2024/10/21 (月) 18:00 34
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが弥彦競輪場で開催された「寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント」を振り返ります。
2024年10月20日(日)弥彦12R 第33回寛仁親王牌(GI・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①古性優作(100期=大阪・33歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・34歳)
③新山響平(107期=青森・30歳)
④小原太樹(95期=神奈川・36歳)
⑤脇本雄太(94期=福井・35歳)
⑥河端朋之(95期=岡山・39歳)
⑦渡部幸訓(89期=福島・41歳)
⑧佐々木悠葵(115期=群馬・29歳)
⑨寺崎浩平(117期=福井・30歳)
【初手・並び】
←⑨⑤①(近畿)②④(南関東)⑧(単騎)③⑦(北日本)⑥(単騎)
【結果】
1着 ①古性優作
2着 ④小原太樹
3着 ⑥河端朋之
本編へと入る前に、このうれしいニュースについて触れさせてください。デンマークで開催されている、自転車競技の世界選手権。10月17日には山崎賢人選手(111期=長崎・31歳)が男子ケイリンで、そして21日には佐藤水菜選手(114期=神奈川・25歳)が女子ケイリンで、それぞれ金メダルを獲得したんですよ! 世界選手権の男子ケイリンでの金メダル獲得は、1987年の本田晴美選手以来で、じつに37年ぶりとなります。
男子スクラッチでは窪木一茂選手(119期=福島・35歳)も悲願の金メダル獲得と、日本勢はまさに大躍進。この“快挙”に対して、惜しみない拍手を贈りたいですね。オリンピック開催年であるため、残念ながら山崎賢人選手は、これでKEIRINグランプリ出場とはいかないようなのが玉に瑕。競輪関係のメディアでも、この快挙についてもっと大きく取りあげてほしいものです。
それでは話を戻して…10月20日には新潟県の弥彦競輪場で、寛仁親王牌(GI)の決勝戦が行われました。時がたつのは早いもので、今年のビッグは残すところあとわずか。KEIRINグランプリ出場をめぐる戦いの趨勢も、このシリーズが終わるとかなり見えてきます。獲得賞金による出場ボーダーラインの近辺にいる選手にとっては、ここからの全レースが「勝負駆け」といっても過言ではありません。
寛仁親王牌は「全プロ競技大会」での成績優秀者がシード権を有するシリーズであるため、初日の日本選手会理事長杯にはS級S班に混じって、河端朋之選手(95期=岡山・39歳)や菊池岳仁選手(117期=長野・24歳)が出走。錚々たるメンバーとなったこのレースは、前受けから突っ張り主導権を奪った菊地選手の番手を回る、眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)が快勝しました。
そして2日目のローズカップは、近畿ラインの番手を回った脇本雄太選手(94期=福井・35歳)が豪快に捲って1着。ライン先頭を任された寺崎浩平選手(117期=福井・30歳)が不発に終わるも、自力に切り替えた脇本選手がそこから矢のような伸びをみせ、先に抜け出した眞杉選手を捉えました。脇本選手は、続く準決勝でも後方から豪快に捲りきって1着をとり、決勝戦に駒を進めています。
脇本選手は上々の仕上がりにあるようで、古性優作選手(100期=大阪・33歳)も調子を上げてきている様子。同様に眞杉選手も好調モードでしたが、準決勝で同期の松井宏佑選手(113期=神奈川・32歳)と壮絶なもがき合いとなり、残念ながら7着に敗退しています。このレースを眞杉選手の番手から制した佐々木悠葵選手(115期=群馬・29歳)も、デキのよさが目立っていた選手の一人ですね。
