2024/10/30 (水) 18:00 30
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが京王閣競輪場で開催された「ゴールドカップレース」を振り返ります。
2024年10月29日(火)京王閣12R 開設75周年記念 ゴールドカップレース(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①新田祐大(90期=福島・38歳)
②眞杉匠(113期=栃木・25歳)
③古性優作(100期=大阪・33歳)
④小林泰正(113期=群馬・30歳)
⑤犬伏湧也(119期=徳島・29歳)
⑥鈴木竜士(107期=東京・30歳)
⑦南修二(88期=大阪・43歳)
⑧木暮安由(92期=群馬・39歳)
⑨新山響平(107期=青森・30歳)
【初手・並び】
←③⑦(近畿)④⑧(関東)⑨①(北日本)②⑥(関東)⑤(単騎)
【結果】
1着 ⑤犬伏湧也
2着 ⑨新山響平
3着 ③古性優作
3着 ⑦南修二
10月29日には東京都の京王閣競輪場で、ゴールドカップレース(GIII)の決勝戦が行われています。S級S班がなんと5名も出場という豪華メンバーで、そのほかにも平原康多選手(87期=埼玉・42歳)や新田祐大選手(90期=福島・38歳)など、銘柄級が多数参戦。出場選手のレベルがここまで高いと、やはり見応えのあるレースが増えますよね。勝ち上がりの過程も手に汗握るような激戦が多く、本当に面白いシリーズでした。
ただ、調子の維持に苦労した選手もいたのではないでしょうか。というのも、弥彦・寛仁親王牌(GI)の後にいわゆる「地区プロ」に出場して、さらにこのシリーズに出場というハードスケジュールだった選手が何名もいたんですよね。地区的には南関東・中部・近畿の選手がこれに該当して、今年の寛仁親王牌を制した古性優作選手(100期=大阪・33歳)も、ハードスケジュールでの出場となりました。
しかし、超ハイレベルなメンバーが揃った初日特選で1着をもぎ取ったのは、その古性選手。最終2センターでは選手の間を縫うようなコース取りで捲りきり、後続を突き放しての圧勝でした。主導権を奪いにいった新山響平選手(107期=青森・30歳)は、カマシた犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)とのもがき合いとなった結果、共倒れに。新山選手は9着、犬伏選手は7着という結果に終わっています。
その後、S級S班は全員が準決勝に進出するも、佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)と松浦悠士選手(98期=広島・33歳)は、残念ながらここで敗退。後方から豪快に捲った犬伏選手のダッシュに、松浦選手がついていけず離れてしまったシーンは印象的でしたね。近況あまり存在感を発揮できていなかった犬伏選手でしたが、かなりいいデキで出場してきた様子。あの急加速は、本当にすさまじいですよ。
決勝戦は、ラインが4つに単騎が1名のコマ切れ戦に。北日本勢は、先頭を任されたのが新山選手で、その番手を新田選手が回ります。新田選手が1番車を貰えたので、やはりここは、得意とする前受けからの突っ張り先行でしょうか。近畿勢は初日特選と同じく、前が古性選手で後ろが南修二選手(88期=大阪・43歳)という並びですね。古性選手の立ち回りの巧さは、混戦模様のコマ切れ戦だとなおさら魅力的です。
4名が勝ち上がった関東勢は、結束せずに別線での勝負を選択。眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)が先頭のラインは、ここ京王閣がホームバンクである鈴木竜士選手(107期=東京・30歳)が番手を回ります。そしてもうひとつが、小林泰正選手(113期=群馬・30歳)が先頭のライン。こちらは、同県である木暮安由選手(92期=群馬・39歳)とのコンビとなりました。
そして、単騎で勝負するのが犬伏選手。コマ切れ戦となったのは犬伏選手にとっては追い風で、あとはどの位置からどう立ち回るか次第。展開次第で、チャンスは十分にあるでしょうね。初日特選組が6名と、その再戦ムードもある決勝戦。どのラインの先頭も機動力は十分ですが、あいにくの雨模様となり、濡れた路面でのレースとなるのがちょっと気がかりです。それでは、決勝戦の回顧に入りましょう。
レース開始を告げる号砲が鳴り、まず飛び出したのが3番車の古性選手と4番車の小林選手。ここは内の古性選手がスタートを取って、近畿勢の前受けが決まります。古性選手が先頭に立って、小林選手が3番手につけます。新山選手は5番手からとなって、後方7番手に眞杉選手。そして最後方に単騎の犬伏選手というのが、初手の並びです。レース前の想定とは、かなり異なる並びとなりました。
