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山田裕仁のスゴいレース回顧

【川崎・万博協賛競輪 回顧】デキ・戦略・戦術が噛み合っていた南関東勢

2024/10/15 (火) 18:00 15

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが川崎競輪場で開催された「大阪・関西万博協賛」を振り返ります。

2度目のG3制覇を果たした福田知也(写真提供:チャリ・ロト)

2024年10月14日(月)川崎12R 大阪・関西万博協賛競輪 川崎市制100周年記念(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①佐々木眞也(117期=神奈川・30歳)
②藤井侑吾(115期=愛知・29歳)
③北津留翼(90期=福岡・39歳)
④山口貴弘(92期=佐賀・40歳)
⑤山口富生(68期=岐阜・54歳)
⑥福田知也(88期=神奈川・42歳)
⑦諸橋愛(79期=新潟・47歳)
⑧石毛克幸(84期=千葉・47歳)
⑨和田真久留(99期=神奈川・33歳)

【初手・並び】
←③④(九州)①⑨⑥⑧(南関東)②⑤(中部)⑦(単騎)

【結果】
1着 ⑥福田知也
2着 ⑨和田真久留
3着 ⑦諸橋愛

地元勢が優勢となった「裏開催」

 10月14日には神奈川県の川崎競輪場で、川崎市制100周年記念(GIII)の決勝戦が行われています。弥彦・寛仁親王牌(GI)の直前という「裏開催」ですが、デイの川崎、ナイターの別府と、GIIIの決勝戦が1日に2度も楽しめる特殊な日でもあります。どちらも地元勢が優勢で、別府ナイターの決勝では「九州6車が結束」というメンバー構成に。さすがにこうなると、車券的な面白味には欠けるというか…逆らいづらいですよね(笑)。

 このシリーズで競走得点がもっとも高かったのは、地元・神奈川の和田真久留選手(99期=神奈川・33歳)。113点台後半で、次点が111点台の諸橋愛選手(79期=新潟・47歳)ですから、ここでは頭ひとつ抜けた存在といえます。個人的に注目していたのは、青森記念(GIII)を優勝してここに臨んできた佐々木眞也選手(117期=神奈川・30歳)。初日特選では、和田選手の番手を回ることになりました。

 大混戦となった初日特選を制したのは、単騎勝負だった大川龍二選手(91期=広島・40歳)。最後方から内をついて地力で捲り、直線で外に出すと一気の脚で突き抜けました。2着が諸橋愛選手(79期=新潟・47歳)で3着が山口富生選手(68期=岐阜・54歳)というスジ違い決着だったのもあって、3連単配当が116,440円という大波乱に。期待された地元・神奈川勢は、見せ場なく終わってしまっています。

大混戦の初日特選を制したのは大川龍二(写真提供:チャリ・ロト)

 しかし、初日特選を快勝した大川選手は、準決勝では捲り不発で敗退。初日特選でいいところなく敗れた和田選手は、二次予選と準決勝は連続1着で決勝戦進出と、キッチリ巻き返してきました。デキも上々という印象で、これならば決勝戦でも楽しみ。佐々木選手も、自力で勝負して2着、2着で勝ち上がってきましたが、デキは正直なところ前節のほうがよかったように感じましたね。

 そのほかでは、福田知也選手(88期=神奈川・42歳)も好気配。二次予選では藤井侑吾選手(115期=愛知・29歳)の番手を回るなど、番組面に恵まれた面はありましたが、調子もかなりよかったと思います。つまり、決勝戦に4名が勝ち上がった南関東勢は、デキの面でもリードしていたということ。他のラインは、これにどのような戦略や戦術をもって対抗するかが問われてきます。

決勝、地元・南関4車の先頭は佐々木眞也

 決勝戦で南関東勢の先頭を任されたのは、佐々木選手。番手を和田選手が回って、3番手は福田選手。そしてライン最後尾を、石毛克幸選手(84期=千葉・47歳)が固めます。そして2車ラインとなった中部勢は、先頭が藤井選手で番手に山口富生選手(68期=岐阜・54歳)という組み合わせ。山口富生選手がGIIIで優出するのは、2016年5月の平塚以来のこと。もし優勝すれば、S級最年長優勝記録の更新となります。

南関4車の先頭を任された佐々木眞也(写真提供:チャリ・ロト)

 九州勢も2車ラインで、こちらは先頭が北津留翼選手(90期=福岡・39歳)で、その番手を山口貴弘選手(92期=佐賀・40歳)が回ります。北津留選手は位置をうまく捌けない面があるので、ここでどう立ち回るか難しいところですね。そして唯一の単騎勝負が、諸橋選手。おそらくここは、中部勢の後ろについて一発を狙ってくることでしょう。いまのデキならば、単騎でも侮れないですよ。

九州が前受け、南関4車は中団

 それではさっそく、決勝戦の回顧といきましょうか。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時にいい飛び出しをみせたのは、4番車の山口貴弘選手。1番車の佐々木選手も続きますが、ここは山口貴弘選手がスタートを取りきります。これで九州勢の前受けが決まって、南関東勢の先頭である佐々木選手は3番手から。後方7番手に藤井選手で、最後方に単騎の諸橋選手というのが、初手の並びです。