決勝戦にもっとも多くの選手が勝ち上がったのは近畿勢で、その先頭は寺崎選手に任されました。番手を回るのが寺崎選手と同県の脇本選手で、3番手に古性選手と、ローズカップと同じ隊列ですね。当然ながらここは二段駆けが大アリで、1番車の古性選手がいることで車番的にも有利。近畿勢が楽に逃げられるような展開だと、他のラインや選手は手も足も出ずに終わってしまう可能性が大です。
南関東勢は、前が郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)で番手が小原太樹選手(95期=神奈川・36歳)という神奈川コンビ。そして北日本勢は、新山響平選手(107期=青森・30歳)が先頭で、番手を渡部幸訓選手(89期=福島・41歳)が回ります。どちらのライン先頭も自力がありますが、車番的に後ろ攻めとなりそうな新山選手が、近畿勢に真っ向勝負を挑んでくるケースも考えられるでしょうね。
そして単騎で勝負するのが、河端選手と佐々木選手。どちらも強力なタテ脚の持ち主ですから、道中の立ち回りや展開次第では台頭の余地が十分あります。流れ次第では、佐々木選手が果敢に単騎捲りにいくような展開だってあり得ます。この大舞台で、近畿勢をあっさり逃がして封殺されるなんてことになれば、もはや「素人」ですからね。GI決勝戦にふさわしい、全身全霊をかけた激突をみせてもらいたいものです。
前置きが長くなりましたが、そろそろ決勝戦の回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、好スタートから飛び出したのが1番車の古性選手。そのまま先頭誘導員の直後を取り切って、近畿勢の前受けが決まります。4番手には郡司選手がつけて、その後ろの6番手に単騎の佐々木選手。新山選手は後方7番手からで、最後尾に単騎の河端選手というのが、初手の並びです。
以降は淡々と周回が進み、後方に位置する新山選手が動き出したのは、青板周回(残り3周)の4コーナーから。一気に踏み込んで加速し、「前を斬る」という強い意志を感じるほどのスピードで寺崎選手に迫ります。先頭誘導員との車間をきって待ち構えていた寺崎選手は、当然ながら引かずに応戦。新山選手は、赤板(残り2周)を通過した直後に寺崎選手の外に並び、併走のまま1センターを回ります。
1センターを回ったところで、渡部選手が内の脇本選手にアタック。その直後、新山選手は寺崎選手だけを前に出して、脇本選手の外につけます。ここで、新山選手と一緒に降りた渡部選手が脇本選手の後ろに入り込み、位置を奪われた古性選手がその外につけるなど、ポジションが入れ替わります。後方の南関東勢や、単騎の佐々木選手と河端選手は、動かないまま。そしてここで、レースは打鐘を迎えました。
古性選手は、打鐘と同時に渡部選手を内にグイッと押し込み、その後にスッと加速して、脇本選手の番手を再奪取。脇本選手の外を併走していた新山選手はここで脚が鈍りだして、少しずつ後退します。これでひと息つけるかに思われた近畿勢ですが、打鐘後の2センターで間髪を入れず襲いかかってきたのが、後方にいた郡司選手。内の渡部選手と外の新山選手との間をこじ開け、先頭に迫ります。
この際に小原選手は新山選手の外を回ったのもあって、郡司選手との連係を外して古性選手の後ろにシフト。郡司選手は単騎で、近畿勢を叩きにいきます。そして最終1センターから、後方でじっと脚をためていた佐々木選手と河端選手も始動。外から郡司選手に押し込まれた脇本選手は、寺崎選手の内側に前輪を差し込んでしまっており、身動きが取れません。それをみて、古性選手は郡司選手の番手に切り替えました。
古性選手の後ろにいた小原選手もそれに続いて、3車で前に接近。先頭ではまだ寺崎選手が踏ん張っていますが、さすがにもう脚に余裕はありません。バックストレッチに入ったところで、捲った郡司選手が先頭に。そこに、後方から素晴らしい伸びでグイグイと迫ってきたのが、単騎の佐々木選手と河端選手です。内で詰まって進路をなくしている脇本選手は、ここでも動けないまま絶体絶命の状況に陥っています。