後方に位置する眞杉選手が動いたのは、青板周回(残り3周)のバックから。先頭の古性選手ではなく、5番手を走る新山選手の外につけて、その動きを抑えにいきます。そのままの隊列で赤板(残り2周)を通過して、1センターを回ってバックストレッチに入ったところで動いたのが、3番手にいた小林選手。先頭の古性選手を斬ったところに、続いて眞杉選手も動き、小林選手を斬って先頭に立ちます。
ここでレースは打鐘を迎えて、一列棒状となって打鐘後の2センターを通過。そして、そのままの隊列で最終ホームに帰ってきます。5番手となった古性選手や、後方7番手に置かれた新山選手は動かないまま。犬伏選手も動かず最後方という隊列で、最終1センターを回りました。バックストレッチに入ったところで、3番手の小林選手が前を捲りにいきますが、鈴木選手がブロックして勢いを削ぎにいきます。
その直後に動いたのが、後方にいた新山選手。素晴らしいダッシュで前との差を詰めていきますが、番手を回る新田選手が連係を外して離れてしまっています。これに合わせて、中団の古性選手も最終バック手前から捲り始動。前では、逃げる眞杉選手の外から、小林選手がジリジリと差を詰めていきます。最終3コーナーでは、捲った古性選手が一気に差を詰めて、前を射程圏に。その外からは新山選手も迫ってきています。
最終2センターでは、隊列がギュッと凝縮。眞杉選手がまだ先頭で逃げ粘っていますが、外からは古性選手が前を飲み込みそうな勢いで迫り、さらにその外からは新山選手が勢いよく伸びてくるという態勢で、最終2センターを回ります。離れてしまっていた新田選手は、ここで新山選手の番手に復帰。犬伏選手は、前との差を詰めるもいまだに最後方のままで、最後の直線に向きました。
直線の入り口で古性選手が眞杉選手を捉えて先頭に立ちますが、後続を一気に突き放すほどの勢いはありません。眞杉選手と古性選手の間からは小林選手も追いすがりますが、こちらも脚色は鈍く、伸びてくるような気配はなし。そこに、離れた外のイエローライン付近を通る新山選手が猛追。そしてさらにその外からは、最終2センターで大外を回っていた犬伏選手が、バンクを駆け下りながら「ぶっ飛んで」きました。
番手から差しにいった南選手も古性選手にジリジリと迫りますが、外を回っている新山選手と犬伏選手のほうが明らかに勢いはいい。新山選手にスピードをもらった新田選手がいい伸びをみせるも、こちらは位置的に届きそうにありません。先頭で粘る古性選手に南選手が並びかけたところを、外から伸びる2車がゴール寸前で捉えますが…最後のハンドル投げ勝負でグイッと前に出たのは、大外の犬伏選手でした。
最終2センターでも最後方というポジションから、直線だけで全員を捲りきってしまった犬伏選手。その上がりは圧巻の11秒0で、濡れた路面でこれほどの脚が使えるというのは、ちょっと信じられませんよ。競馬も嗜まれる方ならば、先日の天皇賞(秋)でドウデュースがみせた、驚異的な走りを思い浮かべたかもしれませんね。これほど文字通りの「直線一気!」なんて、めったに見られるものではありませんから。
捲り追い込んだ新山選手が2着で、大接戦となった3着争いは、古性選手と南選手の「同着」という結果に。新山選手もかなり強いレースをしているのですが、このレースに関しては犬伏選手がさらにその上をいったというか…勝った犬伏選手を褒めるしかないでしょうね。犬伏選手は6月の小松島以来となる、通算3度目のGIII制覇を達成。この強い相手にこれほど強いレースをできたことは、大きな自信となることでしょう。
展開的には古性選手が突き抜けるかと思われたのですが、最後のひと伸びを欠いて番手の南選手にも並ばれているあたり、やはり連戦の疲れが出ていたのでしょう。初日特選の最終2センターでのコース取りにしても、今のデキだとタテ脚勝負にそこまで自信が持てない…というのが背景にあったのかもしれません。それでも、同着であってもしっかり確定板に載ってくるというのが、古性選手の“凄味”なんですよね。
主導権を奪った眞杉選手についてはやはり、番手が地元の鈴木選手であるのを意識したレース運びだったように感じました。小林選手が仕掛けをもう少し遅らせてくれれば…というのはタラレバですが、それによって関東勢同士の「ガチンコ勝負」感が強まり、よりエキサイティングなレースになったと思います。好結果こそ出せませんでしたが、眞杉選手も小林選手も、自分のなすべきことをキッチリやっていましたよ。
10月9日に行われた四国の地区プロでは、久米康平選手(100期=徳島・33歳)や太田竜馬選手(109期=徳島・28歳)とともにチームスプリントを走り、素晴らしいタイムでチームの勝利に貢献していた犬伏選手。こういった切磋琢磨で自分の持ち味であるダッシュをさらに磨き上げて、さらにひと皮剥けつつあるのかもしれません。小倉・競輪祭(GI)でどんな走りをみせてくれるのか、本当に楽しみですよ!
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。