎選手が競り勝って2着。佐藤選手が3着で、外から伸びた三谷選手と伊藤選手が4着、5着という結果です。新山選手の優勝は2022年11月の小倉・競輪祭(GI)以来で、なんと2年近くも優勝から遠ざかっていたんですね。
中団から捲った寺崎選手に間を割られたものの、基本的には北日本勢の作戦勝ち。それに大きく貢献したのが、中野選手の果敢な先行です。中野選手は初日から最終日まで、一貫してバックを取る積極的な走りで存在感を発揮。ナショナルチーム組は得てして、スピードとダッシュを生かせる「後方からの捲り」にこだわってしまうものですが、中野選手にはそういった部分がありません。競輪選手として大きな“強み”ですよ。
2着の寺崎選手も、初日特選での反省を踏まえた、いい走りができていた。中野選手のカマシに合わせて動いて、脚を使わせながら中団を確保。レース後のコメントをみたところ、取れた位置によっては北日本勢に飛びつくプランもあったようですね。捲りにいってからのスピードもよく、最後の直線でも佐藤選手に絡まれながら2着に粘れた。こういった走りができたのは大きな収穫でしょう。
そんな寺崎選手とは対照的に、できたはずのことを「やり切れていない」のが、九州ライン先頭の伊藤選手。スタートを取って北日本勢の前受けを阻止したのはよかったですが、それ以降は存在感をまったく発揮できていません。北日本勢を捌いて分断しにいくような、自分の持ち味を生かした強気の走りを期待していたファンは多かったはず。肝心なところで勝負にいけないままだと、小さくまとまってしまいますよ。
新山選手はこの優勝で、獲得賞金ランキングの7位に浮上。競輪祭の直前で脇本雄太選手(94期=福井・35歳)を抜いてのランクアップは、本当に大きいですね。久々に優勝できたことも、メンタル面でいい方向に作用することでしょう。今年のKEIRINグランプリに向けての戦いは、小倉・競輪祭を残すのみ。出場する全選手に、文字通りの「ラストスパート」となる、全身全霊をかけた戦いを期待したいところです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。