 後方の藤井選手が動いたのは、青板周回(残り3周)のバックから。諸橋選手もこれに連動しますが、中団にいた佐々木選手が進路を外にきって、藤井選手の動きを抑えます。これをみて、藤井選手も無理には前に出ようとせず様子見モードに。北津留選手が先頭のままで赤板(残り2周)を通過し、ここで佐々木選手が前を斬りにいこうとしますが、北津留選手が突っ張りました。

地元の佐々木眞也(1番車)を突っ張る北津留翼(3番車)(写真提供:チャリ・ロト)

 佐々木選手は北津留選手をすぐに叩きにいこうとはせず、赤板後の1センターでは進路を大きく外に振って、後方の藤井選手を牽制。そこから一気に前へと踏み込んで加速し、打鐘と同時に北津留選手の外に並んで前に出ます。北津留選手は突っ張らず引きますが、そこに外からグングン前に迫ってきたのが、後方となっていた藤井選手。主導権を奪うべく、打鐘後の2センターでは中団の外まで迫ってきました。

最終ホーム、佐々木眞也を叩いて中部が主導権

 そして最終ホームに帰ってきたところで、藤井選手は佐々木選手を叩いて先頭に。諸橋選手も再びこの仕掛けに連動して、最終1センターを回ってバックストレッチに入ったところで、3車が前に出切りました。ここで、藤井選手に叩かれた佐々木選手は失速。かわって和田選手がライン先頭に立ち、4番手を追走します。2番手の山口富生選手は、先頭の藤井選手との車間が開いてしまったのを、必死に詰めにいきます。

藤井侑吾(2番車)を必死で追走する山口富生(5番車)(写真提供:チャリ・ロト)

 最終バックの手前で、後方の北津留選手が捲り始動。しかし、先頭の藤井選手の逃げはかかっており、一気に先頭に迫れるほどの勢いはありません。北津留選手は最終3コーナーで福田選手の外に並びますが、ここで福田選手が進路を軽く外に振ってブロック。これで北津留選手は失速して、捲りは不発に終わりました。最終2センターでも藤井選手が先頭で踏ん張っており、直後に山口選手と諸橋選手、和田選手が続いています。

 ここで諸橋選手が進路を外に出して、前を差しにいく態勢に。和田選手はその直後につけて、福田選手は内に突っ込むという態勢で、最後の直線に入ります。最終4コーナーで内をついた福田選手は、抜けた先にいた和田選手と接触しつつ進路をこじ開け、外に出して前を追う態勢に。差しにいった諸橋選手が山口富生選手を外から抜き去り、さらに先頭で粘る藤井選手に迫ったところで、30m線を通過しました。

直線鋭く伸びた福田知也、2度目のG3制覇

 そこに外からセットで飛んできたのが、福田選手と和田選手。諸橋選手が先頭の藤井選手を捉えた瞬間、より鋭く伸びてきた福田選手が諸橋選手の外に並び、ゴール直前のハンドル投げでグイッと前に出たところがゴールラインでした。自身2度目となるGIII優勝を、ホームバンクである川崎で見事に決めてみせた福田選手。ゴール後には力強いガッツポーズも飛び出して、うれしさを全力で表現していましたね。

観客の声援にガッツポーズで答える福田知也(写真提供:チャリ・ロト)

 僅差となった2着争いは、外からよく伸びた和田選手が競り勝って、南関東勢のワンツー決着に。3着が諸橋選手で、主導権を奪って逃げた藤井選手は粘りきれず4着という結果です。佐々木選手は残念ながら最下位に終わったものの、地元でありデキのよさも目立っていた南関東勢が、戦略・戦術の面でも上をいったということ。前受けからの突っ張り先行ではなく、中団からの組み立てを選んだのも、結果的に正解でしたね。

和田真久留は「自分のタイミング」で仕掛けられず

 惜しくも2着に終わった和田選手は、佐々木選手が止まったところで行かざるを得なかったのが、勝ちきれなかった背景にあるかもしれません。「自分のタイミング」で仕掛けられるかどうかで、その後の走りはけっこう変わってくるものですからね。あとは、単騎の諸橋選手が中部勢と連動したことで、仕掛けが1車ぶん後ろになったのも響いたでしょう。それでも、現状の力はキッチリみせてくれたと思います。

惜しくも2着に敗れた和田真久留(写真提供:チャリ・ロト)

 3着の諸橋選手も惜しかった。最後は南関東の2車に捉えられてしまいましたが、最後の直線では一瞬「優勝まであるか!?」と思ったほど。4着の藤井選手については、かかりのいい逃げで内容もよかったのですが、あの展開ならば3着まで残してほしかった…というのが正直なところですね。素質も将来性もある選手ですが、勝ち上がりの過程などで、現状ちょっとムラっぽい部分がある。そこがなくなれば、もっともっと伸びますよ。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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