最終バックで、古性選手の外まで迫った佐々木選手。ここで古性選手がヨコに動いてブロックしますが、佐々木選手はそれを乗り越え、最終3コーナーに入ったところで古性選手の前に出ました。佐々木選手と連動した河端選手は、古性選手のブロックのあおりでイエローライン付近に。先頭に迫る佐々木選手は、最終2センターで今度は郡司選手にブロックされるも、態勢を立て直してさらに前を追います。
この郡司選手のブロックで内が空いた瞬間を見逃さなかったのが、古性選手。郡司選手もすぐさま締めにいきますが、一瞬でその内側に入り込み、郡司選手の前に出て最後の直線に向きました。古性選手の後ろにいた小原選手は、そのまま最内を突いて郡司選手の内に。外からは佐々木選手も前を追いますが、その外からは河端選手が伸びてきて、内外が広がった状態で30m線を通過しました。
郡司選手がここで脚をなくして後退。内を抜けてきた小原選手が先頭に立った古性選手を追いますが、その差はほとんど詰まりません。外の佐々木選手と河端選手も最後の伸びを欠いて、前には届きそうにない。これで大勢は決し、古性選手がそのまま先頭を守りきってゴールラインを駆け抜けました。8月の平塚・オールスター競輪に続くビッグ優勝で、寛仁親王牌の連覇も達成しています。
2着は小原選手で、外で接戦となった3着争いは河端選手が競り勝ちました。郡司選手は5着、脇本選手は7着という結果で、古性選手が優勝したにもかかわらず、3連単は12万1,980円という超高配当に。2着の小原選手は、郡司選手との連係を外してしまい古性選手の後ろにつけたことが、結果的に功を奏しましたね。河端選手の3着も、あそこで仕掛けてくれた佐々木選手の貢献大でしょう。
まずは新山選手が寺崎選手を叩き、その後に間髪を入れず郡司選手が襲いかかるという、近畿勢にとってはかなり厳しい展開。レース後に脇本選手が「やはり連チャンで来られるときつい」とコメントしていたように、近畿勢が楽に逃げる展開など絶対に許さない…という、北日本勢と南関東勢の強い意志を感じたレースでした。出走した全員が優勝を目指してすべてを出し切った、まさに“激戦”だったと思います。
そんな厳しく動きのある展開のなか、終始冷静な立ち回りで勝利をもぎ取った古性選手には、本当に頭が下がる思いですよ。寺崎選手のダッシュで口があいたところを渡部選手に入られたシーンはヒヤッとしましたが、ポジションを奪い返してからはまさに臨機応変の動きで、正解を出し続けている。なかでも特筆すべきは、最終3コーナーで郡司選手の内を突いたシーン。ぜひここを、何度もコマ送りで再生してみてください。
この直前、古性選手の前輪は「郡司選手の後輪の外」に差し込まれているはず。この態勢のまま進路を内にきったら、郡司選手を巻き込みつつ古性選手も落車してしまいます。それを避けるために、古性選手は自転車を手前方向に一瞬だけ引き込んで、前輪の位置を外から内に入れ替えているんです。超一流のマーク選手が使うテクニックで、これができるのは輪界で10人もいないのではないでしょうか。
これがあったから、古性選手は郡司選手の内にスッと入ることができた。普通あのシーンでは、郡司選手と佐々木選手の間を割ることしか考えないですよ。この決勝戦で、古性選手の“凄味”をいちばん感じたのが、この瞬間でしたね。あとは、宇都宮・共同通信社杯競輪(GII)のときよりもいいデキにあったというのも、優勝できた理由のひとつ。連覇を狙って、最初から獲りにきていたような印象があります。
優勝インタビューで「ダブルグランドスラム」という言葉も飛び出したように、ストイックなまでに上を目指すその姿勢は、すべての競輪選手のお手本となるもの。この優勝で、2022年の脇本選手に続く「年間獲得賞金3億円超え」が見えてきましたね。また、KEIRINグランプリ出場権をめぐる戦いも、本当に面白くなりました。ここから小倉・競輪祭(GI)までは、記念戦線にも目が離せません。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。